2006年08月07日
差別と迫害の連続の帰国者を日本は助けるべきだ
昨年５月に旗揚げした「脱北帰国者支援機構」の代表として、私は北朝鮮から日本に帰ってきた人たちに対する定住支援活動を行っています。「外国人政策研究所」は日本の外国人受け入れ政策に関する理論的研究の拠点です。「脱北帰国者支援機構」は外国人の社会への適応支援を行う実践的活動の拠点です。この２つの拠点は私にとって車の両輪のようなものです。私は外国人問題と取り組むため足場をしっかり固め、実践的活動を踏まえた理論的研究と、理論的研究に基づく実践的活動を鋭意行います。そこで今回は、実践部門の脱北帰国者支援の問題を取り上げたいとお思います。
北朝鮮は７月５日、７発のミサイルの発射という暴挙に出ました。それに対して国連安全保障理事会は７月１５日、対北朝鮮非難決議を全会一致で採択しました。国際社会の北朝鮮包囲網は確実に狭まりつつあります。
このような事態を受けて、私は、北朝鮮のさらなる暴発と、あげくの果ての自滅、そして大量避難民の発生という一連の動向を視野に入れ、脱北帰国者支援の問題と真剣に取り組む必要があると考えています。脱北帰国者の受け入れ態勢の充実・強化は待ったなしだと言わなければなりません。
歴史を振り返りますと、１９５９年から８４年にかけて行われた北朝鮮帰還事業で、９万３０００人の朝鮮人らが日本から北朝鮮に渡りました。その中には６８００人の日本人も含まれていました。その背景として、厳しい東西冷戦がありました。北朝鮮と、その支配下にあった朝鮮総連の宣伝に乗せられたという面もありました。しかし、あれほど多くの人が日本から北朝鮮に向け出国した根本原因が、日本人の朝鮮人差別にあったことは間違いありません。
それでは「地上の楽園」と聞かされて北朝鮮に入国した人たちはどうなったのでしょうか。実は、帰国者にとって祖国は「地上の地獄」であったのです。そこには想像もつかない差別と迫害が待っていました。強制収容所に入れられた人、行方不明になった人、処刑された人の数は１万人をはるかに超えると言われています。しかも帰国者には一切の出国の自由がありませんでした。「籠の中の鳥」のように北朝鮮の中に閉じ込められ、日本に再入国する道は閉ざされてしまいました。
そのような帰国者の中から、この１０年間に、北朝鮮を脱出し、中国などを経由して日本に帰って来る人が着実に増えています。現在では１００人を超える数に達しています。日本で民族差別を受け、何の展望も開けない絶望感から祖国にあこがれて帰った人たちが、今度は次々と日本に舞い戻って来る、という極めて異常な現象が起きています。日本が差別で追いやり、北朝鮮で迫害を受け、さらに傷ついて日本に帰ってきた人たち。そのような差別と迫害の連続に見舞われた帰国者を日本は助けるべきです。
私たちの脱北帰国者支援活動は、「反北朝鮮」を標榜する運動ではありません。人権と人道の立場から、日本政府が入国を認めた脱北帰国者に、日本への定住支援の手を差し伸べる運動です。
北朝鮮から逃れて日本に入国した人たちが幸せに暮らしていることは、北朝鮮で苦しみあえいでいる帰国者に必ず伝わります。日本に帰りたいと願っている人たちに夢と希望を与えます。そのためにも、大変な苦労の末にようやく日本に帰ってきた人たちの悩みを聞き、親身になって相談に乗ることが大事です。職を得て自活したいと希望する人に対しては、教育や就職を中心とする自立支援が不可欠です。
私たちの脱北帰国者支援機構は、日本に帰った帰国者ができるだけ早く社会に適応し、独り立ちできるように、日本語教育と就職支援に重点を置いています。
近い将来、北朝鮮が大きな転換に直面するのは必至です。どうか北朝鮮にいる帰国者の皆様はその時が来るまでがんばって生きていて下さい。体制崩壊の機に乗じて一斉に日本に帰って来るのが、最も安全な方法で望ましいと思います。
大量避難民への対応が迫られる新局面を乗り切るため、脱北帰国者支援機構では、北朝鮮から庇護を求めて入国した人たちの生活の相談に乗り、日本語教育、社会教育、就職支援などの定住支援を行うボランティアスタッフを求めています。志のある人々が私たちの陣営に集まるのを期待します。
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2006年08月06日
在日中国人は友好の架け橋となる
私は、「『世界に開かれた日本』を目指して−在日中国人は友好の架け橋となる」と題する論文を『外交フォーラム』（２００６年６月号）に発表しました。すると意外なところから反響がありました。５月２６日、中国国営通信の新華社が論文の要旨を中国語に翻訳（論文全体の３分の１の抄訳）し、中国向けに発信したのです。中国では全国の新聞をはじめ各メディアがこれを取り上げました。約１０００の新聞サイトでも引用されたと聞いています。
もともとこの論文は、日本人の「中国人」観の転換を目指し、日本社会のあり方を問うものでしたから、中国で大きな反響を呼んでいると聞いて大変驚きました。中国側の意図はよくわかりませんが、論文が好意的に紹介されたことは確かです。日中関係が最悪の時に「一石を投じた」ということで、いいタイミングだったと思います。中国の内部事情に詳しい専門家から「中国人の『日本人』観を変えた」と言われました。
一方、日本外務省は直ちに中国語の雑誌『日本論壇』（第１３号、２００６年７月発行）に論文の全訳を転載し、これを中国をはじめ中国語圏の国の政府機関などに５０００部ほど配布しました。何となく論文が「日中両国の外交の道具」として使われている気がします。論文が独り歩きして行くようにも感じられます。
私の論文は予想外の方向に展開し、日中関係の改善に向けての「触媒」のような役割を果たすことになるのかもしれません。日中両国民が相互に好ましいイメージを形成することに少しでもお役に立てれば、このうえない喜びです。
以下に、論文の中から在日中国人問題に言及している箇所を抜粋します。
２１世紀の日本の外国人政策のかなめは在日中国人政策である。この１５年ほどで飛躍的に増加し、現在５０万人近くを数える在日中国人は、ニューカマーの在日外国人人口の３分の１を占める、最大の外国人グループになった。日本の外国人問題の中心は、在日韓国・朝鮮人問題から在日中国人問題に移行した、と言っても過言ではない。
日本人と中国人の共生する社会を目指さないかぎり、人口減少社会の日本の将来はない。少なくとも、日本人と在日中国人の関係のいかんに、日本の未来がかかっている。
その未来は、大きく２つに分かれる。ひとつは、日本人と在日中国人との間で諍いが絶えず、互いに誹謗中傷を繰り返し、互いに被害者意識を増幅させながら、双方がマイナスイメージの再生産を続けてゆく暗い未来。もうひとつは、両者が互いの長所を認め、自らの短所を克服しつつ人間性を高め合う、プラス思考の魅力あふれる社会を築く明るい未来。この２つの未来のどちらに向かうかは、日本人自身が今後どのように中国人のことを考え、彼らとどのような関係を持つかによって決まる。
今日、日本国民の在日中国人を見る目は非常に厳しいものがある。外国人犯罪と在日中国人が結びつけられ、在日中国人に対して抱く日本人のイメージは決して良くない。犯罪とは無縁の在日中国人までもが日本社会から警戒感を持たれている。日本人から不信の目で見られている在日中国人の心情はいかばかりだろうか。肩身が狭い思いでじっと耐えている人も少なくないのではないかと推察される。
在日中国人問題の解決のため、われわれは何をなすべきか。まず、国民の間に存在する中国人に対するマイナスイメージを取り除く必要がある。そのためには、不法就労や犯罪を目論む「好ましからざる中国人」の入国を阻止し、あるいは「好ましい中国人」を犯罪に駆り立て「好ましからざる中国人」を生み出す「犯罪組織」を摘発し、日本人の中国人への悪感情を引き起こす原因を断たなければならない。
それは入管の仕事である。入管が警察の協力を得て、引き続き中国人に対する徹底した出入国及び在留の管理を行うべきだ。それとともに、５０万人を擁する在日中国人社会が、不法中国人問題を自分たち自身の問題と深刻に受け止め、在日中国人の中から不法就労者や犯罪者を出さないように努めていただきたい。
次に、中国人に対するプラスイメージを国民の間に広める必要がある。在日中国人の多くは勤勉な人たちである。学術研究、経済、文化など活躍分野は多岐にわたる。たとえば、日本の大学に教授、助教授、専任講師として勤務する在日中国人は１０００人を超える。１９８０年代初期に来日した元留学生（国費）で博士課程を修了した在日中国人の中には、コンピューターソフト開発の会社を創業し、株式を上場した実業家もいる。
よく考えると、日本が受け入れてきた留学生の大半は中国人であり、その中の成績優秀な人たちが専門知識を活かして日本の大学、研究機関、企業に大挙して進出しているということだったのだ。全般的に見て、在日中国人の知的水準は高い。しかし、一般の日本人は在日中国人の全体像を知らない。在日中国人は「知識人」あるいは「努力家」であるという新しいイメージを日本社会に定着させることが課題である。マスコミも犯罪など悪い面だけでなく、在日中国人の勤勉さなどいい面も報道すべきだ。
在日中国人は「日本人の心の壁」を感じ、日本社会に入りづらいと思っているのではないだろうか。一方、日本人も彼らとどう向き合ったらいいのかわからないでいるのではないだろうか。両者の関係をどう打開するかが問題である。
まずは日本人も中国人も、「同文同種」というスローガンに惑わされずに、お互いの基本的立場の違いを認めることが大事だと思う。日本人と中国人は、海を隔てて別々に数千年の歴史を歩んできたわけだから、民族も文化も違うのは当然のことだ。歴史認識にも価値観にも隔たりがある。その厳然たる事実を認め合うことからスタートし、そのうえで、両者の関係を好転させるには何ができるかを考えるべきだ。
私はひとつの試みとして、日本社会を代表する有識者と、在日中国人社会を代表する有識者が定期的に会って対話する場をつくることを提案する。双方がそれぞれの立場を率直に語り合い、相互理解を深めることを目的とするものだ。この民間版の「日中有識者懇話会」の発足を皮切りとして、日本各地に日本人と在日中国人の交流の輪が広がり、さらに進んで日中の関係が改善への一歩を踏み出すことを期待する。
在日中国人にお願いがある。日本の本当の姿を本国に向けて積極的に発信していただきたい。高い研究レベルを誇る在日中国人の研究者に、日本での生活体験と社会観察を踏まえて著した「現代日本論」を中国で発刊してほしい。ダイナミックに変貌する日本社会の実態を分析した書籍が中国で出版されれば、中国人の日本理解が進む。そして、現代日本の実像を本国に伝える役割を果たす在日中国人の知識階級は、「日中友好の架け橋」として日本社会で重きをなすであろう。
中国進出企業など中国と関係の深い日本企業においては、在日中国人の採用を増やすことを真剣に検討してもらいたい。高学歴の在日中国人は日中両国の文化に精通した人たちだ。将来の現地の支店長や工場長のポストを任せられる人もいるし、本社の中国事業担当の部長、課長の勤まる人もいるだろう。日中を股に掛けて事業活動を展開する日本企業にとって貴重な人材だ。中国における事業経営を円滑に行ううえでも、彼らは「摩擦の調整役」として適任である。
日本企業が中国人を積極的に登用する経営方針を打ち出せば、留学生をはじめとする在日中国人に夢と希望を与える。日中の経済関係の緊密化に資する面も大きい。
2006年07月26日
人口減少社会の日本の進むべき道
昨年の国勢調査と人口動態統計で予測よりも２年早く人口減が確定し、わが国は本格的な人口減少時代に入りました。明治以降の飛躍的な発展が人口増加基調の下で実現したことを考えますと、超少子化に伴う人口減少社会の到来は、歴史的に見ても、明治維新に匹敵するほどの国の大変革を迫るものとなります。
人口激減という難局を乗り切るためには、少子化対策だけでは不十分で、どのような外国人をどのように受け入れるかが、日本国の重要課題として浮上するのは確実です。人口減少社会に生きる日本人の未来は外国人とどのような関係を築くかにかかっている、と言っても過言ではありません。
現在、わが国に居住する約２００万人の外国人の現実を見ますと、日本社会にうまく適応できないで困っている外国人が目立ちます。一方で、外国人嫌いの日本人が増えています。つまり、在日外国人が関係する犯罪事件をはじめさまざまな問題が発生し、国民の間に反外国人感情が高まっています。
外国人犯罪が多発する背景のひとつに、外国人を受け入れた後の、教育や就職を中心とする定住支援がほとんど行われていないことがあります。孤立無援のままに置かれた外国人は日本社会から疎外されていると感じ、それが犯罪に駆り立てる一因となっているのではないでしょうか。
外国人問題の解決を図り、受け入れた以上は社会の一員として処遇するため、在日外国人への定住支援体制の確立は待ったなしだと言わなければなりません。人口減少社会への展望を開くためにも、新時代の外国人受け入れ政策を立案するためにも、在日外国人の日本社会への適応を助けること、すなわち「社会統合政策」を一刻も早く打ち出す必要があります。問題を放置すれば、日本人の「外国人」観はますます悪くなります。そうなりますと、外国人の受け入れで人口減少社会に対応しようとする道は閉ざされてしまいます。
外国人政策研究所では、「移民」と「多民族共生」をキーワードに掲げ、現在の外国人問題と今後の課題を明らかにし、その上で日本人の生き方と日本社会のあるべき姿を探っていきます。どうすれば日本人は外国人・他の民族と共生することができるかを研究し、人口減少社会の外国人受け入れ政策に関する提言を世に問いたいと考えています。
