暑い。暑いじゃないか。

少し前に急に涼しくなったあれはなんだったんだ。

「早いものだね、夏なんて」

夜が明けるまで飲んだ後、朝方の公園。
噴水の広場でぶっ倒れながら、そうつぶやいていたじゃないか。

あー、あー。
終わったと思ったことが、
また突然ぶり返してくる。

暑い。暑い。暑いなぁ。

過ぎても、過ぎても。
どうせ、また来年にも夏はやってくる。

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先日五年振りにできた彼女と旅行へ行くことにし、ふらりと無計画のまま電車に乗った。

無計画というのはいい。

ねぇ、あっちいってみる?
いや、沖縄でもいっちゃおうか!

冗談半分、本気半分。

まぁ結局はざっくり決めていた、決めてしまっていた目的地へと向かうのだけれど。

大事なのはどこかへ向かいながらも、どこへでもいっていい。という選択肢もあるということ。

自分たちはこれから、どこへでもいけるんだ!という可能性ひとつで道中は通常の何倍もわくわくしていられる。

僕たちは二日間、京都・大阪とのんびり好きなように周り、慌てることなく疲れたら休んで休んで休んで。ちょっと休み過ぎた・・。

まぁしかしそれも仕方ない。
この二日間も、とても暑かった。

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二日目の旅行の帰り道。

僕らはまた電車に乗り込んで、"駅の名前が気に入ればどこで降りてもいい"というルールを決め、また帰りの道中もわくわくと楽しんでいた。

だいぶ日が落ちた頃、なかなか悪くない名前の駅を見つけ、僕らは全く知らない土地へと二人で降り立った。

まぁ特になにがあるけでもない。
ただの半端な田舎で。

少し遠くに山を見つけたので、
その山を目指して歩いてみたけれど道は行き止まり。まぁ、そんなもん。

分かっていながらも、ちょっぴりなにかを期待していたりもして。

この先に一体なにがあるのかな?!
そんな、わくわくの先にあるのはいつだって大体行き止まりで、なんてことない現実だ。

それでも田舎の星は綺麗だったし、
彼女がそのとき適当に流した音楽はとても良かったし。

きっと二度と来ることもないだろう、その片田舎の駅が舞台にしては、なかなかに上出来なムードだったろうとおもう。

で、その駅の名前がなんだったか。

もう、すっかり忘れてしまっている。

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暑い、暑い。

と言っている今もまた過ぎて。

秋がきて冬がきて。 

「あっという間だね」

なんて、言いながら、
あれもこれも忘れていく。

安心に包まれた日々の中に心地よく身を委ねていても、またいつものような不安が突然、ぶり返しやってくる。

終わったとおもったはずのことが、
いつまでも。いつまでも。

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「また行こうね」

彼女からのそんな些細な一言で、我にかえる。

過ぎても、過ぎても。
どうせ、また夏はやってくるのなら。

次はどこへいこうか。

いや、なるべくなにも決めずにいようか。

何度も繰り返す"不安"と、
同じように繰り返す"安心"と。

わくわくしながら、
ずーっと過ごしていたいものだね!

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ハッ!と目が覚めると僕はど田舎の山奥にいた。もちろん、望んで来たわけではない。

さぁさぁ、さて。

一体なにが起きたんだ?
ぐわんぐわんとアルコールが染み込んだ脳ミソで必死で整理をする。

えーっと。そうだ、これは。
あー。えーっと。なるほど。

寝過ごした!!!!!

「本日の運行は終了致しました」

酔っ払い、終電最果てまでやってきてしまった僕の帰路はバッサリと断たれてしまったようだった。

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「とりあえず、寝れるとこ。どこでもいーんで、満喫とか。まで、お願いします」

ど田舎駅前もう仕事をする気もなさそうなタクシーを捕まえて、そうお願いして乗せてもらった。

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「本当にここでいいんですか?」

え。あ、あぁ。
また車内で眠り込んでしまっていた。

えーっと。

「あ、大丈夫す」

頭はボヤボヤしたまま、
会計を済ませ車を降りた。

するとそこは僕のよく知っているバッティングセンターで。

毎日毎日嫌というほど見た景色。

運ばれた先は僕が10代の頃に過ごした超地元だった。

そう、あのバッティングセンター。バッティング、、センター、、?

「あ、もう漫画喫茶つぶれちゃってますね」
 
「本当にここでいいんですか?」

「あ、大丈夫す」

あぁあ!!全然大丈夫じゃねぇ!!!

僕を運んでくれたタクシーの姿はもうとっくに、見えなくなっていた・・。

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僕は地元にあまり良い思い出がない。
未練もなきゃ、大事ななにかも、ない。

あー。どうしようかなぁ。
ここから、数分。
僕が昔住んでいたマンションがある。

今でも父親はそこに住んでいる。

泊めてもらうかどうかを悩みながらも、とりあえずそのマンションへと向かった。

懐かしいなぁ。
吐き気がするほど、懐かしいなぁ。
二度と。
戻りたくもないほど思い出が甦ってくる。

また数分後。
かつての自宅の玄関まで着いて、驚いた。

表札がそのままだった。
母が姉か、どちらが書いたかも忘れてしまったけれど。どちらかが書いた、ローマ字を花柄に飾り付けた「NARUSE」という表札が10年前のまま。そのままだった。

もしかしたらタイムスリップしていて、このままこのインターホンを押せば。

そこにはあの頃の家族がいるのかもしれない。なんて、冗談半分、妄想してみたけれど。

生憎、もう今更。そんな過去には戻りたくもないので、僕はインターホンは押さず、そのままそのマンションを後にした。

さぁ、どーせなら。

次はそこから少し先にある、
僕の通っていた中学校へと向かった。

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かつて通った中学校へ向かう途中、一件のマンションを見て、またひとつ記憶が甦った。

そーいえばここで誰か自殺したよな。
誰だっけ?誰が死んだんだっけ?

こんな悲しいことも、意外とすっかり忘れてしまえるものなんだな、と。やっぱり薄情な自分自身は相変わらずだった。

そしてまた少し歩き、目的地に辿り着いた。

いやいや全然そのままだ。
まぁ学校なんて、よほどの改装がなきゃ、そうだよな。

閉められた門をよじ登り、数十年ぶりに校舎の中に降り立った。

こっそりとみんなでタバコを吸っていた裏庭も、あいつが呼び出されて袋叩きにされたあの場所も。気持ち悪いくらい変わらない。

こんな狭い檻に3年間も閉じ込められていたなんて。本当に全く時間をムダにした。

やっぱり、嫌いだな。こんな場所。

もう立ち去ろうと振り返った瞬間、
ばばっ!と照明に照らされ、ビー!ビー!と真夜中の校舎に警報が鳴り響いた。

遠くからパトカーの赤灯のようなものが光っているのがみえた。

やばい!!

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入ってきたときは反対の門をめがけて全力で走った。走った、ら、思いっきりスッ転んでしまった。いたい!

右腕を擦りむいて、血がだらだらと流れている。

いたい!いたい!

それでもすぐに立ち上がり、また門をよじ登って身を潜めるようにパトカーの見える反対側への道へと逃げ込んだ。

じんじんと擦りむいた右腕が痛む。

いたい。いたい。いたい。いたい。
いたい。いたい。いたい。いたい。

いたい。いたい。

痛い。

ここでの3年間、
本当にそればっかりだったな。

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その後なんとかまたタクシーをみつけ(携帯の充電も切れていたから呼べなかった)、財布がすっかりと軽くなるのと引き換えに僕は自宅のベッドでスヤスヤと眠りにつくことができた。

そして、さっきまでさ迷っていたあの校舎にあの頃の同級生たちがあの頃のままの姿でみんなで遊んでいる夢をみた。

地元は好きじゃない。良い思い出もない。
未練もなきゃ、大切ななにかも。

なにひとつ、ない。

それなのに、それにも関わらず。

僕はそんな場所に懐かしさを抱いてしまっていた。そんな地獄のような檻の中に。

なにもないはずの場所に、大層に。 

僕は"思い出"を抱えてしまっていた。

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朝、シャワーを浴びると、
右腕の傷が強く滲みた。

痛い。

それでも鏡に写る僕はもう、27歳の姿で。

ちゃんとしなきゃ、な。
と、思ったわけです。。

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高校生の頃から、一人暮らしをするまでの数年間。僕は父と二人で暮らしていた。

暮らしていた、とはいえほとんど顔を合わすこともなく。各々の部屋で各々が過ごすだけ。

週末の深夜、父の部屋からはコンピューターゲームの効果音が"ぴぴぴっ"と聞こえてくる。

深夜2時。ぴぴぴっ。
深夜3時。ぴぴぴっ。

その音を聞きながら僕は眠りにつく。

だらだらと昼過ぎまで寝て起きると、いつも家の中から父の気配は消えていて、そこは僕ひとりのものになっていた。

リビングから父の部屋を覗くと、開きっぱなしのPCと何本も積み重ねられた缶ビールの山。

ほとんど顔を合わせることはない僕と父。

深夜に響く効果音と、翌日に増えている缶ビールの数で、なんとなくその存在を認識していた。

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父親という存在は男なら越えるべき目標だとか、尊敬すべき対象だとか。

世間一般そうあるべきらしいのだけれど。

僕にとってはただ"よくわからない"人で、存在だった。

いつも家族のひとつ、外側にいるような。

「あの人は、情がないの。」

母がいつかぽろっと溢した愚痴だ。

「人としての感情が、少し欠けているから。」

確かにそうだな、とおもった。

その後父と母が離婚をし家族がバラバラになるときも、父がなにかを僕ら子どもに伝えたこともなければ、そのときの表情すら全く印象にない。

きっと、どーでもよいのだろう。

薄情なんだ。
だから母ともうまくいかなかったんだ。

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それから数年、僕の働く居酒屋に父が友人を連れて飲みにきたことがあった。

父と父の友人が二人カウンターに並んで座り、瓶ビールをちびちびと飲んでいた。

時間が経つにつれ父の顔は赤くなっていった。

あ、この人あんまり酒強くないのかな。
そういえば父が飲んでいる姿を見るのなんて、何年振りだろうか。

いつも積まれた缶ビールだけをみて、勝手にお酒が強い人なのだとおもっていた。

あれ、ちょっと待てよ。
いつの間にこんなに老けていたんだ。

この人、こんなに小さかったっけ?

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帰り際に父から声をかけられた。

「元気か?」

まぁ、うん。と小さく答えた。

「なら、いい」

と、フラフラと少し覚束ない足取りで父は帰っていった。

その後ろ姿は"父親"というよりも、
ただの50過ぎた"おっさん"で。

けれど僕は初めて、"父"を見た。

そんな気がした。

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「ねぇ、よくわからないから。
もっと感情とか、見せてほしいな」

彼女に電話越しでそんなことを言われて、うーん。と少し言葉を詰まらせてしまう。

いや、まぁ。と缶ビールを飲みながら。
そんな父のことをふと思い出していた。

"よくわからない"人だな、とおもっていた。
薄情だとおもっていた。

今、僕の目の前にはあの頃の父の部屋と同じように空になった缶ビールが積み重ねなって、転がっている。

僕も、もしかしたら。
そうなのかもしれない。

僕も、父と同じなのかもしれない。

たどすれば、父も。

たくさん悩んで、ちゃんとツラくて、どーしようもできなくて。

僕も父と同じなら。
父も僕と同じなら。

ただの"弱い人"だったのかもしれない。

うーん。

今度飲みにでも誘ってみようか。

「元気?」

生まれて初めて父に、

聞いてみようかな、とおもう。

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