さいこうだ!さいこうだ!

みんなが騒いでいる一歩後ろで、

僕は退屈にちびちびと酒を飲んでいる。

『え~では、次のライブはですね~』

マッシュルームカット、否。

ちんこみたいな髪型のひょろひょろとしたヴォーカルが2~3曲歌ったあと、ぬるりとMCを始める。

そんなことどーでもいいから。

いま、さっさとかっこいいとこを
見せてくれよ。

"次"の話なんて興味ないんだよ。

一歩後ろから、さらに二歩、三歩。

『ラーメン食ってかえろ』

がらがらのくせして空気だけいやに窮屈なライブハウスを、唾を吐きかけるような気持ちで後にする。

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ラーメンはうまい。

大体、うまい。餃子も唐揚げも。

さいこうだ。

腹をいっぱいにして、
随分と肌寒くなった夜道をふらふらと歩く。

満腹だけれどまだ足りないな。

足りないなぁ。足りないなぁ。

そうだ、酒が足りない。

あっ。

もっと酒を飲めばあのちんこみたいなバンドも楽しめたのか。あのMCも聞き流せたのか。

そうか、そうか。
酒が足りてなかった!

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『なにいってんの。こっちが酒飲んでべろべろにならなきゃ楽しめないようなライブなんて、そもそも観る意味あんの?

もやもやとして彼女に電話をしたら、ぴしゃり!とそんな言葉で頬を思いっきり叩かれてしまった。

いや、でもさぁ。

なんて歯切れ悪く続かない言葉を無理矢理返そうとする僕に僕はまた、情けなくなってしまう。

『わからないんだよ、最近。
音楽とかロックとか、本当に好きなのか』

あぁ。また年下の彼女に、
ださい弱音を吐いて自己嫌悪。

『今日やることあるから』

なんて特にやることもないくせに身勝手に僕から電話を切り、最近引っ越したばかりのワンルームの部屋でエレキギターを生音でじゃかじゃかと掻き鳴らす。

いらいらいらいらするんだ。
もやもやもやもやもやするんだ。

音の出ないエレキギターでどれだけ暴れても、足りない。足りない。足りない。

『い"っっ!あ"っ!もう"!くそ""っっ!!』

引っ越したばかりで積まれたままのダンボールの隅に、足の親指をぶつけ、痛みと苛立ちで勢いのまま叫んでいた。

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もう、なにやってんだよ。と、
笑えるくらいに、ばかばかしくなる。

なにが、ロックンロールだと。

もう、笑ってしまう。

ぜんぶやめちゃおうか。
ははは。

ぜんぶすててしまおうか。
ははは。

笑えて笑えて、しょーがない。

ぶつけて痛む指のせいで、

涙を滲ませて。歯を食い縛りながら。

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現在、27歳。今年で28歳を迎える。

そこそこな大人になってはいるが、
数十年前から金の無さは変わらずじまいだ。

車なんてとても買えないし、しみったれた居酒屋一軒の会計で死活問題だ。

秋も深まり冷えてきたけれど、どーせ今年も冬用の上着も買えず、特にこだわりのあるわけでもない革ジャン一枚で惨めに過ごすのだろう。

彼女はいるが、最近はいつも不機嫌で。
解決しようのない人の不安なんて端から見ていることしかできない。

「ねぇ、なんかおもしろいこといってよ」

なんて言われたって。
僕はピエロじゃないんだから、
ぽんぽこと彼女の笑いを取れやしない。

「つまんない」

あー、もう。

仕事の帰り道、ぼろぼろのママチャリで坂を登りながらふつふつと苛立ちが沸いてきた。

立ち上がり過剰に力を込めて、ペダルを踏みつけるとチェーンが外れ、空振りとなった足からバランスを崩し地面に倒れた。

なんだか自分だけが世界に呪われているんじゃないかという気分になりながら、それでも早く家に帰りたい僕はもう一度チャリを走らせる。

数分後、またチェーンが外れた。

苛立ちが爆発し思いっきりチャリを蹴飛ばして、またそのチャリを自分で起こし、手を真っ黒に汚しながら、チェーンを直した。

何度も何度も惨めだ。

27歳。

最近、ロックンロールがうるさくて。

ちょっと疲れている。

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一年前までよく馬鹿みたいに遊んでいた同世代のみんなも最近はなんだか落ち着き気味だ。

という僕自身も最近ライブハウスという場所がめっきり退屈になってしまっている。

最初は新鮮でなんでもキラキラとして輝いて見えたけれど、何度か通っているとここは遊び場としてはあまり機能していない状況がほとんどだと気がついた。

バンドマン?なんですか、それ。
イベンター?だれ、おまえ。

なんてことを言っていたら、周りから"おまえは変わってしまった"とか"調子にのっている"とか指摘されてしまったけれど。

いや、違うんだよ。むしろ全く逆。

落ち着きだした同世代も僕も。
なにも変わってはいない。
調子に乗れていたら、もっと楽だった。

僕らはただ、

"少し、知ってしまった"。

ただ、それだけだ。

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27歳もあとわずか

まだ毎日ぼろぼろのママチャリに乗りながら小銭ばかりで重くなった財布をケツポケットから落ちないようにと、毎日毎日、まだ。

まだ、漕ぎ続けている。

惨めだ。錆びたブレーキが握りしめる度に、キーキーと金切り声を上げる。

耳につけたイヤホンからは、
惰性のロックンロールが流れている。

ぼろぼろのママチャリを蹴飛ばしたとき、サドルに引っ掛かったイヤホンが耳から外れた。

ぶつんっ。

ロックンロールはもう、

聴こえない。

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28歳。

ロックンロールなんかよりもっと騒がしい遊び場を、アホなみんなとつくりたい。

"少し、知ってしまった"。

だからこそ、やれることもある。

そう信じて明日もまたチャリを漕ぐ。 

惨めでも。何度でも。

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深夜3時、胸糞悪い夢をみて目を覚ます。

知らない街の知らない漫画喫茶。

もう一度眠ろうと試みても、数時間前に飲んだ酒の酔いも醒めてしまっていて、いやに目が冴えている。  
 
コーンスープを二杯とって、
スマホの充電はあと12%。

もう一度酒を飲む気にもなれずに、
嘘くさい薬の怪しい通販サイトを眺めて
また充電をすり減らしている。10%。

コーンスープは残り一杯。

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「お兄さん、4000円でどう?」

この漫画喫茶にたどり着く前に恐らく四十を越えたおばさんに腕を掴まれそう言われた。

冗談半分で、「高いね」なんて言ってみたら「3000円でいいよ」と堕落した生活がそのまま顔に染み付いたよう笑顔を浮かべた。

その笑顔のシワは落書きに使った紙をくしゃくしゃに丸めて、そのまま床に捨てられたようだな、と思いながら僕も同じようにシワをくしゃくしゃとさせ笑って言った。

「やっぱり、高いよ」

「じゃぁ、いくらならいいの?」

その問いには答えず、
じゃあね!と手を振って力強く掴まれていた腕を振り払った。

あ、もしかして。

こーゆうのってホテル代別途?

込みだと約13000円か。

高けぇな、やっぱり。

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そしてまた嘘くさいサイトを眺めて充電は3%。

コーンスープは全部飲み干した。

眠れない。

そうだ。

例えばあのおばさんだったら、
薬のひとつやふたつ持っていたのではないか。

そんなことを、ふと思う。

薬込みで13000円なら。

いやいや、高いな。

0円だもの、あんた。

充電は残り2%。

僕の財布の中身は3000円。

もうすぐで、充電も切れます。



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