年内での解散を発表した時間堂。その解散公演を前に、自身の演劇観や時間堂という劇団との出会いや思い出、そして最終公演『ローザ』について語った劇団員ロングインタビューです。(聞き手:松本一歩)
第四弾は『ローザ』ではルイーゼを演じる直江里美です。
「私もあっち行きてぇ!」
ー中学校の時に演劇部に入部されていたと。
そうです、その通りです。中学二年からかな。
ーきっかけは何だったんですか?
私ほんとそれまで演劇とか大嫌いで、人前に出て何かやるなんてとんでもないと思ってたんだけど。中学の部活って新入生歓迎会をやるんですよね、一年生に向けて。たまたま中学二年生の時にその新入生歓迎の公演を観に行ったときに、それがすごい新しくて、キラキラしてて。「すげえ、私もあっち行きてぇ!」っていうので、入部しました。
ーそれまでは他の部活に入っていたんですか?
一年生の時は三ヶ月くらいバレーボール部に入っていて、でも私運動がからっきしダメで「もうこんなのやめだ!」って言って辞めて、自分で言うのもなんだけど手先が器用で、物をつくるのがすごい好きだったからその後手芸部に入って編みぐるみとかを作っていた感じです。中学二年生からは高校までずっと演劇部で。
ー高校を卒業されてから富良野塾(※)へ進まれます。(※1984年春に脚本家・倉本聰が北海道・富良野に開設したシナリオライターと俳優の養成機関。)
そうですね、高校を卒業してすぐ富良野塾に入りました。
「うちの祖母がたまたま」
ーどうして富良野塾へ?
私当時富良野塾っていう存在も、倉本聰もほんとに全然知らなくって。高校三年生の時に進路に迷っていて、理系だったから化学か、お裁縫とかが好きだったから家政系の学校か、演劇かどれにしようかなと思っていて。うちの祖母がほんとにたまたま「あんた演劇やることを考えてるんだったらこういうのもあるよ」って言って、新聞に出ていた富良野塾の募集要項を持ってきてくれたので、「じゃあ、受けてみる?」って言って受けたらほんとに受かっちゃって(笑)。倉本聰も『北の国から』もまったく知らずに富良野塾に行くっていう。ひどいありさまですよ。
ーでも受かるのがすごいですね!
その時倍率が七倍くらいだったんですけど、受かって、入っちゃいました。富良野塾は二年制で、その間ほんとに家には帰れないんです。身内に不幸があったりしたら帰れると思うんですけど、それ以外は帰れなくて。二年間行きっぱなしでした。盆も正月ももうずっと。
ーやはり演劇漬けの生活なんですか?
演劇漬けっつうか農業漬けっつうか。作業漬けっつうか雪かき漬けっつうか。そういう感じ(笑)。
ー富良野塾は全国から人が集まるんですか?
みんな全国から集まっていて、沖縄から来ている人もいたし、秋田から来てる人もいたかな。すごく訛ってて「何言ってるか分かんないよ!」っつって。
ー富良野塾を卒業されてからはフリーで活動されていたんですか?
卒業してから2,3年は演劇のツテとかもなくてオーディションを受けても落ちて、バイトしながらふらふらしてたんだけど。その時期にこれもうちの祖母つながりで、祖母の通っている美容室のスタイリストさんの旦那さんが演劇集団円のベテラン俳優さんで。「うちの孫が演劇やってるんだけど、旦那さんにちょっと相談に乗ってもらえませんか?」っていうご縁でその俳優さんと知り合って、その方から紹介してもらった劇団とかに客演で出演するようになって、二年くらい過ごしたのかな。そうしてるうちに親からも「いい加減進路をはっきりさせなさい」って言われたりして、じゃあお世話になってる人が所属している劇団だからというので25歳くらいの時に円の研究所を受けて、入ったわけです。
「時間堂、黒澤世莉との出会い」
世莉さんと初めて出会ったのも円の時です。世莉さんが初めて円の研究所に教えに来たときの教え子でした。それまでは世莉さんはもちろん時間堂のこともまったく知りませんでした。
ーその時の世莉さんの印象はいかがでしたか?
研究所の入所式っていうのがあって、その時に今年一年お世話になる講師の方からのご挨拶っていうのがあって。ほぼ内部の講師の方ばっかりなんですけど、その中にひとりだけアウェーな黒澤世莉がいて(笑)。もうね、おかしな人だなあって思った(笑)。髪形も刈上げで横に流していて、けっこう斜に構えてるように見える感じで喋るんです。円の講師の人達は「君たち頑張れ」みたいなことを言うんだけど、世莉さんだけは「君たち、甘く見ないでください」みたいな、全然ちがうテイストのことを喋るから「何だこの人は!」と思って(笑)。ファーストインパクトは結構すごかった。「変な人いるなあ!」と思って。おもしろかった(笑)。
「黒澤世莉のもとでやりたかった」
ー円を卒業されてからすぐ、2011年に時間堂に入られましたが、時間堂を選んだ決め手はなんですか?
やっぱり新しかったんだよね。ほんとに新劇の研究所なんて身になることなんて一つも教えてくれないから(笑)。世莉さんのやることにはマイズナーテクニックっていうちゃんとしたひとつのスタイルがあって。「きちんとその場にいて相手とやり取りをする」っていろんな人が言うけど、それがテクニックとしてきちんと確立されていて、やればやるだけちゃんとトレーニングできるっていうのが初めてで。私はそれまで講師の人とかにも「うまいけど、おもしろくない」って言われていて。それはきっと世莉さん風に言えば「決められたことをやっている」「やり取りをやっていない」「それっぽくやってる」みたいな意味だったと思うんだけど。「もっと心を動かせ」って散々言われてたのね。でも当時の私はほんとに何も分からなくて「なんだ、なんだ!?」って思っていて。でもそれが世莉さんのやり方に触れたときに、「必要なのはこれなんじゃないかな」と思って。それで研究所で一年二年と教わってみて、円の劇団員にも受からなかったので、「それだったらもう私は黒澤世莉のところしかないな」と思って受けたかな。黒澤世莉のもとでやりたかったんですね。
「すぐ辞めたいと思った」
「すぐ辞めたいと思った」
ー入るまでと、入ってからの時間堂に対する印象の変化などがあれば、教えてください。
もうね、すぐ辞めたいと思った(笑)。私は二年間円で世莉さんに教わっていたから、分かっているつもりになっていたんだよね。エクササイズのやり方みたいなのもちょっと知ってるぞ!みたいな。それが全然わかっていなくって、ほんとにもう何も。マイズナーテクニックでやっている「起きていることをきちんと相手に伝えて、相手からも受け取って、相手からもらって変化したものをまた相手に伝える」っていうその技術を、実際に舞台で通用するようなやり方に落とし込むことが全然できていなかったから、それがほんとにすごい衝撃だった。「分かっていたつもりが何もできない!」と思って。だから一本目『星の結び目』(2011−2012)っていう作品に出たんだけど、それはもうほんとうにひどかったですよ、ぼろぼろでした。私と、もう一人同期で入った劇団員の窪田優はひたすら抜き稽古みたいな感じだったなぁ。その時ヒザイも同期で入ってたんですけど、ヒザイはもともとやっぱりレベルの高い俳優だったし。つらかったほんとに。世莉さんとか、周りの貴夫さんとか浩司さんとか当時いた人がよくまあ待っていてくれたなと。「こいつ辞めさせようよ」ってならなかったのがすげえなと思う(笑)。よく受け入れてくれたなと思いますね。
ー時間堂にいて、一番楽しい時はどんな時でしょうか?
『ローザ』(2012)のツアーがすごい楽しかった!ひとりでいるのが一番好きなんだけど、二番目、三番目、…四番目くらいに劇団員と一緒にいるのが好きなのかな(笑)。だからとても楽しかったねぇ。でも「ああ今すっげえ楽しい!」っていう、ピンポイントで楽しいというのはあんまりない気がする。稽古や公演が終わってみて、初めて「楽しかったな」って思える。稽古してる最中とかに「今超楽しい!!」みたいなのはあんまりない(笑)。
ーこれまでの時間堂の活動の中で、一番の思い出はなんですか?
やっぱり『ローザ』(2012)のツアーが一番思い出深いかな。日本全国あっちこっち回ったのもそうだし、そのときの成長率がたぶんわたしの中では一番大きかったツアーだったから。私は結構30、40人の大所帯っていうよりも5,6人のミニマムな作品が好きだから、そういうのもあって車一台ですべてを積んで全国を回るっていうのはそのミニマムさが楽しかった。気を遣わなくていいし、好きにできるし。よかったなぁ。
ー時間堂の一番のお気に入りの作品を教えてください。
観客として観たのでは、2009年にやった『花のゆりかご、星の雨』が一番好きかな。ちょうど円で世莉さんに教わってた時で、「講師の作品だし観に行かねば」って観に行ったら、すげえよかった。その時劇団員として出演されていた雨森スウさんが、直接の面識はないんですけど富良野塾の先輩だったっていうのもあって、「ご縁もあるな」と思って。「デートで行ける演劇」というコンセプトを時間堂が掲げていた時期があって(※)。「60分くらいで、ほんわか幸せになる芝居」みたいなのをやっていた時期があったんです。ヒザイさんはそういうのが嫌いだから「もっとゴリゴリ行こうぜ!」って言ってゴリゴリなのを押してきているけど(笑)。私はほっこりするのが好きだから、『花のゆりかご』を観て「ほっこり、しあわせだなぁ、いいなあ」って思ってました。好みがいろいろ分かれるよねぇ、うちね。バラバラでしょうね。
(※『演劇デート計画2036』 2036年には高校生のデートスポットとして演劇が一番人気がある、という社会にするというのが当時の時間堂の大きな野望だった。)
「真摯、献身」
ー「時間堂はこうでなくっちゃ」というこだわりを、教えてください。
演劇に対して真摯、かな。むしろそれさえあれば、他は何もいらないみたいな。よく世莉さんが言うけど、「演劇に献身的である」とか「作品に献身する」とか。ほんとそれだけだと思う。自己満足でもなく、自己顕示でもなく、ただただ作品のためを考えて、俳優も演出家もスタッフもいろんなことを共有しながら演劇を作っていく、みたいな。ほんとそれさえあれば他はどうでもいいよっていう感じだと思うなぁ。
ーいま、時間堂を一言で言い表すとすると、なんですか?
カオス。カオスだね(笑)。いい意味のカオス(笑)。終わるんだけど成長過程みたいな。まだまだ進化途中っつうか。そういう感じ。ゴールはないのかもしれないけど、まだまだ過程だな、と。
「時間堂の劇団員の印象」
ー黒澤 世莉(堂主 / 演出家)
世莉さんは演劇バカ。はっはっは、それ以外ないんだもん(笑)。演劇バカだよ。自信があるくせに変に卑屈なんだよなぁ…。まあそんな感じかな。
ー菅野 貴夫(俳優)
みんな演劇バカなんだけどねぇ。これ言ったら怒られるんだろうな、朴訥な好青年なんだよなぁ。だってエロいシーンとかやっても全然朴訥なんだもん、貴夫さん(笑)。この前女性とイチャイチャしたりキスしたりするシーンがある芝居をやってましたけど、それを観た感想は貴夫さんは朴訥だなっていう感想でしたので。そう言われるのを貴夫さんは非常に嫌がられていますけど(笑)。あとは、「ビールの排水溝」。これもちろんちゃんと愛情を持って言ってますからね(笑)。
ー鈴木 浩司(俳優)
浩司さんはねえ、気のいいおじちゃんなんだよなぁ(笑)。すげえこだわりがあるのが分かる。真摯に演劇に向き合っている、っていうか。いかに面白くするかを常に考えられる人だな。人を笑わせる、喜ばせるという意味で、どう面白くするかとか、その役をいかに美味しく見せるかということに真摯だなって。笑いにすっごい厳しいんだよね、浩司さん。「直江、もっと笑わせるんならこうしなきゃ!」「こうするともっと笑わせられるぞ!」ってすごい言ってくれる。
ーヒザイ ミズキ(俳優)
ヒザイはね、尊敬する女優。私の周りにあんなのはいない。すっごい。もう持ってるものが全然違うんだろうね、ヒザイとは。思考回路とかも全然ちがうだろうし。あんなに頭が回って、仕事をして、子育てをして、演劇をして。そしてもちろん女優として、演劇への向き合い方をすごい尊敬している。わたし時間堂一ヒザイが好きだと思うんですよ。あといろいろくれるお姉さん(笑)。
ー阿波屋 鮎美(俳優)
鮎美はね、自分の演劇のイメージをきちんと持っている人だと思う。演劇に対するスタイル、向き合い方に対するこだわりをすごい持っているような気がして。納得するまでちゃんと話し合うし、その強い信念はすごく尊敬する。あとは、オーガニック。健康食品のお店に勤めていて、自然のものをいっぱい使っていて。自分で干しフルーツとか干し魚をつくっちゃうバイタリティもいいなと思う。
ー尾崎 冴子(俳優)
冴子かぁ。バカ。愛すべきバカだよねぇ(笑)。私は結構陰湿なバカなんですよ。卑屈なんだよね、「どうせ自分なんか誰も好きになってくれない」みたいな閉じこもりがちなバカなんだけど、冴子は「みんな大好き!」っていう、前向きな愛されるバカ、かなぁ…(笑)。場がやっぱり明るくなるし、あいつがいると元気になるし。何でも笑って受け止めてくれるのかな。やっぱりいると安心するっつうかね。私もバカで冴子もバカなんだけど、お互いに物を知らないエリアというか範囲がちがって。私が知っていることを冴子が知らなかったり、冴子が知っていることを私が知らなかったりして、冴子は私のことをバカにしてこないけど、私は冴子が物を知らないと嬉々としてバカにしに行くかな(笑)。そういうのをちゃんと相手してくれるから、優しいいい子だなって思う。
ー國松 卓(俳優)
國松は動けるデブだな(笑)。これみんな言ってる気がするけど(笑)。ほんと気を遣うんだよね。そうしないといけない性分なのかわかんないけど、掃除とか片づけとかも率先してやってくれるし。卓も頭回る人だから、それがうらやましいと思うな。「あれやって、これやって」っていうのが言いやすいんだよね、よくないんだけど(笑)。そういうのを全部笑って受け入れてくれる、いいデブです(笑)。
ー穂積 凛太朗(俳優 現在福岡県在住)
凛太朗は、新人のお披露目のときに「僕来年までに10キロダイエットします!」って宣言して、そのまま福岡へ行っちゃったダイエット詐欺野郎(笑)。最近はちょっと音沙汰がないけど、たまにスカイプで話したり遊びに来たりするとすごい時間堂のこと考えてくれてる。可愛いやつですね。
ー大森 晴香(プロデューサー)
晴香さんはね、とにかく頑張り屋さんだと思う。私はほんとに書類を作ったり何かを管理したり計画を立てたりする仕事ができないタイプの人間だから、晴香さんが忙しそうでも「その仕事引き受けましょうか?」って言えないんだよね。だから晴香さんがほんとにしんどい時に手を貸せない時期があったのを申し訳なかったって思ったりするなぁ…。ほんとに頑張りすぎなくらい頑張っちゃうからねぇ。ツアーの時はほんとにみんなのお母さんみたいだった(笑)。ツアー先で食費を浮かすために自炊をするんだけど、いっつもお米を炊いておかずを作ってくれてねぇ、料理上手で。みんなで「わーいごはんだ!」って。
『ローザ』について 「カオス、成長過程」
ー稽古はいかがですか?
カオス(笑)。やっぱこれも成長過程だよね、全然。今日は新しいことを採り入れてみよう!って言ってそれを採用した時に、その時はやってる方も新鮮でとても面白いんだけど、次はそれを再現しなきゃいけなくなるからね。「新鮮に再現をする」っていう、俳優としては非常に重要なことなんですが。でもその「新鮮に」っていうところが出来ない人っていっぱいいると思うんだよね、私もだけど。どうしても次の段取りを考えたりとか、「この時までにこういう気持ちになっていなきゃいけない」とか、そういう振りをする芝居をする人はいっぱいいると思うんだけど、振りじゃあやっぱり黒澤世莉は満足しないから。振りをやってるとほんとにすぐ怒られるから(笑)。そこはずっと追いかけていてまだ全然わかんないところだな、ここまで来ても。
「本質的にはずっと変わらない」
黒澤さんブログで”ある劇団員は「いっつも言うことは変わるけど、やることは同じでしょ」て言います。半分はあっているけど、半分は間違ってると思います。”(http://handsomebu.blog.jp/archives/52390802.html)って書いてたけど、私は半分も嘘じゃないと思うんだよね!やってる側からしたら(笑)。結局その時々で、作品によってもアプローチの仕方や世莉さんの言うことも変わるけど、でも結局黒澤世莉が喜びを見出しているものはいつも変わらないって思っていて。私はほんとに一番最初に出た『星の結び目』から『ローザ』まで、言われてることは一貫して変わんないなって思ってるんだけど(笑)。結局俳優が自由に楽しんでるところが良いんでしょう?って。そこに何かしら、その時々の可能性とか台本が持ってる可能性とか、今までやってきたことの積み重ねで見えてきたものを随時取り込んでいるわけで。本質的にはやっていることはずっと変わらないと思っています。
ー『ローザ』でお気に入りの台詞(あるいはシーン)を教えてください。
私二個あって。ルイーゼの「うるせー劣等民族。」っていう台詞と、「人間、生まれ持った性質は変えられないし、違う階級、国家、人種、性別と共感なんかできっこない。」っていう台詞が一番好き。これだけ載せるとひどい人間みたいに思われるかもしれないけど(笑)。結構みんなが思っていると思うんだよね、人間の一面だと思っていて。今結構盛り上がっているじゃないですか。人種差別とか、移民排斥、ヘイトスピーチとか。トランプさんの移民への過激な発言とか、トランプさんが当選した途端に白人から黒人への嫌がらせが起きたりとか。日本でも朝鮮人出てけ、みたいなのとかあるじゃないですか。でもそれは人間の一面だと思っていて、そういう一面は誰しも、私自身にもあると思うんだよね。それは理性では抑えるし、やっちゃいけないことだっていう理解もしてるから大きな声では言わないけれど。かたやフリーハグ(※)みたいに、宗教も人種も超えて見ず知らずの人とハグをするっていう、人間にはそういう一面ももちろんあるんだよね。その映像を見たときには、わたしもそういう人間でありたいと思うし。
(※街頭で「FREE HUGS」と書かれたプレートを掲げ、見知らぬ人々とただハグ(抱擁)する活動。人種や宗教による差別への反対を訴えて行われる。)
「共感は出来ないけど、共感はしたい。」
公の場では言っちゃいけないような言葉だからこそ、気になるのかもしれないし、その台詞に共感する人と反発する人と分かれると思うんだよね。それがとても面白いと思う。私の中でもそういう思いと戦っているのかもしれない。私は「共感なんかできっこない」と思っている方だから、無理だって思うけど。でも、「じゃあどうするんだろう?」って。共感はできないけど、共感はしたいと思う。その引っ張りあう二面性に働き掛ける言葉だからかな。
ー「自分の中にある感情をなかったことにしない」ということを世莉さんも仰いますね。
きれいごとならいくらでも言えるからね。そういう差別感情があった上でどうするんだろう、みたいな。共感をのぞむのか、差別をのぞむのか。
ー『ローザ』という作品を一言で表すと?
ちょっとありがちでいやなんですけど、「花束」かなぁって。ああ、やだやだ。こんなことほんとは言いたくないんだけどそれ以外思いつかなかったんだもーん。イメージです、これはもう。理屈とかあんまりない。
ーこの『ローザ』の稽古場で一番大切にしているのはなんですか?
なんだろうなぁ、頑張んないこと。わたし頑張ると力んじゃっていいことないので(笑)。私演劇そんなに好きじゃないんですよ、たぶん(笑)。今回一緒にやっている私以外の四人のメンバーとか黒澤さんは、演劇大好きで、すごい真摯じゃないですか。それに比べると、そんなに真摯じゃないんですよ。それが一番大事だって言っときながら(笑)。前までは、稽古場ではそのように頑張って演劇と向き合っていなければならないんだ!というのですごい力が入っていたんだけど。今はそれこそ「今日はもうやりたくない」という気持ちをなかったことにしないようにしようと思っていて。それって結構私にとってはむつかしいことで、どうしても頑張ってしまいがちだったんです。やっぱり頑張っていないとキャラクターを作れないんじゃないかとか、うまく物語が成立しないんじゃないかとか、役割を果たせないんじゃないかとか、すごい怖いから。でも、とりあえずそういう力みを捨ててやることを心がけております。
ーご自身と、ご自身の役(ルイーゼ)を花にたとえるとしたら、それぞれどんなお花ですか?
自分の役だもんね、バラとか言ったら恥ずかしいじゃん(笑)。ルルー(ルイーゼ)は一輪でしっかり咲く花っていう感じがする。それもマーガレットとかバラとかそういう可愛い、綺麗な華やかなのじゃなくて、むしろカラーみたいな感じ。
ーカラーはサトイモ科だそうです。
サトイモ科なんだ!それ聞いちゃうとなんか…(笑)。ああ、でもまあ表向きしゃんとしてるけど、内側ではお母さんをやったり、主婦をやったり、今回も政治家っていうよりは主婦の象徴として出てきているから。いいね、庶民ぽくて(笑)。
カラー
ー直江さんご自身はいかがですか?
吾亦紅(われもこう)とか。地味な花なんだよね。全然派手でもなくて。花をテーマにして一話ずつ話が進んでいく小説の中に、吾亦紅をテーマにした恋愛小説があって。吾亦紅っていう名前は「けっこうくすんだ色をしているけれど、私も赤いですよ」っていう意味なんだってその小説には書いてあって。「私もまた赤いです」って、いいなと思って。ささやか主張っていうか。私ほんとにバカで何もできないから、そういうちっちゃな主張が身の丈にあっていていいなって思うし、なんかちょっとけなげだなって。いやでもこれだと自分をけなげだって思ってるみたいだけどちがうんだよ、そういうことじゃないんだよ(笑)。けなげさへの憧れみたいな感じです。
吾亦紅
「時間堂、『ローザ』にまつわらない、いろいろな質問」
ーこと演劇について、最も影響を受けているのは誰ですか?
これはいわずもがな黒澤世莉なんですよ、ほんとに。ヒザイちゃんに「純粋培養だ」って言われるくらい影響を受けてるらしいですよ。今まで真面目に演劇と向き合ってきたことなかったからねえ…。こんなズタボロにされたこともなかったですしね、ええ…。時間堂に入るまでは割とできる子で通ってたんですよ、ありがちなね。なんとなくうまい、できるように見える。それが時間堂に入ってズタボロですから(笑)。
ー稽古場で手放せないものはなんですか?
えぇ、食欲。あと「自己中心」。だって自分が一番じゃなきゃやだもん。自分が一番じゃなきゃやだし、自分がやりたいことやれなきゃやだから、すごいわがままだと思うよ(笑)。そんなやつらばっかりだからねぇ。(そののち)…いや、「自己中心」じゃなくてやっぱり「卑屈」で。こっちだなって思った。卑屈ですね。他人を羨んでばっかりですから。なにかあると「いいなあ」ってすぐ口に出てくる。人をすぐ羨むし、自分をすぐ落とすし…。
ー今まで見た中で「これぞ!」という一本のお芝居を教えてください。
じかに見たわけではないんですけど、ナショナルシアターライブの『欲望という名の電車』(演出:ベネディクト・アンドリュース)。まあもちろんほかも素晴らしいんですけれども。『宝島』(演出:ポリー・フィンドレー)もすっごい良かったんだけどね。でも『欲望』だな。2015年に鍬田かおるさんの特別クラスを世莉さんと共同で開催してたことがあって、黒澤さんは割と感情のやり取りを重視するけど、その時に鍬田さんからは「役柄が何を求めているのか、今どういう状況なのか、その人が誰とどこにいてどういう環境で、何を感じてどうしたいのか」という5W1Hみたいなものが演じている人から分からないと全然だめだということを身をもって教わったんですよ。言われてることは分かるけど実際どう体現していいか分からなくてすっごい悩んでいたけど、『欲望』を観たときにそれが「うわ、すっげえわかる!!」って思ったのね。愛しいけど怒るとか、愛しいけど乱暴に扱うとか、悲しいけど元気に振る舞うとか。舞台だと消えてしまいがちなそういう「〜だけど」の多面性の部分がずっとちゃんと見えていて。それが衝撃的だった。
ー稽古場でうまくいかなかったり困難な時、どうやって乗り越えますか?
そんな時しかないからなあ(笑)。どうやって乗り越えるのかよくわかんないなぁ、やっていたらいつの間にか乗り越えていた、みたいな。あんまり私自分から人に相談できないから、結構黙って考えちゃうんだよね。そんなときに割とヒザイとか貴夫さんが「どう見えたよ」とか「あれはこうしたら?」とかいろいろ言ってくれるので、それはちゃんと聞くようにしている。あとはなんだろうなぁ…。何にも対処法はないです(笑)。演劇から離れるっていうのはやる、「今日はもう一日台本見ーない」とか「今日はもう遊ぶ!」とかはする(笑)。これ怒られるかな…(笑)。なにか台本に対する具体的なアプローチとかは全然やってないと思います…(泣)。
ー演劇とは結局なんなんでしょうか?
もうなんなんですかねえ、演劇ってねぇ。ストレス解消法とか言ったらきっと怒られるからやめとこう、はい。でもなんだろう、全然わかんないな…。あんまり離れたことがないから分からないんだよな。離れたらやりたくなるし、やってたら離れたくなるし、ツンデレの彼女みたいなね(笑)。なんなんだろう。かっこいいこと言えないなぁ!あってもなくても困らないものかなぁ、今はね。でもこれでやめたらほんとに「ないとだめだ!」ってなるかもしれないけどね。
「いいタイミングでいいことがやってくる」
ー時間堂解散後の活動のご予定は?
なんも決まっていないです。一旦離れてもいいかなあ、ともちょっと思っていて。これはちょっと精神論とかオカルト的な話だけど、その人にとっていいタイミングでいいことがやってくると思うんだよね。それは結果論なのかもしれないけど。やっぱりその人に合ったタイミングで物事ってやってくるなぁって私は思うから。もしかしたら演劇を離れてみるタイミングなのかな、っていう風には思っていて。だから演劇が占めていたところに何か別のものが入ってくるのかもしれないし。まあ今ちょっと演劇を続けるかどうなのか迷っているから、演劇を一旦やめてみることで、逆に演劇をやるという決意が固まるのかもしれないし。個人的な話なんですけど私たぶん来年結婚するので、もしかしたらそういう生活の変化に対応するために「一回あんた離れてみなさいよ」という流れなのかもしれないし。とりあえずは離れるというか休んでみようかなって思います。わたし今年のレパートリーシアターに全部毎月出てたのでねぇ、ちょっと疲れたかな、「やりすぎだろ」というところも若干ある気がする。一年に10本も11本も出るもんじゃないっすねぇ…(苦笑)。
ー最後に一言、お願いします。
まあ二つ本音がありまして。一つは、ほっとしている。私はたぶん時間堂が解散しなければ演劇から離れられなかったから。ちょっといま演劇に疲れているところで、解散っていう大きな出来事があって離れるということができるから。そういう意味ではちょっとほっとしているところはあります。続いていたら時間堂から離れられないかもしれなかったから。辞めるの怖いし、この人たちとやりたいしっていうのがあって。なんか決意が固まらないままなあなあで乗っかっていってしまうみたいなのがなくなって、ほっとしているかな。
「唯一、好きでいられる場所」
あと二つ目は、すごい感謝をしている。時間堂に所属している人たちに。もちろん私だけに目を掛けてたわけじゃないけど、黒澤世莉は私が成長するのをひたすら待ってくれて、貴夫とヒザイは上から引っ張り上げてくれて、鮎美や冴子や卓は後ろから押し上げてくれて、ほんとに不出来な私を。あれこれしながらいっしょにやってくれたし、実際やっぱり時間堂に入ったご縁ですっごい変わったと自分でも思うんで。やっぱりそれはここにいないと無理だったから。唯一、芝居さえやってれば好きでいられる場所なんだよね。わがまま言おうが食い物に走ろうが、多少悪口言おうが、芝居さえちゃんとやっていれば「それが直江だよね」って言って居させてくれる場所だったから。そんなの家族でもできない人だっているから。「あいつバカだな」とか悪口ガンガン言い合う集団って劇団くらいだと思うし、劇団でもそんなの出来ない人たちもいるだろうから。やっぱりそういう場がある、あったというのは非常にありがたいですね。やっぱりメンバーにも恵まれていたと思うなぁ。辞めていった人もいたけど、結果的に今残っている人を見て。まあ私的にですけどね。非常に感謝をしています。
(2016年11月23日 十色庵にて)
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