国は「健康寿命」を延ばしたいと言っていますが、禁煙・減塩・歩数目標などの数値を掲げるのみです。もっと直接的に因果関係の強そうな「油・糖・添」の摂取量は放置したまま。国民が素朴な食習慣に回帰すると経済が縮小するからでしょう。国民の健康と国益とは矛盾しており、決めるのは私たち個人。

■たばこはスケープゴート
 日本人の平均健康寿命寿命は男が79歳、女が86歳。ところが「健康寿命」つまり介護されずに自立して元気に過ごせるのは男が70歳、女が73歳まで。平均寿命よりそれぞれ9年、13年短いそうです(厚労省2010年)。

 平均寿命がいくら延びても病人が増えていくだけですから、国の医療費は追い付きません。病人もつらいし、病人を支えるために税金をたくさん取られる健康な若い就業世代もつらい。メディカル資本が支配する、『ゴッド・ディーバ』のような暗黒社会の到来も近いかも。

 やはり健康寿命を延ばさないといけないと、政府が進める「健康日本21」の第2ステージ(2013~22年度)の中に、厚労省が目標数値を盛り込んだという記事がこれです(日本経済新聞6月2日)。

 ただ、その具体策を読むと、ややがっかりといいますか、非常に落胆してしまいます。3大死因(がん、脳卒中、心臓病)や糖尿病を抑えるために、喫煙率や飲食店での受動喫煙を減らすとし、また運動に関しては1日に歩く歩数目標を引き上げ、食生活についても、食塩摂取量を減らし、野菜を増やすよう数値目標を掲げています。

 喫煙率については特に奇怪です。実は、人口10万人当たりの喫煙率が過去30年間に30ポイント以上も減ったのに、肺がん死亡率は同期間に40ポイント近く上昇している統計も、同じ厚労省から出ているのです。明らかに、喫煙よりも有力な発がん因子が他にあるはずなのに、そこには踏み込んでいないのです。

 また、喫煙とは無縁の小中学生の喘息発生率も、この期間にほぼ5倍へと激増しています。こちらは文科省の学校保健統計ですが、単に省庁間の連携が取れていないだけとは思えません。自動車の排気ガスやその他の有機化合物、農薬・除草剤などの複合要因を覆い隠して、たばこがスケープゴートに仕立て上げられているようです。

 その間に、日本たばこ産業あたりは、たばこの減産を着々と進め、いまや食品添加物や加工食品製造へと主力事業をちゃっかりシフトしています。よく練られたシナリオに基づく、国ぐるみの大芝居のように見えませんか。

 まあ、それを言っても始まらないので、私たちは自分の「健康寿命」をどう延ばすのかを真剣に考えていきましょう。減塩に努めても、ただ塩分控えめな食品を買うだけでは添加物の摂取が増えるだけ。歩け歩けと言われてやみくもに歩いても、膝の故障を招く場合もありますし。

■自然食のビオトープ
 結論を先に言えば、やはり未精製の穀物中心の食事。つまり「サムライごはん」の強化なのですが、問題なのは、国民が健康を保つために、そうした素朴な食事へと回帰することが、国の方針と根本的に合わない点なのです。

 いま国は、農業を効率化してグローバル市場に乗せようとしています。土地の所有権を企業に開放して、農家をサラリーマン化して投資効率を高める方向。40年ほど前に始まった、酒の専売権開放を契機として自営業の小売店をコンビニなどのフランチャイズ企業に再編した手法の応用です。

 実績のあるやり方ですから、流通改革としてはまた成功するのだろうとカラスヒコはみています。ただ、そのとき、私たちの食べ物がどうなるのかが心配なのです。弁当の配食が増え、さらにそれが常温化・ドライ化していくはずです。

 つまり、即席麺や栄養補助食品、健康飲料やサプリメントのような、生産効率、輸送・保管効率のいい食品。要するに投資回収効率のいい商品だけに絞られていくに違いありません。そのマスの流れを止められないとしても、社会の片隅に小規模な自然食継承グループを打ち立てたいというのがカラスヒコの考えです。

 それは、ペンシルバニア州のアーミッシュのように外部と隔絶された一定のエリアに集まって住む人々ではなく、佐々木俊尚さんが『キュレーションの時代』(ちくま新書2011年)の中で「ビオトープ」と表現したような、分散しながらも同じ意思を持つ人たちのネットワーク。

 健康寿命の長さは、食べ方によって各自が決めなければ。この記事を読みながら、そんなことを漠然と考えています。総菜や加工食品には手を出さず、天然食材のPOSデータを上げる人、この指止まれ!です。

 ではまた。

※『ゴッド・ディーバ』 Immortel ad Vitam/2004/アメリカ/カラー/104分/エンキ・ビラル監督