フェデラーが鋭い逆クロスからネットに出る。そこへ追いついただけでも信じられないのにそこから更に鋭いパスを外側からコーナーに切り返し、ナダルが最初のポイントを取った。次にフェデラーはナダルをコートとの外に追い出すとセンターに戻ろうとするところの逆を突き、鮮やかなファハンド・ウィナーを決めた。素晴しいウィナーの応酬で始また。期待通りの好勝負を予感させる出だしである。しかし、その後の試合内容はあらゆる予想を裏切る内容となった。

2005年全仏オープン男子シングルス準決勝第二試合
ナダル 63 46 64 63 フェデラー

第一セット、フェデラーは対ナダルの意識が過剰であることが明らかだった。MSハンブルグ大会決勝対ガスケ戦同様、フォアを強打しようとしすぎてエラーを連発していた。しかし、それ以上に意外だったのは、ナダルが攻めていることである。いつもよりトップスピンの弾道が低い。低く、鋭く、そして速い。ガンガン攻めるナダルに対してエラーを連発するフェデラー。フェデラーもリスクをとって攻めているのでナダルのサービスゲームをブレークするが何よりナダルが攻めてフェデラーのサーブを破りまくる。試合は荒れた。女子の選手の試合のようなブレーク合戦の末、ナダルが取る。

第二セット、ナダルの攻めが甘くなった。ボールの弾道がいつものスピンボールになっていた。そしてフェデラーのプレーからはミスが減っていく。クレーの上でも地力に優るのはフェデラーだ。それを証明するかの様な内容でフェデラーが取る。

このままフェデラーのペースになるだろう。そう思った。だが、そうはならなかった。

第三セット、サービスゲームのキープ合戦になり、試合は落ち着いたかのように思われた。攻めるフェデラーに守りカウンターで切り返すナダル、ようやく予想通りの展開になる。だがフェデラーの攻めはいつもより甘い。ミスもまた増えてきた。ナダルがブレークした。そして最後第10ゲームもブレークしてフェデラーからセットを奪った。ナダルは特別なことは何もしていない。いつも通りのテニスをして、フェデラーからセットを取った。

このセットが終わった瞬間、フェデラーから自信が失われた。第4セット、赤土の上に立っている男は常勝無敗の皇帝ではなかった。先にブレークして先行するが、それはただボールをつないで相手のミスを待った結果だ。ナダルは勝利が見え初めてやや固くなったのか、フェデラーがペースを落として戸惑ったのか、鉄壁のディフェンスにミスが目立ち始めている。フェデラーの3-1になった。スコアだけ見ていればこのまま、フェデラーが第4セットを取ってセットオールとなると予想するだろう。しかし、TVの中のフェデラーの姿にはそれを確信させるだけの覇気がなかった。そして、不安は的中し、そこから5ゲームナダルが連取し、フェデラーは今年3度目の敗北を喫した。

雨天遅延による試合開始の遅れに加え、第一試合のダビデンコ対プエルタのSFがフルセットにもつれ込む大接戦だったため、第二試合の開始は大幅に遅れた。緯度が高いパリで夏至が近い6月のことだ、日没は21時45分だがフルセットになるとそれまでに終わらないだろう。日没順延だとフェデラーが息を吹き返すかも知れない。そこまで計算したかどうかはわからないがナダルはこのセット後半、集中して気落ちしたフェデラーを一気に倒した。WOWWOWは放送予定時間の追加延長枠を使い切り、この試合をLIVEで伝え切れなかった。翌日、女子の決勝が早く終わったため、この試合の結末を録画で放送したが、その後なんら劇的な展開があったわけではない。ナダルはいつも通りのプレーを淡々として、勝ってしまった。

如空が勝手に「皇帝」という称号を与えていているロジャー・フェデラー、彼がその皇帝の座について3回目の敗北である。しかし、今回の敗北は前二回の敗北とは与える影響が違う。
全豪サフィン戦は互いにマッチポイントを取り合う白熱した接戦だった。何よりサフィンがゾーンに入っており、ゾーンに入ったサフィンは手がつけられないということは誰もがわかりきっていることである。それはモンテカルロ大会の対ガスケ戦も同じである。フェデレーといえど一年間常勝無敗というわけには行くまい。これは交通事故にあったようなものだった。
今回は違う。フェデラーの側に問題は確かにあった。対ナダルへの意識過剰、フォアハンドの回り込みの際のミス多発(これはサウスポーからのトップスピンにまだ完全にアジャストしていないためと思われる)、サービスのコースも少し甘かった。日没順延を予想して集中力を最後に切らしていたという油断もあっただろう。しかし、フェデラーはそんな状況でも今まで勝ってきたのだ。だから今の地位にいるのだ。そのフェデラーが、いつも通りのテニスをする相手に負けてしまった。ナダルの偉大さをも認めつつも、「ナダルが出来たなら俺も」と思った選手は多いはず。皇帝の権威の前にひれ伏して、戦う前から自分で作り出してしまった皇帝の圧力の前に屈していた選手達がその圧力から解放されてしまうと、さすがにスロースターターのフェデラーは苦戦してしまう。時には事故も起こるだろう。

次のウィンブルドンでフェデラーにはそのキャリアの上で大きな転換期を迎える。ここで3連覇をするだけでは駄目だ。それこそセットを一つも落とさず、7戦全てストレートで圧勝するくらいのことをしないといけない。
全仏制圧どころではなくなった。磐石と思われた皇帝の覇権は早くも試練に立たされる。