2013年07月07日

「風立ちぬ」は泣きどころもわからないまま綴られる一大叙事詩5




宮崎駿が自分の作った作品で初めて泣いた。みっともない監督だ。と恥じていたので、その期待感は膨らむばかりだったが、どうも宮崎駿の泣きどころは別のところにあったようで、ぼくはがんばったけど泣けなかった。

この作品は、実在する人物である堀越二郎の半生を、堀辰雄の有名な小説「風立ちぬ」のストーリーになぞらえて描かれている。もともと「モデルグラフィックス」というとてもマニアックな模型専門誌に連載されていた漫画で、「紅の豚」もこの雑誌に連載されたもの(「飛行艇時代」として単行本化)が原案だそうだ。

幼少期より飛行機を設計することに夢を抱く二郎がゼロ戦を設計するまでの半生を描きながら、結核の恋人との短いながら濃密な関係や、世界的に有名な飛行機製造会社カプロニ創業者のジャンニ・カプローニとの時空を超えた関係など、リアリズムとファンタジーが交錯していく展開は一大叙事詩といっても言いだろう。激動の時代でそれこそ風に乗って過ぎていく演出は見事である。

「火垂るの墓」や「ハウルの動く城」などを想起するストーリーや演出もあるが、これまでの宮崎駿の作品からすると異色なものとなっている気がする。そのひとつが、飛行機に込められたマニアックな演出と語られる話題だろう。おそらくは宮崎駿が描きたかったのはまさにこの部分であり、飛行機愛を描ききったことが涙の理由だったのではと勝手に解釈している。この作品で泣ける感性を持っているとしたら押井守ぐらいじゃないだろうか。

ストーリーは、二郎がラストで自ら語ったように「後半はズタズタ」であった。それは最初からわかりきったことで、飛行機愛で生まれたゼロ戦が死をもたらす兵器であったという悲劇がこの作品のすべてであったと思う。だから宮崎駿の「風立ちぬ」は、純粋に戦闘機が好きな人間が平和を語るときに抱える矛盾を描いた作品であり、宮崎駿が描けるギリギリの形であったとぼくは思うのである。

ところで、なぜ素人の庵野秀明を主人公に抜擢したのかというと、「となりのトトロ」でお父さん役に糸井重里を抜擢したのと考え方は同じで、つまりはリアルな感情が表立って出せない飛行機オタクのようなキャラクター造形をしたかったからではないかと思うのだ。まあ憶測ではあるけれど・・・






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jinfs at 17:13│Comments(0)TrackBack(4) | 宮崎駿

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