2024年02月12日

第5話(5-2-2)宝生家の宝食なる日々〜ルビーは情熱の証し〜亜紀の絶対色感が覚醒

ジェムクラフトのオーナー浅見透は、東京御徒町の色石材料もの輸入卸業者から、ルビーのエタニティーリングに使えそうな直径2ミリのラウンドルビーのロットを調達した。あらかじめ照りのいいバンコクカットのルビーのロットにアソート済みだ。

 中川亜紀は、「絶対色感」を持っているという評判だ。浅見のポン友、宝生仁からそう聞かされていた。色石の材料ものの石合わせの能力は、宝生仁曰くピカイチらしい。なにせ東京では「絶対色感を持つシンデレラ」と言われているらしい。

 「絶対音感」は、聞いたことはあるが、「絶対色感」って本当にあるのだろうか。

とにかく、お手なみ拝見といこう。ジェムクラフトのスタッフは、興味深々だ。

亜紀は、使い慣れたソーティングパット、宝石用スコップ、ルーペ、ピンセット 、無蛍光色紙を東京からもってきている。

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無蛍光色紙 撮影は筆者辻直之

ダイヤモンドの色味をみたり、色石のアソート用デイライイトは、 ジェムクラフトにある。
亜紀は、手慣れた手つきで、ユニパックから100ピースほどのメレサイズのルビーをソーティングパットに開け全体の色味をチェック。そして、ざっくりと宝石用スコップでルビーを取り、折り畳んだ無蛍光色紙の上にのっけた。それをデイライトに近づけ、そのロットの中にあった少し暗い色のルビーをピンセットではじいて、ソーティングパットに置いた。ざっと見れば、ルビーの色調の違いがわかるらしい。

残ったルビーをパットに戻し、今度は、ピンセットで1ピースずつルビーをつまみ、ルビーの面傷、色調、照り、カットの正確度を10倍の宝石用ルーペで瞬時に 判断し、ソーティングパットに鉛筆でA、B、Cと書いたところに、その検品済みのルビーを1ピースずつ自分の眼で判断したグループに分けてゆく。その一連の作業を流れるようなリズムで、しかも驚くようなスピードでこなしている。

宝石の仕入れ担当の宝生ヒカルは、その作業を目を皿のようにして見ている。ダイヤモンドメレのアソートには、ヒカルは手慣れているが、亜紀のように色石のアソートをこれほど早くこなせることはできないでいる。

「ハイ、終わりました」亜紀の手はもう止まっていた。

「Aロットがダイモンドとルビー混合エタニティーに最適で、Bロットは、第二候補、Cの数ピースはリジェクション対象です」

さすが、「絶対色感を持つシンデレラ」と言われる由縁を見た気がする。
そう、スタッフ全員が感じた。



jinsei0031 at 19:27|Permalink

2024年02月11日

第5話(5-2-1)ルビーは情熱の証し〜亜紀とルビーのエタニティーリング

中川亜紀は、輝輪堂の二代目明子が「可愛い子には旅をさせろ」と言われるように、自分の手元に置いて宝石について、店の経営ノウハウを教え込むよりも、他の会社で何年か修行させたほうがいいだろう、と思い、そのことを宝生仁に相談。浅見透のジェムクラフトで働くようになったのである。

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2024年2月辻直之撮影



「亜紀ちゃん、そろそろホノホノさんに予約しておいたチーズケーキ受け取りに行くで」
真一は、亜紀を連れて「パン工場 honohono」に向かった。
土曜日限定のチーズケーキを受け取ったふたりは、南桜塚にあるジュエリー工房「ジェムクラフト」に急いでいた。
ジェムクラフトのミーティングルームには、オーナーの浅見透、仕入れ担当の宝生ヒカル、デザイナー兼接客担当の北条理恵 がすでにいて、ふたりの到着を待っていた。
 時間に遅れ、ドタバタでミーティングルームに入ったふたり。真一は、息が上がっていたが、亜紀はそうでもない様子だ。人数分のチーズケーキを冷蔵庫の上に置いて、二人は所定の椅子に座った。
佐々木真一の古くからの友人、西尾修とその婚約者のエンゲージリングは、接客担当の北条理恵がフィアンセに提案した、ルビーのエタニティー リングに決まっていた。

エタニティーリング
社団法人日本ジュエリー協会 「ジュエリー用語事典」より
結婚記念日や妻が母となった記念に、永遠の愛の誓いとして夫が送る指輪。一般的に同サイズのカット石を全周にセットしたデザインをいう。

エンゲージリングの定番は、ダイヤモンド一個石を6本爪で留めた、いわゆるティファニータイプのリング。ダイヤモンドを大きく見せるために、爪を少し大きなマーキース型にすることが日本のジュエリー業界で流行ったことがあった。エンゲージリングの価格を抑えるために、0.3ctから0.5ctの大きさのダイモンドをエンゲージリングにセットするのだが、1ctクラスのダイヤモンドと比較すると、見栄えに劣ることから、日本独自の工夫で爪を大きくしたのだ。
 
続く。 続きを読む

第5話(5-1)ルビーは情熱の証し 色石に愛されたシンデレラ現る

佐々木真一は、1時間のドラム練習を終えて、持ってきたタンブラーのコーヒーをグイッと一口飲んだ。
今日もイマイチ上手くたたけなかった。
バンド演奏課題曲のひとつ、荻野目洋子「六本木純情派」 の基本リズムパターンは、シンコペーション。

シンコペーションとは、アクセントの位置を表や裏などさまざまな場所に入れ、組み立てられたフレーズのこと。略して、シンコペ。音楽をやっていなければ、説明されても、理解不能。

陰気な気分を晴らすべく、とりあえず、早々にスタジオをあとにして、阪急曽根駅近くの「マホット コーヒー」に向かった。

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2024年2月 辻直之 撮影

コーヒースタンド席のドアを開け、マスターにおすすめブレンドを注文。
「浮かない顔ですね、真一さん、どうされました」
「いやぁ、例のシンコペーションのフレーズが今日も一定しないでね」
真一は、愚痴をマスターに聞いたもらいたかったのだ。

「そうなんや。まぁ、熱いコーヒーでも飲んで、気分を落ち着かせましょう」
マホットのマスターいつも静かでにこやかだ。

「もうすぐ、亜紀さんが来られますよ」
中川亜紀は、佐々木真一と同じバンドのキーボード担当だ。
ジェムクラフトのオーナー浅見透が、ベース担当、宝生仁の一人娘ヒカルがボーカル。
バンドマスターは、浅見でバンド名が「バランスボール」。
キャッチコピーが「なかなかノレないバランスボール」。
バンマスの浅見が「ハーイ、こんばんは!なかなかノレないバランスボールで〜す」とガナリをいれる大阪スタイルのバンド。

楽しくなければ、バンドなんか続かない。
ジュエリーの職人を地道に長年続けてきた浅見の意見には、説得力がある。

キーボード担当の中川亜紀の出身地は、東京。東京中目黒の老舗宝石店「輝輪堂」二代目の2人兄妹の次女である。じつは、輝輪堂(きりんどう)の二代目は、ひとり娘の中川明子で、養子縁組で中川家にきたのが専務の利夫で主に輝輪堂の会計実務を担当している。
 

ギャラリー
  • 第5話(5-2-2)宝生家の宝食なる日々〜ルビーは情熱の証し〜亜紀の絶対色感が覚醒
  • 第5話(5-2-1)ルビーは情熱の証し〜亜紀とルビーのエタニティーリング
  • 第5話(5-1)ルビーは情熱の証し 色石に愛されたシンデレラ現る
  • 第5話 ルビーは情熱の証し〜プロローグ〜
  • 第4話 ふたりの翠玉(エメラルド) (4-9)ふたりはひとつ
  • 第4話 ふたりの翠玉(エメラルド)(4-7)エメラルドのキセキ
  • 第4話 ふたりの翠玉(エメラルド)(4-7)エメラルドのキセキ
  • 第4話 ふたりの翠玉(エメラルド)(4-7)エメラルドのキセキ
  • 第4話 ふたりの翠玉(エメラルド) (4-4) 帯留めのデザイン