世界中がこの対戦の行方に注目している。大会のドローが発表された瞬間より、その実現がこれほど期待され、同時にこれほど確実視された試合はここ数年ではない。「事実上の決勝戦」という言葉は使い尽くされた感があるし、陳腐な感じもする。しかし、この試合を「事実上の決勝戦」と呼ばずになんとよぶのか。2005年フレンチオープン、トップハーフのセミファイナル、フェデラー対ナダル戦が明日に迫った。

去年、リトルスラムを達成した時点でフェデラーは圧倒的強者となった。去年年末のマスターズカップで、ランキングのトップ4がそのままトップ4シードになり、そのままベスト4に揃い踏みしたした時点で、フェデラーを追撃できる位置にいるのはサフィン・ヒューイット・ロディックしかいないと思われた。それがほんの数ヶ月前の状態だった。注目はされてはいてもナダルはまだフェデラーの関心の外側にいた。

始まりはマスターズシリーズの2005年第二戦マイアミ大会の決勝戦だった。圧倒的強者フェデラーを2セットダウンまで追い込むナダル。マイアミはハードコートである。クレーコートスペシャリストであるナダルがヒューイット・ロディックを圧倒するフェデラーに対して、ハードコートの上で先に2セット連続して取ったのだった。結局逆転負けを喫したが、誰もがこれがクレーの上ならば、ナダルはフェデラーを倒せると想像しただろう。

ヨーロッパクレーシーズンに入り、フェデラーはガスケに不覚を取りスタートダッシュに失敗、失速しているうちにナダルは連勝を重ね、MSモンテカルロ、ローマ大会を連覇した。マイアミでフェデラーから自信と強さを貰い受けたかのような活躍である。指を負傷しているナダルはMSハンブルグ大会をスキップした。その大会でフェデラーはクレーでの優勝を上げ、全仏への準備を終えた。二人ともマスターズシリーズの優勝への過程で去年モヤと共にクレー最強だったコリアを下している。今年のクレーの双璧はフェデラーとナダルであることを世間に知らしめた。この二人が全仏のタイトルを競い合う。それも激しく、そして強く。誰もがそう信じているはずだ。そして、その通りになった。

ナダルは5年前のロディック同様、先にメディアで注目を浴びており、話題ばかり先行していた。実際にそのプレーを見たのは今年の全豪オープンになってからである。TVが地上波のみの人は未だに見ていない人もいるだろう。さて、その話題のナダル、ハードヒッターかと思っていたが、実はスピンボールを主体にした組み立てでポイントを取る老獪な戦術家だった。そして、フェデラーのように攻撃的テニスでガンガン攻めてくる相手に対しては、守りに守り、最後にカウンターショットで切り返す。まるで活躍し始めた頃のヒューイットのようだ。赤土の上のヒューイット。しかし、彼もまたヒューイット同様熱い男だが、その熱さは種類が違う。けして精神的に切れることもなければさめることもない。クレバーに、静かに燃える。若々しい激しい炎ではなく、何があっても決して消えることのない炉の中の炭火のような熱さを持つ男である。

フェデラーは2003年まではヒューイットやナルバンディアンといった守りに固く、カウンターショットを得意とした相手を苦手にしていた。攻めて、攻めて、攻めきろうとしたときカウンターで切り返される。フェデラーが徐々にネットに出る機会が減ってきているのは、ストロークが強くなっただけでなく、カウンターショット対策の一環でもあるのだろう。去年は見事にヒューイットやナルバンディアンを圧倒した。しかし、クレーの上での今のナダルはヒューイットやナルバンディアンの上を行く。

QFでの対フェラー戦はそれをよくあらわしていた。第一セット、攻めているのは明らかにフェラーである。しかし、ナダルの防御は崩れない。ボールを返す。これでもかとハードヒットを繰り返し押切ろうとするフェラーだが、ナダルの前に攻めきれず、先にミスをしてしまう。そして、ここぞという時にカウンターショットの餌食になる。競り合いの上、第一セットを取ったのはナダルであった。そして、フェラーはその鉄壁の防御と鋭いカウンターの前に戦意を失っていき、最後は自滅の形で試合を終えた。

SFでのフェデラーはQFでのフェラー同様、ナダルを圧倒しようと猛攻を仕掛けるだろう。マイアミでの苦戦の記憶を振り払うように。果たしてフェデラーの攻撃はナダルの防御を突き崩すことが出来るだろうか。もしも攻めきれずに試合が長引けば、それはナダルのペースである。そして、マイアミの二の舞はナダルの方も決してしまいと心に誓っているはずだ。一度リードを奪えば、今度こそそのリードを守りきる。お互いに勝利の鍵を握るのは第一セットだ。

期待と興奮が徐々に高まっていく。この試合の行方は今年の全仏男子シングルスの優勝の行方だけでなく、今後数年間のATPにおけるトップ選手達の力関係に大きく影響を与えることになるだろう。皇帝フェデラーの覇業、生涯グランドスラムへの最大の難関、準決勝ナダル戦。ナダルはいつもどおりの試合をするだけ。天に試されているのはフェデラー、挑んでいるのはフェデラー、その覇権、磐石のものに出来るか。

決戦の時は来た。いよいよ明日、男子シングルス準決勝である。