ATPに君臨する圧倒的強者、ロジャー・フェデラー。今や彼の前にはロディックもヒューイットもアガシも無力である。その「皇帝」が唯一完全に制圧できていない地域がヨーロッパクレー。そして、赤土の上でもその強さを落とさないフェデラーに唯一対抗できる、赤土のコートの最後の砦、それが鉄壁の男、ラファエル・ナダルである。去年は神の見えざる手よるものなのか、両雄といわれる二人が対戦したのはマイアミの決勝とローランギャロスの準決勝のニ試合だけだった。しかし、今年は既にドバイで対戦、ナダルがハードコートであったにもかかわらずフェデラーを止めた。相手の得意とする土俵に自ら乗り込んで、打ち倒した若き赤土の王は、いよいよ自らの牙城に世界制覇を目指して侵攻してきた皇帝を迎え撃った。

2006年マスターズシリーズ決勝
ナダル 62 67 63 76 フェデラー

第一セット、いきなりナダルの2ブレークで4-0、試合開始直後に4ゲームを連取されるなどここ数年、フェデラーの試合でありえただろうか。その後、フェデラーは自分のサービスゲームを二つキープしたが、ナダルのサービスを破るまでには行かなかった。42分後、6-2でナダルがセットを先取した。

第二セット、ナダルが先行、5-4のサーブインフォーザマッチでセットポイントを握る。が、珍しくナダルが固くなった、そこにつけこむ老獪なるフェデラー、ブレークにようやく成功して5-5、そこからTBにもつれても、しっかり押し切ってフェデラーがセットを取り返した。

第三セット、いきなりのブレーク合戦、でもなんとなくフェデラーペース。このまま行くかと思ったところでナダルが怪我の治療で一休み。ワザと試合を中断させたわけではないのだが、ナダルはタオルの取り方など間をうまく使って流れを変える。この日もこれでまた流れが変った。いつの間にやらまたナダルペースになり6-3で終っていた。

第四セット、またもやナダルにブレークされ先行を許すフェデラー、ジャッジもナダルに傾きいらつき始めるが、それでも一つブレークを返して1-3にする。フェデラーがここに来てようやくナダルのショットに対応できるようになり、彼らしい早い展開の攻めが発揮され始めた。第8ゲームでさらにフェデラーがブレーク、2ブレークで並んだ。両者が本来の力量を発揮してポイントを奪い合い、ゲームを取り合う。6-6でTB突入。ここでフェデラーは3-0と先行するが、そこからナダルが一気にレベルを上げてきた。ポイントを連取して4-4にまでなった。そこからのナダルは見事だった。マッチポイントを見事なフォアハンドからのストロークウィナーで決め、この大会の連覇を決めた。

対ナダル戦5戦1勝4敗、唯一の勝利もハードコートの上で、しかも2セットダウンされた。初対戦から2年、フェデラーは未だにナダルの左利きのスピンボールに対応し切れていない。ナダルと対戦するといつもよりミスが多くなる。フェデラーだけでなく、他の選手もそうだ。いつもの相手とは感覚が違うサウスポーのヘビートップピン、このショットに対応していつもどおりの自分のショットを打てるようになるのに、皆時間がかかっている。そしてそのボールになれる頃には試合が終わっている。そこにきてあの脅威のコートカバーと信じられない角度で入ってくるカウンターショット、あれで戦意を喪失させられて自滅していく。流れが相手に傾きそうになると絶妙の間の取り方で相手の気をはずし、カウンターショットでその芽生え始めた希望を叩き潰す。ナダルはそうやって相手を負かしていく。
フェデラーといえど、またナダルに対応するのに時間がかかっている。彼がナダルとまともに打ち合えるようになったのは第四セットになってからだ。薄いグリップの片手打ちバックハンドの相手には高く弾むボールをバックに集める。そのバックに高く弾むボールをフラットでもスライスでもスピンでも自在に打ち返せるようになって、ようやくナダルと同じ土俵にフェデラーは立つことが出来た。それが第四セット後半である。遅い、エンジンがかかるのが、ギアを上げるのがそれでは遅すぎる。それでもこの試合は第2セットを取っていたのだ。第四セットTBでリードを守っていればあるいはフェデラーに勝機があったかもしれない。しかし、あのTB、先行したフェデラーに追いつき追い越したナダルのあの強さはいったいなんだ。最後のTBのポイントは明らかにエンジンのかかった皇帝のテニスをさらに凌駕していた、強いテニスでナダルはタイトルを奪い取った。

対戦相手の力を封じ込めるだけでなく、相手が本来の力量を発揮してきたときに、それを超えるレベルに自分のテニスを引き上げることが出来る男、ラファエル・ナダル。フェデラーは果たしてこれほどの男を倒せるだろうか。挑むのはあくまでフェデラーである。

皇帝の挑戦の第二ラウンドはいつ訪れるのか、そしてその勝負の行方は如何に。欧州赤土戦線は美しい地中海から大陸内部にその戦線を移していく。