2009年05月01日

超えてはならない一線。



海賊退治に自衛隊が行く。
日本から遥か遠いアフリカ東部、ソマリア沖を自衛艦が行く。


そこで起きるであろうことを、私はたいへん恐れる。
超えてはならない一線を越えてしまうこと、それは「9条」の死。


「戦場に行くのではないから、相手が海賊だから」いいのだろうか。
「海上交通の安全を確保することは、国際貢献であり、国益だから」いいのだろうか。

いま国会で審議中の「海賊対策」新法が成立する前に、すべての人に考えてほしいテーマだ。



自衛隊がソマリアに行くことの問題は、伊勢崎賢治さん(元アフガン武装解除日本政府特別代表、現在東京外大教授)が、端的に語っているので見てください(←動画はもぐさんに紹介してもらいました)




紛争解決のための武力行使を禁じている日本国憲法から、どう絞り出したって「海賊退治のためだったら武力行使してよい」という結論は出てこない。

また、「実利、国益を守るためだったら武力行使は仕方がない」という理屈は、「満州の権益、東南アジアの資源を手に入れるために」行なった、かつての侵略戦争と一緒ではないかと。

この自明の理が、ほとんどの日本国民にはピンと来なくなっているのではないかという危惧を、自衛隊派遣や海賊新法に対する世論の反応の低さを前に、感じずにはいられない。

日本国民がこの問題でピンとこない理由のひとつは、「ソマリア」という国がほとんどなじみのない国で、そこでうごめく「海賊」など、さらに実像がつかみにくい存在だからか。

私自身もなじみがなかった。というか、ソマリア問題が起きるまで、ソマリアの位置さえ定かではなかったくらいだ。

そんな認識を変えてくれる出会いが先日、あった。

内戦後のソマリアに6度も訪れている女性写真家、谷本美加さんの講演を聴く機会にめぐまれたのだった。


彼女の話でわかったことを大ざっぱに解説すると、

ソマリアでは20年近く内戦が続いた。
ソマリ人という同じ民族どうしの勢力争いに、アメリカや旧ソ連などから大量の武器が流れ込み、紛争は激化。
国土も市民生活も産業もずたずたに破壊され、旱魃(かんばつ)による飢餓も重なって、何十万人の人が戦死、餓死をした。

生活基盤が破壊された人々の中から次々に民兵が生まれ、支援物資の略奪などをし、漁船を改造して武器をもって海に出れば海賊となる。


つまり、ソマリアという国を立て直さない限り、海賊はいくらでも発生するということ。憲法9条の問題をひとまずおいたとしても、自衛隊による海賊退治という方法が間違っている理由のひとつはここにある。


自衛隊派遣が重大な誤りであると言えるもうひとつの理由は、武力による平和構築というやり方が、すでにアフガン戦争やイラク戦争で破綻しているだけでなく、当のソマリアでも失敗済みであるということ。

90年代に入りソマリア内戦が激化すると、この戦いを収束させるために国連が乗り出した。しかし、その方法は話し合いでなく武力だった。

国連は多国籍軍をソマリアに上陸させたが、これに激高したソマリ人たちは、さらに戦いの炎を燃やし、多国籍軍は撤退を余儀なくされた。

アメリカ軍が首都モガデシュに部隊を送って泥沼化した様子は映画にもなっている。↓
「ブラックホーク・ダウン」



日本の海上自衛隊が海賊船に対して武力攻撃をすれば、最初はかりに鎮圧に成功するかもしれない。

しかし、ソマリア人にとっては、今度は「日の丸」をつけた自衛隊が憎悪と攻撃の対象に加わることになる。


最初の小さな一撃が、大きな戦闘の泥沼に足を踏み入れていく第一歩には絶対にならないと、断言できる人がいるだろうか。

こうなれば、憲法9条を、その条文だけを守ることにほとんど意味はなくなる。


憲法9条が示す「武力によらない紛争解決」を、今の事態を前に日本国民が貫き通せるかどうか、このことこそ、憲法9条を実質的に守れるかどうかの試金石であると思う。

武力では平和はつくれない。リアルな現実から導き出された答えだ。


ソマリアの現実を目の当たりにした谷本さんが書いている。

「心の傷が人間をどんなにかえてしまうかを、そして、戦争が生活をどんなにかえてしまうかを、誰にも伝えずに私の手の中で握りつぶしてしまうことに、非常な罪悪感を感じた。見なかったことにはできなかった」(谷本美加『母と子でみるソマリア、心の傷あと』より)


                【以下、後日号につづく】
 












jcp8707 at 07:20│Comments(6)TrackBack(1)時事ネタ | 憲法9条

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1. 海賊  [ 9ピース・ピーチ・クパーチク ]   2009年05月03日 00:16
最近気になるニュースの一つ。 「海賊対処法」 海賊退治の為に、自衛隊をソマリア沖に派兵するって話。 ついに自衛隊が海外で武力行使が可能になるっていう法律。 ちょっと待ってよ! そもそも軍事で解決する問題かい? アメリカの国防総省の報道官も、 「世界中の海軍をソ...

この記事へのコメント

1. Posted by ピーチ   2009年05月03日 00:18
全く同感でーす!
2. Posted by ベースケ   2009年05月03日 23:26
5月2日付朝日新聞にも伊勢崎さんのインタビューが載っていましたね。
イマイチ伊勢崎さんらがどんな活動をしてきたかということは知られてないですよね。
それを知れば、皆頭をガツンと殴られるような気分になるんじゃないでしょうか。少なくとも自分はそうでした。
3. Posted by コマっち   2009年05月07日 12:11
>ピーチさん
ありがとうございます。平和でなければ、安心してピクニックにも行けませんからね。

>ベースケさん
チェックありがとうございます。

現場を知る人、しかも平和的手段で国際貢献に関わってきた人の意見をもっと広く知らさなければ、好戦派の人々によって、とんでもない方向に世論が誘導されていきかねませんね。
平和と音楽を愛する者としてお互いがんばりましょう。
4. Posted by takuya   2009年05月08日 13:18
お久しぶりです。

伊勢崎さんはNHKの爆笑問題の番組に出ていたのを見て知っていました(最近は日曜朝の関口宏の番組にも出てますよね)。

すごい人ですよね、この人。アフガンの戦国武将のような人たちの間に入っていって、武器を捨てさせたんですから。

爆笑問題の番組の中では「自分が日本人だったから出来た」と言っていました。日本が武力を放棄した平和国家だったからこそ、武将たちに信頼してもらえたと。

好戦派の人たちは国際貢献とか国益とか言いますけど、紛争だらけのこの世界で、日本のこのカードをみすみす捨ててしまうのは「戦略」から考えてもおかしいですよね。
5. Posted by コマっち   2009年05月09日 19:24
>takuyaさん
久々のコメント、うれしかったです。

伊勢崎さんにかぎらず、ペシャワール会の中村哲さんとか、国境なき医師団とか、とにかく武力での紛争解決を封印して、粘り強く民生支援にとりくんでいるNPOの活動に
なぜもっとマスコミは光をあてない、なぜ日本政府は学ぼうとしない、
と憤りを覚えます。


自衛隊派遣にぴったりの言葉を思い出しました。


「火に油をそそぐ」

「自衛隊」の名が泣きますね、本当に…。

6. Posted by コマっち   2009年06月01日 13:38
本文の内容をさらに補足する参考文書を見つけましたので、下にアドレスを貼り付けておきます。現地の治安関係者も「自衛隊は来なくてもよい」と断言しているのが興味深いです。

http://www.min-iren.gr.jp/syuppan/genki/212/genki212-02.html

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