ローランギャロスの太陽は29歳のイタリア人女性選手の頭の上で燦然と輝いていた。

2010全仏女子単決勝
スキアボーネ 64 76 ストーサー

第一セット第九ゲーム、サービスキープ合戦で来た4-4、ストーサーのサーブである。0-30になった。デュースコートからセンターへストーサーが高く弾むキックサーブを打ち込んだ。スキアボーネはコートの中にステップインして顔の高さまで跳ねたそのキックサーブを片手打ちのバックハンドで叩いた。叩かれたリターンを懸命に返球するストーサー、しかし、ネットに猛然とダッシュしてきたスキアボーネのバックハンドボレーが逆クロスに入れられた。飛び上がってガッツポーズをするスキアボーネ、クールに対応するストーサー。ストーサーは冷静にポイントを返していく。しかし、最後はダブルフォールトでスキアボーネにブレークを許してしまった。

この第九ゲームが、この女子決勝戦のすべてを象徴していたように思える。

この後のサーブイングフォーザセットも苦しみながらも取り切り、スキアボーネは第一セットを先取する。第二セット、先にブレークに成功したのはストーサー、精神的な不安など微塵も感じさせない展開で、一気にたたみかけようとする。だが揺るがないのはスキアボーネも同じである。強い意志でブレークバックし、6-6TBに突入する。第二セット途中、ストーサーに左右に振られ、疲労が足に来ていたスキアボーネであるが、セットが進むにつれて、足を気力で動かし、追いついた。そしてTBで攻めの姿勢を貫く。スキアボーネが5ポイントを連取する。ここで勝負が決まった。最後はスキアボーネの深いフォアハンド逆クロスをストーサーがフレームショットしてしまい、オーストラリア人による久しぶりのグランドスラム制覇は阻止され、イタリア人女性初のグランドスラム優勝が果たされた。

ストーサーは確かにSFまで元気の良さは感じられなかったが、それでも要所でのサーブとフォアは見事であった。しかし、ストーサーの武器である相手バックハンドへのキックサーブを、スキアボーネは片手のリターンで見事に抑えきった。キアボーネの勝負所での集中力と気迫の前にストーサーは敗れた。第一セットのブレークの場面、サーブイングフォーザセットの場面、そして第二セットのTB、スキアボーネはそれこそ勇気を振り絞って攻めの姿勢を貫き、勝利を文字通りもぎ取ったのであった。

この決勝戦に至るまでのテニスの内容を比較すれば、ストーサー優位という予想になるのは当然である。だが戦いは持っている戦力の威力と選択肢の多さによって決まるのではなく、持てる戦力をより効果的に活用した方が勝つ。テニスの内容とその持っている総合的な力はストーサーの方が上まっていたことだろうと思う。しかし100ある力を80程度でしか発揮できなった相手に対して、90しかない力を90すべて出し切ったのならば、勝つのは後者の方だ。今日はそういう試合であったのだと思う。

第十七シードの優勝というのはシード選手のGS優勝としては最下位からの優勝というし、29歳11カ月での優勝は史上二番目 の高齢の優勝者ということになった。この波乱の全仏2010女子を征したスキアボーネの勇気を讃えたい。