「公開処刑」
それは、グランドスラムの決勝、準決勝、あるいは最終戦であるマスターズカップやツアー選手権の決勝・準決勝など、世界的に注目度の高い試合において一方的な展開で圧勝されてしまうことを言う。ネット上の日本語テニスファンのスラングである。2004年全米男子シングルス決勝にてヒューイットがフェデラーに06 67 06 という前代未聞のひどいスコアで負けた時にヒューイットファンの中の自虐的マゾヒスト一派がネット上で使い出したのが始まりという説がもっと有力な語源説であるが、正確なところはわからない。ダブルベーグルなどを含む一方的なスコアでの敗北を全て「公開処刑」というわけではい。前出の試合の格・注目度のほかに、

死刑囚は処刑執行人に対して試合前には「勝てるのではないか」という希望を自分の陣営に抱かすことの出来る程度の実力と実績があること。
死刑囚・処刑執行人共にプロテニスに興味のある人ならば一度は名前を耳にしたことのある程度の知名度とそれに伴う実績があること。
死刑囚のミスからの自滅ではなく、処刑執行人によるすばらしいウィナーの量産によって、試合が進むこと。
試合中、流れに波がなく、一試合を通じて一方的に死刑囚が処刑執行人のウィナーに蹂躙され続けること。
観客もTV中継をしている解説者も思わず同情してしまうほどにひどい敗北であること。

などが「公開処刑」となる条件として上げられるが、正確な定義があるわけではない。
ここ数年で最も残虐非道冷酷無比な公開処刑としては皇帝フェデラーによる2005年マスターズカップ準決勝での06 06がある。このとき処刑されたのは前年2004年全仏の覇者ガウディオである。ちなみにATPを蹂躙し続ける皇帝フェデラーはこの公開処刑をよくやる。ここ数ヶ月でも、去年末のマスターズカップの決勝でも執行(処刑されたのはブレーク)、そして一昨日はロディックに何度目かの「公開処刑」を執行した。皇帝の専売特許のように思われるが昨日、ゴンザレスもハースを「公開処刑」した。

女子ではラウンドの早い段階でよくダブルベーグルが発生するが、グランドスラムの決勝・準決勝ではなかなか起こらない。ちなみにウィリアムズ姉妹はその全盛期、ヒンギスの弱いサーブをリターンからガンガン強打で叩き込んで「公開処刑」に近いことを全米や全英の準決勝でやって、ヒンギスを一時引退に追い込む遠因の一つを作った。その処刑執行人の一人、セリーナ・ウィリアムズがまた「公開処刑」を執行した。しかも相手はあの粘り屋でハートの強いシャラポワである。

2007全豪女子シングルス決勝
S・ウィリアムズ 61 62 シャラポワ

サーブが強い、リターンが強い、センターに来たボールをタメを作ってから打ち込むフォアが強い、左から打ち込まれるバックが強い。セリーナの強打が炸裂する。シャラポワは津波に飲み込まれた小舟のごとく翻弄され、自分を見失ったまま押し流された。

シャラポワを認めない人は多くいるが、如空はエナンのいないトーナメントでは2007年初頭の時点でシャラポワがNo1であると思っている。同時にセリーナがあのグランドスラム4連勝を達成した全盛期に匹敵する強さを取り戻すことも不可能だと思っていた。もちろん今日のテニスはまだセリーナの全盛期の強さにはまだ及んでいない。だが、その力は世間の予想、如空の想像を完全に覆した。この全豪、少なくても準決勝まではセリーナは苦戦の連続だったのである。去年までは名前も聞いたことのないような選手たちに後一歩で負けるところまで何度も追い詰められているのである。ここまでこられただけでも上等であったはず。それが決勝でこのトーナメント最強の存在であるシャラポワに対してこの完璧なまでの勝利、恐るべきセリーナの力、まさに力で取った三度目の全豪タイトルであった。

去年末、WTAはエナンを筆頭にそれを追うシャラポワとモーレスモ、そして今年限りで引退を表明しているクライシュテルスの4強でグランドスラムの優勝争いは収束することになると思っていたが、年頭の全豪でいきなりその構想は崩れた。再び混迷の中へ戻るのか。これからの彼女たちの行方に注目していこう。