妻を亡くしたアーサー・ヘイスティングスは娘が秘書を勤める科学者ジョン・フランクリンが滞在する忌まわしき記憶が残ると共に思い出深いスタイルズ荘を訪れる。
それは同じく滞在する親友にして相棒名探偵エルキュール・ポワロからの呼び出しがあったからだ。
再会したポワロはすっかり年老いて体は衰弱し車椅子だった。
妻の死後、疎遠になった親子を再会させたい。
ポワロはそう言ってかつての相棒を呼び出したのは、このスタイルズ荘で再び殺人事件が起きる。この体では情報収集は出来ない。私が考えるからヘイスティングスは耳目になって情報収集をしてくれと。
思い過ごしでは、犯人の当たりはついているのか、そう聞いてもポワロは誰が狙い狙われるかはわからない。それでも殺人が起きる確信はある。ヘイスティングスは顔に出るから可能性が高い人物も言えないと。
そう言われてはヘイスティングスもいつものことだと何も言えず滞在して報告する生活を続けることに。
現在の経営者のラトレル夫婦は奥さんが気が強く旦那に文句ばかり言っている。
滞在者のジョン・フランクリンは真面目な男だが、ヘイスティングスの娘ジュディスを秘書として扱き使い、どうも親密のようで、その妻バーバラは自由闊達で研究にしか興味がない夫に不満で、同じく宿泊客の幼馴染、貴族のキャリントンと親密なようだが、そのキャリントンはバーバラ付きの看護婦クレイブンに色目を使っている。
一方、女誑しのアラートンは態度が悪くヘイスティングスにポワロのしもべというように感じが悪い。そしてポワロにピアノを弾くエリザベス・コールは姉が素行の悪い父を殺したということで有名な事件の親族ということで暗い影のある女性。
そしておどおどして言葉も詰まり気味で余計な一言も多いが、話し上手なスティーブン・ノートン。
スタイルズ荘の住民たちはどこか怪しく、ギスギスして事件を予感させる。
だが、ヘイスティングスの興味は娘のジュディス。
妻子あるフランクリンと親密そうかと思えば女誑しのアラートンとも親密そうで、アラートンは女を手に入れれば手酷く捨てたことがあろうそうで、ヘイスティングスは絶対やめろと母の代わりに守ろうと説教するが聞かず。
こうなれば殺すしかないとアラートンの薬瓶に睡眠薬を入れる。
ポワロは読みきっており、ヘイスティングスのほうを眠らせて冷静にして、クズのために縛り首になる気かと説教して阻止。
むしろこの事件がポワロに何事かを決意させる。
しかし直後にバーバラが毒物による毒殺が行われる。
毒物はフランクリンが持っており疑われるかと思えばポワロが鬱病のバーバラが毒入りの小瓶を持っていたと証言したことで自殺扱いに。
だが、当然、スタイルズ荘の住民は他殺だと思っておりフランクリンを疑う。
ますます病状が酷くなったポワロは、ヘイスティングスからノートンがジュディスとアラートンの密会を見たのに教えてくれないと怒るから死ぬ前に話すから呼んでくれと。
その夜、ノートンが額を撃ち抜いて自殺したのが鍵の閉まった自室で発見される。
密室なので自殺ではあるが、自殺するのに眉間を撃ち抜くなんてありえないと噂しあう。
そうこうしているとポワロにも最後の時が。
十字架を手にお許しをと怯えて祈るポワロに、ヘイスティングスは最高の男だと絶賛するが、ポワロは純情で騙されやすいあなたを残していくのが心配だと言って心臓麻痺で死んでいく。
ヘイスティングスは手掛かりは手帳に残したというポワロの言葉に応じて荷物を調べ、従僕のジョージのところに行けとだけ。
そのジョージはポワロから暇を出されていたが、ポワロが言うように親の介護ではなく、ただ遠ざけたかっただけだと。
まったくわけがわからないヘイスティングスはスタイルズ荘での2件の自殺を他殺だと言ったポワロの言葉を信じて推理を巡らせるが堂々巡り。
そうしているとジュディスがフランクリンと結婚すると言い出して、妻が死んだばかりの男と結婚は早いだろうと激怒しつつ、アラートンよりはマシかと思うが、そもそもアラートンとはなんでもなく向こうが言い寄って来ただけで、釈明させてくれなかったと。
無関係の男を殺そうとしたのかと愕然とするヘイスティングスの元にポワロの死から4ヵ月後、ポワロから手紙が届く。
きっと堂々巡りだろうから真相を記すと。
まずバーバラの殺人の犯人は君だと。
仰天するヘイスティングスは読み進めると、バーバラは平凡な夫よりも金持ちの貴族であるキャリントンと結婚しようと考えていたが、キャリントンが看護婦のクレイブンと良い仲になりそうなので焦って、夫を毒殺しようと飲み物に毒物を入れた。それをヘイスティングスが回転式の机本棚を回転させて、飲み物の場所が入れ替わってバーバラは自殺してしまった。
ポワロは後で事情を知ったが、これが毒殺だと明らかになると愛人関係にあったフランクリンとジュディスの関係も明らかになり破綻しかねないと。
そのジュディスも付き合っていたのはフランクリンでヘイスティングスが殺意を抱いたようにアラートンではなかった。本当の相手はクレイブンだった。
ではなぜヘイスティングスは誤解したのか。それはノートンが吹き込んだからだ。
そうポワロが犯人だと当たりをつけていたのはこのノートン。奴は心理的殺人教唆と呼べる心理テクニックを使用して自分は手を下さず法でも裁かれない、実行犯に殺人を起こすように誘導して見せた。
そう思い返すとラトレル夫人の態度が悪いことをノートンは御主人に聞こえるように罵り悪意を増大させ銃の誤射として苛立ちから事件を起こさせた。
ジュディスもノートンが見たと言うから気になってアラートンへの殺意が沸いた。
バーバラもまた食事会でいらない命を消すのは必要なことだという言葉をあなたにガッツがあればとバーバラを挑発して誘導した。
だが、ヘイスティングスの手により偶然自殺に摩り替わった。
このことに不満を抱いたノートンはさらに別の人物を殺しに掛かる。ヘイスティングスに撒いたアラートンへの殺意を煽ったのだ。
ポワロはヘイスティングスでさえ操られたとノートンを処刑するために決闘する。
全てを突きつけ、監視するというポワロ。
しかしノートンは僕が勝っても負けても勝ちだと。
勝てば生き残り、負けて殺されてもあんたの積み上げて来た栄光を崩せる。神に許しを請うために地獄まっしぐらだ。法では裁けない。
だからポワロに自分は殺せない。勝ち目はない。
そう嘯くが、ポワロにココアを勧められ、あんたのカップから飲むと飲んだノートンは睡眠薬で眠りに落ちる。
なんのことはない、ココア自体に睡眠薬が混ぜられており耐性のついたポワロには効き目が薄かった。
そのため眠ったノートンを車椅子に乗せて部屋まで運び、眉間を撃ち抜いて殺したのだ。
密室も合鍵を作っていたという単純なもの。
どうやって運んだのかも、実は車椅子での生活をしていたが、死にそうな病気ではあったが歩けたのだ。
眉間を撃つのは怪しいが美学なので。
それが全て終わり、この手紙を書いている。
事の真相を書き残しておくのは、最後の願いとしてエリザベス・コールに姉が父を殺したのは誘導されたからであり、真犯人はノートンだったことを伝えて欲しいと。
そして最後に恣意的な殺人に及んだ苦悩が書き記されていた。
自分の行為を正当化出来るのかわからない。法を捻じ曲げることは出来ない。それでもノートンを殺すことでこれから殺される命を救われるのではないか。
しかし弁護はしない。だから全て書き記しておく。
最後の審判の日に神の慈悲を請い裁かれるのを待つだけだと。
アーサー・ヘイスティングス。最後に最愛なる友よ。共に過ごした日々は最高の日々でした。
エルキュール・ポワロ。



あいつ、笑って死にやがった。ポワロさんが死ぬ時まで最愛の親友ですら傍にいない、孤独に、罪に怯え、病気で、苦しみ抜いて死んだのに。
あいつは、笑って完全勝利して死にやがった。
あの殺される瞬間の笑みが、それを証明する。
ヘイスティングスがポワロの遺書を公表すれば、ヘイスが最高の男だと賞賛するポワロの積み上げて来た名声が地に落ちる。人生最後の汚点が全てを覆い隠す。
そうじゃなくてもポワロさん個人をああまで苦しめた。
英雄を勝てっこない戦いに挑ませた悪魔。挑むだけで犠牲が伴う。とんでもない奴だったよ。

それでもヘイスティングスだけはポワロさんの全てを知っている。彼だけがポワロさんの相棒だったから。

うわあ、ついに終了。
エルキュール・ポワロの人生が終了。
もうなんというか、とんでもない満足感と寂しさに感無量。
決して付き合いは長くない作品で、ドラマ版も見てたといえば見てたけど、ちゃんと見るのは記事書くようになったこの数年で、それまではゴミなアニメのほうが印象強かったぐらい。
それでも数年は付き合ってきた作品が、こうしてグランドエンドを迎える。キッチリと区切って終わる。
この素晴らしさには世界レベルで絶賛しても良いんじゃないかと。
ホームズがジェレミー・ブレット版が原作の全てを映像化できなかったから、デヴィッド・スーシェ版ポワロが完全に映像化出来たこと自体が奇跡の産物だと思える。
というか25年だよ。よく生きてたよ。熊倉一雄。
これまでは老い過ぎて呂律が怪しいと批判したりもしたけど、ここ、この死ぬに至る状況であれをやられたら、認めるしかないよ。人生としてポワロを完遂しており、爺さんになったからこそ爺さんの声が合うからさ。
ヘイスティングスが本当に初老のおっちゃん化することで時間の流れが実感出来るのも恐ろしいほどの素晴らしさだったけど、ポワロは本当に死ぬ寸前の演技だから迫力あったな。

内容それ自体よりもシリーズを完遂出来たことのほうが凄過ぎるせいで、カーテン自体の評価はそこそこなのよね。
だって時間制限があるから、ラトレル夫婦が突然発砲して、あのあと、どうなったかわからないのよ。
バーバラも突然苦しんで死ぬし突然検死審問になるから、唐突だなって感じで。
もうちょっとなんか丁寧に出来なかったかって思うんだけど。
そのせいで、うーんって感じでさ。
ノートンのそれとなく悪口の代弁や挑発、誘導とかも露骨過ぎて、そんなんで殺し合いしていたら世話ないよって思っちゃうからさ。
原作だともうちょっと巧妙だった気がするけど。

一方でポワロさんとの対決は惚れ惚れだったな。
あれ、この事件にもこの事件にもノートンがいるぞって怪しいと思って、何件もの殺人事件の関係者なんて怪しいに決まってるのよ。ではどうやって殺人を犯すのか。それをポワロさんは意識しているから誘導しているとわかるのだけど、証拠はない。だから法を無視して殺すのだが。
ポワロさんがジョージを辞めさせて新しい従僕を雇ってることや車椅子なのも、ほぼこの殺人トリックのためでした。実際に体が弱ってるのもあるが、車椅子の老いて病んだ老人に何が出来るという油断を生むため、殺すために睡眠薬に耐性つけて運ぶために車椅子用意して、合鍵も一緒に泊まってるのでその間に準備して。
もう完全に計画殺人でした。
優秀な探偵は優秀な犯罪者を地で行く展開に笑うやら呆れるやら。本当に卒がなさ過ぎて、合鍵作ったら密室殺人なんかちょろいという適当さなんか推理モノじゃないからね。

その殺すノートンは徹底首尾、ポワロさんに優位だった。
言ってることは全部ノートンの言うとおりだから。誘導しただけで犯罪ではない。やったのは実行犯。
見抜いたポワロにも、それで殺したら、あの外国人狂ったなって思われるだけ、名声に泥を濡れて光栄だってなものだ。
だから勝ってこないと余裕なのだ。
母親がお前の悪魔性に苦しんだろうと挑発して泣かせるけど、で、それでどうするって、泣いていたのがピタリと止まりケロとした、全然効かないってと。
そして最後の最後。ピストル構えたポワロが頭部に向けて発射する直前に目が冷めて、あいつは笑う。
これだけで本当に悪魔だった。小者ではない怪物性を表現出来ていた。

というか相変わらず渡辺穣が素晴らしい怪演をしてくれて、惚れ惚れ。あの演技だけで、もうラスボスだよね。
ERのモリスの頃から癖の強い演技だなって思っていたけど、滑舌良過ぎて、実にキャラが生き生きしてるからさ。つっかえ気味な喋りから、完全に見下した喋りまで、存在感あったな。

もちろんポワロさんとヘイスティングスのボケツッコミには辛辣でも笑うしかない良さがあったけどね。
頭、空ですか?って死にそうなポワロさんに言われるぐらいのド天然だからさ、ヘイス。
飲みものを、いいです、私のだよ!(怒)
をやられちゃうんだよ。
だけど、純情で騙されやすい男と評されるヘイスをポワロは心配し続ける。
遺書にさえ、最愛なる友、最高の日々だったと。あの黄金期を、幾多の事件を共に挑み解決し続けた日々を、視聴者である我々は知っているのだ。
本当にポワロがヘイスティングスを親友だと思い、馬鹿なほど純真な好漢であるヘイスティングスを愛していたのを知っている。
あれだけボロクソに貶されたヘイスティングスが、ポワロを父のような教師のような尊敬すべき恩人だと娘に語る。
罪と孤独に苦しむ死に際のポワロさんに、あなたは最高の男ですよって励ますのだ。あの時のポワロさんの一瞬の笑みを忘れない。
それが本当にそう思ってるから。

やっぱりヘイスティングスがいるだけで、この後期ポワロシリーズは明るさが違うな。だってヘラクレスの難業とか無茶苦茶暗い話なのよ。今回もかなり暗い話なのよ。ポワロさんが孤独に震えて死ぬとか25年主役張った人とは思えない死に様なのに、ヘイスがいるだけで、明るいのよね。

ポワロさんも遺書を4ヶ月後に到着するようにしたのも娘が不倫相手と結婚するのを真相知ったら止めるだろうからね。常識人だから当然ね。ポワロさんもこの辺、気を利かせてるな。


幾多の事件を解決し続けてきた名探偵の冒険。それは法の守護者としての冒険。
だが、その最後は探偵自らが法を破った後悔と相棒への感謝と共に終える。
名探偵エルキュール・ポワロと相棒アーサー・ヘイスティングス大尉。
二人の物語は、ヘイスティングスがポワロを見届ける物語。
相棒が英雄を見届ける。相棒が探偵を見届けてきたように、最後を看取るのだ。

最後のテロップに名探偵ポワロは今回で終了。25年ありがとうございました。
これが何よりも感動的だったな。

この物語を作ってくれた全てのことに、ただただ、百万の感謝を。