2019年01月02日

日本人が知らない北京2019年<本澤二郎の「日本の風景」(3202)

<最初の「新年快楽」の1月1日>
 人生は様々だ。昨年もそうだった。大みそかの正午前に、10余人の大家族が集合して、料理に舌鼓を打つ。午後はボスである義母の介護。そして元日も早朝から介護をした。いうところの老々介護だ。昨年100歳で特養老人ホームで亡くなった母に比べると、文句なしに幸せである。94歳の元抗日八路軍兵士のおばあさんだから、予想外の秘話を聞き出せる機会でもある。まずは、こうした場面を知る日本人は、僕以外にはいない。したり顔の日本人ジャーナリストも、北京の陽暦新年の真実を手にすることは出来ないだろう。

<休日は3日間>
 日本も敗戦前までは、陰暦の正月に餅をついて、幸運を祝ったりしていたようだが、中国は今でも旧暦の正月を「新年」として迎えている。したがって、陽暦の新年は、実にあっさりとさっぱりしている。
 昨日の1月1日の夕暮れでも、建設現場で働く農民工を確認した。建設現場に陽暦の休日はない。其の分、しっかりと貯め込んで、春節の旧正月に爆発させる。それは日本や欧米に比べて、数倍楽し気である。

 家々では、門に門松を飾って、という日本の正月風景は廃れてしまっている。味気のない正月は、精神と肉体とも、疲労困憊した庶民にとって、単なる骨休みのようである。貧富の格差で、ごく一部の富裕層は、常夏の島で英気を養っているが、それは1%前後であろう。

 特に、中曽根バブル崩壊後の日本は、すっかり元気を失ってしまった。内心ほくそ笑んでいるのは、財閥の1%で、あとは官僚らで、民衆は明日も知れない不安に囲い込まれてしまって、冴えない。

 中国の最初の新年は、本番の2月の春節へと助走・驀進させる期間となる。
<大みそかと元日に介護の汗かき>
 義母のマッサージをしながら思うことは、同じようなことを実母にしなかった、という後悔の念である。もう遅い。いないのだから。不幸息子は、早稲田を独力で入学、新聞配達から深夜バイトに明け暮れさせてしまった挙句に、大学病院での医療事故、そして介護に明け暮れて13年後、東芝病院でのいい加減すぎる介護で、入院直後に命を奪われてしまった。
 それでいて、反省も謝罪もしない東芝に翻弄されるという悲劇から、実母への親孝行に目が回らなかった。
 妻も心労で、息子の後を追ってしまった。
 こうした悲運が、今こうして北京で義母の介護をしている。運命に逆らうことは出来ないのだろうが、しかし、周囲を眺めると、幼い頃の友人は、次々とこの世から去ってしまっているではないか。
 長寿の年齢には程遠いが、生きることが、新たな運命を生み出してくれている。言葉の分からない世界での、人生もまた楽しい。本当である。息子や妻、友人の死を、つかぬ間、忘れさせてくれる。
<息子の医療事故に同情する被介護人>
 ベッドで横たわる歴戦の勇士は、再婚して5人の子供を儲けた。最初の夫は、東京帝国大学出身の革命家となった朝鮮人エリート。そのことを、悲劇の文化大革命で紅衛兵に問い詰められて泣いたという。
 幼いころは、夫を亡くした母親の手にぶら下がりながら、関東軍と抗日ゲリラで破壊された東北地方をさまようという、それこそ絶望の時代を過ごしてきた義母だ。
 今も頭脳明晰だ。僕のマッサージが一番といってくれる。1日は、日本語で「新年おめでとう」とあいさつしてくれた。彼女は僕の妻になってくれた長女に対して、大きな声で昔話に花を咲かせた。
 延安の戦士である夫を、100歳で見送った彼女もまた、100歳まで生きると僕が耳元で叫ぶと、彼女は「あなたもよく食べる。100歳まで心配ない」と応じる。

 そんな場面で、彼女は僕の悲運に同情しきりである。理由は、東芝の仕打ちに対してだ。
<日本軍はコレラ菌をまいて逃亡=新史実か>
 彼女は、日本敗戦のころのことにも触れた。あまり触れたくない秘事なのだろうが、人間の運命の不思議さを証明するかのように打ち明けた。
 むろん、関東軍のことである。そのころ、彼女はハルビンの近くにいたのであろう。
 「逃げる日本軍が、コレラ菌をまいていった。731部隊のコレラ菌で、一緒の部屋にいた同士は、次々と亡くなった。私も頭髪が抜けて、もう死ぬかと思った」と。

 彼女は親からもらった肉体が、コレラ菌に屈しなかったのだ。わが息子は、東大医学部OBの教授と助教授が、CTとMRIの撮影をしながら、ばい菌と脳腫瘍を見極め出来なかった、という今では信じられないミスをして、手術が手遅れ、植物人間を強いられてしまったものだ。
 鈴木善幸さんの息子さんの話では、安倍晋三の実弟も同じ病気をしながら、いま国会議員をしている。これまた人間の運命か。
<議論好きの中国人>
 大みそかに、5人の子供を育てた94歳の義母のもとに12人が集合した。長兄夫妻は、妻の手術した関係で欠席。むろん、ドイツ留学、卒業してシーメンスで活躍、いま夫とアメリカ暮らしのため、娘と孫も姿を見せなかった。

 彼女の夫は、米大規模病院で癌研究をしていて、月収2万ドル。母親の手術の時は、娘は北京の病院で細胞を切り取って、米国でチェックさせた。春には両親をアメリカに呼び寄せるのだという。
 二女の小学2年生の孫は、祖母に連れられ教会に通っていたが、今では僕の僅かな英語力をはるかに上回っていた。中国の英語教育は日本を超えているだろう。
 三女の息子夫妻は、よく外国旅行をする。今では「タイが一番」といって、現地ではレンタカーを利用して飛び回っている。すっかり母親と一緒に生活している末っ子の息子夫妻は、正月に北欧を旅する。レンタカーを駆使して、北欧の洋服を研究するらしい。

 その末っ子が、ことし60歳、年金が初めて支給される。月2000元。公務員ではないため低いが、中国の年金は物価に比例してぐんぐん上がっていく。義母のそれは1万2千500元。そっくり末っ子がもらって、毎月1万元を預金中。

 興味深かったのは、集まったファミリーが議論に花を咲かせることだった。議論好きの中国人に驚いた。「言論の自由」は家族、個人レベルでは完璧なのだ。
<お年玉に今季初の贅沢料理>
 大みそかと元日は、道路事情がいいのがいい。郊外から市内までの距離が急に縮まってくれる。これが本当の大みそかと元日になると、さらに良くなる。北京から人がいなくなるからだ。

 夕刻前に帰宅時のバスの中で、妻の携帯が鳴った。彼女の友人である張さんの息子からだ。食事の誘いだ。これは、どうやら介護のお年玉に相違ない。
 彼は妻と二人の娘を連れて、高級車を運転、マンション入り口で迎えてくれた。「小吊梨湯」というレストランに案内してくれた。中に入って驚いた。渋い感じの卓がたくさん並んでいる。ここに客が満席なのだ。
 張さんの息子さんは、個室を予約してくれていた。贅沢である。注文した料理は北京ダックから、魚と羊肉と高級料理ばかり。先日、新華社OBの友人らとの格差は歴然としていたものだから、恐縮して箸が進まない。

 客のほとんどがハンドル族だから、ヤシから取った飲み物で代用している。妻は「400元は下らない」といって心配顔だ。張さんの父親は、ここ数年来、冬は南の海南島暮らしである。人のいい張さんは、長安街の東・建国門の「長冨宮飯店」を日本人建築家と一緒に仕事をしたことが御自慢だった。

 若くして脳梗塞で倒れた妻のために誠心誠意尽くしたことに、我が妻も感動して知り合いになった。二人は困ったときは、お互いどんなことでも支え合ってきた同士である。息子の今の妻は、わが妻の紹介である。

 そんな縁で、僕は張さんが宝物のように大事に保管してきた茅台酒を、開けて飲ませてくれた。その古い年代物の、最高給の白酒のことを知った妻が仰天した。「今なら1万元でも手に入らない」というのだ。

 この茅台酒を、72年9月の日中国交回復のさい、田中角栄はがぶ飲みして、北京から上海までの帰路、周恩来の横でぐうぐういびきをかいて寝込んだ。傍らで大平正芳外相がハラハラしていた。大平さんの述懐である。
<北京の課題は空気・水・食料の安全確保>
 昨年の夏に張さんの妻と友人、二人の娘の4人で、8日間の東京・箱根の旅をして大満足だったといって、スマホの映像を見せてくれた。
 こうしたことも、本日の歓迎理由かも知れなかった。「上海のディズニーランドよりも、東京の方がいい」というのである。彼女は日本語もできるので、僕との対話が可能だ。

 箱根での、一泊10万円の家族部屋には、温泉付きだった。日本人だと目が飛び出るほど高額なのだが、彼女はあっけらかんとしている。「予約した時は満席だった」というのだ。
 多くの日本人が知らない間に、観光地は中国人で暴利を手にしているらしい。締めて5万元、日本円にして80万円である。
 「食事も最高、空気も最高。また行きたい」と大満足だと日本宣伝に一役買ってくれていた。残念ながら、いまの我がボロ屋では満足させることは不可能であることを、必死で説明するしかなかった。

 この高級レストランには、週2回は来ているとのこと、妻は張さんの息子に対して、お父さんの病気のことを心配して、預金も大事と説得していた。
 帰路の車内で、突然外からの声が入ってきた。電話である。いまの日本を知らないが、この車では携帯電話を手に持って話す必要はない。ハンドルを握りながらの会話である。むろん、レストランの支払いも携帯でOK。店員との接触も不要だった。

 中国とアメリカとの貿易戦争は、庶民にとって関心の深い事柄ではない。深刻なことは、安全な空気・水・食材であろう。政府の究極の目標は、ここにあるのだろう。張さん夫妻との対話の結論である。
2019年1月2日記(東京タイムズ元政治部長・政治評論家・日本記者クラブ会員)

jlj001 at 12:23 この記事をクリップ!
Archives
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

QRコード
QRコード
Recent Comments
Recent TrackBacks
livedoor Readerに登録
RSS
livedoor Blog(ブログ)