ただいま開催中の「パンドラの箱」展から井村一巴の作品をご紹介いたします。


井村一巴の作品は、セルフポートレイトのゼラチン・シルバー・プリント上にピンでスクラッチしてさまざまな図柄を描き込んだユニークな作品です。
2001年から3年に亘って行った「週末写真館」は、来場者のポートレイトを撮影し展示するというパフォーマンス的な側面もあったイベントでしたが、その案内用にライティングのテストなどもかねて自身を撮影しました。ノーファインダーで撮影したため、被写体(自分自身)が画面から切れてしまったり、偏ったりした「失敗プリント」が出来てしまったのですが、その失敗プリントの余白(といっても黒い部分です)に、ある時ピンで引っ掻いて文字や模様を描き込んでみたのが、このピン・スクラッチのきっかけとなりました。
2004年の初個展の時にはすでにピン・スクラッチ作品があったのですが、発表するつもりはなく、カラープリントによる展示を行ったのでした。まだ自分の中でピン・スクラッチが「作品」として納得が出来ていなかったということです。やがて、制作を続けるうちに自分の作品としての自覚が芽生え、2007年の個展で初めて発表しました。
以降、ピン・スクラッチを表現の中心として、カラー作品と組み合わせたブックレットなどを制作するなどしています。

今回の出品作品の3点は、作家の好きなドイツ・ロマン派の詩人ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩にロベルト・シューマンが曲を付けた12曲からなる歌曲集「リーダークライス作品39 Liederkreis」からタイトルを取った作品です。作品の中に流れるゆったりとした時間、そこにシューマンの歌曲のイメージが重なります。秘めた恋を歌った「静寂」、天に舞い上がる夢の「月の夜」、昼から夜に移りゆく不安を歌った「薄明」、いかがでしょうか。


KazhaImura_liederkreisdiestille

「リーダークライス~静寂
Liederkreis - Die Stille」
2007年
pin scratch on gelatin silver print
24.2x16.1cm
signed




KazhaImura_liederkreismondnacht
「リーダークライス~月の夜
Liederkreis - Mondnacht」
2007年
pin scratch on gelatin silver print
23.8x15.8cm
signed
SOLD



KazhaImura_liederkreiszwielicht
「リーダークライス~薄明
Liederkreis - Zwielicht」
2007年
pin scratch on gelatin silver print
24.4x15.8cm
signed




箱の両面に作品が埋め込まれた「black box」と「white box」は、オブジェとしての楽しさもあって、今回もすでに4点のうち3点が売約となりました。KazhaImura_blackbox01a

「black box 01 α」
2010年
pin scratch on gelatin silver print, box
11.5x24.0cm
signed
SOLD

 
KazhaImura_blackbox01bblack box 01 β」
2010年
pin scratch on gelatin silver print, box 11.5x24.0cm
signed



KazhaImura_whitebox01awhite box 01 α」
2010年
pin scratch on gelatin silver print, box
11.5x24.0cm
signed
SOLD


KazhaImura_whitebox01bwhite box 01 β」
2010年
pin scratch on gelatin silver print, box
11.5x24.0cm
signed
SOLD



こちらは2点組の作品「gemini」のシリーズから「wave」です。

KazhaImura_gemini_wave
「gemini (deptych) "wave"」
2009年
pin scratch on gelatin silver print
各15.2x10.7cm
signed





カラーコピーの作品集の中に2点のピン・スクラッチ作品が挿入されている贅沢なブックレット「wonderland」です。
KazhaImura_wonderland03KazhaImura_wonderland02








「wonderland」 2009年
29.7x21.6cm Ed.88
挿入作品
pin scratch on gelatin silver print
各15.0x10.5cm


井村一巴 
Kazha Imura

1980年生まれ。1996年より写真を撮り始め、1997年より写真や文章を発表するため“paper”という雑誌スタイルのカラーコピーによる手作りのメディアを発行(15号まで既刊)。2001年より2003年まで年1回1か月「週末写真館」と題し、毎週末来場者のポートレイトを撮影・プリントし、展示する写真展を行ない532枚のポートレイトを制作。2004年ときの忘れもの(東京)で初個展。2007年、ときの忘れものでの二度目の個展で、プリントしたセルフポートレイトの印画紙の表面をピンで引掻くなどして描いた作品、「ピンスクラッチ」を初めて発表。以降、ピンスクラッチ作品とカラーのスナップショットなど複数の要素での作品構成を試行している。
http://www2.ocn.ne.jp/~kazha/