自炊が続かないと悩む学生さんやワーママさんなら、トマトと玉ネギの常備が突破口になるかもです。薄切りにして、豚肉細切れと一緒にワイン蒸しにすれば早くてうまく、かつ無添加。味付けは塩とブラペのみ。凝らないレシピこそ自炊定着の秘訣です。

■塩加減は「イメージ振り」で
 小ぶりのトマト1個と玉ネギを4分の1。豚肉の代ワイン蒸し (19)わりに無添加ソーセージを使ってもOKです。ソーセージは斜めに薄切りします。
 トマトと玉ネギも、薄切りならどんな切り方でも構いません。何でも薄く切るのは火の通りを早めるため。手抜き自炊のサボりテクなのです。

 切った材料を厚手フライパンに入れますが、順番はどうでも構いません。フタをして弱火で蒸すので、ワインが蒸気化して全体に回って均等に加熱されるからです。
 写真でトマトが上に載っているのは、トマトを切るとまな板が果汁で濡れてしまうので最後にワイン蒸し (20)切ったまでのこと。

 味付けは塩とブラックペッパーでシンプルにいきます。この素っ気ない味をバカにしてはいけません。外食や総菜調味料のビビッド味に慣らされ、調アミ依存症になってしまった舌と体を、素朴で野性的な味覚に更生させることも自衛自炊の重点テーマだからです。

 学生さんは、よく塩の加減が分からないと言ってネットで検索したがりますが、それは無駄。トマトや玉ネギの大きさは都度違いますし、肉の量も日々変わりますから、正解は見つかりっこありません。

 正解は自分の目と舌で決めましょう。例えば肉を、フライパンの中央にごそっと盛らず、なるべく重ならぬよう平たく並べて、食べるときの味をイメージしながら塩やコショウを一様に、満遍なく振ればちょうどよい味にまとまります。

 玉ネギもトマトも、それぞれ載せたときに、そのぶんだけの塩を振ります。この「イメージ振り」を3度も繰り返せば、以後は超テキトーに振りかけても大きくは外さないようになれる。調理はアナログ経験を積み上げたほうが、デジタルでオンデマンドに調べるよりも早く身に尽きます。

 さて、加熱時間は何分くらいが正解か。それもアナログです。肉の色が変わってから少したてばOK。つまり、薄切り肉は表面の赤みが消えると、その直後に中まで火が通るからです。
 豚バラ肉や細切れなら、肉を途中でひっくり返す手間もいらないほど。これも2、3回の経験で分かることです。

 このとき、野菜への火の通り具合は全く気に掛けなくても大丈夫。温まってしなっとなれば十分においしい。特にトマトと玉ネギは名コンビですから、こんなふうに生のままでもイケますし、トロトロに形崩れしても素晴らしくうまい。どのワイン蒸し (21)段階で火を止めても大丈夫だと分かります。

 左写真は、ワインの湯気が出始めてから5分ほどで完成にした状態。ここではソーセージを使ったので、ソーセージに含まれる塩分を勘案して塩の量を抑えてちょうどよい感じでした。

■「何でも蒸してやる」
 このワイン蒸しレシピを一種のテンプレートに使い、材料や味付けを差し替えていけば自炊は案外軌道に乗りやすい。なぜなら、自炊が続かない最大の原因は、調理そのものの面倒くささよりも、日々献立を考えその材料を買い回るしんどさにあるからです。

 例えば、今日は冷蔵庫に玉ネギしかないと分かっている日は、仕事帰りに生肉かソーセージ、そして玉ネギに合いそうな野菜を1、2品買います。パプリカとかキャベツとか。何でも薄切りにして蒸してやる、そう考えれば気持ち的に超ラクになります。

 野菜が白菜やモヤシなど、いわゆる和食系しか買えなかった日は、ワインと塩ではなく、料理酒としょうゆで蒸せばいい。酒蒸しです。酒蒸しの場合は、生シイタケやマイタケなどキノコ類も一緒に蒸せば超おいしいのが分かり、これは結構ハマるメニュー。

 玉ネギを食べ切ったら、翌日には長ネギを買ってきて、斜めにブツ切りして残った白菜などと併せて蒸します。そうやって、なくなった野菜から順に別な野菜で補充するシステムに持っていけば、いろんな野菜が自然にローテーションするので栄養バランス的にも good。

 野菜が半端に余ったら、細切りにしてその日のみそ汁に放り込んでしまいましょう。そうすれば野菜ロスをほぼゼロにできます。みそ汁は、ここでご紹介したように酒蒸し・ワイン蒸しには向かない根菜、つまり大根、ニンジン、ゴボウなどがメインなのでダブりません。

 さて、現代は「調理総菜離れ」の時代。私たちの自炊モチベーションなどは、もはやアナクロなのでしょうか。
 左記事のように、スーパーが弁当・総菜を増産して忙しい人や買い物に行けない人を助けてくれる「便利で優しい」世の中になりました(日本経済新聞3月2日)。

 調理離れの客が増えたから出来合い総菜ニーズが急伸しています。だからスーパーは、バックヤードでパートさんにちまちまと作らせるより、加工センターを建てて機械化して効率よく作るわけです。人手不足解消の狙いもありそう。

 そこで心配なのは、コンビニも巻き込んだ総菜の安売り競争がエスカレートしてくれば、当然コストダウンによる質の劣化が起こることです。仮に、衛生面や産地・表示偽装の心配が全くないとしても、総菜の精製度や添加度は確実に高まるはず。

 しかし私たちは、豆ごはんや酒蒸し・ワイン蒸しのような拙い技能さえ身に付けてしまえば、穀物を未精製で、肉や野菜を無添加で食べ続けられることを知ってます。だから、いろんなテンプレートを開発し、快食快●の気持ちいい暮らしを守りましょう。アナクロ同志でこそこそと情報交換しながら。

 ではまた。