2010年12月10日

本澤二郎の「日本の風景」(627)

<日本在住の中国人学者> 12月6日の午後に85年から日本に滞在、現在は都内の大学で教べんをとっている日中関係史の学者が「中国の外交戦略と日中関係」というテーマで講演を行った。日本記者クラブの勉強会である。表情からして穏健なL教授の日本語はよどみのない流暢なものだった。ただ気になった点は、果たして彼は日本政治を理解・分析ができているだろうか。このことが最後まで付きまとって頭から離れなかった。


 たとえば、小泉内閣の対中外交のキーワードを「脅威でなくてチャンス」「歴史認識」「日中友好論者」と捉えた。小泉はほとんど中国に行ったことはない。筆者は本人から証言を得ている。断じて日中友好論者ではない。それなのに?
 さらに問題なのは、民主党の鳩山内閣と菅内閣の区別が、根源的なところで理解できているのか、という疑問だった。明治から今日まで日本政治が「天皇の官僚」によって牛耳られてきたという事実をわかっているのか。それに対決挑戦した鳩山と再び官僚任せの菅という違いをどれほど理解しているのか。
 この点について日本のマスコミも分析を回避している。言論界もワシントンや霞が関の官僚・検察の側に立っての報道なのだから。新聞レベルの日本政治分析では、北京の学者レベルと同じであろう。
<日本政治は理解不能?> 「天皇の官僚」という認識さえも出来ない日本の学者やマスコミ人である。中国の学者にそれをわからせる方が、土台無理なのかもしれない。
 あるいは?ということもあろう。彼は今の地位・収入を維持するためには、真相を突くような政治分析をすることが許されない。わかっているが口には出せない、ということかもしれない。右翼が跋扈する日本での研究は容易ではないことも理解出来る。
 ただ、そうではあるが?やはり外国人が日本政治を正確に理解するのは不可能なのであろう。天皇制という大きな壁が立ちはだかっている。大半の学者・マスコミ人はその枠内で蠢いているにすぎないのだから。その守護神は東大閥だ。日本の学界を牛耳ってもいる。むろん、文科省の官僚も彼らの手の中にあるのだから。
 しからば財閥研究はどうだろうか?財閥?聞いたこともない、といわれそうでならない。政治に首を突っ込んでいる政治家でさえも、議会内を彷徨しているだけで、その本質をわかっていない。
 学者として机上で資料をあさっているだけの学者では、所詮日本政治を理解するのは無理というものだ。
<日中の歴史観> 中国の歴史観は、彼の説明だと1911年からだという。アヘン戦争からである。そうだろうが、確かに日本人の学者にはそうした認識がまるでない。「勝った」と狂喜するだけの日清戦争・日露戦争であった。これを吹聴するドラマをNHKが露骨に映像化、茶の間に流し込んでいる2010年だ。ここから敗戦までの45年を学校では蓋をしてきた。特に朝鮮半島の植民地支配や満州国建国といった日本帝国主義、さらなる日中戦争についての軍国主義の壮大なる爪跡を学校では教えてきていない。
 しかも、問題は学者の中におかしな右翼民族主義的な人物が幅を利かせる今日である。「天皇の官僚」が支配する学界に問題があるのだが、そのことにL教授は触れようとしなかった。遠慮しているのだろうか、それともわかっていないものか。彼は、日本の歴史観は敗戦後の45年からというだけだ。物足りない説明だった。
<戦略的互恵関係> 安倍内閣がぶち上げた戦略的互恵関係なる概念が、それまでの日中友好関係にとって代わった。筆者はこれが理解できないナゾの一つである。彼によると、友好関係は「言いたいことが言えない関係」と紹介した。これはとんでもない誤解であろう。確かに日本の右翼はそういうのかもしれないが、リベラルな日本人にとって友好関係が依然として生きている。

 そこで戦略的互恵関係だが、彼によれば「日本は、言いたいことをお互い主張できると解する。中国は、お互いの違いを乗り越えて問題を長期的に考えてゆくと理解している。双方に解釈のちがいが存在する」というのだ。なるほど、これではうまくゆくはずがないだろう。
 45年を「中国は戦勝国、日本は日米戦争に敗北したが、中国とは負けていない。こうした認識のズレがある」とも指摘した。右派の学者らの認識かもしれないが、リベラルにはそうした考えはない。彼の周囲は、あるいは日本の学者は、皆右翼ばかりというのであろうか。
<右翼支配のメディア> 記者会見を聞いていてわかったことは、日本のマスコミ人の中に右翼的なものが多いという事実である。それは彼への質問を聞いていて感じた。
 たとえば「戦前の日本と今の中国の共通点についてどう考えているのか。対外的拡張主義とか」というたぐいだ。質問者は戦前の日本と現在の中国は同じではないか、といいたいのである。
 中国の軍事力拡大やエネルギー資源確保などを極端に理解しているらしい。質問者は高度成長期の日本の資源外交の顛末というと、地球破壊そのものだったが、そのことを忘れているらしい。
 あるいは中国の愛国教育を反日教育と決めつける、これまた右翼のためにする質問も飛び出した。L教授は「愛国教育は共産党政権の一貫した政策。問題は、それが反日教育と一体なのかどうか。正確に言うと、80年代以降に中日戦争が教材と登場したが、それ以前は詳しく教えられてはいない。教科書問題や歴史認識が表面化して以降のことである。江沢民時代に愛国基地がつくられた」と説明した。確かにそうである。
 原因は日本にある。それさえもわかっていない日本の「ジャーナリスト」なのだ。思いやりがリベラルの真骨頂だが、これが消えてしまった。2012年に発足する習近平体制に警戒する質問、ノーベル平和賞問題といじめ、ためにする質問ばかりだった。
<モラレスに学ぼう> こうした変質メディアは読売・産経・日経など改憲新聞に限らない。現在も日中友好派の小沢を吊るし上げ、小沢を政界から排除する世論誘導に今も突っ走っている。
 菅内閣・民主党執行部にも働きかけている。そこに大がかりな政界再編工作という謀略が垣間見られる。大連立によって、民衆の声を吐き消す強引な悪政を狙っている。改憲軍拡大増税路線である。日米安保を強化させる日米韓の軍事強化作戦である。
 危険な事態へと東アジアを追い込もうという日米韓産軍複合体策略と、筆者の目にはくっきりと映ってくる。米統合参謀本部議長直々の日韓最前線基地での采配というのも、滑稽千万である。自信のない証拠だろう。永田町では中曽根代理人のナベツネも表に出てきている。

 小沢の国会招致合唱をなぜ国会閉幕後に?謀略の最たるものである。仕掛け人の中曽根・ナベツネの策略には、ワシントン・CIAも噛んでいるだろう。ボリビアのモラレス大統領ではないが、ウィキリークスが教えてくれている。モラレスでさえCIAの網をくぐることが出来たのである。
 既にさんざん辛酸をなめさせられた小沢と鳩山とその支援者である。多くの教訓を学んでいるだろう。財閥・天皇の官僚・松下政経塾・マスコミ・CIAとの歴史的対決に屈してはなるまい。
 アングロサクソンの謀略と真正面から対峙する覚悟が大事であろう。衰退するワシントン・東京・ソウルの崖っ淵の悪しき策略に、この大事な東アジアをゆだねていいのであろうか。
2010年12月10日記


jlj001 at 09:47 この記事をクリップ!
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