ロディックダウン、リュビチッチダウン、Vウィリアムズダウン、衝撃のウィンブルドン3回戦である。だがこれらトップシードの敗退の衝撃よりも、第二シードが未だに芝の上で勝ち残っていることの衝撃の方が大きい。

全英2006三回戦
ナダル 76 62 64 アガシ

如空はナダルの全英一・二回戦を映像では見ていない。ただ色々情報をあたって見るに、未だ芝にフィットしているとはいえなかったらしい。だがこの試合、これがクレーコートスペシャリストの試合かと思わずうならせる見事な試合運びであった。
緊迫した雰囲気の中で進む第一セット、両者ともにサービスキープを続ける。序盤からアガシの気合がすさまじい、隙を見せないぞという鋭いサーブと速い展開のストローク。しかしそのアガシの攻めにナダルはあっという間に対応してしまった。ボールを落とさずにコートの中に入りライジングでさばくナダル。これができる限り、ナダルはあらゆるサーフェイスに対応する。アガシのごとく、フェレーロのごとく、フェデラーのごとく。徐々にサービスキープが苦しくなるアガシ。それでもTBにまで持ち込んだ。ペースを上げて畳み掛けるアガシ。TBでギアを上げることが強者の力量だ、かつてサンプラスもそうだった、フェデラーもそれができるから強い。TB5-2までアガシが追い込んだ。そこでナダルの奥底に眠る何かが目覚める。皇帝フェデラーですらも押しつぶせない何かが目覚める。5ポイント連取のTB7-5で逆転、ナダルが第一セットを取った。
第二セット以降、もはやアガシはブレークポイントすらつかめない。ヒューイットと双璧をなすとも言われ、その才能は天下無双とまで言われたアガシの史上最強のリターン、そのレシーブ力を持ってしても攻めきれずに封じ込められてしまうナダルの左利き特有の回転サーブ、そのナダルの、決してビックサーブではないが鋭利な刃物のように鋭いサーブがアガシを完全に封じ込めてしまった。
あらゆるサーフェイスに対応する生きる伝説アガシはストレートで最後のウィンブルドン3回戦敗退で終わった。

この数ヶ月、ナダルはフェデラーと何度も対戦することで技術的にも精神的もますます強くなっていった。そして今日またアガシと対戦することで芝の上での強さも手に入れた。まるでコートの上の強者達がナダルを鍛えているかのようだ。アガシという選手の偉大な功績は、自らが素晴らしいパフォーマンスを発揮して観客を魅了し、かつ試合に勝つ強くて面白いテニスをした上で生涯グランドスラムを達成したことだけでない。特に30歳を過ぎてからのアガシの功績は、その対戦でサフィン・ヒューイット・フェレーロ・ロディック・コリア・フェデラー・ブレークなどと何度も名勝負を演じて、彼らがグランドスラムタイトルとランキングNo1を狙えるようになるまでにそのテニスを鍛え上げたことにある。選手を磨き鍛え上げるのはコーチだけでない。偉大なるプレーヤとの激しい対戦によってのみ手に入るものもある。アガシ自身は自分が勝つことだけに集中していて、けして自分でその事を具体的には意識はしていないだろうが、結果としてそういう役割を果たしてきた。そして今また、ナダルをクレー以外でも通用する選手に成長する糧を与えた。ナダルが芝でも十分通用するテニスができることはこれで証明出来た。あとはそれをいついかなる相手に対しても常に発揮できるかが問われる。次の4回戦でアガシ戦と同じ事ができるかどうかが大事なところだ。アガシがこれまで果たした業績を賞賛するととともにナダルの今後に注目しよう。ナダルがアガシから受け取ったバトンをしっかりとつかんでいるがどうかを。