演劇がもたらすこどもの発達を観る喜び
 演劇への感性は、近年はめざましいものがみられます。歌って踊れる才能ある多くの青年が演劇を志しています。歌ったり踊ったりすることを、衒(てら)うことなく楽しむ層が厚くなることは、とてもよいことだと思っています。身体で喜びを表現する、愛情を表現することが自然にできる文化へと日本文化は次第に変容しています。わずかな動きで感情の濃淡を表現する抑制された表現法を重視する能のような形式から、ダイナミックなダンス、バレエへとわたしたちの感性も次第に磨かれてきているのかもしれません。どちらも大切ですが、何よりもそれらの芸術を体験することが、芸術的感性にとって決定的に重要でしょう。
 3月には、はじめての試みですが、本格的なバレエの公演を園内で開催します。直接、バレエダンサーの身体の躍動に直に触れる経験ができることは、こどもたちの人生に大きなエポックとなると信じます。
 ときどき、娘が孫の動画を送ってきてくれます。最近は、キッズダンスの番組を観て、真剣に踊る孫の姿を送ってくれます。彼は最後に、「ああ、楽しかった!」と言って、さっと椅子に座ります。ああ、これだなと思いました。こどもは、満足すると、この一言が自然に出てくるのだな、とわたしはひとり合点してました。この満足感の体験を多くすることが、こどもの心を豊かにしてゆくのだと。
 生活発表会の劇や歌は、普段の生活のなかで、この体験を、できるかぎり、多く味わう機会とするために、設定されています。親に、「わたし、こんなにできるんだよ」と見せたいという思いもあるでしょう。でも、親に見せたいという思いよりもっと大切なことは、こども自身が、「ああ、楽しかった!」という、喜びの体験を数多くすることです。
 この喜びの体験は、脳内で達成感という報酬を記憶してゆきます。この記憶は、ふたたび喜びを体験するための努力を惜しまずする動因となり、何事かを究めるための努力を苦もなく行うこどもにしてゆくのです。
 さらに、劇や歌は、演ずるための、感情移入という高度な想像力を働かせる機会です。この想像力は、他者の思いや考えをその立場にたって、感じたり、考えたりする能力を飛躍的に伸ばします。
 劇の練習をしてゆくプロセスで、教師もこどもも、劇中のやくづくりを、さまざまなキャッチボールをしてゆくなかで、こどもたちは、その能力を磨いています。こども自身の自発的な、能力獲得への確かな意欲を尊重すること、これこそ、わたしたちが目指している教育があります。その一端を共に担うという思いで見守ってくださるよう希望します。