年内での解散を発表した時間堂。その解散公演を前に、自身の演劇観や時間堂という劇団との出会いや思い出、そして最終公演『ローザ』について語った劇団員ロングインタビューです。(聞き手:松本一歩)

第三弾は『ローザ』ではエーベルトを演じる菅野貴夫です。

菅野貴夫プロフィールhttp://jikando.com/member/takao.html

ーご自身のプロフィールと、時間堂、黒澤世莉さんとの出会いについて教えて下さい。

ずっと野球少年で、演劇とかお芝居とかよく知らなかったんだけど、明治大学でたまたま入ったサークルで演劇に出会ってしまって、いろいろあってやることになったんですけれども。どうやって時間堂と出会ったかというと、その演劇サークルの後輩に谷賢一君(DULL-COLORED POP主宰 演出家・劇作家・翻訳家)という人がいてですね。大学を卒業して自分達でも劇団を立ち上げてやってたんですけど、未熟なところも多くて解散してしまって。そんなときに谷君が劇団をやっていたから何回か出させて貰ったりしていたんですね。その間に谷君がいろいろ活動していて、先に世莉さんと知り合っていて。その谷君を通じて知り合った、というのが世莉さんとの出会いです。
その谷君の劇団の子が出ていたからというので観に行った『ピンポン、のような(再演)』(2007)が、初めて観た時間堂の作品ですね。それとそのあとの『月並みなはなし』(2007)も観に行きましたね。そんな感じです。
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「きれいな水が流れているみたいな」

ー初めてご覧になった時の時間堂の作品の印象はいかがでしたか?

時間堂の作品は、なんだろう、きれいな水が流れているみたいな感じだった。世莉さんがよく言っている、「その場にちゃんと生きている人たちが会話をしている」という感じがすごいあって、「へぇ!」って思ったかな。その時に出ていた俳優さんもみんな素敵な人達で。

ー黒澤世莉さんの印象はどうでしたか?

世莉さんを初めて見たときの印象はね、「男なんだ」と思った(笑)。ダルカラの現場で「せりさんせりさん」って言うのを聞いていて、てっきり女だと思っていたから「なんだ、男なんだ」って(笑)。スカーフを巻いていて、指輪をじゃらじゃらしてましたねぇ、うん。首元のスカーフは昔とあんまり変わってないですね。指という指にじゃらじゃらとすごい指輪をしていて、「なんなんだ、この人は」って思った。「シンプルにしたいのかゴテゴテにしたいのかどっちなんだろう」って、思いました(笑)。

ー時間堂を選んだ決め手はなんですか?

2009年に時間堂が劇団化するときに声を掛けて頂いたんですけれども。その前から週一くらいで定期的に開催されていた時間堂のワークショップには参加していて、それがすごいよかったから。それまで演技の勉強もそんなにちゃんとはしていなくて。一回「安いから」というので選んだ養成所みたいなところに通ったんだけど、それがあんまりよくなくて。っていうこともあって、時間堂のワークショップでやるようなことがすごい新鮮で楽しかったっていうのが一番だったかな。時間堂にいたらそういう訓練を常日頃から受けられるだろうな、という、純粋なのか不純なのか分からない動機なんだけど(笑)。

ーちなみにその通っていた養成所というのは、劇団や事務所の養成所のようなところですか?

いや、個人がやっていたようなところで…。黒歴史です、うん。外部の講師の人たちからいろいろ体のことを教わったりするのはそこそこ楽しかったりもしたんだけど、いざ公演をやるってなった時に、俺もその時すでに5,6年くらい演劇をやってたものだからいろいろ任されてしまって。お金を払って学校に通っているのに、なんで俺がみんなにいろいろ教えたり、公演直前になって布を買いに行ったりしているんだろう、と思って(笑)。稽古場を抜け出して日暮里の布のお店が閉まる直前に駆け込んだり、一向に決まらない舞台美術のデザインを考えたりとか。そういう作業をやった後に夜勤に向かうっていう生活でした。大変でしたね。それはそれでいい経験と言えばいい経験だったかもしれないんですけど。

ー時間堂に入るまでと、入ってからの時間堂に対する印象の変化などがあれば、教えてください。

劇団化した時の初期メンバーとして入ったので、まだどうやっていくかという運営の仕方も決まっていなくて。だからそんなにギャップみたいなものはなかったです。僕は劇団の仕事とかが苦手なので、劇団の運営に関しては息を潜めているというのは七年くらいたっても変わらなかったなぁ、って思います。

「2011年の変化」

あと2011年、2012年くらいから世莉さんの作風っていうかやりたいものがすごいゴリゴリしてきたという変化はすごい感じてたかな。『星の結び目』(2011)とか、その前の『廃墟』(2011)くらいかな。『廃墟』はほんとに震災の直後の3月、4月の上演だったから。世莉さん的には『星の結び目』ということになるんだろうけど、その前の『廃墟』もいろいろあって。公演前に脚本が途中で変わったりとか。諸事情から当初上演する予定だった書き下ろしの台本から、急きょ三好十郎の『廃墟』に変更になって。それで上演する戯曲が決定して、稽古を始めた一週間後に地震が来たんですよ。そんな『廃墟』の公演を経て、その後の『星の結び目』があって、変わっていったんだよね、なんか。

ー時間堂にいて、一番楽しい時を教えてください。

お客さんの前でやっている時だなぁ、本番の。カーテンコールとか。十色庵でやっている時だったら、終演後にお客さんと話している時もすごい楽しいかな。自分達のホームでやるレパートリーならでは、という感じで。だいたい本番をやっている時以外は大変なことの方が多いから(笑)。報われるのは本番でお客さんに観てもらうときかな。

ーこれまでの時間堂の活動の中で、一番の思い出はなんですか?

やっぱりツアーになるんですけれども。大きなツアーが『ローザ』(2012)と『衝突と分裂、あるいは融合』(2014)とあって。一番っていったら『衝突』の方になるかなぁ。大規模な公演で、現地の俳優さんといっしょにやるっていうスタイルだったから。東京で公演をやった後に地方に行くんだけど、そこで初めて現地のキャストの人に会ってワークショップ、稽古をして、舞台を作って、本番をやる、というのを一週間ごとにやったんですよね。日曜日まで公演をやって、月曜日に東京に帰ってきて支度をしてまた次の地域へ向かうというサイクルで。ただ行って作品を見せるだけでなく、現地の人と一緒にやる、作品を作るというのがすごい刺激的で。一緒につくっているからこそ対等というか同じ立ち位置でお話ができるのがすごいよかった。文化の違いも肌で感じたというか。

「大きな物事に対しての見方が違う」

それはローカルなことというよりも、大きな物事に対しての見方が地域ごとに違うんですよね。たとえば原子力というテーマを扱った『衝突』という作品に対しても、東北だったらそれは原発に対しての関心になるし、それが九州に行くと原爆に対しての関心になるというか。長崎があるので。俺自身も東日本の人間だから、九州はやっぱり遠いというか。現地の人と話していても、たとえば8月6日、9日に放送されるテレビ番組の内容ひとつとっても、小学校の時に受ける授業ひとつとってもそういう文化の違いというか、地域の違いがあるんだというのを肌で感じて。だから『衝突』のツアーが一番かなぁ。

「『ローザ』初演時のツアーの思い出」

二番目が『ローザ』ということになるかな。劇団員だけでっていうミニマムな形態で、バンを一台借りて全国を回るっていう企画で。それもそれで初めての全国ツアーだからすごく大変だったけど、楽しかったかな。自分が大切にしていたいと思うことが出来なくても、舞台って出来るんだというのがわかったというか。準備に時間を掛けるとか、家に帰ってきちんと休んでまた劇場に行って、みたいなサイクルがなくてもやれるもんなんだな、というか、そういうつまらないこだわりがなくてもできるというのがわかったのがすごい大きかったかな。ほかにも沢山ありますが、まあそれは最後の日にでも話せばいいから、うん。

ー時間堂の一番のお気に入りの作品を教えてください。

んー、お気に入りの作品ね…。ない、というか全部それぞれあるってことになっちゃうかなぁ…。あ、でも『廃墟』だな。あの三月の地震の直後に、三好十郎の戦後の戦争責任を問うゴリゴリの三時間半の戯曲をストレートにやるっていう作品で。自分たち自身も地震の直後で大変な中で必死にやったというのがすごい思い出深いですね、うん。東京中、日本中で話し合われていたと思うけど、公演自体を実施するのかどうか、「今やるべきか」という話もしたし。どうすべきか正解があるかどうかも分からない中で、時間堂はやるしかないと決めてやったけど。大変な台本だったしなぁ…。

「稽古中に立っていられない」

稽古で喋ってると、倒れちゃうんですよ、台詞が多すぎて(笑)。三好十郎の戯曲に書かれた、負荷が掛かった人の命から出る言葉を今の人間が普通に喋ろうとすると、エネルギーが足りなくて喋れない。稽古中三回くらい立っていられなくなって、体がびりびり痺れながら喋ったりしていることもあったし。あと今回トークゲストで来てくれる小平伸一郎(猿田モンキー 24日14:00の回トークゲスト)と酒巻誉洋(30日16:00の回トークゲスト)という同い年の俳優三人で父親・兄・弟の親子を演じたんですけど、その三人の喧嘩がクライマックスで。それもすごいおもしろかったかな、play(演劇)としてもね。ライバルでもあるし、二人ともすごい良い俳優だから。

ー「時間堂はこうでなくっちゃ」というこだわりを、教えてください。

いやぁ、なんだろう、いつまでたってもわからないな(笑)。俺が「こうでなくっちゃな」と思っていたら、意外と世莉さんはそうじゃなかったりとか、変わってたりとかすることがあるから。昨日も稽古で(あるシーンの演出について)「おれはそんなことやらない!」なんて言ったりしたけど、そう言いながらもまぁなるべく固定観念を捨ててやる、ということなのかなぁ。これはワークショップとかにも通じるけど、自分が思っていたことと違うことをやることで、自分のからだに何が起こるのか、嫌なのか楽しいのかどういう気持ちが生まれるのかをちゃんと味わうのが大事なのかなぁ、っていう。そう言いながらも頭でっかちになっちゃったりするんだけど。そういうことですかね。

ーいま時間堂を一言で言い表すとすると、なんですか?

器。時間堂の俳優だったり、外部から時間堂に参加してくれた俳優だったり、あとお客さんだったり、そういう人たちがみんな入るような、器って感じ。

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寝転がる菅野貴夫と時間堂の女優陣

「時間堂の劇団員の印象」

ー黒澤 世莉(堂主 / 演出家)

一言で言うと、俺と全然違う人(笑)。似たところがほとんどない、うん。正反対といってもいいくらい。

ー鈴木 浩司(俳優)

浩司さんは、いつまでたってもかっこいいし怖いお兄さん(笑)。

ー俳優 直江 里美(俳優)

ダメなところが俺と似ていて、分かるところがあるから、目も当てられない(笑)。

ーヒザイ ミズキ(俳優)

ヒザイは、時間堂に入ってくれて本当によかった、うん。みんなからはすごいきりっとした人に思われるけど、甘えべただなって思う(笑)。意外とかわいらしい。俳優としてはいい意味ですごいものを出してくるから、やっていて楽しい相手。最後に「悪口を言わなければいいのに」って付け足しておいて(笑)。

ー阿波屋 鮎美(俳優)

ぷんぷんしたりすねたりしているのがとてもかわいい。またそのうち芝居をやってほしいな、と思う。

ー尾崎 冴子(俳優)

なんていうんだろうな、見どころがある。まだ劇団員の中では若いけど、吸収する力もあるし、どんどんこれからも成長していくんじゃないかと思います。最近は困ったらみんな冴子に振る感じになっていて、その時に見せる困った顔がいい(笑)。

ー國松 卓(俳優)

卓のことは最近やっと少しずつ分かって来たけど、意外と困ったりいじけたり、泣き言を言ったりするのが面白いなあって思う。あと本人が今どのテンションにあるのかが、伝わりづらい(笑)。普通だと思ってたら意外と楽しんでたんだ、というのが後から分かったりして(笑)。変な奴だなぁって思います。

ー穂積 凛太朗(俳優 現在福岡県在住)

凛太朗はね、まず体調が心配です、深刻な意味じゃなくてね(笑)。一緒に芝居がしたかったな。まぁ一緒に芝居をしたら、ヒザイとかにもっと突っ込まれてただろうな、と思うんですけど。憎めない奴だなって。あと人との距離を縮めるのがうまい。

ー大森 晴香(プロデューサー)

晴香さんは、よく物をこぼします(笑)。晴香さんのおかげで全国ツアーとか、時間堂でいろんな得難い経験を出来たので、よかった。「ふたの開いたものは持たせるな」という注意書きを添えて。あと電車の乗り間違いをよくする。これはヒザイもそうなんだけど、二人は時間堂のブレーンではあるけど電車をよく乗り間違えるっていう。人には得意なこと苦手なことがあるんだなっていうことですね。

『ローザ』について

ー稽古はどうですか?

大変です。どこにいくか分からない。

ー『ローザ』でお気に入りの台詞(あるいはシーン)を教えてください。

お気に入りのシーンは、ラスト、女の人が喋っているところです。

ー『ローザ』という作品を一言で表すと?

「劇」。

ーこの『ローザ』の稽古場で一番大切にしているのはなんですか?

いろいろやって、それを反芻して、味わうこと。それで変えていくということ。

ー自分自身とご自身の役(エーベルト)を花にたとえるとしたら、それぞれどんなお花ですか?

エーベルトは、ほんとに道端に生えてるようなありふれた花で、しかも誰もが知っている感じの花で…。(しばし検索ののち、)エーベルトはガーベラだね、黄色の。イメージとしてはもっと暗い色の方がいいんだけど。
貴夫さんガーベラ
ガーベラ

自分は、ダリア。ぶわーって咲いている感じの。あんまり自分でもピンと来てないです(笑)。
貴夫さんダリア
ダリア
 
「時間堂、『ローザ』にまつわらない、いろいろな質問」

ーこと演劇について、最も影響を受けているのは誰ですか?

まあ世莉さんってことになるかね。付き合いが長いから。

ー稽古場で手放せないものはなんですか?

水とコーヒー。冬になると甘いものが食べたいけど。

ー今まで見た中で「これぞ!」という一本のお芝居を教えてください。

これはもうマイナーな、自分のサークルの先輩の団体なんだけど、ラブリーヨーヨーの『とうきょうと〜New Century』(2001)っていう作品。とにかくギャグ芝居なんだけど、全部のシーンで登場人物がなんとかおもしろいことをしてやろうという熱量と、ほかの人もなんかおもしろいことがあったらすかさず拾ってやろうという熱量のぶつかり合いが最高におもしろかった。21、2くらいの時に観たのかな。そんなに細かく覚えてないけど「くそ笑ったな」という。客席にもクレイジーな空気が蔓延していたから。

ー稽古場でうまくいかなかったり困難な時、どうやって乗り越えますか?

人に助けてもらう(笑)。アドバイスを貰ったり、それでやり方を変えるっていうことだね。人に助けてもらって自分のやり方を変えていくっていうことです。

ー演劇とは結局なんなんでしょうか?

それが分かったら、演劇からしばらく離れます。とは言いませんよ(笑)。絶対これ誰か『三人姉妹』(作・チェーホフ)の台詞を言うよね。「それが分かったら、それが分かったらねえ!」って。(注 尾崎さんがそう答えました。)

ー時間堂解散後の活動のご予定は?

舞台を離れて、映像で活躍することを目指してやっていきます。映画、ドラマ、CMですね。なので舞台はこの『ローザ』がひと区切り、見納めということで。少なくとも一年、あるいは二年は映像の方で頑張ろうと思います。

ー最後に一言お願いします。

今時間堂の最後の作品を作っているんですけれども、でもやっぱり何が起こるか分からない。どんなものになるか分からない。という風になってまして。人生とあんまり変わらないな、と(笑)。これはあんまり簡単な言葉で言えることでもないけど、「時間堂らしく」というか。時間堂らしさとはなんなんだというのはあるけど、時間堂らしく真摯に、必死で作っていけば、お客さんの心に届く作品になるかなと信じております。またお会いできますように。

(2016年11月23日 十色庵にて)

[菅野貴夫扱い 予約フォーム]
https://www.quartet-online.net/ticket/rosa2016?m=0achdec