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Holo Audioの最新のDAコンバーター”MAY DAC”。
ディスクリートR2Rラダー型の、デルタシグマ変換を用いないマルチビット型のDAコンバーターでありながら、独自の線形補正を施すことでDynamicRange130dBを超える性能を持つ、今米国のAudio市場を賑わせているDAコンバーターです。

Schiit Ygdrasill DAコンバーターを購入以来、最新のマルチビットDACに興味が出てきたので追加しました。


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※20/9/17更新:この記事は初期インプレッションと商品紹介です。
その後のインプレッション、使いこなしなどは ↓ に記事(あたらしい順)があります。

Holo Audio May DAC 〜購入後1年レビュー〜
デジタルフィルターとDSD512再生
普通の選択の素晴らしさ(ヒューズ交換記)
Holo Audio May 24/32bitの音
DAC比較試聴
デジタルフィルターとPCM1536kHz再生
DA変換のアプローチと音質
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HoloAudioは、創業者でありエンジニアであるJeff Zhuが立ち上げたメーカーです。R&Dと生産は中国の蘇州ですが、Globalへの販売は米国を拠点にしているようで、”HoloAudio”と入力するとUSのサイトが最初に出てきます。ヘッドホンアンプやUSB DDコンバーターなども好評なメーカーのようですが、DACでは前作のSpring DACが、US $2,000代の低価格で手に入るプライスゾーンにデジタルオーバーサンプリングを用いないNon Oversampling(以下NOS)かつ、今となっては希少性の高い「ディスクリート構成のR2Rラダー型マルチビットDAC」を搭載して登場したことで話題になっていました。

ここ15年位のオーディオ業界のトレンドとして、自作品やキット品ではないメーカーからR2R型DACがリリースされること自体珍しいのですが、このSpring DACがなぜ話題になったかというと性能を高めることが難しいマルチビット型DACにおいて、頭一つ抜けた性能、つまり現代のスタンダードとなっているESSのES9018K2Mや旭化成のAK4495/4497などのシグマ型DACチップを搭載した、完成品としてのDACのパフォーマンスに近い性能を出していたから、でした。
実際に、THD+N 0.0005%以下、Dynamic Range 116dB以上という測定値は、よくできたシグマDACに近いものであり、マルチビット型DACのほぼ限界なのではないか、と言われていました。

その肝が「線形補正」と言われる独自の特許を持つ補正方式らしく、デルタシグマモジュレーションを用いないマルチビットDACの場合に問題となるR2Rラダーの抵抗値のバラつきを補正し、変換の直線性を保つ方式のようです。このあたりはUSのホームページに概念が書いてあるので興味がある方は読んでみることをお勧めします。
そのSpring DACは、このBlogでも3回にわけてレビューしたアメリカのマルチビットDACであるSchiit Audio YGGDRASILと共に、ほぼ同価格帯ながらどちらも独自性の高いアーキテクチャーを持ち、こだわりのマルチビットDA変換を採用し、ローバジェットながら本格的なオーディオ機器を熱望するアメリカ市場のヘッドフォン愛好家やホームオーディオ愛好家に支持されました。このあたりはHead-FiやAudio Science review などを検索すると、ものすごく多くの書き込みが見られます。
近年はオーディオ機器の2極化が激しく、ハイエンドな機種や独自性の高い機材は高騰を続けていますが、やはり$1,500-3,000くらいの、多くの一般的な勤め人であると同時に音楽ファンでもあるユーザーに手の届きやすい価格帯に、既存のDACチップを使っただけの製品とは一味も二味も違う拘りを音にもアーキテクチャーにも持つ製品があることは、大変喜ばしいことです。

そのSpring DACはUSB入力が強化されたりしながら世代を重ね、Spring2 DACとなって販売を継続していますが、
そのHoloAudioがSpring DACの上位機種にあたる同社ハイエンドDAコンバーター・「May DAC」を出す
という情報を知ったのは、ちょうど昨年YGGDRASILを購入する前後でした。

丁度YGGDRASIL購入を悩み海外フォーラムを読み漁っているときで、当時はSpring DACより一段上の価格なこともあり「そうか上位機種出すのか〜〜」くらいで流していました。しかしその後、到着したYGGDRASILのエージングに一喜一憂しながら聴き込む中で、音楽性に振った音色などに大いに楽しませてもらう一方、その極めてハーシュネスの少ない高域トーン、まるで変換が少ないことによるシンプルなアーキテクチャーが音の佇まいに出ているかのような派手さの無い表現に感心する中で、自然にMay DACの事が気になって仕方なくなっていきました(笑。
多くのフォーラムで語られていた、マルチビット型とシグマ型DAコンバーターの違いについて、自分自身の体験として確証を得るほどに複数の機種を試したことはないですが、実際に音を聴いていて大いに楽しめたことからすっかりUSオーディオフォーラムの動向に首ったけになっていました。

普段から標準原器としては、よく出来た現代的ハイエンドDACチップを使いこなしたDAコンバーターであるAIT ES9038 Dualのちょっと古いバージョンを愛用していますが、そうした現代的スタンダードは踏まえたうえで、そうした多くのDACの測定値を抜いて、
測定値だけであればMSBですら上回る値・THD+N 0.00011%、DR130dB以上
をたたき出した、ディスクリートR2Rラダー型マルチビットDACがどんな音世界を見せてくれるのか、楽しみしかありません。
そんなこんなで、自然と注文していました。


■筐体など
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筐体は高さ55mm(足まで含めると70伉度)のスマートな漆黒のアルミ製ケースに覆われたケースによる2筐体構成。ボタンのついている方がDACモジュールの格納された心臓部。下の部分が電源部です。
DAコンバーターもこだわっていくと電源部別筐体になることは世の中のハイエンド機器が証明していますが、あくまで薄型の筐体に電源部もDAコンバーター部も収めていることに、メーカーの美学を感じます。他のメーカーではMSBなどはやはり薄型の筐体に拘っていますが、重ねた状態で格好良く、それほど嵩張らず、なによりデザイン的にも引き締まっている印象があり、中々よい雰囲気です。

May Dacだけでなく、Holo AudioのDAコンバーターには3つのVersionがあり、KTEはKitsune Tuned Editionの略らしく、Level1、Level2などの上にKTEがあります。各バージョンはアーキテクチャは同じですが、最後の音のチューニングのところで部品を選定してチューニングを分けており、KTEは独自のチューニングを行っているようです。
具体的には、専用電源部からDAC部ボディへ送られた後にマルチステージのDC変換を給電される電源部のコンデンサにHoloAudio印字の入った独自のカスタムコンデンサーを使っているほか、基板間の接続線をOCC銅線から1.5mm純銀線に置き換えているほか、接続を通常の差し込み式の端子を排してすべてはんだ付けしているようです。

私が手に入れたのは、KTEエディションですが、これだけ(と言ったら失礼ながら)ならKTEを購入しませんでした。購入を決意したのは、KTEのみ、DAコンデンサーの心臓部であるR2Rラダーモジュールが選定された抵抗で組まれており、実際にそれによりLevel2などより数%程度ではあっても性能向上があったから、でした。

冒頭にリンクを貼った測定値はKTEではなくLevel2のものらしいので、ここから選定されているとはいえバラつきはあるでしょうが、ここから更に上に行っている、、、
っていうだけでもロマンがあるな、と思いKTEにしました。

その他には、全モデル共通で採用しているのがOリングタイプのコア形状のトロイダルコアトランスで、巻き線にフラットワイヤーを使用していることが特徴で、従来の丸線巻き線のものや、前作のSpring DAC KTEエディションに使っていた4N Silver巻き線のOリングコアトランスよりも優れているようです。電源部はこのOリングコアトランス(100VA)を左右別々に搭載しています。

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カバーに覆われた部分が左右の選定済 R2R DACモジュール。
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■音質
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細かな技術的なことや、性能面のことは後半に回して、先に音の印象です。

現時点でエージング時間は約9日(200時間程度)なので、変化する可能性は高いですが、その前提で書きます。試聴しているシステムは、

ヘッドフォンシステムが、
PC:自作(Core i7+静音ファン, 750wGold電源)(USB接続)⇒ 
DAC:HoloAudio May Dac (バランス出力) ⇒
ヘッドフォンアンプ:AITヘッドフォンアンプ ⇒ 
ヘッドフォン:Onkyo A800(バランス駆動)

スピーカーシステムが、
Onkyo C-7000R(CDトランスポート)(同軸出力)⇒
DAC:HoloAudio May Dac (バランス出力)⇒
PRE AMP: ROTEL RC1090 (バランス出力)⇒ 
POWER:AIT Stereo power AMP(バイアンプ)⇒
SPEAKER:KENWOOD LS-1800 tuned edition

という構成です。

 
こんなシステム構成で聴くHoloAudio May DAC、思ったよりもHi-Fiです。
YGGDRASILが殊の外音楽的な音色、つまり中域の余韻が厚く、ある種のアナログ体験を彷彿とさせるようなトーンが特徴的なのに対して、May Dacにはそうしたアナログ的な雰囲気に加え、真面目で基本性能の高いハイファイオーディオらしい部分も感じられます。
音色はピラミッドバランスのオーディオ機器として王道のバランスで、特に変な個性はありません。色々オーディオ機器を聴いてきてわかってきましたが、ハイ上がりや硬い音色などの変わったトーンバランスにすることなく、あくまで自然さを感じさせるバランス・質感を保ちながら高い分解能を感じさせるクオリティを出すことは本当に難しく、非凡なことのようです。それ故にそうした機材はやはり拘りの産物であることが多く、価格も高価なことが多いです。

そして、May DACにはエージング300時間超の現時点で、その非凡な才能が感じられます。


素晴らしい点として、美しい音色と自然な質感を持ちながら、基本性能がしっかり高いことが聴力でも感じられることです。測定結果を見てから聴いていることを差し引いても、大変高性能な感じが伝わってきます。解像度に於いてはこれまで聴いてきた中であまり右に出るものがないAIT ES9038 Dual DACから繋ぎ変えても、それほど解像感のダウンを感じません。

情報量はとても多く、またピーク感や刺激が少なく響きの素直なため、
音の減衰していく様がよくわかり、響きの綺麗さをはっきりと意識させます。


帯域別にみていくと、低域はグッと引き締まっていて、それでいて力感があります。ヘッドホンでも感じられますが、スピーカーシステムで聴くとより分かりやすく、曲によっては怒涛の低域が出て来ます。よくある表現ですが、パワーアンプ、スピーカーを変えたんじゃないか、というくらいの圧力が感じられます。
力感と厚みがありながら、立下りも鈍くはありません。柔らかな余韻も無くはないですが、どちらかというと量感があって広がるよりはマッシブなキレを感じさせる低域表現です。

こうした引き締まった重い表現、石か何かでたたかれるような重さと収束の早さを伴った低域表現は、Mark Levinson のNo.30.6など本当に物量投資がされたオーディオ機器からしか感じられたことがなかったものです。
薄型ながら電源別筐体の効果もあるんでしょうが、HoloAudioによると、電源部の設計は常時容量の40%以下の使用量に抑えることで、-140dBを大きく下回る低ノイズ電源を実現しているようです。これは、一般的によくある容量の80-90%程度使用されている電源よりも、遥かに低歪化ができる、とHolo Audioは訴求しています。

こうしたゆとりのある電源設計は、もちろん測定・聴感のSN感にも効くはずですが、この力感もその恩恵なのかもしれません。


ちなみにハイエンドオーディオでは電源ユニットが別筐体式の製品はよく見られますが、電源規模も筐体サイズも大きくなる分、漏洩磁束により他の機器に及ぼす影響や逆に他の機器から受ける影響も大きくなりますが、ここは何を重視するかかもしれません。

別筐体式だとセッティングも含めて難易度=カスタマーが出来る設置の組み合わせが飛躍的に増えていきます。それがオーディオ的にはやることが多くて楽しくはあるんですが、同時に悩みどころでもあります。

May Dacの場合も、電源部とDAコンバーター部を重ねおきしないでそれぞれ設置した方が、僅かに音が良かったです。DAコンバーター部の足元の素材(床板なのか、電源部のアルミ筐体なのか)による違いや、磁束の関係があるのかもしれません。
ただ弁解してあげるわけではないですが、重ねおきしたときの音も酷いわけではなく、それなりに聴ける感じでした。DAコンバーター部も電源部も、金色の切削品ぽい金属の足の接地面に弾力性のある透明な半球型ゴムが5つ埋め込まれたインシュレーターもこだわられてそうなものが付属してますが、そのあたりの貢献もありそうです。

脱線しましたが、中高域はプレーンな音色で、基本は分解能が高く音の輪郭や動きが分かるのですが、高域に硬さを感じたり、無駄なアーチファクトのようなチリチリしたような癖が感じられないのはよく出来ています。
とてもHi-Fiであるにも関わらず、最後の一歩のところの質感は柔らかく、聴き心地が良いです。これがこだわりのマルチビットDA変換方式とNosモードで、徹底的に性能を高めることで実現したい世界観なのかもしれません。

また本DACは結構多機能で、デジタルオーバーサンプリング処理を用いないNOSモードがウリですが、それ以外にもOSモード(より高い周波数のPCMにオーバーサンプリング、一般的なオーバーサンプリングモード)、OS PCMモード(すべての信号(PCMもDSDも)をより高いPCM信号へコンバート)、OS DSDモード(すべての信号(PCMもDSDも)をDSDへ変換)と4モードのデジタル処理を選べるようになっています。

これがなかなか面白く、クラシックやあまり加工処理が激しくないと思われる声楽などは、明らかにNOSモードが楽器や声の厚みと滑らかさ、余計な硬さを感じさせるような高域の質感が無く、洗練されています。このモードで音作りを一番にしているであろうことが伝わってきます。
余計な質感が付かない結果、制約されていない僅かにふくよかさを感じる音像が広めの音場の中に「自然にいる感じ」がしてとても聴きやすいです。

クラシック音源の中でも、特に素晴らしく感じたのはピアノでした。
分解能の全域の高さ、とりわけ中低域が力がありながら解像力があることが良く生きていて、打鍵の音に厚みがありながら濁りがなく、大変ダイナミックかつ繊細です。また、中高域の響きも突っ張った感じや硬さが無く、アタックの後の余韻が美しく減衰していく様が聴こえます。
とても音色が美しく、演奏に引き込まれます。

またそうした楽器の音色と相関していますが、楽器の存在が悪目立ちせず必要以上に主張しないためか、空間の拡がりが大変自然に感じられます。怒涛のフォルテッシモでさえ、迫力があるのにクリアーであり、ホールトーンの中に自然に減衰して消えていきます。
もちろんNOSモードです。

この音色のなめらかな減衰は本当に美しく、ずっと聴いていたくなる魅力があります。
打たれた波面が滑らかに広がって消えていく様を静かにみているような、そんな印象が残ります。それでいて、そうした印象が決して立ち上がりを鈍くしたりして「静かな音」に仕上げたような作為的な印象を抱かせないところが「凄い」のです。つまり、そうした丸めた音ではないところが、「基本性能が高い」と感じる一因でもあったりします。
結果、鈍すぎる、とか、響きが過多、などの癖を感じて明確に合わない!と感じるソースがないのです。


ちなみにOSモードにすると、若干高域がすっきりして伸びる代わりに、音像が少し引き締まり空間が広く感じられますが、僅かに高域がカチッとします。これは良し悪し、好き嫌いがわかれるかもしれません。いわゆるピュアaudioっぽい音源を聴くなら間違いなくNOSの方がよさそうですが、すっきり感や多少の刺激もほしい場合や、なによりソースによっても合う合わないが多少ありそうです。
また特性的にもNOSモードにすると原理的に-2~3dB程度20kHzでF特が減衰するようですが、これも楽曲によってははっきりと少し高域が下がることが分かります。
その結果としてなのか、NOSモードは中域が色濃く感じられて、むしろ中域の情報量が増えて明らかに余韻がクリーンできれいに感じられる楽曲もあったりします。高域が下がる、というとハイ落ちの音楽的な音色のように聞こえるかもしれませんが、NOSモードでも大変高性能です。少なくとも性能がよさそうな感じは伝わってきます。。

これをOSモードにすると、よりスッキリするのです。個人的にはEDMやロックなどの打ち込み音源も多用している楽曲は、OSモードとNOSモードでどちらがいいかは半々、といった印象です。今のところ。


現時点ではたまに硬さを感じたり、帯域内で一部だけ解れないような印象を感じることがありますが、これが1000時間程度のエージングを経たときにどのように変わるのか、、、今から楽しみな音が出ています(^^


エージングの進行とともに、音の印象はアップデートしていこうと思います。


■入力による音の違い
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後段で詳細書きますが、May DacはクロックにVCXOを使用した独自のFIFOバッファによるPLLジッタ低減回路を搭載しています。この効果がすさまじいらしく、業界最高の低減効果を謳っています。
実は普段使用しているAIT DACも、独自の3モードVCXO+FIFOバッファによるジッタ低減システムを搭載しており、その音への影響力は、同じES9018やES9038を搭載したDAコンバーター製品と聴き比べるとよく分かるので、ジッタ低減がいかに音へ影響するかは、ある程度理解しています。

ただし、如何にDAC側のジッターエリミネーターが優れていようと、やはり接続機器による音の差はあります。それは、どんなに優れた機器でもジッタ低減効果が無限大ではないだろうことと、どんな機器でも固有の音色を持っているため、気づくのかもしれません。仮に全く同じ出力機器で、音色も寸分違わずジッタ量だけ違う機器があれば、人の聴感の限界を超えた低減効果に達していた場合は、気づかないかもしれないですが…。

そんなこんなで、May Dacでも、最初のうちはヘッドフォンシステムのほうでは上記の通りPCからUSBでダイレクトに接続していました。このUSBも、XMOSを使用したものですが、内部のコードはすべてHolo Audio の代表であるJeff Zhuにより書かれており、アイソレーターを強化した自信作(Generation 2)のようです。これはこれで十分なクオリティで特に何の不足も感じていなかったのですが、試しに最近使っていなかったUSB DDCのGustard U12が遊んでいたので、U12へUSBを接続して、U12からIIS接続でMay Dacへつないでみたら、これがなかなか良い音でした。

USB出力もかなり良く、パソコンシステムの方で使っているCDトランスポートのSofton Model3に比べてわずかにシャープで切れ込みが良く、音質は悪く無かったのですが、IISの音は、より中域が濃くなり、高域が透き通るような印象で、音と音が重なったときの混濁の無さが印象的です。
一方レンジ感と高域の伸びではUSB入力の方がよく、全体に細身でスッキリながら中域の濃さと柔らかさはIISが良い感じです。

若干細身なのはGustard U12の音のキャラで、過去同軸接続をしているときから感じていましたが、それを差し引いても音色と情報量は素晴らかったです。
試しにU12からMay Dacへの入力を同軸ケーブル(ZAOLLA銀線ケーブル)にしてみると、悪くはありませんがIISほどの解像感は感じられません。HoloAudioはIIS出力ができるDDCのKTEバージョンも販売していますが、多くのユーザーがこのUSB DDCを一緒に購入するケースが多いことも納得の音質でした。

ちなみにYGGDRASILの場合は、USB入力に比べ同軸入力の音質があまりよくないのか、もしくは独自のGen5 USB入力の音質が優れているのか分かりませんが、USBダイレクト入力の方がGustard U12経由の同軸入力より1段も2段も音質が上でした。


■技術的なポイント

HoloAudioはホームページに、機器内部の写真が公開されています。内部情報などを全く出さないメーカーも多いですが、内部をあえて出していることは意欲的でもありますし、なにより自作をかじったことのある自分のような人にとっては色々と勉強にもなるため、興味津々だったりします。どこまであっているか分かりませんが、写真を見ていて気付いた点をいくつか書いておきます。

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電源部は左右別に、先ほどのOリングコアトロイダルトランスともう一つ15VA(7.5+7.5)の基盤実装型のトロイダルトランスが一つ載っています。アナログ電源とデジタル電源でしょうか。青色の小さなトランス、Oリングトランスの方共に整流器はショットキーバリアダイオードを使っているようです。
アナログ電源用は正負で6800μFで、デジタル電源用は1200μF?が2系統で1μFのフィルムコンデンサが沢山あります。パラってるのかな、、、つたない自作レベルでいろいろやってた時に、223(0.022μF)、104(0.1μF)や103(0.01μF)あたりは良く電解コンデンサーにパラレルに入れていましたが、105(1μF)は結構大きい値ですね。このあたりは恐らく相当聴き込んでやってるでしょうから、参考になって大変面白いですね。コンデンサの銘柄にもヒアリングの末行きついた、相当のこだわりがあるようです。
ちなみにKTEバージョンでは、100VAのOリングトランスの巻き線のフラットワイヤーに6N純度のOFC巻き線を使用しています。

電源から左右独立構造で、消費電力は合計60W。DAコンバーターとしてはトップレベルに消費電力が高いほうですが、このクラスの消費電力は、Soulnote D-2が56Wということで驚いた記憶がありますが、それを超えています。
どこでこの消費電力が掛かっているのか、、、わかりませんが、後段のDAC回路の中で動いているFPGA なのか、R2R DACに十分なアイドル電流をかけているのか、詳細は不明ですが、とりあえずDAコンバーター部の筐体は結構温かくなります。

DAコンバーター部が温かくなる理由として考えられるのは、DACメインユニット側で電源電圧の生成を多段レギュレーターで行っているから、かもしれません。つまり電源ユニット部はどトランス/ダイオードを介して高めのDC電圧で整流したものをDACメインユニットに供給しているのみのようです。近年のPCを中心とした高周波信号を扱うシステムを筆頭に、オーディオでも増えているPoint of load(その電圧を消費する負荷の直近に電源電圧生成機=レギュレーターを置く)の思想がありますが、実際にDACメインモジュール側でどの程度このPoint of loadの思想が取り入れられているのか分かりませんが(というか実装面積がかかるディスクリートDAモジュールなどを採用している場合は、その実装面積がそのまま電源供給などでも必要となる基板上の配線長に直結するため。そもそもPoint of loadの思想には向いていないと思います。)そんなレベルでなくても、電源別体の場合長いDCケーブルでレギュレーションした5Vやら3.3Vやらの低いDCを流すメリットは何もなく、むしろのノイズを拾いやすくなるだけでデメリットしかありません。


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続いてDAC部のインプット部。
SPDIF(Coaxial, AES/EBU / Toslink)インプットは旭化成のAK4116(192kHzまでのレシーバー)を使用しているようです。USBはXMOSを使いながら、回路配線引き回しとプログラムをHoloAudioが作り直したオリジナル入力(Gen2)を使用。
その入力信号はアップサンプリングをする場合はAK4137を使ってより高い周波数のPCMに、またはDSD変換が可能なようです。Datasheetを読むとInputもOutputも~768kHzまで対応しているサンプリングレートコンバーターなので、後段のDACモジュールもPCM1536kHzまで対応しているようなので、アップサンプリングする場合は768kで流しているのかもしれません。
AK4137にはPCM用のデジタルフィルターのフィルター特性に「Sharp roll-off」、「Slow roll-off」、「Short delay Sharp roll-off」、「Short delay Slow roll-off」の4つ、DSDフィルターには「Short delay Sharp roll-off」、「Short delay Slow roll-off」の2つのフィルターが選べるようですが、May DACの「OS」、「OS PCM」モード、そして「OS DSD」モードはそれぞれどのモードを選んでいるのか気になります(^^
NOSがF特的には少し落ちているとすると、そこから高域が少し控えめに伸びる「OS」モードはShot delayタイプかそうでないかは分かりませんがSlowのフィルターを使ってそうかな〜?と妄想しています(笑)(全然外れてるかもしれないので、そしたら赤面ものですがw)
兄弟機種のSpring DACのStereophile測定結果を見ると、Shortタイプかどうかはわからないですが周波数遮断特性だけみると明らかにSharpフィルターを使用しているように見えます。

市販チップを使ったオーバーサンプリングは、ほかのブランドの長ーいタップ数を用いたカスタムフィルターをごっついDSP複数枚で演算しているデジタルフィルターに比べると簡素にも見えるかも気がするかもしれませんが、May DACの本分はあくまで「NOS」モードです。NOSで一番バランスが良く聴こえることは間違いなく、結局その状態でどれだけ高品質さと音楽の楽しさが共存しているか次第でしょう。
ただ断っておくと、OSモードもOS PCMモードも、如何にもデジタル処理しています、みたいな硬さなどがあるようなレベルのものではなくて、わずかにサウンドの佇まいが変わり音場の出方が変わる程度の変化量です。全然違うDACから比べたら、当たり前ですがすべて同じDACの音傾向です。

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そしてシステムの中核である、心臓部です。二つのFPGA Altera MAX Vが使用されています。

WEBの記載によると、May DACは相当ジッター低減にこだわっているようで、FIFOバッファによるジッター低減回路を組んでいるようです。基準となるクロックには、一般に流通している中で性能の良いVCXOであるCrystek CVHD-957を使用しています。これにローノイズ電源を組み合わせているのでしょう。
CVHD-957はフェムト級クロックと名乗っているものの、数百万クラスのDACに搭載されるカスタムクロックモジュールからすると性能はそこまで及んでいないようですが、そもそもそういうモジュールは部品代だけで個人で手に入れようとすると数百ドル〜千ドル近くするものもあります。
そうした一部の「超」ハイエンド機器に搭載されるカスタムクロックは、水晶のカットの仕方一つ見ても通常の切り出し方と異なる方式(通常流通品の「ATカット」と呼ばれる方式に対して異なる「SCカット」という方式など)を採用し、手間の掛かる水晶のカット片を使用しているため生産性が良くないため、価格が高いという側面もあるようです。やっぱりうん百万の製品の世界で追及している製品は、一部パーツも規格外・別世界なんだと思います。

そうした超弩級カスタムモジュールを別にすれば、量産でまだ常識的な価格(といっても部品代としては高いと思いますが)で購入できるクロックとしては悪くない選択な気がします。実際CCHD/CVHD-95xシリーズは、MYTEK Manhattan DAC IIやRumin X1など、それなりの価格帯〜一般的にはハイエンドに分類されるDAC/ネットワークプレーヤーにも採用されています。
結局は使いこなしのノウハウも含めてどういう音を出しているか、が全てですが、一般的には入手きないようなパーツや高額なものを使わずに非凡な音を出していたら、そのR&Dの成果こそが最も称えられるべきだとも思います。

どんなパーツをつかって、ヒアリングを重ね調整して、どんな音にたどり着いたのか、その努力とR&Dの結果を聴いていると思うとわくわくします。逆にその音からどんなパーツを使っているのか、その選択が意外だったり、そうだよね〜!と思わず言いたくなったり、、、
自分はそこまで自作の経験がないですが、それでも内部を見るとわくわくしてきます(危ない素人ですね、、、、、)

この辺のジッター低減処理と、後段のDACモジュールへの信号の受け渡し・そして肝となるラダー型DACの線形補正をFPGAでやってるのでしょうが、このFIFOバッファ+VCXOによるシステムのジッター低減効果について、ホームページでは10秒間の長期ジッタを90%、1秒間の周期ジッタを99%、0.1秒間の周期ジッタを99.9%削減できると唄っています。
これがどれくらい凄いのかは、、、、ほかのものと比べると荒れそうなのでやめますが、素人で分かる範囲でもなかなかよさそうです。
AIT DACもFIFOバッファによるジッタ低減方式なので、似ているかも。どちらも大変すっきりした音で滲みやボヤけが少ない点は、やっぱり似ています。音色は結構違いますが。

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そしてDAコンバーターの心臓部である、ディスクリートR2R型ラダーDACです。
KTEバージョンは、ここにCNC切削によるブラック/銅シールドDACモジュールカバーが装着されています。内部は手作業で選定された抵抗で構成されており、最低でも2dB以上SNが下のLevel1、2よりも向上しているようです。このR2Rラダーの線形補正も、FPGA(Altera Max V)で行っているようです。このあたりが、HoloAudioの独自技術のようです。

終段にもKTEバージョン独自の変更点があり、Level2まではVisheyのフィルムコンデンサーをカップリングコンデンサーとして搭載していますが、ここを独自のKTEキャップに変更しています。アナログ出力段のコンデンサーは音質に結構影響があり、私も自作DACを少し弄っているときに、オイルコンデンサーをいくつか試してみたりして、その音の変化を楽しんでいました。
HoloAudioによると、この独自キャップにより、酔わせるような色気のあるボーカルの再現性に貢献している、、らしいです。自作品ならまだしも、量産品でこうした部品までこだわって作っていることに感心せざるを得ません。


現時点のまとめ
今後エージングが済んでいくなかで、どんな音の世界を見せてくれるのか楽しみですが、内部のコンストラクションの写真と丁寧なホームページの記載を参考に考えていると、HoloAudio May DACは、デルタシグマ変換を伴わない伝統的なR2Rラダー型マルチビットDAコンバーターをベースとしながら、FPGAを使用した独自の補正による性能の追求、ジッター低減を極限まで減少させるPLLジッタ低減システムなど、徹底的に音源の素材性を重視しているようです。そして、グレード分けすることにより、KTEバージョンではDACモジュール自体の高精度化に加え、音質に大きく影響すると思われる部品にまで拘って音を追求しています。
この素材性重視のポリシーは、最終的には基本性能を徹底的に高め、デジタル領域ではオーバーサンプリングすらせずにNOSモードで通していることにも表れています。ちなみに前述のSN118dB, DR 130dB以上はNOSモードで達成しているようです。


こうしたアプローチは、ChordやDCS、MSBなど、現在のハイエンドオーディオの定番である機器たちの、独自のカスタムデジタルフィルターをFPGAなりDSP複数枚で高速演算してデジタル領域で音を高めている(情報量と分解能を飛躍的に高めている)アプローチとは方向性が異なります。

こうした現代的な潮流のハイエンドDAコンバーターは、試聴会などに行かないとなかなか聴く機会がないですし、ましてや他のDACとよく聴きなれた環境で比べることなど滅多にありません。この中でDAVEはオーディオ仲間の家と、よくオフ会をするAZさん宅でも聴いたことがありますが、大変滑らかでありながら情報量が多く、空間の奥行き感が感じられる音でした。
Chordの場合は、こうした性能・聴感を特に超高精度カスタムクロックモジュールを使わずに、独自のWTAフィルターを死ぬほどオーバーサンプリングしてでぶん回すことで実現していることが凄いところですが、他にもこのデジタル段の徹底的な遮断特性により、アナログ出力のローパスフィルタなどの部品数を従来のオーディオ機器に比べてできる限り減らすことで、透明度と性能を出すことが稀有な魅力です。
このアプローチは、まさにHoloAudioとは真逆と言えるのではないでしょうか。

ただ、アナログ出力段の部品が少ないこととどういった部品を選定しているのかメーカー自身が訴求していないことが、開発側に部品レベルまでの拘りが無いということでは全くありません。おそらく開発者はコストと時間の許す範囲で、大なり小なり徹底的に部品定数や銘柄などを試しているはずです。
ただコンセプトと方向性という部分では、対照的で面白いですね。


記憶の中にあるDAVEの音や、AZさん宅で聴いた他のDACの音とYGGDRASILの音、そして自宅で聴くYGGDRASILとMay Dacの音を聴いていると、本当にトップエンドと勝負できるクオリティが出ていそうです。
ハイエンドを目指す様々な技術トレンド。そのなかで、独自性のあるこだわったアプローチで、後からトップエンドを目指す新興メーカー。応援したくなりますね〜。

機会がきたら、聴き比べしてみようと思います。