2007年01月21日
赤いうさぎ〜怪我の功名〜
あっという間に、新年が明けて20日経ってしまいました。
今年も、細々とブログを更新していきますので、どうぞ
よしくお願いします。
赤いうさぎ〜怪我の功名〜
幸恵は、松葉杖をつきながら、会社に向かっていた。休みの
日に行ったスノーボードで足の骨を折ったのだった。
幸恵は、資料を取りに行くのも、資料を配るのもひと苦労だ。
が、英治が、自分の仕事も忙しいのに、親身になって手伝って
くれた。英治は、幸恵がひそかに恋心を抱いていた同僚だった。
仕事ができて、ルックスもいいし……。
幸恵は、こんなに優しくしてくれるってことは、もしかして、
英治も私のことを好きなのかもと思いながら帰っていった。
すると、赤いうさぎが幸恵のことを見つめていた。
赤いうさぎは、人間の言葉が話せて、しかも、人間の心も読め
るという。
さっそく、幸恵は赤いうさぎをこっそり、鞄にいれて、会社に
行った。
そして、英治が幸恵のことで、親身になってくれているのは、
どういう心情なのかを訊いてみた。
赤いうさぎは言った。
「正直いうと、英治さんは、幸恵さんのことはなんとも思って
なくて、幸恵さんの後ろの望美さんのことが好きで、自分の優
しさを見せるために、幸恵さんに優しくしているみたいです」
次の日、幸恵が会社の通路を歩いていると、英治と望美の声
が聞こえてきた。幸恵は、隠れてその会話を聞いていた。
望美「英治ってやさしいところあるんだ」
英治「まあ、そりゃ、困っている人がいたら助けてあげないと」
望美「私なんか、自分のことで手一杯、だから、感心した」
中略
英治「もし、よかったら、今度、食事に行かない」
望美「明日だったら、空いてるけれど」
英治「じゃあ、明日、8時マリオン前で」
幸恵はうな垂れながら、家に帰った。
次の日、金曜だからか、みんな帰宅が早く、幸恵だけが会社
に残っていた。
そのとき、めまいがして倒れた。
救急車を呼ぼうかと思ったが、会社をそのままにしておくわ
けにはいかないし、話す元気もない。
幸恵は、会社で携帯のアドレスを知っている英治と望美にメ
ールをした。
「今、会社、助けて」
その、2人が8時にデートの約束をしているのを忘れていた。
7時50分
幸恵は、そのまま意識を失った。
次の日、幸恵が目を覚ますと、そこは病室だった。
「よかった」
「ありがとう、あなたがいなかったら私……ほんとうに、あり
がとう……あっ、もしかして、用事あったんじゃない」
「あっ!望美と食事の約束してたんだ。あんなメール来たから、
忘れてた」
「どうするの?」
「だって、食事なんか。事情を話せば分かだろう。幸恵から、
こんなメールがきたからってね。それでも、分からないような
ら、それだけの女ということだ」
幸恵「あなたって、本当はやさしいんだね」
英治「本当は?……でも、あんなメールがきたら、助けにくる
のは当然だろ」
幸恵「あんな、メールがきても、助けにこないような女なら、
別れる?」
英治「どうかな」
幸恵「どうかな?」
そのとき、赤いうさぎが病室を訪れた。
うさぎ「心配して見に来ました」
英治「!……」
幸恵「このうさぎ、人間の言葉が話せて、人の心も読めるの。
英治の心もよんでもらう?」
英治は、あわてて止めた。
英治「俺はいいよ」
幸恵「じゃあ、私の心の中を言ってみて」
赤いうさぎは、しばらく幸恵をみた後に言った。
うさぎ「頑張って自分で言ってくださいね。僕、帰ります」
と言い去っていった。
しばらく沈黙が続いたあと、幸恵は言った。
「病院のレストランに朝食、食べにいかない」
「俺もおなかぺこぺこ」
2人でゆっくり食事をした。幸恵にとって、とても幸せな
時間だった。
「このまま、英治といられたらいいのに」
「えっ」
「私、英治のことが好きなの。だから、こうして、一緒に食
事ができてとても楽しかった。でも、英治は、望美のことが
好きなのよね。それも分かってる。これから、望美と付き合
うんだよね」
「ちょっと、迷っているんだ」
「えっ?」
「気になる人ができて」
了
今年も、細々とブログを更新していきますので、どうぞ
よしくお願いします。
赤いうさぎ〜怪我の功名〜
幸恵は、松葉杖をつきながら、会社に向かっていた。休みの
日に行ったスノーボードで足の骨を折ったのだった。
幸恵は、資料を取りに行くのも、資料を配るのもひと苦労だ。
が、英治が、自分の仕事も忙しいのに、親身になって手伝って
くれた。英治は、幸恵がひそかに恋心を抱いていた同僚だった。
仕事ができて、ルックスもいいし……。
幸恵は、こんなに優しくしてくれるってことは、もしかして、
英治も私のことを好きなのかもと思いながら帰っていった。
すると、赤いうさぎが幸恵のことを見つめていた。
赤いうさぎは、人間の言葉が話せて、しかも、人間の心も読め
るという。
さっそく、幸恵は赤いうさぎをこっそり、鞄にいれて、会社に
行った。
そして、英治が幸恵のことで、親身になってくれているのは、
どういう心情なのかを訊いてみた。
赤いうさぎは言った。
「正直いうと、英治さんは、幸恵さんのことはなんとも思って
なくて、幸恵さんの後ろの望美さんのことが好きで、自分の優
しさを見せるために、幸恵さんに優しくしているみたいです」
次の日、幸恵が会社の通路を歩いていると、英治と望美の声
が聞こえてきた。幸恵は、隠れてその会話を聞いていた。
望美「英治ってやさしいところあるんだ」
英治「まあ、そりゃ、困っている人がいたら助けてあげないと」
望美「私なんか、自分のことで手一杯、だから、感心した」
中略
英治「もし、よかったら、今度、食事に行かない」
望美「明日だったら、空いてるけれど」
英治「じゃあ、明日、8時マリオン前で」
幸恵はうな垂れながら、家に帰った。
次の日、金曜だからか、みんな帰宅が早く、幸恵だけが会社
に残っていた。
そのとき、めまいがして倒れた。
救急車を呼ぼうかと思ったが、会社をそのままにしておくわ
けにはいかないし、話す元気もない。
幸恵は、会社で携帯のアドレスを知っている英治と望美にメ
ールをした。
「今、会社、助けて」
その、2人が8時にデートの約束をしているのを忘れていた。
7時50分
幸恵は、そのまま意識を失った。
次の日、幸恵が目を覚ますと、そこは病室だった。
「よかった」
「ありがとう、あなたがいなかったら私……ほんとうに、あり
がとう……あっ、もしかして、用事あったんじゃない」
「あっ!望美と食事の約束してたんだ。あんなメール来たから、
忘れてた」
「どうするの?」
「だって、食事なんか。事情を話せば分かだろう。幸恵から、
こんなメールがきたからってね。それでも、分からないような
ら、それだけの女ということだ」
幸恵「あなたって、本当はやさしいんだね」
英治「本当は?……でも、あんなメールがきたら、助けにくる
のは当然だろ」
幸恵「あんな、メールがきても、助けにこないような女なら、
別れる?」
英治「どうかな」
幸恵「どうかな?」
そのとき、赤いうさぎが病室を訪れた。
うさぎ「心配して見に来ました」
英治「!……」
幸恵「このうさぎ、人間の言葉が話せて、人の心も読めるの。
英治の心もよんでもらう?」
英治は、あわてて止めた。
英治「俺はいいよ」
幸恵「じゃあ、私の心の中を言ってみて」
赤いうさぎは、しばらく幸恵をみた後に言った。
うさぎ「頑張って自分で言ってくださいね。僕、帰ります」
と言い去っていった。
しばらく沈黙が続いたあと、幸恵は言った。
「病院のレストランに朝食、食べにいかない」
「俺もおなかぺこぺこ」
2人でゆっくり食事をした。幸恵にとって、とても幸せな
時間だった。
「このまま、英治といられたらいいのに」
「えっ」
「私、英治のことが好きなの。だから、こうして、一緒に食
事ができてとても楽しかった。でも、英治は、望美のことが
好きなのよね。それも分かってる。これから、望美と付き合
うんだよね」
「ちょっと、迷っているんだ」
「えっ?」
「気になる人ができて」
了
2006年12月17日
彼と夫と私と
今回は、川上弘美の「夜の公園」を読んで、
その、ノリで書きました。
彼と夫と私と
江都子は、医者と結婚して不自由がない生活を送っている。
不自由がないというのは、本当にいいことなのだろうかと
江都子は思う。
なにか不自由なことでもあれば、それを乗り越えるために
頑張ったりできるんだけどとも思う。それって、贅沢な考え?
それとも貧しい考え?自問してみるが答えはでない。
だけど、焦りはある。そう、このまま年だけをとって……。
だから、若い彼氏をつくってみた。ネットの恋人募集のサイ
トで。
彼は私より、8つ下。彼の名は冬樹。
彼には、彼女がいて……私には夫がいるので、そう、理想的
?都合のいい関係。
お互い遊びの関係。そして、遊びという約束も交わした。
冬樹は、優しかった。レストランで、ぐずぐず悩んでいても、
なんの、文句も言わない。
冬樹は、よく気がついた。私の髪型が少し変わっただけでも。
そして、たくましい腕。たくましい体に似合わない、優しい
笑顔。
私の夫の隆にはないものをもっている。
いや、夫は冬樹よりもすぐれた何かを持っているのだろうか
とも思う。
夫が、家に帰ってくる。
夫のものを洗濯するのもいやになる。
夫が、横で寝ている。
頼むから、私のそばにこないでと思ってしまった。こんな気
持ちになったのは初めてだ。
いままで、夫に不満があったかもしれないけど、でも、嫌だ
と思ったことはなかった。
でも、いまは嫌だ。嫌、嫌、嫌々。
夫は私のこんな気持ちにも気づかない。たぶん。
やっぱり、夫が悪いんだと思う。こんなに年のわりにはきれ
いな奥さんなのに、それを、褒めないでいるほうが悪いんだ。
私の気持ちを無視して、だから。
今日は冬樹とデート。だから、きれいにする。
そんな私を夫がみて、きれいだね、と言ってきた。
夫にきれいだねなんていわれたのは、えっと、どれくらい前
のことだろう。思い出せない。少し罪悪感が生まれてくる。で
も、もう遅いの。だって、もう冬樹のことが好きになってしま
ったから。だから、最初の約束。遊びで付き合うなんて約束は
今日で終わりにしてちゃんと付き合おうと冬樹に言うの、と思
いデートに向かう。
冬樹に会った。
でも、冬樹が言ってきた、今日で終わりにしよう、これ以上
付き合ったら遊びじゃなくなるから。
それってどういう意味と私は思う。それって、私のことが本
気で好きになりそうだからという意味なのかしら。
少し余裕な表情で聞いてみよう。
それって、私のこと好きになったんじゃない?なんて、そん
なふうに聞けたら、冬樹のことなんて好きじゃないよという感
じできけたら、きっと冬樹はいままで通り、いままで以上に私
のこと好きになるんじゃないかしら。
でも、言えなかった。なんだか、涙があふれてきて。
言えなかった。
余裕などなかった。
だから?
冬樹は、鼻で笑って、去って行った。
私は、道路で泣いた。スーパーで泣いた。そして、家で泣い
た。
夫が帰ってきた。
夫に泣きついた。
夫は抱きしめてくれたんだ。なにも聞かずに。
だから私も。
その、ノリで書きました。
彼と夫と私と
江都子は、医者と結婚して不自由がない生活を送っている。
不自由がないというのは、本当にいいことなのだろうかと
江都子は思う。
なにか不自由なことでもあれば、それを乗り越えるために
頑張ったりできるんだけどとも思う。それって、贅沢な考え?
それとも貧しい考え?自問してみるが答えはでない。
だけど、焦りはある。そう、このまま年だけをとって……。
だから、若い彼氏をつくってみた。ネットの恋人募集のサイ
トで。
彼は私より、8つ下。彼の名は冬樹。
彼には、彼女がいて……私には夫がいるので、そう、理想的
?都合のいい関係。
お互い遊びの関係。そして、遊びという約束も交わした。
冬樹は、優しかった。レストランで、ぐずぐず悩んでいても、
なんの、文句も言わない。
冬樹は、よく気がついた。私の髪型が少し変わっただけでも。
そして、たくましい腕。たくましい体に似合わない、優しい
笑顔。
私の夫の隆にはないものをもっている。
いや、夫は冬樹よりもすぐれた何かを持っているのだろうか
とも思う。
夫が、家に帰ってくる。
夫のものを洗濯するのもいやになる。
夫が、横で寝ている。
頼むから、私のそばにこないでと思ってしまった。こんな気
持ちになったのは初めてだ。
いままで、夫に不満があったかもしれないけど、でも、嫌だ
と思ったことはなかった。
でも、いまは嫌だ。嫌、嫌、嫌々。
夫は私のこんな気持ちにも気づかない。たぶん。
やっぱり、夫が悪いんだと思う。こんなに年のわりにはきれ
いな奥さんなのに、それを、褒めないでいるほうが悪いんだ。
私の気持ちを無視して、だから。
今日は冬樹とデート。だから、きれいにする。
そんな私を夫がみて、きれいだね、と言ってきた。
夫にきれいだねなんていわれたのは、えっと、どれくらい前
のことだろう。思い出せない。少し罪悪感が生まれてくる。で
も、もう遅いの。だって、もう冬樹のことが好きになってしま
ったから。だから、最初の約束。遊びで付き合うなんて約束は
今日で終わりにしてちゃんと付き合おうと冬樹に言うの、と思
いデートに向かう。
冬樹に会った。
でも、冬樹が言ってきた、今日で終わりにしよう、これ以上
付き合ったら遊びじゃなくなるから。
それってどういう意味と私は思う。それって、私のことが本
気で好きになりそうだからという意味なのかしら。
少し余裕な表情で聞いてみよう。
それって、私のこと好きになったんじゃない?なんて、そん
なふうに聞けたら、冬樹のことなんて好きじゃないよという感
じできけたら、きっと冬樹はいままで通り、いままで以上に私
のこと好きになるんじゃないかしら。
でも、言えなかった。なんだか、涙があふれてきて。
言えなかった。
余裕などなかった。
だから?
冬樹は、鼻で笑って、去って行った。
私は、道路で泣いた。スーパーで泣いた。そして、家で泣い
た。
夫が帰ってきた。
夫に泣きついた。
夫は抱きしめてくれたんだ。なにも聞かずに。
だから私も。
2006年12月01日
赤いうさぎ〜憧れの人〜
赤いうさぎ〜憧れの人〜
K商事の受付嬢の由美子は美人で評判であった。彼女の美貌
は、見ているだけで、幸せで、近寄るなんて……。
そんな彼女に恋をしたあわれな男がひとり。雲川祐二である。
とにかく、挨拶しかしてないのではあるが、どんどん彼女の
ことが好きになってしまって、この気持ちどうしましょうとい
うような感じである。
そんな祐二が道を歩いていると、赤いうさぎが声をかけてき
た。
「驚かないでくださいね。私は人の言葉が話せて、人の心が読
めるうさぎです。あなたは、受付嬢のことが好きで好きで……
私をその女性のところにつれていってくれたら、その女性の気
持ちが分かりますよ」
「本当、じゃあ頼むよ」
祐二はかばんにうさぎを入れて、会社に向かった。
受付嬢の由美子に軽く声をかける。
祐二「こんにちは」
由美子「こんにちは」
祐二「あの、つまらないこと聞くけど、由美子さんて彼氏いま
す?」
由美子「いいえ」
祐二「じゃあ、僕なんてどう……なんちゃって」
祐二は逃げるように、トイレに駆け込み、赤いうさぎにきい
てみた。
祐二「どうだった」
うさぎ「祐二さんかなり緊張してましたね」
祐二「あれが、俺の精一杯だったんだよ。どうだった」
うさぎ「いい感じですよ」
祐二「い、いい感じって、ど、どんな感じだ」
うさぎ「たぶん、ちゃんと誘えばデートできます」
祐二「ほ、本当か」
うさぎ「ええ」
それから、由美子を誘い、初デートに成功し、お付き合いが
始まった。由美子が横に歩いているだけで、とても誇らしく、
楽しかった。
ある日、いつものように楽しくデートをした帰り際。
彼女は唐突に言った。
由美子「私がきれいな理由知りたい」
祐二「なんだよ急に」
由美子「私は、あなたと会う前、顔を整形したからよ」
祐二「えっ、本当に」
由美子「ええ。どう、私のこときらいになった」
祐二「……」
由美子「別れる?」
祐二「考えさせて」
由美子「考えながら、つきあってもらっても仕方ないわ。じゃ
あね」
祐二は去り行く由美子を見送った。
電信柱から、ひょっこり赤いうさぎが出てきた。
祐二「久しぶり。でも、彼女が整形だなんてびっくりしたなあ。
なんで教えてくれなかったの?」
うさぎ「由美子さんは試しただけですよ」
祐二「えッ。ということは、整形じゃないの」
うさぎ「由美子さんは、あなたが容姿しか見てなくて、彼女自
身を見てないから、それで、あんなふうに試したのに、それを
真に受けて……」
祐二「そうだったのか。やっぱり、心の中を見るのは難しいな
あ」
うさぎ「祐二さんが彼女自身をしっかり見ていればこんなこと
にならなかったのに」
祐二「俺は、彼女の容姿だけが好きだったのかも。でも、俺も
ようやく分かった。正しい愛のあり方を、いまからじゃ遅いか
な」
うさぎ「さあ」
祐二は走って由美子を追いかけた。
由美子は、泣き崩れていた。
祐二「ごめん。俺、由美子の容姿ばっかり見ていて、由美子自
身を見てなかった。これからは、君自身を見るようにするよ。
許して」
由美子「ありがとう、そう言ってもらえてうれしい」
祐二「もう一度、やり直そう。由美子自身が好きなことによう
やく気づいた」
由美子「ありがとう」
由美子は顔を上げた。
由美子は、涙と鼻水で化粧はすっかり落ちていて、まるで
別人だった。
祐二「えっ」
祐二は赤いうさぎと目があった。
祐二「(俺の心を読まないで、女性がすっぴんでいるより恥ず
かしいから、俺の心の中は彼女のすっぴんよりも、数十倍、ブ
サイクだということに気づいたよ。だから、あっちに行ってく
れ)」
赤いうさぎは、祐二のもとを去った。
祐二は泣いている由美子のそばにいた。
しばらくすると彼女は泣き止んで、祐二の方を見た。
その顔は、祐二にとって、とてもかわいらしく見えたのだ
った。
K商事の受付嬢の由美子は美人で評判であった。彼女の美貌
は、見ているだけで、幸せで、近寄るなんて……。
そんな彼女に恋をしたあわれな男がひとり。雲川祐二である。
とにかく、挨拶しかしてないのではあるが、どんどん彼女の
ことが好きになってしまって、この気持ちどうしましょうとい
うような感じである。
そんな祐二が道を歩いていると、赤いうさぎが声をかけてき
た。
「驚かないでくださいね。私は人の言葉が話せて、人の心が読
めるうさぎです。あなたは、受付嬢のことが好きで好きで……
私をその女性のところにつれていってくれたら、その女性の気
持ちが分かりますよ」
「本当、じゃあ頼むよ」
祐二はかばんにうさぎを入れて、会社に向かった。
受付嬢の由美子に軽く声をかける。
祐二「こんにちは」
由美子「こんにちは」
祐二「あの、つまらないこと聞くけど、由美子さんて彼氏いま
す?」
由美子「いいえ」
祐二「じゃあ、僕なんてどう……なんちゃって」
祐二は逃げるように、トイレに駆け込み、赤いうさぎにきい
てみた。
祐二「どうだった」
うさぎ「祐二さんかなり緊張してましたね」
祐二「あれが、俺の精一杯だったんだよ。どうだった」
うさぎ「いい感じですよ」
祐二「い、いい感じって、ど、どんな感じだ」
うさぎ「たぶん、ちゃんと誘えばデートできます」
祐二「ほ、本当か」
うさぎ「ええ」
それから、由美子を誘い、初デートに成功し、お付き合いが
始まった。由美子が横に歩いているだけで、とても誇らしく、
楽しかった。
ある日、いつものように楽しくデートをした帰り際。
彼女は唐突に言った。
由美子「私がきれいな理由知りたい」
祐二「なんだよ急に」
由美子「私は、あなたと会う前、顔を整形したからよ」
祐二「えっ、本当に」
由美子「ええ。どう、私のこときらいになった」
祐二「……」
由美子「別れる?」
祐二「考えさせて」
由美子「考えながら、つきあってもらっても仕方ないわ。じゃ
あね」
祐二は去り行く由美子を見送った。
電信柱から、ひょっこり赤いうさぎが出てきた。
祐二「久しぶり。でも、彼女が整形だなんてびっくりしたなあ。
なんで教えてくれなかったの?」
うさぎ「由美子さんは試しただけですよ」
祐二「えッ。ということは、整形じゃないの」
うさぎ「由美子さんは、あなたが容姿しか見てなくて、彼女自
身を見てないから、それで、あんなふうに試したのに、それを
真に受けて……」
祐二「そうだったのか。やっぱり、心の中を見るのは難しいな
あ」
うさぎ「祐二さんが彼女自身をしっかり見ていればこんなこと
にならなかったのに」
祐二「俺は、彼女の容姿だけが好きだったのかも。でも、俺も
ようやく分かった。正しい愛のあり方を、いまからじゃ遅いか
な」
うさぎ「さあ」
祐二は走って由美子を追いかけた。
由美子は、泣き崩れていた。
祐二「ごめん。俺、由美子の容姿ばっかり見ていて、由美子自
身を見てなかった。これからは、君自身を見るようにするよ。
許して」
由美子「ありがとう、そう言ってもらえてうれしい」
祐二「もう一度、やり直そう。由美子自身が好きなことによう
やく気づいた」
由美子「ありがとう」
由美子は顔を上げた。
由美子は、涙と鼻水で化粧はすっかり落ちていて、まるで
別人だった。
祐二「えっ」
祐二は赤いうさぎと目があった。
祐二「(俺の心を読まないで、女性がすっぴんでいるより恥ず
かしいから、俺の心の中は彼女のすっぴんよりも、数十倍、ブ
サイクだということに気づいたよ。だから、あっちに行ってく
れ)」
赤いうさぎは、祐二のもとを去った。
祐二は泣いている由美子のそばにいた。
しばらくすると彼女は泣き止んで、祐二の方を見た。
その顔は、祐二にとって、とてもかわいらしく見えたのだ
った。
2006年11月18日
つきは見ている〜永遠の愛〜
つきは見ている〜永遠の愛〜
亜紀は振られると、余計に順次のことが、いとおしく思え
て、夜な夜な、ベランダに立ち、泣いていた。
亜紀は思い描いていた。順次と結婚して、子供が生まれて、
子供が育って結婚して、また、順次と2人きりになって、その頃
は、もうおばあちゃんとおじいちゃんになっているけれど、2人
で手を繋いでポプラ並木を歩いている。
ある夜、空を見ているとつきが話しかけてきた。
「俺は、願い事をかなえることができるつきだ。お前の願いを
ひとつだけ、叶えてやろう」
亜紀は、驚きながら言った。
「なんでも?」
「ああ、なんでもいいよ。願え」
亜紀は喜色満面な表情で言った。
「じゃあ、順次が私のことを永遠に好きになりますように」
つきは「わかった」といい、それと同時に雲に包まれた。
すぐに電話がかかってきた。
順次からだった。「俺が悪かった。もう一度やりなおそう」と
嬉しい言葉をすぐにもらうことができた。亜紀は感激し、それか
らは、本当に楽しい日々を過ごしたが、それもつかの間、順次の
愛は絶対的なのものになったので、だんだん、だんだん、トキメ
キはなくなり、いつも亜紀のことを好きだといってくれる順次が
疎ましくなってきた。
そして、つきに相談をした。
「ねえ、私、本当に身勝手なんだけれど、このあいだしたお願
いを取り消すことはできるの」
「願いはひとり1回だ。だが、他の人がきみの願いを取り下げ
てくれる願いをすれば、お前の願いを取り消すことができる」
「じゃあ、順次に本当のことを言って、順次からそう言っても
らうわ」
つきは怪訝な表情で聞き返した。
「なあ、本当にいいのかい。せっかくした願いごとなのに」
「だって、もうダメ。愛してないもの」
亜紀は、順次と公園で会った。
「順次に話があるの」と亜紀はきりだした。
順次は少し悲しそうな目をして言った。
「そうだと思った。急に会わないって言うから、でも、なんと
なく気づいていたんだ。もう振られるだろうなって」
亜紀は首をふり答えた。
「違うの、もっとひどいの」
「ひどいって、まさか、不治の病とか」
「違うの。あなたは私のことを好きなのは、あなたが私のこと
を好きになるように魔法をかけたからなのよ」
「魔法?」
「そう、魔法。つきに“順次が私のことを永遠に好きになるよ
うに”と願いごとをしたの。願い事はひとり1回だから、その願
い事を取り消す願い事をしてほしいの」
「でも、亜紀が俺のことを好きなら、その願いを消さなくても
いいわけだろう。結局、僕のことをきらいになったんだね。嫌い
になったのなら、嫌いになったとはっきり言ってくれればそれで
いいよ」
「ごめん」
「わかった。そのつきに亜紀の願いを終わらせるように言って
おくよ」
「ありがとう」
順次は去って行った。
夜になり、亜紀はぼんやりつきを眺めていた。
つきは他の誰か願い事をきいているのだろうか。亜紀に表情を
見せなかった。順次の願い事をきいているのかもしれないと思っ
た。
そう思うと、急に順次のことが好きだった感情が甦ってきた。
やっぱり、順次のことが好きなんだと思った。あわてて携帯を
取り出し、順次に電話をした。
「ごめん、やっぱり私、あなたのことが好きなの。だから、本
当に勝手なんだけど、さっき言ったことはなかったことにして」
「もう、遅いよ」
順次は、さっきつきにした願い【亜紀が俺のことを永遠に好きに
なりますように】という願いが、すぐに叶ったことに驚いきなが
ら言った。
「じゃあ、もうつきに願いを言ったあとなの」
「ああ」
「そんな……願ったあと、私のこと好きじゃなくなった」
「いや、亜紀のことは、変わらず好きだよ」
「やっぱり、私たちの愛は本物ね」
亜紀は振られると、余計に順次のことが、いとおしく思え
て、夜な夜な、ベランダに立ち、泣いていた。
亜紀は思い描いていた。順次と結婚して、子供が生まれて、
子供が育って結婚して、また、順次と2人きりになって、その頃
は、もうおばあちゃんとおじいちゃんになっているけれど、2人
で手を繋いでポプラ並木を歩いている。
ある夜、空を見ているとつきが話しかけてきた。
「俺は、願い事をかなえることができるつきだ。お前の願いを
ひとつだけ、叶えてやろう」
亜紀は、驚きながら言った。
「なんでも?」
「ああ、なんでもいいよ。願え」
亜紀は喜色満面な表情で言った。
「じゃあ、順次が私のことを永遠に好きになりますように」
つきは「わかった」といい、それと同時に雲に包まれた。
すぐに電話がかかってきた。
順次からだった。「俺が悪かった。もう一度やりなおそう」と
嬉しい言葉をすぐにもらうことができた。亜紀は感激し、それか
らは、本当に楽しい日々を過ごしたが、それもつかの間、順次の
愛は絶対的なのものになったので、だんだん、だんだん、トキメ
キはなくなり、いつも亜紀のことを好きだといってくれる順次が
疎ましくなってきた。
そして、つきに相談をした。
「ねえ、私、本当に身勝手なんだけれど、このあいだしたお願
いを取り消すことはできるの」
「願いはひとり1回だ。だが、他の人がきみの願いを取り下げ
てくれる願いをすれば、お前の願いを取り消すことができる」
「じゃあ、順次に本当のことを言って、順次からそう言っても
らうわ」
つきは怪訝な表情で聞き返した。
「なあ、本当にいいのかい。せっかくした願いごとなのに」
「だって、もうダメ。愛してないもの」
亜紀は、順次と公園で会った。
「順次に話があるの」と亜紀はきりだした。
順次は少し悲しそうな目をして言った。
「そうだと思った。急に会わないって言うから、でも、なんと
なく気づいていたんだ。もう振られるだろうなって」
亜紀は首をふり答えた。
「違うの、もっとひどいの」
「ひどいって、まさか、不治の病とか」
「違うの。あなたは私のことを好きなのは、あなたが私のこと
を好きになるように魔法をかけたからなのよ」
「魔法?」
「そう、魔法。つきに“順次が私のことを永遠に好きになるよ
うに”と願いごとをしたの。願い事はひとり1回だから、その願
い事を取り消す願い事をしてほしいの」
「でも、亜紀が俺のことを好きなら、その願いを消さなくても
いいわけだろう。結局、僕のことをきらいになったんだね。嫌い
になったのなら、嫌いになったとはっきり言ってくれればそれで
いいよ」
「ごめん」
「わかった。そのつきに亜紀の願いを終わらせるように言って
おくよ」
「ありがとう」
順次は去って行った。
夜になり、亜紀はぼんやりつきを眺めていた。
つきは他の誰か願い事をきいているのだろうか。亜紀に表情を
見せなかった。順次の願い事をきいているのかもしれないと思っ
た。
そう思うと、急に順次のことが好きだった感情が甦ってきた。
やっぱり、順次のことが好きなんだと思った。あわてて携帯を
取り出し、順次に電話をした。
「ごめん、やっぱり私、あなたのことが好きなの。だから、本
当に勝手なんだけど、さっき言ったことはなかったことにして」
「もう、遅いよ」
順次は、さっきつきにした願い【亜紀が俺のことを永遠に好きに
なりますように】という願いが、すぐに叶ったことに驚いきなが
ら言った。
「じゃあ、もうつきに願いを言ったあとなの」
「ああ」
「そんな……願ったあと、私のこと好きじゃなくなった」
「いや、亜紀のことは、変わらず好きだよ」
「やっぱり、私たちの愛は本物ね」
2006年11月06日
赤いうさぎ〜瀬をはやみ…似たもの同士〜
赤いうさぎ〜瀬をはやみ…似たもの同士〜
雅夫が家に帰ると、ずいぶん豪勢な料理だった。
「今日は、どうしたの、ずいぶん豪勢だね」
妻の綾子は少し怪訝な顔で言った。
「いや、今日は早く帰れたから、手の込んだ料理をつくった
だけ」
「そうなんだ。いや、おいしいよ」
雅夫は、ばくばく料理を食べた。
翌日
雅夫は会社帰りの、電車の中。前に座っている女性が結婚情
報誌をもっていた。
「あっ」
昨日は2回目の結婚記念日だったということを雅夫は思い出
した。電車から降り、憂鬱な気持ちで道を歩いていると、赤い
うさぎがいた。
近づいてみると、赤いうさぎが話をはじめた。
「驚かないで下さいね。僕は人の言葉が話せて、人の心が読
めるうさぎです。あなたは、昨日が結婚記念日ということを忘
れていて、家に帰るのを怖がっていますね」
「よく分かったなあ。実はそうなんだよ」
「僕も、一緒にいってあげましょうか」
「一緒に謝ってくれるのか?」
赤いうさぎは首をふった。
「いえ、そういうことはしませんが、奥さんの心は読めます」
「そうか、じゃあ、一緒きてくれ」
雅夫は家に帰った。
そして、すばやく自分の書斎に行き、赤いうさぎに隠れてい
るように言った。
リビングに戻り、雅夫は綾子に謝った。
「昨日はごめん、俺、すっかり結婚記念日を忘れていて」
「いいのよ。あなた忘れっぽいから」と綾子。
雅夫は自分の書斎にはいり、赤いうさぎに聞いてみた。
「どうだった」
「いや、特に怒ってはいませんでした。でも、奥さんは全部
覚えてるようで、一昨年の11月5日にあなたと出会って、
11月10日に初めてデートして、と細かく覚えています」
「ありがとう」
雅夫はリビングに戻り、さっそく綾子に言った。
「昨日のことは、度忘れしていたけど、でも、全部覚えている
よ。たとえば、一昨年の11月5日、綾子と出会って、11月
10日に初めてデートして……」
綾子は、とくにうれしそうな顔もせずに言った。
「よく覚えているわね」
雅夫は自分の書斎にはいり、赤いうさぎに聞いてみた。
「どうだった」
「奥さん、怪しんでますよ。そんなことを覚えているわけが
ないから、私の手帳を勝手に見たわね」
「……ありがとう」
雅夫はリビングに行って、綾子に言った。
「本当に覚えてたんだ。手帳なんか見てないよ」
「私、手帳なんて言葉、言ってないわよね」
「えっ」
「全部見たの」とにらみつける綾子。
怖気づく雅夫。
「い、いや、見てない。でも、夫婦なんだから、手帳をみた
としても……」
「あっ、そうね。でも、今度から見ないでね」
雅夫は自分の書斎にはいり、赤いうさぎに聞いてみた。
「なにが書かれているのだろう」
「それは、女性の生理のことで、子供ができやすい日とでき
にくい日があるですが、できにくい日を選んで夜の行為を行っ
ているそうです」
「どうして」
「子供がほしくないのでしょう」
「どうして、ほしくないのだろう?」
「明日、私、ここにいますから。きっとわかるでしょう」
次の日、雅夫は不安な気持ちで家に帰ってきた。
書斎に行き、早速赤いうさぎに聞いてみた。
「どうしてだか、わかった?」
「もう、子供を作ることを決めたみたいですよ」
「どうして」
「ききたいですか」
「ああ」
「じゃあ、本当のことをいいますよ。奥さんは好きな人がい
たみたいです。その人は海外にいったきりで、もうあきらめて、
あなたと結婚した。でも、その人のことを、忘れられないみた
いで……」
「だから、子供をつくらずにいて、もしその人が戻ってきた
ら、俺と離婚しようと思っていたのか……」
「でも、その人から、今日、手紙が来て、その人は沢村とい
うのですけれど、子供ができたので結婚しますみたいなことが
書いてありました。だから、子供を作って、その子と結婚させ
て……みたいなことを思っていました」
「そうなのか。でも、まあ、そんな気持ちが、永く続くわけ
がない。でも、その人の名前は」
「沢村 雄一」
それから、雅夫と綾子の間にも子供ができ……”ひかり”と
名づけた。
ひかりも24歳になっていた。
そして、彼氏ができたようだった。雅夫は、その男の名前を
聞くと”沢村”だった。お母さんの友達の紹介で付き合いはじ
めたそうだ。
雅夫は綾子に憎しみを感じつつ、その男の大学と学部を聞い
て、大学に行って住所をつきとめた。
その住所をたよりに、どうか綾子が好きだった”沢村雄一”
でないようにと願いながら家を探した。家はすぐに見つかった。
が表札には ”沢村 雄一” 寛子、卓也。
がっかりしながら、元来た道を歩いていると、どこかであっ
たような品のいい女性があるいていた。
寛子。7年間、片思いだった寛子。
寛子は雅夫に気づいていないようだった。雅夫が寛子の後を
つけていくと、寛子は沢村の家に入っていった。
ということは、寛子の子供が、ひかりと付き合っている男か……
雅夫は、夕食時にひかりに訊いてみた。
「彼氏とうまくやっているのか?」
ひかりは首をふって答えた。
「ぜんぜん。だから別れようと思って」
雅夫と綾子は同時に言った。
「別れるなんて、許さないからね!!」
「どうしたの、お父さんもお母さんも、しかも、声をそろえ
て」
それから、結局、ひかりはその男、卓也と別れてしまった。
雅夫が綾子と本気で向き合えるようになったのはそれからだ
った。
おしまい
雅夫が家に帰ると、ずいぶん豪勢な料理だった。
「今日は、どうしたの、ずいぶん豪勢だね」
妻の綾子は少し怪訝な顔で言った。
「いや、今日は早く帰れたから、手の込んだ料理をつくった
だけ」
「そうなんだ。いや、おいしいよ」
雅夫は、ばくばく料理を食べた。
翌日
雅夫は会社帰りの、電車の中。前に座っている女性が結婚情
報誌をもっていた。
「あっ」
昨日は2回目の結婚記念日だったということを雅夫は思い出
した。電車から降り、憂鬱な気持ちで道を歩いていると、赤い
うさぎがいた。
近づいてみると、赤いうさぎが話をはじめた。
「驚かないで下さいね。僕は人の言葉が話せて、人の心が読
めるうさぎです。あなたは、昨日が結婚記念日ということを忘
れていて、家に帰るのを怖がっていますね」
「よく分かったなあ。実はそうなんだよ」
「僕も、一緒にいってあげましょうか」
「一緒に謝ってくれるのか?」
赤いうさぎは首をふった。
「いえ、そういうことはしませんが、奥さんの心は読めます」
「そうか、じゃあ、一緒きてくれ」
雅夫は家に帰った。
そして、すばやく自分の書斎に行き、赤いうさぎに隠れてい
るように言った。
リビングに戻り、雅夫は綾子に謝った。
「昨日はごめん、俺、すっかり結婚記念日を忘れていて」
「いいのよ。あなた忘れっぽいから」と綾子。
雅夫は自分の書斎にはいり、赤いうさぎに聞いてみた。
「どうだった」
「いや、特に怒ってはいませんでした。でも、奥さんは全部
覚えてるようで、一昨年の11月5日にあなたと出会って、
11月10日に初めてデートして、と細かく覚えています」
「ありがとう」
雅夫はリビングに戻り、さっそく綾子に言った。
「昨日のことは、度忘れしていたけど、でも、全部覚えている
よ。たとえば、一昨年の11月5日、綾子と出会って、11月
10日に初めてデートして……」
綾子は、とくにうれしそうな顔もせずに言った。
「よく覚えているわね」
雅夫は自分の書斎にはいり、赤いうさぎに聞いてみた。
「どうだった」
「奥さん、怪しんでますよ。そんなことを覚えているわけが
ないから、私の手帳を勝手に見たわね」
「……ありがとう」
雅夫はリビングに行って、綾子に言った。
「本当に覚えてたんだ。手帳なんか見てないよ」
「私、手帳なんて言葉、言ってないわよね」
「えっ」
「全部見たの」とにらみつける綾子。
怖気づく雅夫。
「い、いや、見てない。でも、夫婦なんだから、手帳をみた
としても……」
「あっ、そうね。でも、今度から見ないでね」
雅夫は自分の書斎にはいり、赤いうさぎに聞いてみた。
「なにが書かれているのだろう」
「それは、女性の生理のことで、子供ができやすい日とでき
にくい日があるですが、できにくい日を選んで夜の行為を行っ
ているそうです」
「どうして」
「子供がほしくないのでしょう」
「どうして、ほしくないのだろう?」
「明日、私、ここにいますから。きっとわかるでしょう」
次の日、雅夫は不安な気持ちで家に帰ってきた。
書斎に行き、早速赤いうさぎに聞いてみた。
「どうしてだか、わかった?」
「もう、子供を作ることを決めたみたいですよ」
「どうして」
「ききたいですか」
「ああ」
「じゃあ、本当のことをいいますよ。奥さんは好きな人がい
たみたいです。その人は海外にいったきりで、もうあきらめて、
あなたと結婚した。でも、その人のことを、忘れられないみた
いで……」
「だから、子供をつくらずにいて、もしその人が戻ってきた
ら、俺と離婚しようと思っていたのか……」
「でも、その人から、今日、手紙が来て、その人は沢村とい
うのですけれど、子供ができたので結婚しますみたいなことが
書いてありました。だから、子供を作って、その子と結婚させ
て……みたいなことを思っていました」
「そうなのか。でも、まあ、そんな気持ちが、永く続くわけ
がない。でも、その人の名前は」
「沢村 雄一」
それから、雅夫と綾子の間にも子供ができ……”ひかり”と
名づけた。
ひかりも24歳になっていた。
そして、彼氏ができたようだった。雅夫は、その男の名前を
聞くと”沢村”だった。お母さんの友達の紹介で付き合いはじ
めたそうだ。
雅夫は綾子に憎しみを感じつつ、その男の大学と学部を聞い
て、大学に行って住所をつきとめた。
その住所をたよりに、どうか綾子が好きだった”沢村雄一”
でないようにと願いながら家を探した。家はすぐに見つかった。
が表札には ”沢村 雄一” 寛子、卓也。
がっかりしながら、元来た道を歩いていると、どこかであっ
たような品のいい女性があるいていた。
寛子。7年間、片思いだった寛子。
寛子は雅夫に気づいていないようだった。雅夫が寛子の後を
つけていくと、寛子は沢村の家に入っていった。
ということは、寛子の子供が、ひかりと付き合っている男か……
雅夫は、夕食時にひかりに訊いてみた。
「彼氏とうまくやっているのか?」
ひかりは首をふって答えた。
「ぜんぜん。だから別れようと思って」
雅夫と綾子は同時に言った。
「別れるなんて、許さないからね!!」
「どうしたの、お父さんもお母さんも、しかも、声をそろえ
て」
それから、結局、ひかりはその男、卓也と別れてしまった。
雅夫が綾子と本気で向き合えるようになったのはそれからだ
った。
おしまい
2006年10月29日
赤いうさぎ〜合コン〜
赤いうさぎ〜合コン〜
今日は合コン。一郎はうきうきしながら、道を歩いていた。
公園の横を歩いていると、赤い動物が目に入った。ねこ?と思
い、追いかけてみると、なんと赤いうさぎだった。珍しいと思
い見ていると、赤いうさぎが話しかけてきた。
「驚かないで下さいね。私は人間の言葉が話せて、心が読め
るうさぎです。あなたは、これから、合コンですね」
「えっ!!」
一郎は驚きうさぎを見た。うさぎが話している?一郎は一呼
吸して話した。
「ああ、よくわかったなあ。お前、どんな人でも心が読める
のか」
「ええ、まあ、そうですが……」
「じゃあ、俺と合コンにきてくれないか」
「ええ、いいですよ」
「本当かよ!じゃあ、合コンの間はこのカバンに入ってもら
っていい?」
「ええ、いいですよ」
一郎と赤いうさぎが合コンへ向かった。
ごく普通の居酒屋で合コンが始まった。
男4人に女4人。
女性は、映子の他3名。男性も、一郎のほか3名。
一郎は映子のことが気に入った。それで、映子にアプローチ。
まんざらでもなさそうな映子の反応。うさぎに訊かなくてもう
まくいきそうだが、一応うさぎに聞いてみようと思い、鞄をも
って、席をはずす。
うさぎに訊いた。
「なあ、俺のことを気に入っている女性っている?」
「あなたは、映子さんのことが気に入っていますね。映子さ
んもあなたのことが気にいっていますよ」
「うれしいなあ。告白しても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。でも、あなたの心のなかに、順子さんもい
ますね」
「よくわかったなあ。大学で同じクラスの順子のことは好き
だけど、順子は俺のことをどう思っているのだろう」
「順子さんは、あなたのことを好きみたいですよ」
「お前は、遠くにいる人の心も読めるのか。じゃあ、電話し
てみるよ」
一郎はすぐに携帯をとりだし順子に電話をする。
「もしもし、順子」
「ごめん、今友達と飲んでいるから、ちょっと、待ってね」
しばらく、待った後順子が出た。
「順子、俺。今度の日曜、空いていたら、どこかに遊びに行
かない?」
「デートのお誘い?」
「この際、はっきり言うけれど、俺は順子のことが好きなん
だ」
「本当!うれしい」
「じゃあ、土曜日にもう一度電話するね」
「待ってるわ」
席に戻ると、最後に、告白ゲームをしようということになっ
ていた。
一郎は映子のところに行って告白した。
当然のように、映子はOKしてくれた。これからは、順子とも
映子ともデートするから忙しくなるなあなどと思っていた。
「せっかくだから、映子ちゃん、ほっぺにキスしてあげてよ」
と誰かがいい。
「キス キス キス」とどんちゃん騒ぎをしていると、周り
の野次馬的な客もそれに合わせて、「キス キス キス」と言
いだした。
映子は恥ずかしがりながら、一郎のほほにキスを……
一郎はどこからか、冷たい視線を感じた。
順子だ!順子は同じ居酒屋で飲んでいたのか……
一郎は、その場にいることが耐えられなくなって逃げ出した。
途中、公園があり、そこのベンチに座っていた。
しばらくすると、映子が一郎のかばんをもって追いかけてき
た。
「結局、あなた、他に好きな人がいたのね。そして、その人
と私と、二股をかけようとしてたのね」
一郎は鞄にうさぎが入っていると思い、降参して“本当”の
ことを言った。
それをきいて、映子はやさしい顔をしていった。
「あなたって、正直ものなのね。そういう人って、私、好き
よ」
そして、一郎のかばんを渡して去ろうとした。
一郎は鞄の中を見た。赤いうさぎは、もうその中に入ってい
なかった。
「映子さん!俺、もうその人のことなんて、どうでもいいの
です。あなただけが好きになってしまいました」
「本当?」と映子
「本当です」と一郎は自信満々に答えた。
そのとき、茂みの中から、赤いうさぎを抱いた順子が出てき
た。
「本当?」と映子はもう一度、問うた。
「ごめんなさい」
と言って、一郎は逃げ出した。
映子は順子に言った。
「せっかく、順子さんがもう一度チャンスをあげたのにねえ」
「でも、よかった。あんな男にひっかからないで」
赤いうさぎは順子の腕から抜け出し、一郎を追いかけたが、
追いつかないほど早いスピードで一郎は走って去って行った。
赤いうさぎは一郎の心を読んだ。
一郎は心の中で“ごめんなさい”を呪文のように唱えていた。
これが、”恐怖”か。うさぎは、人間のことをまたひとつ
勉強した。
今日は合コン。一郎はうきうきしながら、道を歩いていた。
公園の横を歩いていると、赤い動物が目に入った。ねこ?と思
い、追いかけてみると、なんと赤いうさぎだった。珍しいと思
い見ていると、赤いうさぎが話しかけてきた。
「驚かないで下さいね。私は人間の言葉が話せて、心が読め
るうさぎです。あなたは、これから、合コンですね」
「えっ!!」
一郎は驚きうさぎを見た。うさぎが話している?一郎は一呼
吸して話した。
「ああ、よくわかったなあ。お前、どんな人でも心が読める
のか」
「ええ、まあ、そうですが……」
「じゃあ、俺と合コンにきてくれないか」
「ええ、いいですよ」
「本当かよ!じゃあ、合コンの間はこのカバンに入ってもら
っていい?」
「ええ、いいですよ」
一郎と赤いうさぎが合コンへ向かった。
ごく普通の居酒屋で合コンが始まった。
男4人に女4人。
女性は、映子の他3名。男性も、一郎のほか3名。
一郎は映子のことが気に入った。それで、映子にアプローチ。
まんざらでもなさそうな映子の反応。うさぎに訊かなくてもう
まくいきそうだが、一応うさぎに聞いてみようと思い、鞄をも
って、席をはずす。
うさぎに訊いた。
「なあ、俺のことを気に入っている女性っている?」
「あなたは、映子さんのことが気に入っていますね。映子さ
んもあなたのことが気にいっていますよ」
「うれしいなあ。告白しても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。でも、あなたの心のなかに、順子さんもい
ますね」
「よくわかったなあ。大学で同じクラスの順子のことは好き
だけど、順子は俺のことをどう思っているのだろう」
「順子さんは、あなたのことを好きみたいですよ」
「お前は、遠くにいる人の心も読めるのか。じゃあ、電話し
てみるよ」
一郎はすぐに携帯をとりだし順子に電話をする。
「もしもし、順子」
「ごめん、今友達と飲んでいるから、ちょっと、待ってね」
しばらく、待った後順子が出た。
「順子、俺。今度の日曜、空いていたら、どこかに遊びに行
かない?」
「デートのお誘い?」
「この際、はっきり言うけれど、俺は順子のことが好きなん
だ」
「本当!うれしい」
「じゃあ、土曜日にもう一度電話するね」
「待ってるわ」
席に戻ると、最後に、告白ゲームをしようということになっ
ていた。
一郎は映子のところに行って告白した。
当然のように、映子はOKしてくれた。これからは、順子とも
映子ともデートするから忙しくなるなあなどと思っていた。
「せっかくだから、映子ちゃん、ほっぺにキスしてあげてよ」
と誰かがいい。
「キス キス キス」とどんちゃん騒ぎをしていると、周り
の野次馬的な客もそれに合わせて、「キス キス キス」と言
いだした。
映子は恥ずかしがりながら、一郎のほほにキスを……
一郎はどこからか、冷たい視線を感じた。
順子だ!順子は同じ居酒屋で飲んでいたのか……
一郎は、その場にいることが耐えられなくなって逃げ出した。
途中、公園があり、そこのベンチに座っていた。
しばらくすると、映子が一郎のかばんをもって追いかけてき
た。
「結局、あなた、他に好きな人がいたのね。そして、その人
と私と、二股をかけようとしてたのね」
一郎は鞄にうさぎが入っていると思い、降参して“本当”の
ことを言った。
それをきいて、映子はやさしい顔をしていった。
「あなたって、正直ものなのね。そういう人って、私、好き
よ」
そして、一郎のかばんを渡して去ろうとした。
一郎は鞄の中を見た。赤いうさぎは、もうその中に入ってい
なかった。
「映子さん!俺、もうその人のことなんて、どうでもいいの
です。あなただけが好きになってしまいました」
「本当?」と映子
「本当です」と一郎は自信満々に答えた。
そのとき、茂みの中から、赤いうさぎを抱いた順子が出てき
た。
「本当?」と映子はもう一度、問うた。
「ごめんなさい」
と言って、一郎は逃げ出した。
映子は順子に言った。
「せっかく、順子さんがもう一度チャンスをあげたのにねえ」
「でも、よかった。あんな男にひっかからないで」
赤いうさぎは順子の腕から抜け出し、一郎を追いかけたが、
追いつかないほど早いスピードで一郎は走って去って行った。
赤いうさぎは一郎の心を読んだ。
一郎は心の中で“ごめんなさい”を呪文のように唱えていた。
これが、”恐怖”か。うさぎは、人間のことをまたひとつ
勉強した。
2006年10月22日
月は見ている〜お酒が強くなりたい〜
月は見ている〜お酒が強くなりたい〜
誠にとっては、久しぶりの合コンだった。昔は合コンも
よくやったが、年々少なくなってきた。誠は30歳になる。
もうそろそろ決めないといけないと思っていた。今回は、
タイプの女性が横に座った。名前は藤子。色白でグラマー
で、申し分ない女性だった。その女性は注がれるビールを
ぐびぐび飲み干しているが、顔色ひとつ変えていなかった。
誠は、みるみる赤くなってきていた。もう、そうとう酔っ
ていた。そして、倒れそうなくらいふらふらしていたが、
飲み会も終わる間際に、藤子と次に会う約束をとりつけた。
藤子との約束の日、誠と藤子はオープンテラスのレスト
ランでワインを飲みながら食事をした。藤子はワインをお
茶のように飲み干していった。藤子との会話がいい感じで
進んでいって、あと少し、次の店に行く頃には口説き落と
せるような感じだった。ただ、誠は、もうふらふらになっ
ており、口説く前に自分が潰れそうだった。
そんなときにどこからか声がした。上を見るとつきが話
していた。
「願いがあれば聞いてやってもいいぞ」
つきが願いをかなえてくれるなんて、俺も幻覚がみえて
やばいなあと思いながら、もう一度、つきを見る。
……ほんとうだ、つきが俺をみている。
「本当か?だったら、俺は酔っ払ってと言うか、酒に弱
い。お酒を女性と飲みに行って、俺が女性を口説く前に、
酒に俺が口説かれる(笑)」
「意味がわからないが……願いごとがないなら」
「ちょっと待ってくれ。願い事を言う。俺がお酒をどれ
だけ飲んでも酔わないくらいに、お酒に強くしてくれ」
「分かった」
その後2人は小粋なバーに行った。藤子は俺に寄り添っ
ている。いい感じだ。このまま、ホテルに誘ってゴールイ
ンなんてことを考えながら、横をみると、藤子はテキーラ
をストレートで頼んでいる。テキーラ。火をつけると、燃
えるくらい強い酒だ。しかし、女性よりも弱いお酒なんて
頼むわけにいかない。
「じゃあ、俺もテキーラのストレート」
少し飲んだ。飲める。アルコール度数は40度のテキーラ
カサノブレが、まるでお茶のように飲める。本当だったの
か。
俺は全く酔ってなくて、藤子はもう……
もういい頃合だ。俺は終電もないから、ホテルに泊まっ
ていくかと言おうとしたが、言葉がでない。
「あのー」
言葉がとまってしまう。もう一度
「あのー」
その後の言葉が出ない。
そういえば、初めてことをなすときは、俺はいつも酒の
力を借りて、そういうことをなし遂げていたことを思い出
した。”シラフ”では……
結局、僕は藤子をタクシーで家まで、礼儀正しく送って、
そして、家まで帰った。
タクシーを降りて、つきを見た。
つきは言った。「残念だったなあ」
「所詮、彼女とは縁がなかったんだよ」
「そんなことはなかったんだけどなあ。彼女は、お前と
なら酔いつぶれてもいいと思って飲んでいたのに……」
俺は、ムシャクシャしてきた。
こんなときは、酒でも飲んで……
誠にとっては、久しぶりの合コンだった。昔は合コンも
よくやったが、年々少なくなってきた。誠は30歳になる。
もうそろそろ決めないといけないと思っていた。今回は、
タイプの女性が横に座った。名前は藤子。色白でグラマー
で、申し分ない女性だった。その女性は注がれるビールを
ぐびぐび飲み干しているが、顔色ひとつ変えていなかった。
誠は、みるみる赤くなってきていた。もう、そうとう酔っ
ていた。そして、倒れそうなくらいふらふらしていたが、
飲み会も終わる間際に、藤子と次に会う約束をとりつけた。
藤子との約束の日、誠と藤子はオープンテラスのレスト
ランでワインを飲みながら食事をした。藤子はワインをお
茶のように飲み干していった。藤子との会話がいい感じで
進んでいって、あと少し、次の店に行く頃には口説き落と
せるような感じだった。ただ、誠は、もうふらふらになっ
ており、口説く前に自分が潰れそうだった。
そんなときにどこからか声がした。上を見るとつきが話
していた。
「願いがあれば聞いてやってもいいぞ」
つきが願いをかなえてくれるなんて、俺も幻覚がみえて
やばいなあと思いながら、もう一度、つきを見る。
……ほんとうだ、つきが俺をみている。
「本当か?だったら、俺は酔っ払ってと言うか、酒に弱
い。お酒を女性と飲みに行って、俺が女性を口説く前に、
酒に俺が口説かれる(笑)」
「意味がわからないが……願いごとがないなら」
「ちょっと待ってくれ。願い事を言う。俺がお酒をどれ
だけ飲んでも酔わないくらいに、お酒に強くしてくれ」
「分かった」
その後2人は小粋なバーに行った。藤子は俺に寄り添っ
ている。いい感じだ。このまま、ホテルに誘ってゴールイ
ンなんてことを考えながら、横をみると、藤子はテキーラ
をストレートで頼んでいる。テキーラ。火をつけると、燃
えるくらい強い酒だ。しかし、女性よりも弱いお酒なんて
頼むわけにいかない。
「じゃあ、俺もテキーラのストレート」
少し飲んだ。飲める。アルコール度数は40度のテキーラ
カサノブレが、まるでお茶のように飲める。本当だったの
か。
俺は全く酔ってなくて、藤子はもう……
もういい頃合だ。俺は終電もないから、ホテルに泊まっ
ていくかと言おうとしたが、言葉がでない。
「あのー」
言葉がとまってしまう。もう一度
「あのー」
その後の言葉が出ない。
そういえば、初めてことをなすときは、俺はいつも酒の
力を借りて、そういうことをなし遂げていたことを思い出
した。”シラフ”では……
結局、僕は藤子をタクシーで家まで、礼儀正しく送って、
そして、家まで帰った。
タクシーを降りて、つきを見た。
つきは言った。「残念だったなあ」
「所詮、彼女とは縁がなかったんだよ」
「そんなことはなかったんだけどなあ。彼女は、お前と
なら酔いつぶれてもいいと思って飲んでいたのに……」
俺は、ムシャクシャしてきた。
こんなときは、酒でも飲んで……
2006年10月12日
ごぶさたしてます。つきは見ている〜憎い奴〜
ごぶさたしております。
1ヶ月の休みのつもりが、半年も休んでしまった。
これからは、もう少し、というか、
ずっと、ゆっくりしたペースで、物語を書いていきたいと
思います。
これからも、よろしくお願い致します。
(以前のコメントは、
英語の宣伝コメントが異常に増えたので一時的に消してあります。)
つきは見ている〜憎い奴〜
笹目時子は自分の容姿が嫌いだった。鏡に映る自分を見るた
びにため息がでた。細い目に丸い顔……鏡で見るたびに、ひと
り傷ついていた。しかし、他人から容姿について、とやかく言
われることはなかった。みんな、容姿のひどさを哀れに思って、なにも言わないのだろうと思っていた。だが、その容姿につい
て言った奴がいた。
大学で同じサークルの甘いルックスの鮫島純一だ。
純一は、仲のいい友人の一人だと時子は思っていたが、ある
ときこう言われた。
「時子の顔って、ユニークだよな」
そして、またあるときは、
「顔が傷んでいるよね」
“ブス”と心の中だけで言っていないで、口に出して言ってくれたほうが楽だなんて思ったこともあったけれど、実際は
腹ただしいだけであった。鮫島純一が憎くて、憎くてしかたが
なかった。
鮫島のことを考えながら、空を見上げるとつきがでていた。
すると、つきが話しかけてきた。
「悩みごとかい?」
時子はつきが話しているなんて、信じられなかったが、確か
につきは、時子に向かって話していた。
「ええ、ちょっと憎らしい奴がいて、なんとかして懲らしめ
たいのだけど……」
「願い事なら聞くがな」
「えっ、本当」
「ああ、 俺は願い事を叶えることができるつきなんだ」
「じゃあ、えーっ、ちょっとまってね」
時子はつきを見ながらしばらく考え、言った。
「いいことを思いついたわ。私の憎い相手は鮫島純一と言う
のだけれど、彼が私のことを好きになるようにして頂戴。そした
ら、きっと私にいいよってくるのだろうけど私は彼のことを振り
続けることができるから。とっても気分がいいわね」
「永遠に彼がお前のことを好きでいいのかい?」
「ずっと好きになられても困るから半年くらいかな。それ以上い
いよられても困るから」
「じゃあ、願え」
「今日から半年間、鮫島純一が私のことを好きになりますよう
に」
「わかった」
6月1日、願い事が実行された。
時子は次の日から、純一に告白される瞬間を待ち構えていた。
告白されたら、ひどい言葉でふってやろうと思っていた。どんな
にひどいことを言っても、半年間は好きなのだから、それが愉快
だろうと思って心がはずんでいた。
しかし、告白されることがなく何日か過ぎていた。
時子は、つきに訊いた。
「ねえ、いつになったら、純一は私に告白するのよ」
「告白するという願いじゃなかったからね。でも、お前のことを
好きだから、訊いてみなよ」
時子は、思い通りにならなくて、残念に思ったが、しかし、こ
のままだと、仕返しをするチャンスを失ってしまうので、純一に
問いただした。
「ねえ。あなた、私の悪口ばかり言っていたけれど、今は私のこのことが好きなのでしょ。」
純一は頬を赤らめながら、言った。
「えっ……」
いつもは快活な純一も、本当のことを言われて動揺が隠せない
でいた。
「私、はっきりしない男って嫌いなの」
時子は、仕方なしに問い詰めた。
純一は観念したように答えた。
「確かに訊かれるまで告白できないって、情けない男だけど、前から時子のことが好きだったんだ」
「えっ、前から」
「ああ」
「前からって、1週間くらい前?」
「好きになる瞬間なんてわからないけれど、たぶん、2ヶ月前く
らいかな」
「えっ……でも、あなた、私にひどいこと言っていなかったっけ。あれで私は本当に傷ついたの」
「だって、時子はきれいだから……。俺って、小学生時代から精
神年齢があがってなくて、 どうしても、好きな人にはそんな接し方しかできないんだよ。まったくなさけないけれど……」
「じゃあ、あんなことを言ったのは好きの裏返し」
「だって、ブスな人に、ブスなんていうひどい男はいないよ」
「えー私って、きれいかな」
「それはとても。俺、時子と付き合いたいと思っていたんだ。だ
から、友達からでいいから俺と つきあってくれないかなあ」
「もう一度確認するけど、私のことを好きになったのは、少なく
ても、3日以上前から だよね」
「そうだけど」
「じゃあ、いいわ。友達からお付き合いしましょう」
純一は本当にうれしそうな顔をしている。
それを見て、時子も、もう恋に落ちていた。
夜、空を見上げたが、つきはそっぽを向いている。時子は、どん
どん、純一を好きになってきて、やがて、彼と彼女の関係になり、
そして半年があっという間に過ぎていった。
12月1日。
時子は、純一と約束していた喫茶店へ向かった。純一はうつろな表情でこちらを見ている。
時子は、今日でつきとの約束から半年になることを思い出して、
不安になりながら純一に話しかける。
「元気ないみたいだね」
純一はうつむいて答えた。
「ごめん」
「えっ、ごめんってなによ」
「ごめん、時子のこと好きじゃなくなったんだ。だから、別れよ
う」
「どうしたのよ、突然」
「そうなんだよ。突然、好きになって、突然、好きじゃなくなっ
たんだ。全く不思議な感覚だよ」
「えっ、突然好きになったの。私に告白した日よりも、ずっと前
からだったよね」
「いや、本当は、あの日の2日前に突然好きになったんだ。でも2日前から好きになりました、付き合って下さいなんて言えな
いから、ずっと前って言ったんだ。突然で不思議だった」
「じゃあ、私にひどいことを言ったのは本心だったの」
「ああ、俺はつい相手のことを本音で言ってしまうんだ」
「やっぱり、あなたってひどい男だったのね」
「ああ、俺はひどい男だ。でも、時子はきれいになった。昨日ま
では時子のことを好きだったから、 きれいに見えるのは当たり前
だけど、好きじゃなくなった今でも時子のことを見て、やっぱりき
れいだと思うよ」
「せっかくきれいになったのに、別れるなんて変な男ね」
「ブサイクだと思っても好きになり、きれいだと思っても好きじ
ゃなくなる。全く、恋って不思議なものだね」
と言って純一は笑っていた。
時子は、帰り道、鮫島のことを考えていた。未練がないといったら嘘になるかもしれない。しかし、裏切られた憎しみは全くなか
った。結局、この半年間は鮫島の心を支配していて、悪かったなぁ
とさえ思っている。私は、鮫島に恋をして、そして、好きになって
もらって、自分に自信をもつことができた。
家に着き、時子は鏡に映る姿を見た。
鏡に映る自分の姿をいつしか好きになっていた。
その姿を見ながらつぶやいた。
「ありがとう、鮫島君。そしておつきさま」
1ヶ月の休みのつもりが、半年も休んでしまった。
これからは、もう少し、というか、
ずっと、ゆっくりしたペースで、物語を書いていきたいと
思います。
これからも、よろしくお願い致します。
(以前のコメントは、
英語の宣伝コメントが異常に増えたので一時的に消してあります。)
つきは見ている〜憎い奴〜
笹目時子は自分の容姿が嫌いだった。鏡に映る自分を見るた
びにため息がでた。細い目に丸い顔……鏡で見るたびに、ひと
り傷ついていた。しかし、他人から容姿について、とやかく言
われることはなかった。みんな、容姿のひどさを哀れに思って、なにも言わないのだろうと思っていた。だが、その容姿につい
て言った奴がいた。
大学で同じサークルの甘いルックスの鮫島純一だ。
純一は、仲のいい友人の一人だと時子は思っていたが、ある
ときこう言われた。
「時子の顔って、ユニークだよな」
そして、またあるときは、
「顔が傷んでいるよね」
“ブス”と心の中だけで言っていないで、口に出して言ってくれたほうが楽だなんて思ったこともあったけれど、実際は
腹ただしいだけであった。鮫島純一が憎くて、憎くてしかたが
なかった。
鮫島のことを考えながら、空を見上げるとつきがでていた。
すると、つきが話しかけてきた。
「悩みごとかい?」
時子はつきが話しているなんて、信じられなかったが、確か
につきは、時子に向かって話していた。
「ええ、ちょっと憎らしい奴がいて、なんとかして懲らしめ
たいのだけど……」
「願い事なら聞くがな」
「えっ、本当」
「ああ、 俺は願い事を叶えることができるつきなんだ」
「じゃあ、えーっ、ちょっとまってね」
時子はつきを見ながらしばらく考え、言った。
「いいことを思いついたわ。私の憎い相手は鮫島純一と言う
のだけれど、彼が私のことを好きになるようにして頂戴。そした
ら、きっと私にいいよってくるのだろうけど私は彼のことを振り
続けることができるから。とっても気分がいいわね」
「永遠に彼がお前のことを好きでいいのかい?」
「ずっと好きになられても困るから半年くらいかな。それ以上い
いよられても困るから」
「じゃあ、願え」
「今日から半年間、鮫島純一が私のことを好きになりますよう
に」
「わかった」
6月1日、願い事が実行された。
時子は次の日から、純一に告白される瞬間を待ち構えていた。
告白されたら、ひどい言葉でふってやろうと思っていた。どんな
にひどいことを言っても、半年間は好きなのだから、それが愉快
だろうと思って心がはずんでいた。
しかし、告白されることがなく何日か過ぎていた。
時子は、つきに訊いた。
「ねえ、いつになったら、純一は私に告白するのよ」
「告白するという願いじゃなかったからね。でも、お前のことを
好きだから、訊いてみなよ」
時子は、思い通りにならなくて、残念に思ったが、しかし、こ
のままだと、仕返しをするチャンスを失ってしまうので、純一に
問いただした。
「ねえ。あなた、私の悪口ばかり言っていたけれど、今は私のこのことが好きなのでしょ。」
純一は頬を赤らめながら、言った。
「えっ……」
いつもは快活な純一も、本当のことを言われて動揺が隠せない
でいた。
「私、はっきりしない男って嫌いなの」
時子は、仕方なしに問い詰めた。
純一は観念したように答えた。
「確かに訊かれるまで告白できないって、情けない男だけど、前から時子のことが好きだったんだ」
「えっ、前から」
「ああ」
「前からって、1週間くらい前?」
「好きになる瞬間なんてわからないけれど、たぶん、2ヶ月前く
らいかな」
「えっ……でも、あなた、私にひどいこと言っていなかったっけ。あれで私は本当に傷ついたの」
「だって、時子はきれいだから……。俺って、小学生時代から精
神年齢があがってなくて、 どうしても、好きな人にはそんな接し方しかできないんだよ。まったくなさけないけれど……」
「じゃあ、あんなことを言ったのは好きの裏返し」
「だって、ブスな人に、ブスなんていうひどい男はいないよ」
「えー私って、きれいかな」
「それはとても。俺、時子と付き合いたいと思っていたんだ。だ
から、友達からでいいから俺と つきあってくれないかなあ」
「もう一度確認するけど、私のことを好きになったのは、少なく
ても、3日以上前から だよね」
「そうだけど」
「じゃあ、いいわ。友達からお付き合いしましょう」
純一は本当にうれしそうな顔をしている。
それを見て、時子も、もう恋に落ちていた。
夜、空を見上げたが、つきはそっぽを向いている。時子は、どん
どん、純一を好きになってきて、やがて、彼と彼女の関係になり、
そして半年があっという間に過ぎていった。
12月1日。
時子は、純一と約束していた喫茶店へ向かった。純一はうつろな表情でこちらを見ている。
時子は、今日でつきとの約束から半年になることを思い出して、
不安になりながら純一に話しかける。
「元気ないみたいだね」
純一はうつむいて答えた。
「ごめん」
「えっ、ごめんってなによ」
「ごめん、時子のこと好きじゃなくなったんだ。だから、別れよ
う」
「どうしたのよ、突然」
「そうなんだよ。突然、好きになって、突然、好きじゃなくなっ
たんだ。全く不思議な感覚だよ」
「えっ、突然好きになったの。私に告白した日よりも、ずっと前
からだったよね」
「いや、本当は、あの日の2日前に突然好きになったんだ。でも2日前から好きになりました、付き合って下さいなんて言えな
いから、ずっと前って言ったんだ。突然で不思議だった」
「じゃあ、私にひどいことを言ったのは本心だったの」
「ああ、俺はつい相手のことを本音で言ってしまうんだ」
「やっぱり、あなたってひどい男だったのね」
「ああ、俺はひどい男だ。でも、時子はきれいになった。昨日ま
では時子のことを好きだったから、 きれいに見えるのは当たり前
だけど、好きじゃなくなった今でも時子のことを見て、やっぱりき
れいだと思うよ」
「せっかくきれいになったのに、別れるなんて変な男ね」
「ブサイクだと思っても好きになり、きれいだと思っても好きじ
ゃなくなる。全く、恋って不思議なものだね」
と言って純一は笑っていた。
時子は、帰り道、鮫島のことを考えていた。未練がないといったら嘘になるかもしれない。しかし、裏切られた憎しみは全くなか
った。結局、この半年間は鮫島の心を支配していて、悪かったなぁ
とさえ思っている。私は、鮫島に恋をして、そして、好きになって
もらって、自分に自信をもつことができた。
家に着き、時子は鏡に映る姿を見た。
鏡に映る自分の姿をいつしか好きになっていた。
その姿を見ながらつぶやいた。
「ありがとう、鮫島君。そしておつきさま」
2006年06月04日
お知らせ
突然ですが、しばらくの間、ブログをお休みいたします。
少し早いですが、ブログの夏休みといったところでしょうか。
1ヶ月ほど、充電をして、また再開したいと思います。
再開をしましたら、みなさまのところに、挨拶に行きます
のでよろしくお願い致します。
童話 小僧
少し早いですが、ブログの夏休みといったところでしょうか。
1ヶ月ほど、充電をして、また再開したいと思います。
再開をしましたら、みなさまのところに、挨拶に行きます
のでよろしくお願い致します。
童話 小僧
2006年05月30日
赤いうさぎ〜隣の奥さん〜
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赤いうさぎ〜隣の奥さん〜
小久保家と大久保家は東京のはずれ、ぎりぎり東京都に住ん
でいる。都民になりたいということで、なんとか東京都に一軒
家を構えることができた。その2件は、敷地面積から、家の間
取りまでよく似ていた。おまけに奥さんの性格まで。どちらか
が何かを買うと、それに対抗して何かを買うというような両家
の戦争が起きていた。
小久保千恵VS大久保一恵
ある日、千恵は一恵の家の旅行先が沖縄であるという情報を
手にいれた。未確認ではあるが、かなり有力な情報である。夫
が帰るやいなや、旅行の話を切り出した。
「ねえ、一恵さん家の夏の旅行は沖縄らしいわよ」
「どうでもいいじゃないか、隣のことなんて」
「どうでもよくないわよ!」
「このあいだの旅行だって、伊豆の伊東に行ったら、隣の家
は、さらに南の伊豆の下田に行っていて、負けた、負けたと大
騒ぎをしていたけど……そういうのやめにしようよ」
「そうなのよ。前回負けたから、今回は負けるわけにはいか
ないわけよ。相手は沖縄なら、こっちは……」
「北海道?」
「北海道というよりは、やっぱり、沖縄より南の石垣島、宮
古島、久米島でないと勝てないわね」
「旅行に勝ち負けなんかないだろ。ケンカじゃないんだから」
「あなたが、ライバル会社に勝つために会社で戦っているよ
うに、私は他の家に負けないように戦っているのよ!」
「もういいよ!」
それから、しばらく経ったある日。
千恵は道を歩いていると、赤いうさぎに出会った。
そっと、赤いうさぎに近づいて行った。赤いうさぎは逃げも
せず、こちらを見ていた。
「こんにちわ」と千恵は声をかけてみた。
「こんにちわ」とうさぎも返事をした。
「げっ」と驚く千恵に、赤いうさぎは、ゆっくりと話しだし
た。
「驚かないで下さいね。私は人間の言葉が話せて、人間の心
が読めるうさぎです。あなた、今、隣の一恵さんに旅行で勝ち
たいと思っていますね。そして、一恵さんが本当に沖縄に行く
のか、沖縄に行くとみせかけて海外に行くんじゃないだろうか
と心配していますね。私が行けば、一恵さんがどこに旅行に行
くか分かりますよ」
「えっ、そんなことが分かるの。そうよね。あなた、心が読
めるのよね。じゃあ、お願いするわ」
千恵は一恵と立ち話をしていた。赤いうさぎは近くで、一恵
のこころを読んでいた。
「ねえ、奥さま、夏はどちらへ旅行に行かれますの?」
「うちは全然決めてませんの。小久保さん家はどちらに?」
「こちらも、ぜんぜん決めてませんの。奥さまの意見を参考
にしようかと思いまして……奥さま旅行上手でいらっしゃるか
ら。ほほほ」
家に帰り、赤いうさぎに聞いてみた。
「どうだった?」
「一恵さんは、もう、方向転換をしたみたいですよ」
「なに、方向転換?」
「ええ、今は必死に節約をしているみたいですよ。だから、
今回の旅行は、近場で2000円台の国民宿舎を見つけて、そ
こにしたそうです」
「ありがとう。騙されるところだったわ。よかった!」
「お役にたててよかったです」
それから、夏の旅行の計画を夫に話した。
「一恵さんの家は今度の旅行を近場で済ますそうよ」
「よかった。じゃあ、もう張り合うこともないんだね」
「そうは、いかないわよ。分からないの!今度は節約で勝負
を挑んできているのよ。1泊2000円台の国民宿舎をみつけ
たと言っていたから、1000円台の宿舎を見つけないと勝て
ないわね。なかなか、ハードルが高いわよ」
「……そんなにケチって、楽しめなかったらいっしょだろ」
窓の外で、赤いうさぎが、千恵を見ていた。
千恵は心の中でつぶやいた。ご褒美のにんじんを忘れていた
わね。でも、これから、節約しないといけないから、あなたに
にんじんをあげて無駄遣いするわけにはいかないのよ、と心の
中でつぶやいた。
赤いうさぎがそっぽを向いて玄関から出て行った。
次の日、いつものように、千恵は一恵と顔を合わした。
一恵は、気持ち悪いくらいの微笑みを千恵に投げかけた。
千恵は一恵の庭を見た。オレンジ色のものが見えた。そして、
それを食べている動物が……。
千恵は、一恵のところに赤いうさぎが行った以上、どんな計
画を立てても、相手に読まれてしまうため、負けを認めて、競
うことを諦めた。
それから、しばらく経って、夫が夏の旅行はどうなっている
のと聞いてきた。
「美ヶ原に行きたいの」
「今度は、高度で競っているの?」
「ちがうの。小さい時に連れて行ってもらったのを思い出し
て、もう一度行きたいと思ったの」
「ふーん。今度はなにを比べているの」
「今までゴメンね。何かを比べながら旅行をしたって、つま
らないよね。これからは楽しむことだけを考えて旅行に行くわ」
次の日、千恵は一恵と旅行の話をした。その後、一恵とうさ
ぎが話をしていた。うさぎから千恵の心の中で思っていること
を聞いた一恵の顔は、あきらかに敗北感を味わった顔だった。
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「ランキングが上がりますように」
みなさまm(._.)m おねがいします♪

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赤いうさぎ〜隣の奥さん〜
小久保家と大久保家は東京のはずれ、ぎりぎり東京都に住ん
でいる。都民になりたいということで、なんとか東京都に一軒
家を構えることができた。その2件は、敷地面積から、家の間
取りまでよく似ていた。おまけに奥さんの性格まで。どちらか
が何かを買うと、それに対抗して何かを買うというような両家
の戦争が起きていた。
小久保千恵VS大久保一恵
ある日、千恵は一恵の家の旅行先が沖縄であるという情報を
手にいれた。未確認ではあるが、かなり有力な情報である。夫
が帰るやいなや、旅行の話を切り出した。
「ねえ、一恵さん家の夏の旅行は沖縄らしいわよ」
「どうでもいいじゃないか、隣のことなんて」
「どうでもよくないわよ!」
「このあいだの旅行だって、伊豆の伊東に行ったら、隣の家
は、さらに南の伊豆の下田に行っていて、負けた、負けたと大
騒ぎをしていたけど……そういうのやめにしようよ」
「そうなのよ。前回負けたから、今回は負けるわけにはいか
ないわけよ。相手は沖縄なら、こっちは……」
「北海道?」
「北海道というよりは、やっぱり、沖縄より南の石垣島、宮
古島、久米島でないと勝てないわね」
「旅行に勝ち負けなんかないだろ。ケンカじゃないんだから」
「あなたが、ライバル会社に勝つために会社で戦っているよ
うに、私は他の家に負けないように戦っているのよ!」
「もういいよ!」
それから、しばらく経ったある日。
千恵は道を歩いていると、赤いうさぎに出会った。
そっと、赤いうさぎに近づいて行った。赤いうさぎは逃げも
せず、こちらを見ていた。
「こんにちわ」と千恵は声をかけてみた。
「こんにちわ」とうさぎも返事をした。
「げっ」と驚く千恵に、赤いうさぎは、ゆっくりと話しだし
た。
「驚かないで下さいね。私は人間の言葉が話せて、人間の心
が読めるうさぎです。あなた、今、隣の一恵さんに旅行で勝ち
たいと思っていますね。そして、一恵さんが本当に沖縄に行く
のか、沖縄に行くとみせかけて海外に行くんじゃないだろうか
と心配していますね。私が行けば、一恵さんがどこに旅行に行
くか分かりますよ」
「えっ、そんなことが分かるの。そうよね。あなた、心が読
めるのよね。じゃあ、お願いするわ」
千恵は一恵と立ち話をしていた。赤いうさぎは近くで、一恵
のこころを読んでいた。
「ねえ、奥さま、夏はどちらへ旅行に行かれますの?」
「うちは全然決めてませんの。小久保さん家はどちらに?」
「こちらも、ぜんぜん決めてませんの。奥さまの意見を参考
にしようかと思いまして……奥さま旅行上手でいらっしゃるか
ら。ほほほ」
家に帰り、赤いうさぎに聞いてみた。
「どうだった?」
「一恵さんは、もう、方向転換をしたみたいですよ」
「なに、方向転換?」
「ええ、今は必死に節約をしているみたいですよ。だから、
今回の旅行は、近場で2000円台の国民宿舎を見つけて、そ
こにしたそうです」
「ありがとう。騙されるところだったわ。よかった!」
「お役にたててよかったです」
それから、夏の旅行の計画を夫に話した。
「一恵さんの家は今度の旅行を近場で済ますそうよ」
「よかった。じゃあ、もう張り合うこともないんだね」
「そうは、いかないわよ。分からないの!今度は節約で勝負
を挑んできているのよ。1泊2000円台の国民宿舎をみつけ
たと言っていたから、1000円台の宿舎を見つけないと勝て
ないわね。なかなか、ハードルが高いわよ」
「……そんなにケチって、楽しめなかったらいっしょだろ」
窓の外で、赤いうさぎが、千恵を見ていた。
千恵は心の中でつぶやいた。ご褒美のにんじんを忘れていた
わね。でも、これから、節約しないといけないから、あなたに
にんじんをあげて無駄遣いするわけにはいかないのよ、と心の
中でつぶやいた。
赤いうさぎがそっぽを向いて玄関から出て行った。
次の日、いつものように、千恵は一恵と顔を合わした。
一恵は、気持ち悪いくらいの微笑みを千恵に投げかけた。
千恵は一恵の庭を見た。オレンジ色のものが見えた。そして、
それを食べている動物が……。
千恵は、一恵のところに赤いうさぎが行った以上、どんな計
画を立てても、相手に読まれてしまうため、負けを認めて、競
うことを諦めた。
それから、しばらく経って、夫が夏の旅行はどうなっている
のと聞いてきた。
「美ヶ原に行きたいの」
「今度は、高度で競っているの?」
「ちがうの。小さい時に連れて行ってもらったのを思い出し
て、もう一度行きたいと思ったの」
「ふーん。今度はなにを比べているの」
「今までゴメンね。何かを比べながら旅行をしたって、つま
らないよね。これからは楽しむことだけを考えて旅行に行くわ」
次の日、千恵は一恵と旅行の話をした。その後、一恵とうさ
ぎが話をしていた。うさぎから千恵の心の中で思っていること
を聞いた一恵の顔は、あきらかに敗北感を味わった顔だった。
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