フェデラーとナダルの間に付きまとう、切っても切れない強い糸、人はそれを宿命と呼ぶ。フェデラーの4年連続決勝進出は予想の範囲内であったが、ナダルの決勝進出は予想外の出来事だった。予想された全仏決勝の対戦とは違い、異なるサーフェイスでの予想外の宿敵と不期遭遇戦を余儀なくされた皇帝は如何にこの決勝戦を戦ったのか。

2006全英男子単決勝
フェデラー 60 76 67 63 ナダル

ファーストサーブの驚異的な確率とスライスでの緩急、フェデラーが剛柔織り交ぜたテニスでナダルにラリーをさせず、なんと6ゲーム連取で第一セットを奪取した。

第二セットでナダルはいきなりフェデラーのサービスゲームをブレーク。第一セット元気のなかったナダルが突然元気になる。左利き特有のスピンボールが復活、フェデラーを悩まし始める。だがナダルの5-4で迎えたサーブインフォーザセットでナダルが珍しく緊張した。ダブルフォールトを含むミスを連発してフェデラーに追いつかれてしまった。両者ともにサービスゲームをキープして6-6TBとなる。リードするが追い上げられるフェデラー。TB64でフェデラーのサーブ、プレッシャーのかかるこの場面でパワーサーブから回り込みのフォア、そしてネット、フェデラーの代名詞ともいうべき連続攻撃で攻めたてた。ネットに出たフェデラーの元にナダルのボールは届かずネットにつかまる。第二セットを逆転でフェデラーが取った。

第三セットはキープ合戦、お互いにピンチはあったが、お互い自分も持ち味を出して乗り切る。またTBになった。ここでナダルの思い切りがよくなった。振り切られたスイングから鋭いボールがフェデラーを抜く。TB7-2でナダルが1セットを返した。

第四セット第四ゲーム、ナダルネットで痛恨のイージーミス。フェデラーがブレークして3-1、畳み掛ける。さらにブレークを重ねて5-1とする。サーブインフォーザチャンピオンシップスを迎えるが、ここでフェデラーがミスを連発して、ナダルにブレークされてしまう。なんともフェデラーらしくない気負ったプレーだった。次のサービスゲームをナダルがキープして5-3、再びフェデラーのサーブインフォーザチャンピオンシップスが来る。
一本目、フェデラーのフォアに押されてナダルのフォアがラインを割る。
二本目、フェデラーのスマッシュがオープンコートに叩き込まれた。
三本目、フェデラーのサーブに押されてナダルのリターンがラインを割った。
四本目、フェデラーのスライスを持ち上げられず、ナダルのスライスがサイドラインを割った。
第四セット6-3、フェデラーが勝った。実に去年のMSマイアミ決勝より一年半、5連敗の末の久しぶりの対ナダル戦勝利であった。

この試合、驚くべきはナダルの適応力の高さであろう。第一セットは一ゲームも取らせてもらえなかった。フェデラーのスライスを持ち上げることができず、フェデラーのサーブに押されていた、ネットに出てくるフェデラーの連続攻撃をしのげなった、ラリーで主導権をとることすらできなかった。芝の上ではフェデラーの武器がことごとくパワーアップされて対戦相手に襲い掛かってくる。ハードコートの上よりもクレーコートの上よりもこの芝の上でこそ、そのテニスの差が開くのがフェデラーのテニスだ。しかし、ナダルはあっという間にそのフェデラーのテニスに適応した。第二セット、6-6でTB、そして第三セットも6-6TB、たったの一試合でナダルは芝の上でのフェデラーにもっとも近いところまで近づいたのだった。第四セットはナダルの自滅である。そしてフェデラーもまた5-1と圧倒的リードにもかかわらず第七ゲームで勝ちを意識して固くなった状態に一時的に陥った。一瞬MSローマ大会決勝の悪夢が蘇るかと思ったが、次のサービスゲームは見事に力強くかつ慎重にナダルを押し切った。

お互いがお互いを意識しあって、最後にはいつも精神戦になってしまう。お互いに高めあうよきライバル関係ではあるのだが、サンプラスとアガシのような明朗さはなく、なぜだか悲壮感が漂うのは二人の性格によるものだろうか。フェデラーとナダル、宿命の対決は一旦はフェデラーが一矢を報いたが、むしろ評価を高めているのは芝でも決勝に進んできたナダルのほうだろう。「ハードコートでも芝の上でも十分やれる。」去年のMSマイアミ決勝と同様に敗北したにもかかわらず自信をつけたのはナダルの方で、追い上げられつつあるのはフェデラーである。今年の後半戦、いよいよナダルがフェデラーの牙城、No1の座を狙ってくる。その予感を大いにさせる決勝戦だった。

1980年前半生まれの選手はフェデラーを除きことごとく失速したままだ。代わりに1985年以降に生まれた世代が台頭してきている。そして1970生まれのアガシに残された時間は後2ヶ月。どうやら今年の年頭に予想された流れとは大きく異なる様相を見せ始めたATPツアーである。その節目にこの2006年のウィンブルドンはなるのではないだろうか。得意のコートで、世界でもっとも高貴なタイトルを手にするフェデラー、激しく厳しい戦いが待っているかもしれない後半戦を前に、皇帝がつかの間の安息を取っているような、そんな嵐の前の静けさを感じさせる決勝戦でもあった。