去る11月12日にベルギー研究会@都留文科大学で、今年の夏に受けたオランダ語の集中講座についての報告を行った。

いかにその時の配付資料を転載する。ご笑覧あれば光栄です。

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KU Leuvenの夏期講習に参加して

野崎次郎 2017.11.12
ベルギー研@都留文科大学

0) 自己紹介
教員歴、年齢。野崎塾。ルーヴェンの町の魅力。通年留学→夏期だけ。
「ベルギーにおける言語戦争(言語紛争)」への興味。ベルギーの言語政策(フランデレン、ワロニー、ブリュッセル)(ベルギーの統一性?)。スペインにおけるカタルーニャの分離独立運動。
1) KU Leuven(ルーヴェンカトリック大学)の夏期講習とは
・8月の4週間に集中授業(80時間)。ILTで
・前週の金曜日にクラス分けテスト、4週後半に各レベル毎の修了試験
・レベル1からレベル5(ヨーロッパ共通参照枠のA2, A2+, B1, B1+, B2)
・1クラス18名前後(実際は十数名)。各レベルに4, 5クラスから2, 3クラス設置。通年クラスにはレベル6があり、修了はC1
2) どのような授業であったか(教授法、教育状況などについて)
・受講生分布:1)ヨーロッパ出身のベルギー在住者、ルーヴェンやブリュッセルの学生・勤労者(彼らは普通に英語を話す)2)ワロンの院生(フランス語話者、リエージュ大学、フランス語圏の新ルーヴァン大学の学生)3)中東地域の出身者(難民、移民)4)南米出身者で夏だけ5)アジア・アフリカ出身者で在住者または夏だけ(私の場合)の順に多い。ここ数年で中東からの難民が増えた。年齢は二十代から三十代。40代以上は二、三名。
・教材範囲:Vanzelfsprekendのレベル1は Deel 1~Deel 6(6は超特急でPerfectumの作り方と過去分詞を覚えさせる程度)、 レベル2はレベル1の復習+Deel 6~Deel 10(10は超特急でImperfectumの作り方(規則動詞と不規則動詞)と活用を覚えさせる程度)。
・教授法はほとんどがいま流行の「アクティブ・ラーニング」。とくに今年の教師はほとんど「教えず」、課題の紙(絵とかが描いてある)を渡して、「さあ、2人で(3人で)始め!」というだけ。課題内容も明確に指示すらしない。パートナーと(オランダ語で)なにするんだろうと話してから始めるという具合。ぼおっとしているひともいるが、なんとかしてパートナーを見つけて練習しなければならない。
・去年、一昨年の教師はそれなりに「教えて」くれたので、さらに今年は3回目で一通りテキストと練習帳はすでに「自習」しておいたので、さらにさらに1月からライデン大学東京事務所のオランダ語講座(週2時間)を受けていたので(夏期集中なので自宅での自習時間は限られているのでその分の先取りが必要!)、私の場合は今年の「アクティブ・ラーニング」がおもな授業でも何とかついて行けた。
・昨年、一昨年を振り返り、今年の私の課題はSpreken(会話)であると自覚していた(*修了試験の配点表参照)ので、最初の授業時からパートナーとなるべきイタリア人を狙い撃ちしていた。
・今年は「会話」の試験の数日前から、さらに前々日、前日と、さらに当日の昼休み、教師、知人のベルギー人、級友たちとextraoefening(追加練習)をすることができた。会話の試験はパートナーとカフェで(テーマを与えられそれについてex. 「ベルギーとあなたの国を比較しなさい——比較級、最上級」「週末に何をしましたか——perfectum, imperfectum, 接続詞の使用、枠構造)自由会話をしているところを採点される。なので英語なまりのオランダ語、スペイン語なまりのオランダ語などになれておく必要がある。
・日本でのオランダ語の授業では、日本語なまりのオランダには慣れられるもののその他のなまりのオランダ語にはなれるのが難しい。Ex. een jaar
・Luisteren(聞き取り)は今後の課題。それにしても「日本語ネーティブ」にとって聞き取りが苦手な人が多いのは、脳内の反応が欧米人と違う? それとも年齢のせい? 個人的な経験だが、フランス語の聞き取りは二十数年前から関西に移住し、10年ほど住んでいたが、その間に著しく上昇した経験がある。インターネットの普及もあるが、関西の生活圏で使われている周波数が高いからではないか? 誰か研究してほしい…。
3) オランダ語の特徴、ベルギーにおけるオランダ語の地位
・オランダ語はドイツ語との類似性が極めて高い。文法面の枠構造(文頭に副詞(句)が来たとき定形第2位、従属接続詞に導かれる従属節の定形後置)、語彙面では語形成、複合語の作り方。活用(不定詞、過去形imperfectum、過去分詞——gehen-ging-gegangen vs gaan-ging-gegaan)発音に注意が必要。ga は「ハ」に近い。このような「活用」を覚えなければならない。
・文法はドイツ語に類似しているとはいえ、定形後置が厳格でない、接続法がないなど簡略化している。ドイツ語の文法が厳密であるのに対してオランダ語は緩い。「緩い」のは便利そうだがどこまで「緩い」のかわからないと判断に迷うという点も多々ある。英語くらいなら楽だが、それほどでもない。
・したがって「ドイツ語ネーティブ」とアラビア語、中国語、日本語をネーティブとする人との間の障壁の程度は著しい差があるだろう。私自身、ドイツ語をやっていたので、ある程度は楽になったが、フランス語から入ったのでかえって回り道になったこともある。Ex. slapen(眠る)の動詞を思い出せずにいたとき、dormirからdormenという動詞をでっち上げてしまった。英語のsleepからたどればよかった。jeを見ると思わず「私は」と早とちり。
・オランダ語には外来語が多い。その点単語の意味は受動的に分かりやすいが、発音がオランダ語化する。その難しさもある。ちょうど日本語で英語由来の外来語の発音に困るアメリカ人のように。ex. garage (gaはオランダ語のga「ハ」, geはフランス語のge「ジュ」)

4) まとめ
・ベルギーは「連邦制」を採用することによって「言語紛争」は現在一応静まっているが、フランス語を話したがらないフランドル人も多いし、オランダを話したがらないワロニー人も多い。「フランス語」は支配層の言語だった記憶がいまだに(無意識的に)残っているためだろう、フランス語への反感は根深いものがあるようだ。
・「一地域一言語主義」というフランスが蒔いた種のもとに言語政策がとられているためだが、EUの言語政策の根幹をなす「複言語主義」が、ブリュッセルを除いてベルギーで十全に生きていないのは、不思議といえば不思議である。フランデレンにおいても今なおフランスの影響からの脱却ができていないということか? ベルギーが今なおオランダから独立できていないということか?
・ベルギー人の「上層部」(支配層)は3カ国語(英語、オランダ語、フランス語)が必須のようであるが、これは一般庶民には広まっているとは言えない。かつての「支配層はフランス語で、庶民はオランダ語」という対立図式が言語種が変わったとはいえ残ったままである。ベルギーの一体性を論じようとする研究者はこの言語状況を総体的にとらえる必要があるように思う。