タクシーを捕まえようと思った。空車が来た。それを止め損ねた。「また次が来るさ」と待っているともう二度と来なかった。そんな経験はないだろうか。空車のタクシーは一度逃すと次はつかまらないのものだ。逃してからそれを後悔しても仕方ない。勝利の女神に後ろ髪はない。一度来たチャンスはこれが最後と思って必ず取りに行かなくてはならない。
フェデラーとナダル、トップ2シードがそろって欠場、他のシード選手も途中で敗退してくれた。訪れることなど希望はしていても現実のもになるとはにわかに信じがたいマスターズシリーズの決勝、優勝のチャンス。今年だけでなく、テニスキャリアで最後のチャンスかもしれないこの大舞台。この幸運を生かしたのはどちらだったろうか。

2006マスターズシリーズ第5戦ハンブルグ大会決勝
ロブレド 61 63 63 ステパネック

第一セット、ステパネックは始めから飛ばしていた。彼の最大の武器である、ネットプレーを生かすため、クレーであるにもかかわらず、サーブ&ボレーにチップ&チャージ、流れの中からもガンガン前に出る。この試合にかけるステパネックの意気込みをかんじさせる。だが、意気込みという点ではロブレドも気合十分だった。ドロップショットにアングルボレー、ステパネックの捨て身の攻撃をある程度予想していたのだろうか、ひるむことなくロブにパスで対抗して引かないロブレド、それどころか、彼自信ネットに詰めてステパネックとボレー合戦を挑み、ネット巧者ステパネックから強引にポイントをもぎ取る。ステパネックはロブレドの強気の姿勢の前にサービスゲームを二度までも破られ61でロブレドが第一セットを取った。

第二セット、ステパネックはそれでもネットへの突進をやめない。何度抜かれてもネットに突き進む。キープ合戦になった。しかし、最後の最後で1ブレーク、ロブレドがもぎ取り63で王手をかけた。

第三セット、これもキープ合戦。共にブレークのピンチを切り抜け43まで来た。ここでロブレドにまたブレークポイントが来る。ステパネックが前に出る。後ろに一度下げられるが、また前に出る。ネットで壁になるステパネック、その右横をロブレドのバックハンドダウンザラインが抜けた。天に向かって雄たけびを上げるロブレド、53になってロブレドサーブインフォーザチャンピオンシップが来た。3ポイント連取してマッチポンイントを握る。一ポイントステパネックが返すが、そこまで。ロブレドが最後にはネットに来て、コードボールを強引に相手コートに落として、マスターズシリーズ初優勝を決めた。ステパネックと握手する前にシャツを脱いでスタンドに放り込んだ。

ステパネックは果敢にネットに出て勝負を挑んだ。クレーコートで自分に不利なのは百も承知の上で、それでも自分のストローク力ではロブレド相手に対抗は出来ない、ベースラインに閉じ込められたら勝ち目はない、わずかな勝機をネットに見出し、自らの全知全能を駆使してポイントを取りに行った。二年前、パリ大会決勝でサフィンに敗れた経験を経て、今度こそは自分のテニスをやり切るのだという決意の元に試合に臨んでいたのだろう。だが自分のテニスをやりきったという意味ではロブレドも見事であった。第一セットこそ2ブレークできたが、第二・第三セットはステパネックの迫力の前にキープを許し続けた。ステパネックの攻めは決して悪くはなかった。何度も流れを掴むチャンスがあった。だがロブレドは崩れなかった。時にネットに出てステパネックとボレー合戦も挑んだが、あくまでベースラインからのストロークで自分の展開に持ち込み、ネットに出てきたステパネックにパスで真っ向勝負を挑み、1ブレークをもぎ取り、勝利につなげた。ストレートで終ったが、両者共に自分を信じて自分のテニスをやりきった。見事な勝利であった。