2018年11月21日

第4話 ふたりの翠玉(エメラルド) (4-8)帯留め製作

宝生ヒカルと佐々木真一のふたりは、ジェムクラフトのミーティングルームで黙りこんでいる。テーブルには、エメラルドの帯留めのデザイン画とCAD、ワックス原型、四角のベースとなる黒漆器につがいのトンボを蒔絵で施したもの、カボションエメラルド、そして、マーキースカットのルビーと同じくマーキースカットのガーネットが置かれている。

トントン、ミーティングルームのドアがなった。

「ごめん、ちょっと遅れちゃたね。」
北条理恵がそう言って部屋に入ってきた。 

ヒカルは、帯留めのアクセントとして使用するために、材料モノのマーキースカットのルビーとガーネットを用意したのだが、ヒカルと真一は、どちらにするか決めかねていた。そこで、未生流の師範で美的センスがある理恵に相談することにし、理恵に連絡をとって意見を聞くことにした。

「遅れたお詫びに、豊中駅近くのチーズケーキ専門店でケーキ買ってきたから、まず、コーヒータイムにしようか。ヒカルちゃん、コーヒーみっつ淹れてくれる?私は、ブラックでいいわ。」

考えや意見がまとまらないときは、コーヒーでも飲んでリラックスしたほうがいい。 

ベースになる黒漆器につがいのトンボを蒔絵で描いたものは、理恵が用意した。外枠は、真一がCADで作り、中央のS字カーブにナツメの葉とつぼみを描いたデザインは、ジェムクラフトの社長である浅見透がワックスで作った。カボションエメラルドは、ヒカルと真一が東京で買い付けたものである。長さ6ミリのマーキースカットのルビーとガーネットは、ヒカルが色石の材料モノ専門業者からロット委託で借りてきている。

ルビーかガーネットどちらかに早く決めて、必要な6ピースを仕入れて、残りを業者に 返さなけれならないのだが、ヒカルと真一の意見が一致することがなく、時間だけが過ぎていった。そこで、ふたりは、理恵に相談することにした。

つづく。 

2018年05月11日

第4話 ふたりの翠玉(エメラルド)(4-7)エメラルドのキセキ

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豊中市曽根南町にある「南国 cafe&bar CHATASO」
撮影は、筆者 辻 直之

仁は、「エメラルドおもしろ講座」のシナリオのメインテーマを「エメラルドのキセキ」とし、エメラルド原石が地球の奥深くで生成し、それが、どのような環境の鉱山で採掘され、さらにエメラルドの原石が職人の手によって緻密に研磨され、緑の輝ける宝石となる過程の「軌跡」。そして、地球の奥深くで鉱物として偶然とも言える化学反応、信じがたい地中の圧力による「奇跡」によって、いわゆるエメラルドグリーンの宝石が生成される偶然にスポットを当てることにした。

エメラルドの鉱山は、どういう場所で、エメラルド原石が現地でどのように採掘されているのか、それをどうプレゼンするか、それが今回の講座のキモである。仁は、たまたまGIA の親睦団体の集まりで知り合った、佐野 忍氏の書籍「エルドラドの緑の火 コロンビア エメラルドの旅」のことを知り、いち早くアマゾンで手に入れていた。この書籍は、残念ながらすでに絶版になっているからである。しかも、今となっては、アマゾンでも手に入らなくなっている、貴重な本。

著者 佐野忍氏の紹介を簡単にしておく。

書籍の著者紹介から、以下抜粋。
1942年 名古屋市に生まれる。
1965年 青山学院大学経済学部卒業。
1972年 アメリカ宝石学会(G.I.A)卒業
1973年 株式会社エスメラルダを創立 代表取締役社長

仁は、親睦会で佐野氏と知り合ってから、今もSNSで情報交換をしているのだが、それによると、佐野氏は、2017年4月に会社を締めて、今は悠々自適の暮らしをされてる様子である。

書籍の内容は、こちらから。

「エルドラドの緑の火 コロンビア エメラルドの旅」の帯付より。
「夢多き宝石商の手記。徒手空拳この未知の国に渡り、緑の石を商って成功を収めた著者が、感謝と愛情を込めて綴るコロンビアの美しい風土と人々。エメラルド取引の知られざる内実を伝えて南米を知るに必読の一冊」

「エメラルドおもしろ講座〜エメラルドのキセキ〜」の企画書を仁はまとめ、ジェムクラフトのオーナー社長浅見透に連絡をとり、最近オープンした「南国 cafe&bar CHATASO」で会食しながら、企画の概要、講座の進め方について説明することにした。

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ゴーヤチャンプルとマスターのおまかせサラダ定食

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CHATASO 特製「激旨スペアリブ」
上記の2点 商品撮影 筆者 辻 直之

仁は、今日はいつものノンアルビールをやめて、ゴーヤチャンプル定食にした。透は、仁イチ推し料理「激旨スペアリブ」にオリオンビールにした。仁の妻麗子が近くのスーパーでパートを始めてから、シフトの関係で妻の帰宅が遅くなり、仁は晩御飯を自分で作るか外食に頼ることになった。娘のヒカルもエメラルドの帯留めのオーダーやらお客様からのリフォーム対応で夜遅くまでお店にいることが多くなっている。

そういうことで、1週間に2、3度、仁は、一人で晩御飯を食べる羽目になった。ちょうどそんな時に、運良く近くに本格的な沖縄料理を中心としたお店が開店したのであった。仁は、これ幸いとお店に通うようになり、お店の常連さんとなって、次第に沖縄出身のマスターと親しく話すようになった。

「透、スペアリブ、シェアしようぜ、ハイどうぞ」
仁は、骨の付いたスペアリブを1本透の取り分け皿に置いた。

「透、見てろよ、ここのスペアリブは、箸で肉が離れるんや」
透は、自分の取り分け皿にも1本スペアリブを置き、箸でスルリと肉を剥がした。

「え〜、そんなアホな!スペアリブが箸で肉が剥がれるなんか、見たことないわ」
「そうやろ、びっくりやろ」
仁は、お店の店員でもなんでもないのに、えらく御満悦な顔でそう言った。

「びっくり、と言えば、お前が企画したあのブライダル企画が大ヒットしている。それでヒカルちゃんや佐々木がその対応で連日残業になってる」
透は、お店が繁盛してうれしい反面、仁の娘が残業続きになっていることに申し訳ない気持ちにもなっていて複雑な表情だ。

「ええんちゃう、そういう時期もある。お店が忙しく、儲けられるときにガッツリやっとけばええねん。暇なときもあるからな。この商売」

「ポイントは、広告のコピーと媒体の選択やったね。キラーキャッチコピーは、人の心を動かすことができる、というのはほんまやね」
透は、そういいながら、甘辛いスペアリブの肉をうまそうにほうばった。

仁は、手提げ袋から一冊のブックレットを取り出しテーブルの上に置いた。
「ジュニア学習ブックレット 鉱物と宝石 でき方や性質をさぐろう!」
松原 聡監修、株式会社PHP研究所 発行。小学生から読めるように 漢字には全てルビがふってある。

「透、ザックリこの本読んでみ。面白い本やで」
そう言いながら仁は、ゴーヤチャンプルをバクバク食べ始めた。仁は、学生時代からついた早食いのクセが還暦を過ぎた今もなおらないようだ。ゴーヤチャンプルを咀嚼するというより、飲み込むようなスピードであっという間に平らげた。そして、さんぴん茶で口に残ったゴーヤチャンプルとごはんを流しこんでいる。

ブックレットの表紙には、
「鉱物、宝石、岩石・・・何がちがうの?
化石も鉱物になるってホント?
4300種におよぶともいわれる鉱物について
基本的な知識やふしぎな性質、さまざまな利用法を紹介!」
と書いてある。

表紙を開くとすぐに、
Q1 鉱物はなぜ決まった形になるの?→ 答えは10ページ
Q2 宝石はどうしてきれいにかがやくの?→ 答えは、18ページ
Q3 ダイヤモンドはどんなところでできるの?→ 答えは、22ページ
Q4 化石も鉱物になるってほんとう?→ 答えは、30ページ
Q5 えんぴつのしんは何からつくられるの?→ 答えは、44ページ

というQ&Aが目をひく。

透は、そのQ&Aにそって読み始めている。

「仁、うまくできてるな、この本。写真やイラストがふんだんに取り入れってあって、我々業界人でも興味深く読める」

「そうやろ」

「エメラルドおもしろ講座 、エメラルドのキセキ」のふたつのテーマは、佐野忍著、『エルドラドの緑の火』とこのブックレット、『鉱物と宝石』の2冊でほぼ語ることができる」

仁は、すでに、エメラルド講座のことから、スペシャルオーダーのエメラルドの帯留めをどう完成させるかに頭を切り替えている。









 

2018年04月19日

第4話 ふたりの翠玉(エメラルド)(4-6) エメラルドの調達

「もしもし、まいど。」
仁が親しい友人、仲間たちに電話するとき、必ずこのフレーズで始める。
今じゃ、携帯、スマホの電話番号を登録しているのが当たり前になっているので、着信音がなり、画面を確認することで、 電話の相手がすぐわかってしまう。

「まいど!仁さん、いつもFacebook 拝見しています。相変わらず、お元気そうですね。」 
川上守も仁に合わせて、「まいど」で最初の会話を受けている。 

「大阪に戻ってから、奥さんやヒカルちゃんはお元気ですか? 仁さんは、念願だった地元大阪に戻って、のびのびされているんでしょうが、東京生まれ、東京育ちの麗子さんやヒカルちゃんは、大変じゃないですか。」
言葉や文化、習慣が違う関東と関西。特にエセ関西弁が大嫌いな大阪では、関東人は言葉じりや発音の違いでいじめられることが多い。

「いや、女性は男性と違って順応性に長けているらしく、うまくやっているよ。それに普段から私の関西弁で免疫ができているし、関西弁の上達がすこぶる早かったようだ。」

「なるほど、そうなんですか。それは、良かったですね。」

「そうそう、最近、妻の麗子が地元のスーパーにパートにいくようになってね。同僚の同年輩のおばさんたちとたまに居酒屋にいって、女子会やってるよ。」
仁は多少苦笑しながら、そう言った。

「そっちは、どうなん?」

「会長は、のんびり隠居生活を楽しんでます。私は、社長になってまだ2年目なんで、ただのひよっこですよ。専務時代のようにはいきませんね。今じゃ全ての決済は私の責任でやってます。プレッシャーがハンパないです。」守は相手が仁なので思わず本音がでた。
 
「零細企業や個人店の社長業って、その大変さはやったもんしかわからん からな。自分でよかったら、いつでも相談にのるで。」

「ありがとうございます。それで、今日は、 どうしたんですか」

「そうそう。実は、客注でエメラルドの帯留め作ることになって、それに使うカボションエメのペアー調達せなあかんねんけど、川上さんとこのエメわけてもらわれへんかなぁと思って。」

「あ〜、そうなんですか。どれくらいの大きさを希望してます? 在庫にあれば、特別に売ってもいいですよ。一応、会長の了解がいりますが。」
川上商店は、基本、色石のルースの仲間売りはやっていないのだ。いろんなところで同じようなテイストのジュエリーが作られることになると、川上の独自性がなくなるからだ。

「そうか、悪いね。それじゃ、帯留めのレンダリングとデザイン画、pdfでメール送信しとくから、検討してみて。それと、会長と奥さんによろしゅう言うといてな。ほな、頼むで。」
仁は、少し安堵して電話を切った。

「パパー、どうだったの。エメのカボション、川上さん、売ってくれそうなの。」
キッチンにいた娘のヒカルが仁の仕事部屋に入ってきた。どうやら、キッチンとつながっている仁の書斎兼仕事部屋から電話の声が漏れ聞こえていたようだ。

「多分、電話の感触から十中八九、大丈夫だと思う。あとは、川上会長の承諾まちだけや。」
「そうなんだ。川上さんからエメラルドわけてもらえると、ほんと助かるね。」

仁は、もう違う仕事に取り掛かっていた。仁は、娘のヒカルにエメラルドについて教えるために、まず自分自身のエメラルドに関する知識をブラッシュアップさせないといけないと思い、エメラルドの専門書を数冊揃えていた。そこで思いついたのが、「スライドムービーによるおもしろエメラルド講座」をジェムクラフトのお客様に向けてやってみたらどうか、という企画。副題は、「エメラルドのキセキ」。

キセキは、軌跡、奇跡両方に引っ掛けているので、敢えてカタカナにしてある。エメラルドがどういう鉱山や鉱床から採掘され、宝石になっていくのかその過程、それが「エメラルドの軌跡」。また、人々を魅了する、エメラルドがいわゆるエメラルドグリーンになる偶然の「奇跡」だ。

いわゆるテレビでやっているような「◯◯◯のニュース解説」のような堅苦しいものではなく、少し漫談風にアレンジしてところどころで笑いを取れる内容にしたい。

仁は、企画書と講座のシナリオを同時に今真剣に進めている。

ほぼ1ヶ月前に行ったジェムクラフトの定例スタッフミーティングで、この企画は既に承認済みだ。社内的に作成した企画書は、ワンシート、一枚にまとめられている。企画の目的、時代背景、その企画の全容を示す関連相関図、利益構造、スケジュール等が簡略に書かれている。ただ、企画の実施にあたっては、細かいことを決めていかなければならない。この企画の立案、プロデュース、そしてまた講演までも仁ひとりでこなさなければならない。いわゆる自作自演による講座になる。

仁が部屋にこもって詳細な企画書と講演のシナリオを作っている今現在は、4月20日。講演は、5月26日に決定していて、ジェムクラフトのお客様には、告知済みだ。5月の代表的な誕生石は、エメラルドである。どうせやるなら5月中にその企画をぶつけたい。そういう思いから、スケジュールを組んでいる。

昨年の4月、4月の誕生石であるダイヤモンドについて初めての試みとして「おもしろダイヤモンド講座」を実施した。お客様は、その講座に興味を持って聞きに来てくれるだろうか。心配しつつ告知の往復ハガキを送ってみると、参加希望に◯を付けてくれた返信ハガキが数多くきた。しかも夫婦同伴での参加希望が全体の半分くらいだ。仁やジェムクラフトのオーナー浅見透の学生時代の友人達にそれぞれ個別に事前に講座の案内を電話でしていたのが功を奏した。ただ案内ハガキを送っただけでは、人は集まらない。しかも、初めての試み。個人の貴重な時間を割いてまで聞きに行くような講座なのか、例え学生時代からの友達からの誘いであっても、参加に対しては逡巡するものだ。企画の立案者である仁自身がそうであるように。

さて、その第1回目となるダイヤモンドおもしろ講座の前半は、宝石のプロがそっと教えるダイヤモンドの賢い買い方。後半は、デビアスの歴史やダイヤモンドの流通と合成ダイヤモンドの生成法と現時点での問題点だった。

今回の講座、「エメラルドのキセキ」では、まず、エメラルド鉱山の現場を様子を見てもらうようにしたい。仁自身、コロンビアにエメラルド鉱山に訪れたことはない。2005年2月に東京渋谷の映画館で映画「エメラルド・カウボーイ」を娘のヒカルとともに観ている。主人公の早田英志氏が単身コロンビアに渡り、ムソー鉱山の一介のエスメラルデーロ(エメラルド原石取引業者)から身を立て、コロンビアのエメラルド王と呼ばれるようになる物語。早田氏本人が主演している一種のドキュメンタリー映画に仕上がっている。
 
コロンビアは、身代金目的の誘拐が多発する地域で、エメラルド鉱山は、一種無法地帯だったようだ。

日本のエメラルドバイヤーの第一人者佐野忍著「エルドラドの緑の火 コロンビア エメラルドの旅」には、ムソー鉱山の全貌とそこに群がるグワケーロ(宝石採掘者)たちの写真が掲載されている。 残念ながら、この本はすでに絶版になっている。ジェムクラフトで開く少人数のセミナーであれば、この本の鉱山の写真等を回し読みしてもらうことで少しはコロンビアのエメラルド鉱山の様子が伝わるのではないだろうか。

そういうふうなことを仁は考えていた。

タッタカタッタター、タッタカタッタター。仁のスマホが鳴っている。

おっ、守からだ。

「もしもし、まいど。例の件、どうやった」
「あっ、仁さん、会長のオーケー、出ましたよ。 仁さんからの頼みだし、オーダー品に使うだけだから、問題ない、と言ってました」

「そうか〜、よかったわ、ありがとう」
仁は、川上商店からのエメラルドの調達は、十中八九、いけると思っていたが、守からの電話で確証ができ、一安心だ。 

ギャラリー
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