2016年02月01日
2016年02月01日
太閤園株式会社【リーダー、語る】
関西有数の結婚式場である太閤園株式会社。日本を代表する
観光企業グループ・藤田観光株式会社の一翼を担う存在として、大阪を訪れる多くのお客様をもてなしてきた。
その根底にある精神や今後の展開を、代表取締役社長の中村雅俊氏に伺った。
半世紀以上の時を越えて
現代のブライダル市場をリードする
”健全なる憩いの場“を提供する精神
太閤園株式会社
代表取締役社長・総支配人
中村 雅俊氏(55才)
結婚式数は関西トップクラス
世界の閣僚を招いた晩餐会も
淀川から分岐した大川が大阪の中心部へと流れ込むその畔に、緑に囲まれた8000坪の広大な敷地がある。太閤園だ。
太閤園のルーツは、1910年頃、当時の関西経済界の雄・藤田傳三郎が建造した網島御殿にまでさかのぼる。大半は戦火で消失してしまったが、その中で唯一戦災を免れた「淀川邸」が、1959年に大阪の迎賓館として開業。現在はゲストハウス「桜苑」やバンケット「迎賓館」、レストラン「リュクセレ」を加え、ウェディングや会議など、幅広いおもてなしを提供する太閤園となっている。
「淀川邸は、2008年のサミット財務大臣会議で晩餐会会場として使用されました。結婚式数も関西トップクラスです。」
そう教えてくれるのは、同社の代表取締役社長・中村雅俊氏。中村氏は新卒で入社したとき以来、藤田観光グループでの会社員生活のほぼ半分を太閤園で過ごしてきた。愛着もひとしおで、太閤園のことは隅から隅まで知り尽くした存在だ。
「当社の社是の一節に、『健全な憩いの場を提供する』とあります。これは、敗戦で打ちひしがれ、国土も国民の心も荒廃してしまっていた当社設立当時の社会状況が背景にあります。料理や結婚式といった『おもてなし』を通して憩いを提供することが、今も昔も変わらない当社の使命なのです。」
健全な憩いの場を提供するためには、空間・サービス・料理という三者のどれを欠かすこともできないと中村氏は考えている。空間については、淀川邸や築山式回遊庭園という、大正期から受け継いだ財産がある。サービスでは、「いつもありがとうのいちばん近くに」を合言葉に、お客様にほっとしてもらえるサービス、かゆい所に手が届くようなサービスを追求している。
「料理、特に和食は、純和風の空間とも相まって当社の最大の強みです。これをもっと研ぎ澄ませていき、お客様に感動を提供できるレベルを追い求めることで、『憩いの場』を実現したいと考えています。」
同社の和食、そして純和風の空間に対する思いは並々ならぬものがある。というのも、大正以来の伝統を受け継ぐ会社として、日本の文化を守り、次世代に繋いでいくことを重要な役割と位置づけているからだ。料理に関しては、歴代の料理長をはじめとしたOBを講師に招き、“太閤園の味"の継承に努めている。淀川邸は2016年から保存工事に着手。「変わることのない日本」が、この場所から未来へと発信されようとしている。
上質を求める利用者が増加
積極的に設備投資を展開中
太閤園の主要な事業分野といえば、ブライダル。しかし社会全体を見れば、少子化や晩婚化といった逆風状態にある。さらに、ごく親しい人達だけを招いて式を挙げる「少人数婚」や、そもそも式を挙げない「なし婚」が広がりつつある。だが、中村氏は悲観していない。
「招待客数を絞り込むからこそ、しっかりともてなしたいというニーズがあります。晩婚化は、料理やサービスを見極める目の肥えた人が結婚式を挙げるという意味でもあります。いずれも、当社が培ってきた上質のおもてなしへの期待を高めています。特に、和食を中心とした淀川邸へのニーズは大きくなっています。」
20代を中心とした結婚式の“若手層”についても、中村氏は近年の変化を感じている。この世代は、いわゆる「ゆとり世代」だ。
「自分で決めることが苦手なように感じますね。サービスが多様化した現在の結婚式では、決めるべきことが山のようにある。以前はコーディネーターがお客様に応じたプランを提案し、判断はお客様にゆだねていました。ところが最近は、『こちらがお似合いではないでしょうか』といった具合に、一歩踏み込んで判断のお手伝いまでしてあげる。そうすることで、しっかりとサポートしてもらえたという満足感につながっています。」
同社は2015年に、積極的な設備投資を行い、施設の改装やリニューアルを行った。同時に、コーディネーターの提案方法の変化のように、ソフト面でも時代に即した新たな取り組みを広げている。伝統に安住することなく、次の時代を見据えて変化に挑戦する。それが、現在の太閤園の姿と言えるだろう。
仕事を通して自らを磨き
豊かな人生を実現できる環境
強みである和食をさらに確固たるものにし、未来へと受け継いでいくことは同社の重要テーマだ。そこで取り組んでいるのが、ノウハウの形式知化。つまり、調理人が修業などによって受け継いできた技と知恵を、文字や映像として残していこうというものだ。これは和食だけでなく、他ジャンルの料理や、サービスの教育でも取り入れられている。また、社内でコンテストを開いたり、体系的な研修制度を設けるなど、全国展開する観光グループならではの人材育成が行われている。
「和食の命は出汁です。お客様から『これぞ太閤園の出汁』と言っていただけるものを受け継ぐことに、現在全力を傾けています。ぜひ、皆さんにも太閤園の出汁を学んでもらいたいです。」
中村氏はさらに、同社だからこそ得られるものを指摘する。
「ありがたいことに当社は、世界中の紳士淑女の方々にご利用頂いています。そういったお客様をおもてなしするには、私達自身も紳士淑女である必要があります。そのためには、料理やサービスだけに留まらず、日常のすべての場面において自らを磨いていく必要があります。大変なことかもしれません。しかしそれは、自分の人生を豊かにする行為です。ここにやりがいや楽しさを見い出せ、身に付けたものでお客様をおもてなししたいと考える人には、当社は最高の環境ですよ。」
1984年 藤田観光入社。出身地の東京を離れ、太閤園に配属。フランス料理のレストランでボーイとしてキャリアをスタートする。
1990年 本社人事部教育課へ異動。品質管理活動などを担当する。
1995年 中期経営計画の策定など、全社的な経営を視野に入れた業務に携わるように。
2011年 経営企画部部長に就任。
2012年 藤田観光の執行役員に就任。
2014年 太閤園の総支配人に就任。
淀川邸
1914年(大正3年)の建造当時の姿を今に伝える。一枚彫りの欄間など、調度品も一級の品々が用いられている。緑豊かな築山回遊式庭園は、和装だけでなくドレスにも映える舞台として人気。
COMPANY DATA
太閤園株式会社
電話:06-6356-1139
住所:大阪市都島区網島町9-10
展開ブランド
・料亭 淀川邸
・ゲストハウス 桜苑
・バンケット 迎賓館
・レストラン リュクセレ
「グルメキャリー2016年1月21日号」掲載