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ESS Technology 社の最新DAC ES9038Proを採用した、AIT DACの試作機を聴きました。

ESSは、ES9018の時点でその類稀なるSNや付帯音の少なさ、そして独自のジッタ低減モード(Lowestなど、普通のSPDIFでは中々ロックしないことで話題になったアレです)など、それまでのBurrbrownやWolfsonと比べて聴感でも優れており、アナログライクな質感はとうとうここまでDACもきたのか、、、と思わせる出来映えでした。

そのESS社が繰り出す最新の9038Proは、巷でも登場が今か今かと噂され、海外ではゲームチェンジャーと言われているDACチップです。そんな「9038Proを搭載した試作品が完成した」と、オーディオ師匠の通快さんから聴いたのが先週のこと。

そのインプレッションが「まだ上には上があるのかよ……orz」 という意味深なものだったので、気になって仕方がないってなもんです。そこで本日、試聴機を借りて聴いてみました。

借りた試作機は、9018Sの基板に9038Proを搭載して改造したものですが、9038はDA変換後のアナログ出力の電流量が大幅に増えており、そのままでは使用できないため各バーツの定数を変更しているようです。また、チップアナログ出力の高周波成分も9018Sよりも低減されており、DACのI/V変換回路の負担も減るため、より簡単にいい音が出せそう、と聴いていました。

早速試聴機の電源に差し、手持ちの 9018AIT DACと比較するために、
・動作周波数90MHz
・DSDアップコンバート512(22.6MHz)
・asy(ESS独自のジッタ低減回路オン)
で音だしします。

すると、、、、

9018から切り替えて音だしした瞬間から、その音の純度と細やかさに驚きました。本当に音出ししてものの数秒で、音のクオリティが桁違いに上がっていることが伝わってくるのです。


細かく観察すると、大きな変化点は3つあります。

一つ目は、音色の変化。
明らかに付帯音が減り、スッキリとした音色になるとともに、中域の膨らみが9018に比べ抑えられています。
これはDACアナログ出力の高周波が大幅に減っていることが影響しているんでしょうか?
濁りが減り、音場の見透しがよくなり奥行感が一回り大きくなった結果として、中域の膨らみが抑えられています。

二つ目は、解像感とSNの向上。
リモートセンシング回路にパワーを改造したときの変化に似ていますが、分解能が上がり情報の粒がぎゅっと小さくなり、圧倒的に繊細になりました。素晴らしいのは何も音がない時と、暗騒音がある時の描き分けで、本当に自然でありながら「リアル」な雰囲気が感じられます。恐ろしいほどのSN感です。
古い録音のヒスノイズや暗騒音などが耳障りではないのに、細かくリアルに再現されます。
特定の帯域が目立ってヒスノイズなどがよく聴き取れるDACはありますが、そうしたものは演奏が始まっても耳障りで概ね主旋律の楽器類もどこかしらピーク感がつきまといます。
ところが9038はヒスノイズや暗騒音の時点で非常にステレオ感豊富で拡がりのある出色で、演奏が始まるとその楽器類の生々しさにぶっとばされます。
ものすごいリアリズムです。

そして3つ目は、音の立ち上がりと立ち下がりの鋭敏さです。
これは全域にわたるもので、とにかく音色の崩れが少なくなり、波形通りに再現され波形通りに消失するような気持ちよさがあります。

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例えるなら、拙宅のLS-1800が最新のB&Wのスピーカーに変化したような、そんな鳴り方の変わりようです。冗談のようですが、本当にこのパルプコーンセミドームミッドレンジとベリリウムツィーターから、細やかな音の連続による実にトランジェントの良い、さっぱりとした音が出てきます。
所謂ハイエンドスピーカーのような音です。

その中でも特に低音の変化が顕著で、立ち上がる低音が崩れずに再現されるため、輪郭がスッキリしてベースラインの動きがよく分かります。それで平板な音ならよくあるんですが、その低域の立ち上がりに力感があるのです。先程のSNの良さにも関係するんでしょうが、なにも音がないところから、打楽器の立ち上がった瞬間のダイナミックコントラストが素晴らしく、まるでアンプの駆動力が倍増したかのような鳴りっぷりでした。
比べてしまうと、9018は全体のクリアネスが低下して特に低域はアタックが丸まってしまっているように聴こえてしまいます。

9038はDACの出力電流が9018に比べ何倍かになっているということでしたが、この変化はその点も関係してるんでしょうか?アンプに注ぎ込まれるDAC出力の低音の成分が変わったとしか思えないですが、エネルギーに満ちた、素晴らしい躍動感を出してきます。

ソースとしてはボーカルやクラシックはスピーカーを変えたような奥行感と静かな鳴りに感動しっぱなしで、唯一ロックだけは少し大人しい、音像がスッキリとしすぎて勢いが減ってしまっていましたが、素晴らしい音に感激しました。
このあたりの印象は、後編の試聴に使ったディスクごとの印象編にて書いてみたいと思います。


AIT ES9018はDACとして完成された領域にあると思っていましたが、更に上をいくとは、、、、変化量としてはパワーアンプと並んでトップレベルの進化と言えそうです。
もう十分と感じていた9018の滑らかな質感を、SNと解像感で大幅にアップデートしながら、PCM1794Aなどを採用したDACと比べ唯一の弱点かと思っていたサウンドのダイナミックさ、抑揚感でも遥かに凌ぐのではないか、、、
という感触です。

試聴を終えて9018に戻すと、なんだか普通の音にしか聴こえないくらい、物足りなさを感じてしまいました。

GameChangerといわれるESS Technology 9038Pro、この進化は間違いなく、今後のCD、およびSACD,ハイレゾ音源などの再生に革命的なインパクトをもたらしそうです。


その片鱗を垣間見た、僅か1時間半の試聴でした。