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Fostexのヘッドホン T60RPを導入しました。

今回、在宅の時間が増える中で、必然的というかヘッドホンを使う時間が増え、案の定(笑)「新しいヘッドホンが欲しい熱」にやられ色々と検討した結果、
2機種を導入しました。

そのうちの1機種がこのFostex T60RP
もう一機種はAudio TechnicaのATH-M50Xでした。
ともにモニターヘッドホン、ないしは祖先にモニターヘッドホンを持つ系統の製品ですが、実は最初からモニターヘッドホンが欲しくて聴いていたわけではありませんでした。

久しぶりにヘッドホンの試聴を始めた当初は、細かな不満があっても総合的にはとても満足していて聴いていたOnkyo A800からグレードアップを目指すべく(笑)、オーディオエンスーへ向けたハイエンド開放型ヘッドホンを中心に聞いていたものの、なぜモニターヘッドホンへ落ち着いたのか、、、

それは、最終的に自分が今欲している音は、ヘッドホンならでは・・・つまりヘッドホンでしか再現できない音の解像度の世界も体現している方向なんだな、ということが気づいたからでした。



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◆T60RPのサウンドの特徴と良いところ

T60RPは、型番の示す通りFostexが長いこと続けている平面磁界型振動板であるRP振動板を使用したヘッドホンの現在の最新作です。最新作と言っても17年頃の発売なので結構時間がたっていますが、今回色々と聴く中で、その個性が際立っていたので購入しました。


その個性は何か、というとズバリその音の立ち上がりの鋭さと明瞭さ、そしてクリアーな音場表現の良さでした。


試聴時他のヘッドホンと比べていても感じたのですが、バランス的には「中低域が薄め」+「中域のちょっと上あたりが少し明るめ」な帯域バランスで、低域は量自体は少なめながら弾むような弾力感があり、しかもそれが中低域〜中域にほとんど被ることがないため、全体的に透明感があります。
まず、ここが結構意外でした。

というのも、今回色々なヘッドホンを聴く中で平面磁界型やオープンバック型は何種類か聴いたのですが、巷で言われている通り「基本的には低域表現は苦手」というか、軽すぎたり、出ていても締まりや重みがもう一歩だったり、あまり感心するものがありませんでした。

ところが、T60RPの低域は量自体は少ないものの、バネのような引き締まった感じと弾むような量感があるのです。まずここが面白くて、何度も色々な音楽ジャンルで聴き込んでみたくなりました。
色々聴いていくと、確かに低域〜重低音域(~60,50Hz程度まで)は音圧自体は低めなもののしっかり量感を伴って立体的な出方をしているものの、その下の極低音域、サブベースと言われるような帯域(30-40Hz)は出てはいますが少し減衰しています。

これは例えば上のようなEDMなどでよくある、パソコンで作られた極低い低域が含まれているような楽曲の場合、重みと空気を揺らすような感覚=音場感を下支えするような拡がり感が足りないですが、その上の重低音域(60-70Hz)はある程度量感と音圧感に出ているので、クラシックはもちろんEDMもロックもそれなりに聴けてしまいます。

そして特に惹かれたのが、その中高域表現でした。

とてもスッキリしていて、音の立ち上がり・下がりが早くてほとんど滲みを感じません。
これは平面磁界型ヘッドホンのボイスコイル=振動板とも言うべき圧倒的に軽い振動系質量がこれを実現しているのか?なんて想像したくなるほど、音の立ち上がりと下がりのスピード感がありスッキリした感じがあります。それ故にボーカルや楽器類の音と残響成分がクリアーに分離して聴きとりやすいため、大変音場感の透明度が高くクリアー質な空間を感じさせてくれます。

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Fostexの平面駆動型・RP振動板の構造


このクリアー質な音は結構個性的だと思っていて、少なくともリスニング向けの開放型/半開放型ヘッドホンによくあるようなサラッとした聴きやすさや滑らかさを感じさるような快適志向の音ではありません。
耳に刺さる、というほどではないですが、どちらかというとほっそりとした滲みない音像がビシッとクリアー且つストレートに提示されるようなエネルギー感があり、無駄に膨らんで濁っているような帯域が少ないことと合わせて緩さや遊びが少ない感じがあり、それがモニターヘッドホンの系譜らしい真面目さとして感じられたりします。

このビシッとした揺ぎ無い感じは、比べてみると他の平面磁界型ヘッドホンに比べて少し音に「重み」があるからのような気もしました。これは中高域の僅かなピーク感がある帯域バランスにも大いに依存していると思うので当てずっぽうで断定することは出来ないのですが、もしかしたら振動板にエッチングされているボイスコイルが銅なことも関係があるのかもしれません。


Fostex_Plyamid_Diaphragm_T60RPのRP振動板(Head fi掲示板から拝借)

CCAW(銅コーティングアルミ線)やアルミなどが平面磁界型ヘッドホンのボイスコイルでも多いような気がする中で、銅箔エッチングというのがどういう音なのか、、、、、、見た目は電子機器の中に入っているフレキ板(内部に銅線を通した基板接続用のプラスチックサンドされた柔軟性のあるハーネスのようなモノ)にそっくりですが、もしかしてそこからの派生展開だったりして??なんて、電気モノを開けるのが好きなマニアとしては想像してしまいますね。。

もしこれらのボイスコイルや振動板の構成が、基本的にはスピーカーのツィーターのボイスコイルや振動板の聴こえ方と同じようなものだとしたら、恐らく銅のボイスコイルの方が良く言えば落ち着いた、悪く言えば少し重く抜けの悪い音になります。

そしてそのボイスコイルが接着されているポリイミド系樹脂、というのも、一昔前はツィーター素材として良く見られた素材です。JBL4428のツィーターや、圧電型、またリボン型ツィーターのボイスコイル接着用に使われていた樹脂です。JBLは4428から4429に変わるタイミングでいろんなお店で聴きましたが、4428⇒4429でスーパーツィーターのみ、ポリイミド樹脂の振動板のショートホーンからチタン振動板コンプレッションドライバーに変わりました。

4428は良く言えばリラックスして聴ける反面音の粒子が大きくアタック感などはハリがある一方、4429はもっと緻密で分解能が高いような鳴り方になっていたのが記憶に残っています。
勿論スピーカー総体としての聴こえ方ですし、4428⇒4429はミッドレンジのユニットも改良されていたり、ネットワークも微妙に変わっていそうなので、サウンドの印象としてスーパーツィーターの振動板の変更がどの程度表れているのア、これも定かでないですが、、、(笑)
ポリイミド樹脂は樹脂としてはオーディオでよく見かけるポリプロピレンやポリエチレンと比べて比重が重い(1.43~1.51)ようなので、結構高い音の方で繊細さや漂うような鳴り方よりも、より輪郭がはっきりしてアタック感が出る傾向の可能性がある、と思います。

一方ポリプロピレンなどの樹脂は熱に弱いこともあるため、スピーカーコーンに使うには耐熱性に配慮したボイスコイルボビンを使って熱が直接ポリプロピレン振動板に伝わらないようにする、などを使うなどの工夫が必要のようです。そう考えると、振動板に直接熱源になるボイスコイルを接着ないしはエッチングする平面駆動型振動板で直接ポリプロピレンを使うのは難しいのかも?しれません。
あまり各メーカーのWebには振動板膜素材については言及がありませんが、このあたりは企業秘密もあるのかもしれませんね。
そうした中で、RP振動板のボイスコイルや振動板の選択は珍しくFostex は開示していますが、あのストレートなエネルギー感の強さが感じられるのかもしれないな、と想像していました。

私自身は、開放型や平面型の繊細さや音の粒子の細かさは感心しるものの、輪郭の甘さやスッキリした感じが生ぬるく感じてしまう方が印象に残ったので、RP振動板のこの独特のアクの強さはむしろ歓迎すべき方向だったりします。



大分脱線しましたが・・・そんな推測を交えつつ、T60RPはモニターヘッドホンらしいところがあると感じたのですが、勿論それ一辺倒ではなくてリスニング寄りでもあるのかな、と感じさせてくれるところもありました。
それは低域の量感と、高域方向にかけての鳴りの滑らかさ、というかデリカシーでした。これは、木製の、セミオープンバックといいながら結構密閉型に近そうな構造のハウジング構造も効いているのいるのかな、、、と音を聴いていて想像できます。

具体的には、先にあげた低域の量感と中高域の拡がり感に密閉型っぽい、ハウジングで包まれているヘッドホンならではの鳴り方の感覚があるからです。
実際、T60RPはセミオープンバックとされていますが、ハウジングの開放面積はとても少なく、↓の写真にある左右ヘッドホンジョイント部の下の方にある3本のスリットがあるのみです。音漏れは普通の密閉型ヘッドホンの比じゃないくらい漏れるので、やはりセミオープンバックと言っていいのでしょうが、ハウジング開放面積としては結構少ない部類ではないでしょうか。

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T60RPハウジングの通気口ベント


それ故か、T60RPはオープン型ヘッドホンのような音が壁にぶつかることなくヌケて行って消えるような拡がり感はあまりなく、低域の量感の出方も中高域の音のヌケも、少し密閉型っぽいな、と感じることがあります。

じゃあ密閉型ヘッドホンで時々感じられるキャビネットの響きが聴こえるのか???というと、木を使ったハウジングならではの芳醇な響きが聴こえる!!!さすが木!
なんて言えればいいのですが、私個人が他にウッドカバーを採用しているヘッドホンを持っていないので実はよくわかりません(笑)

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バックキャビティ裏側(Head fi掲示板から拝借)

この木製キャビネットは結構厚みがありそうで、例えば手もちの中では、スカスカに薄いプラスチックキャビネットの密閉型オールドヘッドホンAudio Techinica ATH-A700などと比べると、ハウジングの篭りや箱鳴りや、高域方向のプラスチックっぽい薄い響きのようなものが少ないことが良く分かります。

ちなみに脱線しますが、上に例で挙げた手持ちのATH-A700は改造しており、鳴きが感じられるハウジングプラスチックの裏側にアルミテープや鉛テープやブチルゴムなどを使ってダンプしていったことがあります。すると、やはりというかハウジングの篭り感や箱鳴り感が減っていきますが、同時にヌケが悪くなり音が死んでいきます(汗
最終的にはアルミテープ一枚で軽ーくダンピングする程度にしましたが、その状態のA700と比べてT60RPはなんと無駄なハウジングの鳴りが少ないことか、、、、ということに感心してしまいました。

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AudioTechnica ATH-A700(2008年製)

T60RPの音を聴いていると、薄いプラスチックバックキャビティのボコボコした中低域の箱鳴りや、ハウジングをダンピングすることで消える薄っぺらいチャラチャラした響きがなく、僅かにシットリしているような?気がしないでもありません。
全く篭り感がないわけではなく、密閉型ヘッドホンにあるお椀のようなカバーを耳に被せているような雰囲気も僅か〜にだけあるんですが、私には全然許容範囲でした。特にセミオープンバックという形式だけみて購入する人によっては、結構気になる人もいるかもしれません。


そうしたハウジングの響きを比較したうえでT60RPの音全体の印象に戻ると、「音場感」や「定位感」という言葉が実際に空間に音が拡がる感覚がないヘッドホンの場合適切なのかは分かりませんが、中域の残響感が大変クリアーでわかりやすく、それ故に定位感(音の輪郭、鳴る方向)などが分かりやすいことが特長かなと、思いました。

開放型と違ってハウジングがある感じはハッキリ分かるので、とても広い空間で楽器を弾いているような開放感はないのですが、そこまで広くない、しかし豊かで艶やかな音響の優れたホールに自分がいるような、そんな聴こえ方をします。
絶対的な演奏空間は広くなく壁や天井に囲まれてるような感じがありますが、その中で展開される楽器はほっそりと艶やかで近くで鳴りすぎる感じもなく、優れた分離感と余韻をまとっていてコンパクトな音場感を精緻に出してくれます。

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これの祖先にあたるT50やT40シリーズは聴いたことがないので推測ですが、恐らくT60RPは、平面磁界型ヘッドホンの課題である低域を出しながら、最低限のヌケを確保するバランスをとった開放面積のキャビネットの構造を採用したうえで、実際のリスニングで抜けの悪さや音色の色艶などが悪く感じないように入念にトーン=音色を作り込んだ、そんな製品なのではないか、と想像しています。

中低域の薄さとハウジングの強度?のおかげで中低域が被って不明瞭になることが少ないし、中高域のピーク感が適度な張りと艶を音色に与えて、開放型ヘッドホンほどの抜けの良さはなくても「音色」の明瞭さと艶で聴き込ませる音をしています。

試聴を始めた最初のうちはある程度傾向はつかめたものの、勿論ここまで特徴が分らなかったのですが、ただとにかく面白くて最終的に何度も試聴した後購入にいたりました。購入後しばらく聴いてみて、上記のような分析というか、他のヘッドホンとも比べてみて大分その性格が分ってきましたが、本当に絶妙なバランスを取っているのではないかな、と使っている中で感じました。


◆T60RPのサウンドの欠点

もちろん、いいところばかりでなくて欠点もあります。
それはやはりそのトーンバランスに依存していて、まず分かりやすいのは組み合わせるアンプや聴く音楽ジャンルによっては、中高域のピーク感が少しピーキーな鳴り方をして耳につくことがあります。
これはしばらく聞いていれば脳内補正されてむしろ快感に感じる程度の刺激感には抑えられていますが、他のヘッドホンと比べていると明確に分かります。

そうしたピーク感がわかりやすいセッティングや、分かりやすい音楽を聴く場合、ハウジング由来のヌケがそれほど良くないことと合わせてそれより上の高域が感じづらく、もう一歩高域が伸びが足りないような印象が残ります。
量としては高域が出ている感じがあるのですが、少しピーキーなためにその山に意識が行きその前後の帯域がマスキングされるような感覚です。

スピーカーでもピークを可聴帯域内に持つハード系振動板のモデルなどでは同じように感じやすいですが、うまく音を作り込むと麻薬的に魅力的な刺激と伸び感が得られる反面、それ以外の帯域で妙に薄く感じる部分があったりして、フラット志向の聴こえ方にはならなかったりします。
(Wilson Audioのチタン振動板ツィーターなどもそうした金属的なピーク感の癖をうまく使った設計の代表例だと思います。)

また、中低域が薄めなバランスのため、ボーカルやギター、弦楽器の胴鳴りなどのボディ感が薄く、人間や楽器のサイズなりのエネルギー感が得られない場合が録音によってはあります。声や弦の音がちょっと上ずったような軽い感じの鳴り方をすることがあり、この辺は好みが少し別れるところかもしれません。

艶があり魅力的な音色ですが、リアルか?というと、至近距離で楽器の振動を感じさせるような録音を聴いてみると、そうした音源の再現性においては実在感が足りないかもしれません。もっとホールトーンやエコー成分が豊富な音源はもともとそうした楽器の近さが遠目で余韻が多いこともあり、相性としてはT60RPによく、音色の細さが気になりづらいです。
ただそうした楽器の胴鳴りさえ再現するような振動の大きさは、そのまま楽器が近くで鳴ってるような雰囲気に直結しますし、出来がよくないヘッドホンだと無駄に膨らんて音の余韻を濁らせたり、音場感の透明感を損なう方向にもいきがちなので、トレードオフかもしれません。

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Onkyo A800

このあたりは、普段使っているOnkyo A800などの出来のいいセミオープンバックのヘッドホンと比べていると顕著で、一聴して声や楽器の音のリアリティが高いのはA800の方だと分かります。型式上は半開放型で同じながら、ハウジングのヌケの良さはA800の方が上のようで、オーケストラなどを聴いてもそれなりに音がヌケていくので、狭いホール感というか、壁や天井に囲まれている感じはありません。それでいて中低域はたくましく中域のピーク感もなくスムーズな出音のため、ハッキリと楽器の音の本物っぽい質量感が感じられます。
その分、楽器が近いところで鳴っている感じ、つまり広いホールの前の方の席でホールの残響はあまり意識せずに楽器の質感とのダイナミズムを味わうような聴かせ方をしてくれます。
その分、音場感の透明感や艶やかな空気感はT60RPに比べると余り感じられません。


A800を聴いた後にT60RPを聴くと、その音色の癖とスピード感の速さに、楽器や声の音色はちょっと癖っぽくてミニチュアみたいに質量感が軽くなるものの、それゆえにとても艶やかで、その音像が広くはなくハッキリとホールの壁や天井があって演奏空間が狭くなったような感覚になるものの、そのなかで展開される演奏は透き通った音場空間の中にクリアーな楽器類が分離良く出てくるような聴こえ方となり、その違いに驚いてしまいます。

それは低域の下、重低音域、サブベース域の表現にも影響されていて、この帯域の太さと力強さがA800には備わっています。この帯域の存在感と中低域の太さが、音としては実在感に直結しています。


◆購入の決め手になった部分

実は購入前にこうした欠点がある程度見えていたT60RPですが、それでも購入に至ったのは、その音場感の提示の仕方でした。
ホームオーディオのスピーカーに例えるなら、A800は今どき珍しくなってしまった、ある程度大口径のウーハーを使ったフロア型スピーカーの提示する音場感、音像エネルギーのバランスに似ている一方、T60RPはコンパクトな小型2WAYスピーカーをニアフィールドで鳴らした時の「箱庭的な」音場感と音像の聴こえ方に似ているように感じた、のです。

2WAYスピーカーといっても、最近のハイエンドにあるような16センチ級ウーハーで下は30~40Hz代からカバーするようなワイドレンジなモデルではなく、例えばB&W CM1(ちょっと古いか、、)や、現707S2などのような12~3センチウーハーを搭載した最小構成の2WAYスピーカーのイメージです。

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B&W CM1(2007年頃)

どこか似ているのかというと、10~13cm程度のウーハーは絶対的なサイズが小さいのでボーカルや楽器の基本となる中低域のエネルギー感が少なく、よく言えばスッキリしていますが悪く言えば音量を上げるほどダイナミズムか足りなくなり薄っぺらい鳴り方になりがちです。キャビネットも小さく仕上がるが故に、箱を徹底的に補強したりしなくても、無駄に大きいだけの出来が悪い15~18cmウーハーのように濁ったり膨らんだりすることは少ないのも同時に利点ではあるんですが、、、

この滲みやボケの少ないスッキリと細めの音像を上手くニアフィールドで鳴らすと、コンバクトなミニチュアの楽器やボーカルなどが目の前の小さな空間にスピーカーの存在感がスッと消えて広がるようなイリュージョン感が得られます。

B&Wの旧CM1はそういう小型2WAYならではの拡がり感を存分に感じさせてくれるモデルでしたが、このミニチュア感のある小さめな細い音像をキレイに広げてくれる音場感、そして絶対的な量は多くないものの、小口径ながらバスレフを上手く効かせた設計で弾むような弾力のある低域を聴かせてくれていたところも、T60RPは少し似ています。

同じ環境で鳴らしたわけではないので記憶の中のCM1の鳴り方を頼りに書いていますが(笑)中高域の強調トーンは流石に違って音色はT60RPとCM1で結構違う気がします。
あの空間にアルミのサラッとした微粒子を漂わせるようなCM1の軽やかな質感はT60RPにはなく、もう少しモニター的な音のストレートな厳しさがありますが、それは同時にスピーカーリスニングでは中々得られない音の立ち上がりの良さと解像感の良さにも直結しています。

このヘッドホンでしか得られない解像感の良さは、スピーカーリスニングを重視したようなヘッドホンだとやはりというか帯域バランス的にも抑え気味になり感じづらくなっていくことが今回他のヘッドホンを聴いて分かりましたが、確かにリラックスして聴けるし、音場の拡がり感もある、、、ものの何だか物足りない、、、食い足りない、、、と思っていたところに、このT60RPが来て、ノックアウトされたのでした。




◆接続アンプの相性

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Jade Casaヘッドホンアンプ(改造版)

そんなT60RPですが、自宅ではもっぱら改造を施したJade Casaヘッドホンアンプに繋いで鳴らしています。
このJade Casaは、トランスから巻き線左右独立の電源を備えたヘッドホンアンプですが、最終出力段の出力抵抗に100Ωが入っていて、最近の出力抵抗が限りなく抑えたインピーダンスの低いインナーイヤホンの駆動にも対応しているようなヘッドホンアンプと比べると誠に古典的な設計なのですが、その分?内部の部品も大きく面実装パーツが少なく改造しやすいため、電源部と出力抵抗の銘柄を音質重視に変更する改造をしていました。
最後に出力段のオペアンプをMUSES 8920DからMUSES 01に変更して、それなりに滑らかで解像感の高い音になって喜んでいたのですが、AITヘッドホンアンプを導入以降はサブ機になってあまり使わなくなっていました。


ところが、これがT60RPにベストマッチするのです。
ふわっとしていて刺激音が少ないながら伸びのある性質の音(アタック感やキレが弱いともいう)がT60rpのピーキーなところを目立たなくして、伸びやかに鳴らしてくれます。

また、実際に使っての音量は、POPS系なら12~1時くらい、クラシックなら1~2時位で大体満足のいく音量が得られました。Jade Casaは特に据え置きヘッドホンアンプとして高出力だったりするわけでないので、組み合わせるまで十分な音量が得られるか分からなかったのですが、実際鳴らしてみるとボリュームを10時、11時と上げていくと低音の締りや高域の質感などが荒れたり崩れたりすることなくグングン音量が上がっていくのを聴いて、案外駆動力があるんだな、と見直しました。


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Dynamicモードボタン

また、Jade Casaにはイコライザー回路として、「Dynamic」ボタンがあります。これは中高域以上はほとんど影響を感じさせずに、中低域以下の音圧感が明らかにあがって分厚くなるイコライジング回路で、ハイ上がりのヘッドホンなどで図太い中低域の量感を求めたいときなどに有効です。
手持ちの中では改造前のAtH-A700など、割とシャリシャリした古いオーディオテクニカトーンの残っているヘッドホン等で使うとバランスがよくなるような回路で、割と有用でした。

ピュアオーディオ的なアプローチからみるとここまで音が変わるのは邪道というか、音を変質させてしまっているような印象も与えかねないので、実際にネットのレビューを見ても否定的な意見も見えますが、、、個人的にはヘッドホンほど聴こえ方のバラつき(帯域バランスの違い)が激しいものもないような気がするので、こうしたイコライジングは結構有用だと思うのです。

そして、これが滅茶滅茶T60RPには有効でした(笑)

DynamicモードをOnにすると、弦楽のチェロ隊やコントラバス隊の存在感がグッとまして、ミニチュア楽器感が大分なくなり実寸大の楽器の胴鳴りや響きが感じられるようになります。ボーカルも口元だけで謳っていたような軽快さ(これも悪く無いんですが)から、ちゃんと腹式呼吸をして謳っているような人間の重さが出てくるような、そんな変化をします。
また意外にも、DynamicモードONだと結構冒頭で紹介したようなリズム主体のEDMや、POPSも結構な迫力で聴けてしまいます。なぜかというと、これはT60RP側の資質だと思うのですが、低域をブーストしても余計な箱鳴りや振動が増える感じが無く、そのソリッドに引き締まったバネのような弾む低域がそのまま増幅されるような出方になるので、聴いていて大変楽しく、リズムはより精緻にリズミカルで、跳ねるように鳴ります。

Dynamicモードの中身は、どうやら入力段のオペアンプを通常のOPA2604から、良く使われる5534などに切り替える回路のようですが、それだけであれだけ中低域以下が変わるとも思えないので、フィードバックの掛け方など回路中の工夫があるのだと思います。
決して高価なアンプではありませんが、実際に音楽を聴きやすい耳触りのいい音質はもちろん、こうした色々なヘッドホンに対応するための配慮が行き届いたところまで、実際に使いこなしていく中で大変使いやすく良いアンプだと改めて感じました。


その他にもポータブル機器のアンプを持っているのですが、今回能率が低く音量が取りづらく、アンプ食いという評判のT60RPを手に入れたので、手もちの中で Roland UA-M10やChord Mojo、Sony WM1Aとも組み合わせてみました。

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Roland UA-M10
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Sony NW-WM1A
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Chord Mojo


結論から言うと、音色としてはUA-M10とWM1Aは割とバランスよく、高域までしっとりと鳴らしますが、WM1Aはやはりちょっと出力というか音量が足りず、POPSならハイゲインの100~110/120くらいのポジションで十分な音量がとれますが、クラシック音源などでは少し足りない感じがありました。
UA-M10もやはり7割程度までボリュームをあげる必要がありましたが、こちらはどんな音楽でも音量が頭打ちになることはなかったです。

一方、中高域はいいものの低域表現だとちょっとNW-WN1Aは弱く、T60RPの良さでもある弾むような低域の音圧感があまり出てこなくて躍動感が薄くなります。軟質な低域で、同じく軟質な中高域と性格はあっているのでとても聴きやすく、中高域のピーク感も目立ちにくいですが全体的にネムイ音でもあります。

これに対してRoland UA-M10は、ここでも業務用機器らしく特に引っ込んだ帯域もでっぱった帯域もなく、とても中庸にしっかり鳴らしてくれてそこまで不足を感じません。低域もそれなりに押し出し感と力感があり、バスパワー駆動だということを忘れさせてくれます。
デスクトップで使用しているMay DAC+AITヘッドアンプの駆動に比べると、やはり低域の締まりと力感は一段以上落ちますが、単体で聴いていてネムイようなこともなく、中高域のピーク感もそこまで気にならずに聴けます。
いつも思いますが、このRoland UA-M10は本当に組み合わせるヘッドホンによって得手不得手を感じたことがあまり無く、とても中庸ながらそれなりのクオリティが出ていて、自然と聴きではなく音楽へ注意が行くような音をしているように感じます。

すでにディスコンになってしまったのが惜しまれますが、個人的には大変気に入っていている機種です。

一方でChord Mojoは、悪く無いもののその持ち前の中域あたりの高い分解能が、少しT60RPのピーク感と合わさりキラキラしすぎるような鳴り方に感じることがありました。Mojoはポータブル機器としては例外的に高出力なのは有名ですが、実際に低域の太さと制動力でもやはりUA-M10よりさらに一段上で、据え置きシステムのいくつかは食えそうなくらいの低域ドライブ力があります。
AITヘッドホンアンプをMojoの後段に加えると、やはり低域がより引き締まって制動が出てくることから、よく出来たAC電源のバランス駆動ヘッドホンアンプの制御力には勿論及ばないのでしょうが、Jade Casaに比べると太さは同じようなレベルでズドーンと表現できるうえに、締まりはMojoのほうがあったりします。
なので低域表現についてはT60RPを存分に鳴らしてくれる感じもあり悪く無いのですが、Mojo自体高域は結構大人しい鳴り方なこともあり、音源によっては余計に中域〜中高域のキラキラ感が感じられる結果になるのが、少し相性的に微妙でした。


◆おまけ
最後に、T60RPの鳴り方の特徴がよく分かる感じだった音源をYoutubeですが並べてます。


例えば上にあげたような室内楽編成くらいの演奏などは大得意な印象で、開放感はそこまでなくホールもそこまで広い感じはしないのですが、主題となるバイオリンのクッキリとした主張と滲みの無い弦の鳴り方、そしてホールの残響が美しく聴き入ってしまいます。
その空間はとても透明で艶やかで、その中にピンっと弦のはったバイオリンが美しくなるような、緊張感と美しさが両方感じられるような迫真の演奏の雰囲気も感じられます。
また薄い中低域と量は少ないけど弾む低域のおかげで、コントラバスなどの重みやチェロ隊の音の分離もよく、何をしているのか、どう演奏しているのかの機微がとてもよく分かります。

こうしたフルオーケストラの楽曲は、ホールの中間より前くらいで楽器の質感と余韻のバランスがいい最高の位置で聴いているような艶やかな演奏が楽しめます。
音のヌケがそれほどよくないので広いホールにいるような感覚はやはりあまり無いのが少し玉にキズですが、その限られた広さの空間の中に、とても色彩感豊かな艶やかな楽器類がきれいに分離してレイアウトされます。
こうした音源を聴くと、Onkyo A800の方がホールの広さがとても感じられる一方、すべての楽器にダイナミックな厚みがあるので、ホールのかなり近くの席から聴いているような印象をうけます。
どちらが好きかは好み次第な感じもします。


これはちょっとYoutubeならでは、というかピュアオーディオでは絶対に聴かないようなお遊び音源ですが、女性演奏家たちの掛け合いによるやりとりが面白くてつい何度もみてしまいます。
ふつうのクラシック音源にはない強い引き方やバイオリンなどの筐体をたたいての演奏など、パルス性のアタック音を含んだ演奏ですが、こうした多くの響きが入っている音源だと、その音のリアリティが如実にわかってしまいます。T60RPは、こうした楽器をたたいたとき響きが薄くてちょっとサイズ感がミニチュアのようになってしまうところがあり、それが保管されるともう一歩リアルな感じになるのになぁ、と思ったりします。


うってかわって今風のDjプロデュースのEDM風楽曲ですが、こうした音源だと冒頭でも触れたようなT60RPのサブベース帯域の薄さがよく分かります。
また繊細な雰囲気にエコーなどを掛けて加工されたボーカルの声も、T60RPの中高域のピーク感と決して相性は良くなく、すこし上ずったような雰囲気で鳴ります。
こうした音源は先に書いた通り、Jade CasaののDynamicモードをONにすると大分中低域以下が補完されて自然になりますが、Onkyo A800などのヘッドホンをノーマルモードで鳴らしたときの方がサブベース帯域まで含めてしっかり制動を効かせて出ている上に、ボーカル帯域も遥かにフラットで自然に出ていることが分かってしまいます。
総じてEDM系は得意ではないのかもしれません。



◆最後に

今回、ヘッドホンはOnkyo A800で概ね満足していたものの、もう少し欲しい要素として音場感が豊かで広いことと、音色がより艶やかで透明なこと、、などを求めて、ヘッドホン探しのジャーニーを始めました。

そこで、オープン型やセミオープン型で評判の良いものを試聴していったのですが、どれも決定打に欠けるというか、上にあげた無意識にも自分が聴きたい音、良い音だと感じるものが無くて手詰まり感を覚えていました。むしろ聴けば聴くほど、昔Onkyo A800を選んだ時に感じた、自分にとっての「圧倒的な音色の自然さ」と「低域の力強さ」の良さを再確認して、あらためて聴き方に合ってるんだな、、、と再確認する結果になってしまっていました。

開放型ヘッドホンに共通して感じられた点として、音の消え際の開放感などは確かにいいのですが、ほぼ全般的に低域の量感と力感が足りずスカスカしているように感じる点と、そうした音の佇まいであるが故か基本的に音色が乾燥しているように感じられるモデルが多く、開放型は基本的にあまり好みに合わないないことがあらためて分かってしまいました。

中には例外的に低域が出るモデルもありましたし(Final D8000など)、開放型でありながら音色のマジックではなく中域の艶やかささえ感じさせる分解能をもったヘッドホン(Focal Utopia)もありましたが、どちらも私個人の好みからは少しずつ外れていて購入には至りませんでした。
Final D8000は弱点が少なく、本当にスムーズな鳴り方で低域も十分に出ていてダイナミック型やセミオープンでもこれほどしっかり低域が出ていないモデルもあるな、、という印象だったのですが、ローファイでミーハーな私の耳にはもう少しアピーリングな中高域の質感やブライトな鳴り方が欲しかったし、Utopiaは低域表現が普通の開放型ヘッドホンの域を出ていなくて、中高域の素晴らしい分解能に対して単純にボソボソしてるだけというか、残念ながらその部分が感化されませんでした。
勿論お金が十分すぎるくらいあれば全部一度は買って自宅で試したいですが(爆、、、


ただ全体を通して分かったのは、最近のハイエンドヘッドフォンのトレンドである。スピーカーリスニングに匹敵するような音響効果が得られる、と訴求されている方向性は、実際に聴いてみるとそのリラックスして聴ける音の質感や出方にうなずくところも多いのですが、いろいろヘッドホンを聴いていて自分が求めているものとは必ずしも一致していない、ということでした。

そうしたリラックスして聴ける感じは大切ながら、ヘッドホンならではの解像感の高さや音のストレートな感じがやはり大切なんだな、と。それでいて昔の密閉型ヘッドホンのような閉塞感や拡がり感の無さは我慢できないので、余韻のきれいさや拡がり感があるかどうか、、、が今回色々聴く中でも2つ目の重視ポイントとなっていきました。


そんな中で試聴したT60RPは、いい意味で分かりやすい癖がありつつも、それが個性として良い方向に作用して(セッティングなどで作用させて)唯一無二の世界観を出せそうな出音だったことが、とっても印象に残る音だったのが決め手となりました。
なんといっても、そのリスニング体験が小型2WAYスピーカーをうまくセッティングしたときのような爽快感があるものだったのが、Onkyo A800のストレートで太さもあり自然な音色重視の音とは全く違った音で、それぞれに良さが生かせそうだったし、事実その通りでした。

懐事情がそれほど余裕がない身として、値段が安いことも勿論大事でしたが、、、、(苦笑)


むかしより少し値上がりして今は3万円台中盤(2020年末時点)ですが、値段から想像するよりずっと上のクオリティは持ったうえで、大変個性的な部分も持っていて、とても使いこなし甲斐のあるモデルだと思います。

ヘッドホンで切れのいい2WAY的な表現を求めているなら、ぜひ検討してみてほしいモデルです。