12月から1月にかけて、テニスをする機会が半減している。仕事と家庭両方の事情が重なっての結果だが、なんとも辛いものだ。二ヶ月ぶりに出場したシングルス大会はそんな如空に厳しい結果を突きつけてくれた。

ドローを見たとたん「ゲ!」と思わずつぶやいた。この大会の過去の優勝者と同じ予選リーグに入ってしまった。そのタイトルホルダーが第一試合で中学生のジュニアを6-2で下したのを見た。タイトルホルダーは風邪を引いているらしくやたらと咳き込んでいる。いつもの力を十分に発揮していない。サーブもフォアもいつものハードヒットではなく、かなり抑えたコントロールショットであった。一方のジュニアは元気にコートを走り回り、背が高くないのにサーブも強い、何よりフォア・バックともにストロークが強力だった。しかしタイトルホルダーは自分からは決してミスせず、それでも要所要所しっかりとしめて元気なジュニアを負かした。

第二試合は負け残りで第一試合の敗者と第三者が試合をする。如空はまずそのジュニアと試合をすることになった。さっきの試合を見てこのジュニアともかなり差があることは如空でもわかった。如空がたとえ絶好調でもゲームが取れるか取れるかどうかわからない。しかも今の如空はあきらかに練習不足である。前回のダブルス大会に引き続いて今日も一ゲームも取れずに終わるのではないかとあせった。

今年最初のシングルスの試合が始まった。案の定、ジュニアは強いサーブ、強いリターン、強いストロークでガンガンに押してきた。ハードヒットで左右に振り分けてくる。ラリーが続かない。ラリーが5往復するまでにオープンオートを作らされてそこにウィナーを叩き込まれる。あるいはそこにいたるまでにミスされられる。格が違う。横に足をスライドさせて延ばしたラケットの先を何度ボールが通り抜け行った事か。練習不足であったが如空の調子が不調であったわけではない。むしろ昨日のダブルスの練習で調子の出なかったサーブがかなりいい感じで打てた。ネットに出るとボレーが何度も成功した。練習不足にしては、そして如空にしては、今日の如空のテニスはいいテニスだった。そして相手は如空の弱点を攻めたり、如空の嫌がることをしてきたわけでもなかった。だがテニスが決定的に違った。強打をあそこまで正確に左右に打ち込まれたたらついていけない。土俵際で押し切られる相撲取りみたいに如空はジュニアの圧力に押し出された。まして如空は肝心なところでフォアにミスが目立った。フォアが振り切れなくてはポイントも取れない。あっという間に0-5になった。相手は余裕が出てきてサーブ&ボレーを仕掛けてきた。普段あまりせず、この試合は余裕なので、試してきたのだろう。すきだらけのネットダッシュだった。なぜか冷静にリターンを沈めて相手にミスさせ、さらにパスを抜いた。ブレークポイントが来た。ネットに出ようと思って両手打ちのバックハンドのフラットを逆クロスに打ってアプローチしようしたら、それがそのままウィナーになってブレークした。アプローチしようとして体重移動がスムーズに行えたからだろう。ハードヒットしたわけでもないのに自分でも驚くような鋭いボールが行った。フォアの逆クロスはよく打つがバックの逆クロスはリターンのとき以外ではほとんど練習でも打たない。あんなショット打ったのは生まれて初めてだった。如空の今日のベストシーンだった。そしてこれが唯一のいいところであった。ジュニアはこれで動じることなく、次の如空のサービスゲームを簡単にブレークして1-6で如空を負かした。

あのジュニアを6-2で負かすタイトルホルダーと第三試合で当たらなければならない。彼はバックハンドはスライスしか打たない。サーブもフォアも強力だがトドメはネットで決めるタイプである。さてどう抵抗するかと考えたかったが、そんな間もなく次の試合が始まった。やはり相手は風邪で体調が悪いらしく、ショットにいつもの切れがない。二回ほど対戦したがそのときほどサーブもフォアも威力はなかった。さっきのジュニアの試合よりもよっぽどラリーが続いた。だけど、さっきのジュニアよりもポイントは取らせてもらえなかった。相手はいつもより丁寧にボールをつないでじわじわと攻めてくる。最後にこちらにオープンコートを作って、そこにぽんとボールを入れておしまいである。格の違いは先ほどのジュニアよりあきらかである。その上、如空の数少ないチャンスでは肝心のフォアでミス連発、あれではポイントは取れない。真冬のコートの上で汗が滴り落ちるまでに走りに走らされ、それでもほとんどポイントが取らせてもらえず、予想通り0-6の団子で終わった。

如空たちの予選リーグは早くに3試合終わったが、他のところは激戦が展開されているらしく、なかなか予選が終わらなかった。長い待機時間の末、予選敗退者で行われるコンソレの初戦で当たったのが、これまたこの大会で優勝したことのある高校生のジュニアだった。彼が中学生のときに二度ほど対戦して、そのときもボコボコに負かされている。いまや彼は高校生、このレベルの大会では常に優勝候補である。「何でお前さんが予選敗退してコンソレにいるんだよ、迷惑だ。」「あのリーグは激戦なんですよ。おかしいですよ、強い人があんなにかたまるなんて。」と笑顔で文句を言い合いながらそのジュニアと4ゲーム先取のコンソレを始めた。結果は0-4、中学生の段階で勝てなかった相手が高校生になってしまったらゲームどころか、ポイントすら取らせてもらえない。汗をかく間もなく、終わらされた。


試合後、如空のゲームを見ていてくれた連れが言う。「バックハンド良かったですね。いい球打てていましたよ。最初の試合のブレークしたゲームの最後のバックの逆クロスはすごかったですよ。」「バックはリターンも良かった。相手がビックサーバーばかりなのにいいリターンが打てていましたよ。」「でもフォアにミスが多かったですよね。特にフォアのリターン。」「バックが構えるのが早いのにフォアは構えるの遅いですよ。そしてリターンではフォアのラケット引きすぎじゃないですか。バックみたいにコンパクトな構えで打つたないと。」
仰るとおりです。基本ができていない、基本が。ストロークの基本「構えを早く。」リターンの基本、「テイクバックをコンパクトに、ラケットを引かずにボディターン」、これができていない。基本ができていない。だからテニスにならないのだ。
もう一つ、打ち合っていてやられるときは決まって、フォアの返球がセンターに甘く帰ったときと、バックの返球が浅くなったときだった。フォアは打ち合いでコーナーに返す、バックは深く返す。走らされても、下がりながら打たされてもだ。それができないから相手のいいように打たれるのだ。その当たり前のことをやり続ける脚力がないのだ。練習が足らないのだ。

一大会でたった一ゲームしか取らせてもらえなかった。ポイントも数えるほどしか取れなった。練習をしっかりとしたうえで調子がよかったとしても似たような結果にしかならなかっただろう。ひどい結果だ。本当にこの大会は初級クラスの大会なのかと文句の一つでも言いたくなる結果だった。しかしながら不思議と落ち込みはなく、むしろ心が熱くなって行く。強い相手だった。気持ちのいい相手だった。相手は本気を出してないが、それでも力でねじ伏せてくれた。あの打ち合いの中にこそ生きがいがある。テニスの醍醐味がある。日常の様々なことを忘れさせてくれて、火の塊のようになってただひたすらにボールを打ち返すあの瞬間に麻薬のような魅力がある。それに取り付かれて抜け出せない。勝つためにはもっとチェンジオブペースを使って、相手の嫌がることをしなくてはいけない。強い相手に打ち合ってはいけないのだ。だがそれはダブルスで追求しよう。シングルスではひたすらに打ち合いたい。そしてそんな相手と打ち合いたい。もっと練習して何度も何度も基本動作を繰り返して、それを試合で発揮してみたい。そしてかなう相手には、そのテニスで勝ちたい。

散々な結果だった。かっこ悪い負け方だった。情けない2007年のスタートだった。だがモチベーションを上げてくれる対戦であった。最近下火になりつつある小さな火がまた燃え始めた。更なる精進こそ進むべきわが道、そして唯一の道。

修行は続く。