2013年01月02日

本澤二郎の「日本の風景」(1241)

<欧米のアジア戦略>
 人生には良き先輩が不可欠である。その先輩が、ただ金もうけばかりに熱中する人間であれば、真実の世の中を知る機会はない。人生に生きがいなど見出せないだろう。事実上、無教養人間として無意味な人生で生涯を送るしかない。その点で、無知な政治記者は40代前後から、ようやく世の中・歴史を知るようになる。宇都宮徳馬の存在である。彼は陸軍大将だった父親の姿から、軍閥・軍国主義や戦前のアジア史を学んでいた。ビジネスに手を出して、内政の悪しき根幹である官僚社会主義をいち早く悟った。国際政治に目覚めた数少ない政治家となって活躍した、本物のリベラリスト・行動する不正腐敗に挑戦するリベラリストだった。そんな宇都宮から、欧米のアジア戦略を教えられた。


<宇都宮徳馬と徳間康快>
 30年かそれ以上前のことである。今もあるかもしれない。国会議事堂の西側・赤坂に旧ヒルトンホテルがある。すぐ近くに料亭「山の茶屋」が小高い場所に、木々に隠れてひっそりと建っている。狭くて細い獣道を利用しないと目的地につかない、なんとも風情のある料亭である。見方によれば、最高の贅沢な食事処かもしれない。
 そこで宇都宮と社長の徳間の3人で食事をした時のことである。宇都宮の愛した場所が、この「山の茶屋」とヒルトンだからでもあった。
 当時、東京タイムズ政治部長だった筆者に、徳間が「宇都宮さんを紹介してほしい」と指示してきた。社長は教養人ではなかったが、商売人としての嗅覚は鋭く、そのお陰で彼は右翼や左翼まで豊富な人脈を駆使して、新聞・出版・映画・音楽と手広く活躍していた。
 その前に、彼はいち早くモスクワに焦点を当てていたが、北京にも舵を切ったのだ。井上靖作「敦煌」の映画化を考えた。そのために北京人脈を必要とした。彼は宇都宮に白羽の矢を当てたのだ。筆者の出番となった。
 むろん、日中友好企画に筆者も喜んだ。宇都宮も、だった。彼は同じ発音をする徳間をすぐ好きになった。そんな経緯もあって、本来招待しなければならない側が、実は招待を受けてしまった。それが「山の茶屋」の徳馬・徳間会談なのである。
<アジア人同士を戦わせる>
 2人の会話中に宇都宮が「欧米のアジア戦略」を語ってくれた。これに大いに啓発を受けた。宇都宮の実父・太郎は、陸軍参謀本部時代、長州の山形有朋派に対抗していた。同派が清朝政府とつながっている時代に、いち早く革命派の孫文と連携していた。
 ロンドン大使館勤務時代は、やはりロシア革命派との工作に専念していた。専制独裁の末路を直感していたのだろう。時代を先取りしていたのだ。宇都宮は、父親の活動を子供心に、それを膚で感じていた。早くから国際政治に目を開いていた。これが他の政治家との大きな違いなのだ。先見の明のある政治家とは、宇都宮のことを指す。
 彼は政界ではリベラリストとして、恐れることなくモスクワ・北京・平壌に飛んで、将来の日本外交に布石を打っていた。彼は「アジアに立つ」(講談社)という本を書いている。アジア人同士の連携だ。対立に楔を打つ工作だ。アジアの平和と安定のためのものだ。

 「欧米は争いから疲弊すると、今度はアジア人同士を戦わせる」と言った。徳間も頷いた。その一言に無知な政治記者もハッとした。その場面を今も思い出せる。
 全く気付かなかった、学校や教科書で学んでいなかった本物の史実である。
<アジアの大馬鹿三太郎>
 宇都宮は、過去の日清・日露戦争のことを指していたのである。アジアの為政者に開明派は少ないか、いないことを、しきりと嘆くのだった。いわんや民衆にいるわけがない。烏合の衆でしかない。愚民ばかりなのだ。その中枢が政治屋・官僚ども、金儲けだけの財閥ということなのだ。
 戦前の工作人はロンドン・大英帝国である。実父はロンドンでそれを膚で感じてきた。彼が朝鮮軍司令官の任命を受けた時の心情はどうだったのか。3・11独立運動でも、日本軍の発砲を禁じた。息子の徳馬に対して「朝鮮人は偉い民族だ。お前は大人になったら朝鮮人の女性を見つけて結婚しなさい」と諭している。
 日本の朝鮮植民地政策を苦々しく思っていたに違いない。
 要するに、日清・日露の戦争で多くのアジア人が死んでいる。背後にロンドン・大英帝国が控えていた。率直に言うと、ロンドン工作に従った東京だったのである。ロンドンは自らの手を汚さずに中国とロシアを退治したのだ。東京はロンドンの奴隷レベルだったのである。これが真実なのだ。司馬遼太郎の「坂の上」は、まやかしの皇国史観なのである。
 それは日本に限らない。現在のソウルもそうだ。南北対立だ。ワシントンを利する工作の結果だし、それは日朝関係にもいえる。今もワシントン工作にひれ伏す霞が関なのだ。
 大馬鹿三太郎の東京である。尖閣問題もその一環なのである。ワシントンは東京の極右を動かし、マスコミにそれを扇動させる、同じことをソウルでも行っている。米産軍複合体による高額な無人機やオスプレイ売り込み工作に熱心に協力する東京とソウルである。
<北京の台頭とワシントン工作>
 ここ10年、20年の間に予想外の事態が起きてきている。北京の台頭である。ソ連との核軍拡競争、中東での石油争奪戦争にうつつを抜かしている間に、寝ていた北京が目を覚まし、大きく羽を広げてきたのだ。
 中曽根バブルの崩壊と3・11事件で沈下する東京も、ワシントンの野心家を驚かせている。ワシントンは対日経済政策と核・原発政策の失敗を露呈してしまっている。そこでの岸信介起用に次ぐ、安倍起用なのである。そのための石原の駒を悪用した背景であろう。こうした背景さえ知らない大馬鹿日本人ばかりである。

 アジア人同士の攻防戦に成功しつつある目下のワシントンだ。対して大馬鹿三太郎のアジアである。賢くない東京・ソウル・ASEANの指導者だ。同じ部類の仲間は北京や平壌にもいる。印象では、平壌は必死で対話路線を打ち出しているが、これは評価できる。歴史の教訓を学ぶアジアでありたい。
<東京はアジアに帰れ>
 天罰とも思えないが、ワシントン工作の扇動者・ヒラリー・クリントンが体調を崩した。オバマ・ケリーのコンビに変化が出るとも思えないが、戦前のロンドンと戦後のワシントンの手口は似ている。
 ワシントンの対外工作の要点は、ロンドンから引き継がれている。アングロサクソンに翻弄されるアジアの東京・北京であってはならない。

 中国の元外交官の肖向前もまた、筆者に遺言のように「日本はアジアに帰らなければならない」と訴えていた。あえて付記したい。

 昨夜は遅くまで孫や息子たちとゲームに興じてしまった。カケの世界を、命育む国際政治に、断じて持ち込んではならない。
2013年1月2日10時50分記


jlj001 at 10:48 この記事をクリップ!
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