2009年04月17日
<ジャ同エッセー>存在の耐えられない軽さ・元気が取り柄の麻生首相だが=首相会見:長沼節夫(ジャーナリスト、写真も)
<写真1>4月9日の東京・「日本記者クラブ」での麻生首相の記者会見で感じたことだ。
事前に「総理入場の際には全員立って、拍手でお迎えください」というアナウンスがあったが、会見場では「そんなばかな」「レセプションじゃあるまいし」などという声があり、数人が立ちかけたが、そんな記者たちも周囲を見回して、座ってしまった。
「本来なら年頭会見というはずだったのですが、新年は5日から国会開会、また経済対策などに追われて、とうとう今日になってしまいました」と冒頭挨拶。司会者が「では最初に総理から30分ほどお話いただいて、残り時間をQ&Aとしましょう」と仕切る。
「じゃあいいですか」と首相は早速、おそらく官僚が準備したに違いない演説草稿を、とうとうと読み上げた。記者団にはあらかじめ「新たな成長に向けて」というタイトルのレジュメが配られている。
「2020年までに日本のGNP(国内総生産)を120兆円増やし、市場創出35兆円、雇用創出400万人を創出する」「かつてはテレビ・電気冷蔵庫・洗濯機が三種の神器と呼ばれたが、21世紀の三種の神器は太陽電池・電気自動車・省エネ家電になる」などと景気のいい大盤振る舞いの経済計画をぶち上げた。
勿論、是非実現して欲しいと思わせる提案もあった。「安心・元気な健康長寿社会」実現のために、「介護職員待遇改善のための緊急措置を講じる」という部分などだ。「ご存知のとおり、日本の高齢者はとにかく就業意識が高い。ここの前のほうにおられる新聞記者の方たちを見ても良く分かる。明らかに高い。私も高齢者ですがね」というコメントには「ほっといてくれ」と、反発も感じたが。「介護職員は年収で一般より100万円以上低い。介護する側にも夢と希望を与えなければいけない。給与上積みなど、3年間で集中的に改善を目指したい」という部分には賛成だ。実際にやるのかどうか見極めが必要だが。
次いで「日本の魅力発揮」。首相は得意の漫画やファッションで日本が既にアジア各国に相当受けていると、ファッション雑誌を何冊も持ち込んで大いにPRした。
「日本には漫画・ファッション分野で、ジャパンクールとして世界に注目されている分野がある。例えば中国のこのファッション雑誌。はいこの顔見て誰か言えますか。若い人は勿論分かるが、ここの前の列の人たちだ。」誰も返事なし。「ほとんど今の時代に生きておられないと言われますよ。これはエビちゃんブームといわれている人。これは?中国でアユとよばれる浜崎あゆみの写真よ。はいこれは誰?言えるよね。言えない歳になっちゃった?香里奈という人よ。またファッションの聖地は秋葉原や原宿、それもウラ原宿というのが定番コースよ。人気クリエーターの才能をビジネスに生かしている」と「我田引水」さながらに知識を披瀝したのだった。肩のこらないざっくばらんな会見に使用との演出だとしても、一国の首相としてはその軽薄さには呆れるばかりだ。(写真1)
再び棒読みに還る。
「新たな大長征は歴史上何度もあった。遠く中世のイタリア都市国家、16世紀のオランダが、また19世紀のイギリスといずれも世界経済を支配した国だ。なぜこれらの国がその後衰退していったか。私の主観だが、当初はモノづくりで栄えたが、その後は行き過ぎた金融資本主義に陥ったというのが共通点だと、私は思っている。額に汗して働く。そしてチーム全体として高い成果を挙げてゆく組織力。日本の高い水準を支えてきたのはこの組織力だ。この伝統を生かせれば日本経済にはまだ可能性がある。これらの土台にたって成長戦略を述べた次第だ」。
中世イタリアに既に金融資本主義なるものが存在したという珍説。これは首相が原稿を離れて自分で挿入したのだろう。演説を終えてぱらぱらと拍手があり、質疑に移った。
Q(Y紙)=総理、余裕が出てきたね。しかし立派な経済戦略も、選挙で勝たなければ画餅に終わる。選挙はいつか。
A=人間年を食ってすれてきたということだろう。毎日ぶら下がり会見をしているが、その思想レベルは経済の話をしても国際金融の話をしても、マクロ経済を語っても、最初の質問は「解散はいつか」だ。ここのレベルのベテランからはそんな質問は出まいと思ったが、これではどうやら先輩を見習っただけかと、正直残念な気持ちだ。今の質問にはきのうのぶら下がりで言った答えと同じことしか言えない。現在は経済対策が焦眉の急だ。この対策に野党がどう応えるか。まさに解散権は総理大臣の専権事項である。昨日のぶら下がりと同じ答えだ。
司会=次のベテラン記者どうぞ。
Q(NHK)=また同じレベルかといわれると口惜しいが、この経済対策を示したときに野党が反対すれば、国民に信を問うという選択肢は排除されないか。
A=前のQと重なるのでAも重なる。こちらが政策を示して相手が反対すれば、対立軸が明確になるが、もし賛成されてしまったらどうする。話し合い解散?むしろ蔭山さんにお聞きしたい。幾ら延ばしても9月10日で終わりなんだから、それまでに決める。経済対策に頭を悩ませている。新聞を読めば暗いことしかかかれないが、この時代、明るい見通し儲かっている会社もある。儲かっている人はそれを言わないものだ。儲かってない方々が永田町に来られる。儲かってる人は来ない。歩いて調べると明るい見通しもある。
Q(同)=マニフェストづくりは。
A=もうやっている。新聞社に分からないようにやるのが大事だ。
Q(日経)=金儲かってない人のことが気になるので、どうしてもそういう紙面になる。社会保障費2200億円ずつ削減という旗を今年も掲げるのか。高齢化社会になれば社会保障費が増えるのは当然だ。その財源だが、景気が持ち直せば麻生内閣でも消費税を上げるのか。
A=景気回復が見られればやるとかねてから言っている。社会保障費削減は2200ずつ減らしたが1兆円で限度だ。足りない分は当面、道路特定財源から。しかしそう続くものではないので、将来的には高齢者にも僅か出してもらいたい。但しこれは福祉以外には使わない約束だ。
このあとも2〜3やり取りがあったが省く。
<写真2>
最後に司会者から、さっき色紙に揮毫してもらったといって、色紙が披露された。(写真2)会場から、「総理、ご自身で説明してください」という声が上がったが、首相は「どうせ漢字が読めるか試したいんじゃないの」と笑いを取って会場を去った。
学生時代に見たことのある映画のタイトルを思い出してしまった。それは「存在の耐えられない軽さ」(88年、米国)というのだった。映画自体はチェコ事件を背景にした重いものだったし、今回の首相会見も、思い経済情勢を背景にしているのだが、首相の軽さばかりが気になった。(了)
「じゃあいいですか」と首相は早速、おそらく官僚が準備したに違いない演説草稿を、とうとうと読み上げた。記者団にはあらかじめ「新たな成長に向けて」というタイトルのレジュメが配られている。
「2020年までに日本のGNP(国内総生産)を120兆円増やし、市場創出35兆円、雇用創出400万人を創出する」「かつてはテレビ・電気冷蔵庫・洗濯機が三種の神器と呼ばれたが、21世紀の三種の神器は太陽電池・電気自動車・省エネ家電になる」などと景気のいい大盤振る舞いの経済計画をぶち上げた。
勿論、是非実現して欲しいと思わせる提案もあった。「安心・元気な健康長寿社会」実現のために、「介護職員待遇改善のための緊急措置を講じる」という部分などだ。「ご存知のとおり、日本の高齢者はとにかく就業意識が高い。ここの前のほうにおられる新聞記者の方たちを見ても良く分かる。明らかに高い。私も高齢者ですがね」というコメントには「ほっといてくれ」と、反発も感じたが。「介護職員は年収で一般より100万円以上低い。介護する側にも夢と希望を与えなければいけない。給与上積みなど、3年間で集中的に改善を目指したい」という部分には賛成だ。実際にやるのかどうか見極めが必要だが。
次いで「日本の魅力発揮」。首相は得意の漫画やファッションで日本が既にアジア各国に相当受けていると、ファッション雑誌を何冊も持ち込んで大いにPRした。
「日本には漫画・ファッション分野で、ジャパンクールとして世界に注目されている分野がある。例えば中国のこのファッション雑誌。はいこの顔見て誰か言えますか。若い人は勿論分かるが、ここの前の列の人たちだ。」誰も返事なし。「ほとんど今の時代に生きておられないと言われますよ。これはエビちゃんブームといわれている人。これは?中国でアユとよばれる浜崎あゆみの写真よ。はいこれは誰?言えるよね。言えない歳になっちゃった?香里奈という人よ。またファッションの聖地は秋葉原や原宿、それもウラ原宿というのが定番コースよ。人気クリエーターの才能をビジネスに生かしている」と「我田引水」さながらに知識を披瀝したのだった。肩のこらないざっくばらんな会見に使用との演出だとしても、一国の首相としてはその軽薄さには呆れるばかりだ。(写真1)
再び棒読みに還る。
「新たな大長征は歴史上何度もあった。遠く中世のイタリア都市国家、16世紀のオランダが、また19世紀のイギリスといずれも世界経済を支配した国だ。なぜこれらの国がその後衰退していったか。私の主観だが、当初はモノづくりで栄えたが、その後は行き過ぎた金融資本主義に陥ったというのが共通点だと、私は思っている。額に汗して働く。そしてチーム全体として高い成果を挙げてゆく組織力。日本の高い水準を支えてきたのはこの組織力だ。この伝統を生かせれば日本経済にはまだ可能性がある。これらの土台にたって成長戦略を述べた次第だ」。
中世イタリアに既に金融資本主義なるものが存在したという珍説。これは首相が原稿を離れて自分で挿入したのだろう。演説を終えてぱらぱらと拍手があり、質疑に移った。
Q(Y紙)=総理、余裕が出てきたね。しかし立派な経済戦略も、選挙で勝たなければ画餅に終わる。選挙はいつか。
A=人間年を食ってすれてきたということだろう。毎日ぶら下がり会見をしているが、その思想レベルは経済の話をしても国際金融の話をしても、マクロ経済を語っても、最初の質問は「解散はいつか」だ。ここのレベルのベテランからはそんな質問は出まいと思ったが、これではどうやら先輩を見習っただけかと、正直残念な気持ちだ。今の質問にはきのうのぶら下がりで言った答えと同じことしか言えない。現在は経済対策が焦眉の急だ。この対策に野党がどう応えるか。まさに解散権は総理大臣の専権事項である。昨日のぶら下がりと同じ答えだ。
司会=次のベテラン記者どうぞ。
Q(NHK)=また同じレベルかといわれると口惜しいが、この経済対策を示したときに野党が反対すれば、国民に信を問うという選択肢は排除されないか。
A=前のQと重なるのでAも重なる。こちらが政策を示して相手が反対すれば、対立軸が明確になるが、もし賛成されてしまったらどうする。話し合い解散?むしろ蔭山さんにお聞きしたい。幾ら延ばしても9月10日で終わりなんだから、それまでに決める。経済対策に頭を悩ませている。新聞を読めば暗いことしかかかれないが、この時代、明るい見通し儲かっている会社もある。儲かっている人はそれを言わないものだ。儲かってない方々が永田町に来られる。儲かってる人は来ない。歩いて調べると明るい見通しもある。
Q(同)=マニフェストづくりは。
A=もうやっている。新聞社に分からないようにやるのが大事だ。
Q(日経)=金儲かってない人のことが気になるので、どうしてもそういう紙面になる。社会保障費2200億円ずつ削減という旗を今年も掲げるのか。高齢化社会になれば社会保障費が増えるのは当然だ。その財源だが、景気が持ち直せば麻生内閣でも消費税を上げるのか。
A=景気回復が見られればやるとかねてから言っている。社会保障費削減は2200ずつ減らしたが1兆円で限度だ。足りない分は当面、道路特定財源から。しかしそう続くものではないので、将来的には高齢者にも僅か出してもらいたい。但しこれは福祉以外には使わない約束だ。
このあとも2〜3やり取りがあったが省く。
<写真2>最後に司会者から、さっき色紙に揮毫してもらったといって、色紙が披露された。(写真2)会場から、「総理、ご自身で説明してください」という声が上がったが、首相は「どうせ漢字が読めるか試したいんじゃないの」と笑いを取って会場を去った。
学生時代に見たことのある映画のタイトルを思い出してしまった。それは「存在の耐えられない軽さ」(88年、米国)というのだった。映画自体はチェコ事件を背景にした重いものだったし、今回の首相会見も、思い経済情勢を背景にしているのだが、首相の軽さばかりが気になった。(了)
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<写真1> 4月9日の東京・「日本記者クラブ」での麻生首相の記者会見で感じたことだ。 事前に「総理入場の際には全員立って、拍手でお迎えくだ...


