生活習慣病の原因は悪食と運動不足。でも治療薬の機能は脂肪の吸収を抑えたり、少量の食事で満腹感を覚えさせる、あるいは善玉コレステロールを増やすなど、原因には手を付けずに数値の改善を図るものばかり。なんだか駄目な会社の株主総会対策のような。

■「これを飲めば大丈夫」的薬品
 利益が出ないからと人件費を削る会社は、一時的には存続するでしょうが、長い目で見れば必ず落ちていきます。必要なのは斬新な販促プランや新製品・新サービスの開発なのに、当期利益の数値だけを取り繕う企業に明日はありません。

 いわゆるリストラは、経営の失敗の責任を経営者が負わずに、下に押し付けてその場しのぎをする行為ですから、生き残った経営陣がまた同じ失敗を繰り返す可能性は極めて高い。これは山本七平さんをはじめ多くの識者が何十年も昔から指摘してきた日本型組織の伝統的弱点。ひょっとして民族的DNAの欠落か何かで、永久に治らないのかもしれません。

 それはともかく、私たちがやっている個人レベルの健康管理でも、実は似たような過ちを繰り返しているようなのです。体調不良の原因が分かっているのに目をつぶり、体重や体脂肪値、血圧や血糖値などの数値だけを気にして一喜一憂する生活習慣病後ろ向きの健康ごっこ。

 例えばこの記事は、生活習慣病の治療薬に新たなカテゴリーの製品が続々登場しているというニュースです。これまでの薬品が血圧などの数値を下げる「直接手法」に重点を置いていたのに対して、各社の新製品では「総合的な健康改善を目指す」とありますから、一瞬おっ、と思ったのです(日本経済新聞11月21日)。

 けれどもその中身は、武田薬品の製品では、「食事に含まれる脂肪の吸収を抑えて体重を減らす薬」とあります。つまり患者は今まで通りのオイリーな食生活を続けていても大丈夫で、薬の力で強制デトックスするようなものらしい。

 エーザイは、「脳内の神経伝達物質に働きかけて、少ない食事で満腹感を感じやすい薬」とあり、こちらは食欲を自分でコントロールできなくさせる薬効のようです。やせた後に投薬をやめれば、体はちゃんと元に戻るのでしょうか。いや、戻ると繰り返しになるので戻らないほうがいいのでしょうか。

 また、第一三共は、「善玉(HDL)コレステロールを高める新薬」。つまり、イワシなどオメガ3系油脂を含む食品を食べなくてもこの薬を飲めば動脈硬化になりませんという話のようです。総じて、悪食をやめなくても、運動をしなくても、これを飲めば大丈夫的な製品群といえそうです。

■いい手抜き、悪い手抜き
 結局、原因はそのままにしておいて、つまり「お客さま」には余計な苦労はさせずに、当社の製品を使えば楽に健康を守れますという提案です。カラスヒコが怖いなと思うのは、製薬会社にとっては、お客さまが本当の意味で健康回復などしなくても、次々と薬を使ってくれるほうが望ましい、もしかすると健康を回復されては困る?

 いえ、製薬会社やその関係者をカラスヒコは何人も知っていますが、そういう悪人は一人もいません。皆真面目で病気の撲滅や健康知識の普及に努めている人たちばかりです。問題はお客である私たちの頭の中にあるのです。

 最重要ポイントですから繰り返しますが、いま激増している生活習慣病の原因は悪食と運動不足です。その2つに手を付けるのが「解決」であり、それ以外の提案は罠か間違いか、問題のすり替えか先送りのいずれかです。

 中性脂肪を取り去ってくれる薬品やトクホを買って飲むなら、中性脂肪が付きにくい食事に変えるのが「解決」で、実は私たちには50年前の食事というモデルもちゃんとある。当時は生活習慣病がほぼなかったという検証もあります。

 あ朝食 (29)とは手段の問題です。50年前よりも多忙になった私たちが、50年前の専業主婦と同じ手間のかかる調理はやっていられませんから、作るメニューを変えて上手に手を抜く。

 逆に下手な手の抜き方が調理済みや加工済食品に走って油・糖・添を蓄積させる食べ方。それが招いた健康破綻社会の惨状を、この50年間に私たちは思い知りました。

 見た目にカラフルな外食メニュー、ぴっちりと真空パックされていかにも衛生的で栄養がありそうに見えるPB総菜などに、私たちの目が幻惑されているのだと思います。
 もっと頭で食べるべきです。つまり、なるべく天然に近い食材を見立てて簡単調理するスキルを磨けば、自分も健康に生きられ、地場の農業や漁業にも貢献して、次の世代にもいい環境を引き渡せると。

 新薬には実績がありません。上に紹介した記事でもそうですが、必ず伴うはずの副作用についてはほとんど告知されませんし、告知された副作用以外の未知の副作用が後から出てくる場合もしばしば。やはり写真のような昔の食事を取り戻すのがベストです。玄米・豆・めざし・漬け物・海藻あたりにルネッサンス!

 ではまた。