黒ずきんさんは笑顔で破壊する

依頼されればヒトでもモノでも何でも破壊してしまう「ぶっ壊し屋」を営む黒ずきんさんと、その助手である大上君の物語です。ライトなラノベコンテストに参加しております。作:栄ユウ。

主な登場人物
黒ずきんさん:ぶっ壊し屋。何でも暴力で解決しようとする歩く破壊兵器。
大上(おおかみ)君:黒ずきんさんの助手を務める青年。苦労人。
本多:新中央都警察に所属する刑事。
鈴木:新中央都警察の女刑事。本多の後輩。
虎牙(こが)四世:虎牙組四代目組長。通称「四世」。
高村:複合犯罪組織【ナハト】日本支部長。

一話から読む→http://blog.livedoor.jp/jojomesojojo/archives/cat_125363.html

第三話 二人の刑事

「KEEP OUT」と書かれた黄色のテープ。
 日常と非日常を分け隔てる境界線のようでもある。
 或いは、この世とあの世の境目か。

 床には赤黒い水溜りが多数。
 目を凝らせば、直前まで人間だったものの残滓すら見えてくるかもしれない。
 建物の残骸が至る所に積み重なっており、事件前がどんな状態だったのかも分からない。
 すでに現場には鑑識班が入っており、慎重な捜査が進められている。

「こりゃまた派手にやりやがったなぁ」

 凄惨な光景が広がる事件現場を前に、今年で十年目になる刑事の本多は深々と嘆息した。
 
 新中央都の闇で繰り広げられるギャング同士の抗争は激化の一途を辿っている。
 今回の爆破事件もその一端だ。
 特に、もともと新中央都を拠点としている虎牙組と、最近になって勢力を伸ばしてきた【ナハト】とかいう海外の組織の争いが最も激しい。

 銃撃戦の流れ弾が通行人に命中。
 仕掛けられた爆弾が無関係な周囲の人間を巻き込んで大爆発。

 新中央都の長い歴史の中で、これほど治安が悪かった時期は無い。

「悪人同士で潰し合ってくれんのは大いに結構だが、一般人を巻き込まないでほしいねぇ」
「先輩! これ以上被害が拡大しないうちに、この街にはびこる犯罪組織を我々で一掃しましょう!」

 本多の隣で威勢良く拳を振り上げたのは、刑事になりたての後輩の鈴木だった。

 外見的には女子高生が背伸びをしてスーツを着ているような印象を受けるが、父親が警察官だったことも関係しているのか根っからの武闘派で、空手、柔道、剣道をはじめとする格闘技の数々を幼少期から叩き込まれており、直接対決したら本多刑事よりも強いのではないか、と噂されていた。

 いや、実際に勝負したらさすがに俺が勝つぞ、と本多は口では言うものの、実はあまり自信が無かったりもする。

「言うのは簡単だが、世の中、なんでもかんでも力で解決出来るってわけじゃねぇんだよ、後輩」
「警察がそんな弱気でどうするんです! これは戦争です! 今こそ立ち上がる時! レッツ、ジェノサイドぉ!!」
「お前、状況分かってんのか……?」

 地獄のような事件現場を前にしてもマイペースを貫く鈴木の胆力は評価に値するが、相手は警察ですら迂闊に手が出せない巨大組織だ。
 乗り込んでぶん殴って改心させて終わり、というわけにはいかない。
 
 だが、本多はたった一人だけ、そんな非常識なことを笑顔で実現させてしまう例外的存在を知っている。
 
 ぶっ壊し屋などというふざけた職業を名乗る、時代錯誤な黒い頭巾を被った一人の少女。

 彼女なら、その気になれば一夜にして組織の一つや二つ、あっさりと潰して回るだろう。
 こんな時に味方なら頼もしいが、もし、敵に回ったら最悪だ。
 すでに虎牙組が彼女にコンタクトを取っているという話も小耳に挟んだ。
 
 ――いっそのこと、あの黒頭巾に依頼して虎牙組も【ナハト】もぶっ潰してもらおうか。

 そんな考えが不意に浮かび上がり、本多は慌てて頭を振った。
 
 どうやら、自分で思っている以上に疲れているようだ。
 今夜も、家には帰れそうにない。
 
 

第二話 黒ずきんさんの流儀

「ど、ど、ど、どうしてくれるんですかっ!?」

 虎牙組の事務所を後にした二人は、冷たいビル風に吹かれながら白昼の新中央都メインストリートを歩いていた。

「暴れるにしても相手を選んで下さいよ、ほんとに!」
「あははは」
「あはははじゃありませんっっっっ!」

 顔面蒼白。助手の悲痛な叫びにも、黒ずきんさんはどこ吹く風と聞き流す。

 広大な片側四車線の道路を行き交う無数の車両、歩道を蟻のようにうじゃうじゃと動き回る人々の発する雑音にかき消され、彼の叫び声もまた雑音の一つとして街に溶け込んでいく。

 虎牙組は暴力と欲望が渦巻く犯罪多発都市である新中央都の裏社会においても、トップクラスの勢力を誇る組織といわれている。

 そんな連中を敵に回して、無事で済むはずがない。

「大上君は心配性だね」

 黒ずきんさんは懐からキャンディーを取り出し、それを口に放り込んだ。
 曰く、パワーを発揮するには甘い食べ物が必要不可欠らしい。
 そんな理由で彼女はいつもキャンディーやチョコレートなどのお菓子を持ち歩いているのだが、今回は最悪の場面でそのパワーが発揮されてしまったようだった。

「そんなに心配事ばかりしてると、胃に穴が空いちゃうよ。ぽっかりとね」
「すでに少し空きかけてますがね……誰かさんのせいで」
「悪い人もいたもんだ。顔を見てみたいよ」
「鏡を見たら会えるかもしれませんねー」
「あら素敵」

 暴力が人の形をとったようだ、と誰かが彼女を評してそう言った。
 
 ぶっ壊し屋――依頼されればヒトでもモノでも何でも破壊するという非常識な仕事を生業としている少女に、一般的な感覚を期待する方が間違っている。

 ――あぁ、なんでこんなことに……

 大上君は己の悲運を嘆くかのように手を額に当て、空を仰いだ。
 新中央都の空は、いつにもまして淀んで見えた。
 

 今回、虎牙組から依頼された内容は、対立しているある組織に鉄砲玉として乗り込んできてほしい、というような穏やかならざるものだった。
 事務所に入って話を聞く前から、大上君は凄まじく嫌な予感がしていた。
 この状況で、嫌な予感がしない人間の方が珍しいかもしれないが。

 かくして、予感は的中。交渉は決裂に終わり、二人はめでたく組織から追われる身になったとさ。
 もっとも、仮にここで彼らの依頼を受けたとしても、今度は敵対している組織から命を狙われることになるのだから、どっちに転んでも大差は無かったかもしれない。

 黒ずきんさんがあのような暴挙に出たのは、そこまで考えてのことだったのだろうか……と思いかけ、いや、でも少なくともあの場で即、命を狙われるよりは幾分マシだろうと思い直し、やっぱりこの意味の分からない頭巾(そもそもなんで今時頭巾なんて被っているんだろう?)を被った怪物はその場の気分や雰囲気で後先考えずに暴れ出してしまう問題児なのだ、といういつもの結論に辿り着いた。
 
 これまでにも大きいものから小さいものまで、数々の荒唐無稽な依頼を清々しいまでの暴力によって乗り越えてきたぶっ壊し屋だったが、その活躍振りがとうとうそのスジの人々の耳に入ってしまったということだ。

 悪目立ちしすぎた、とでも言うべきか。
 
「逆にね」

 だが、いかに条件が破格だったとしても、自分の気に入らない人間からの依頼は何があっても受けないのが黒ずきんさんの流儀だった。

「あの虎牙組とかいう人達に苛められている人から依頼があったとしたら、私は喜んで彼らをぶっ壊しに行くよ」
「正義のヒーローにでも転職するんですかー?」
「何言ってるんだい。私はもともと正義の味方だよ」 

 黒ずきんさんの笑顔からは、何も読み取ることが出来ない。
 彼女が何を考えているのか――いや、そもそも何も考えていないのか。
 それすらも、今の大上君にはさっぱり分からなかった。


第一話 黒ずきんさんと怖いお兄さん

 さて、マズイことになったぞ……と、大上君は周囲を取り囲む怖いお兄さん達をチラチラと見回しながら思った。
 ここは、新中央都に跋扈する数多の犯罪組織の中でも指折りの勢力を誇る虎牙組の事務所の応接間。
 部屋への出入り口は二ヶ所。いずれも黒服のガッチリしたお兄さんに塞がれている。
 右に三人、左に二人、後ろに二人……そして、正面には身長二メートルに達しようかというゴリラのような大男。

 絶体絶命。

 どこにも逃げ場は無い。

「……で、受けるのか、受けねぇのか、どっちだ?」

 正面のソファーに座り、大上君達と対峙している大男が訊いてきた。
 その頬には深い切り傷が刻まれており、一目でカタギの人間ではないと分かる。
 彼の隣には、鞘に収まった日本刀がこれ見よがしに置かれていた。
 虎牙組四代目組長は、なかなか返答をしない相手にイラだってきたのか、鋭い眼に静かな怒りを湛え、続ける。

「何とか言えよ。黙ってちゃ分からねぇだろ?」
「は、はい! すみませんっ!」
「お前じゃねぇよ。俺はそっちのお嬢さんに訊いてるんだ」
「ほ、ほら、組長さんもこうおっしゃってることですし、そろそろ……」
「……」

 見上げるような大男に睨まれても、大上君の隣にちょこんと座っている少女は微動だにしない。

 黒髪黒目、黒のブラウスに黒のスカート。
 そして頭には黒い頭巾を被っている全身黒一色の少女――黒ずきんさんは、何を言われてもニコニコと微笑んでいるだけだった。

「おい、古田からも何か言ってやれ」
「あ、あのですね、お嬢さん。我々が提示している条件は、これでも十分破格だと思うんですがねぇ……」
「そ、そうですよ、黒ずきんさん! 古田さんのおっしゃる通り! ここは受けましょう!」

 と、いうより、受けないとこの後どんな目に遭うかは容易に想像が可能だ。

 味方にならないなら、敵に回る可能性がある。
 敵に回すくらいなら、この場で始末する――そういう思考の連中だからだ。

 生き延びるには承諾する以外に道は無い――大上君は再度、必死の説得を試みようとするが、その前に、黒ずきんさんがニッコリ笑顔のまま、おもむろに握り拳を頭上へ振り上げた。

「あっ?」

 という間も無く、その拳が勢いよく目の前のテーブルに叩きつけられる。

 ドゴォッ!

 派手な音が室内に響き渡り、黒檀のテーブルが真っ二つに割れた。

 その場にいる誰もが――彼女のことをよく知っている大上君でさえも、この虫も殺さないような顔をした華奢な少女が見せつけた非常識なまでの怪力を前に、声を失っていた。

「帰る」

 交渉決裂。

 黒ずきんさんは一言、そう告げると、スッとソファーから立ち上がり、部屋の出入り口の方へ向かった。

「お、おい! 待てやコラぁ!」
「テ、テ、テメェ、このまま帰れると、お、思ってんのかぁ?」

 黒服達が精一杯の虚勢を張り、迫り来る黒頭巾の怪物を威嚇した。

「ここは死んでも通さねぇ!」
「四世に謝るなら今の内だぞ、糞ガキ!」

 二ヶ所の出入り口は複数の黒服によって完全に塞がれている。
 黒ずきんさんはそれを見ると、何を思ったか、別の方向へスタスタと歩いていく。

「じゃあ、こっちの出口から帰るから」
「ハァ? そっちは壁……」

 ズドゴォッ!

 言うが早いか、黒ずきんさんが壁に向かって強烈な蹴りを叩き込むと、まるでコントのように壁が崩壊し、部屋に新しい出入り口が出来上がった。

「行こう、大上君」
「そ、それでは皆様、これにて失礼致しますぅ!」

 自ら作った不格好なトンネルを潜り、悠然と応接間を出ていく黒ずきんさんの後を、大上君は慌てて追いかけた。
 
 もはや、その部屋に二人を呼び止めようとする人間は誰もいなかった。


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