謹 賀 庚 寅 年 〔謹んで庚寅年を賀します〕
―― 庚・寅・八白土性/虎変/「无妄」卦/「新」/「革・鼎」卦/民主党 ―――
《 はじめに ・・・ 干支について 》
明けて平成22年(2010)。 新年を皆様と迎えますこと、大慶でございます。
今年の干支〔えと/かんし〕は、(トラではなく)「庚・寅〔かのえ・とら/こう・いん〕です。
干支は、十干〔じっかん〕(天干)と十二支(地支)です。
この、10 と 12 の組み合わせで、60 干支〔かんし〕の暦を作っていました。
そして、十二支「寅」は、動物の「虎」とは専門的には直接関係ありません。
が、動物のイメージ・連想は、人口に膾炙〔かいしゃ〕しています。
干支を「今年のエトは、トラで ・・・ 」とメディアが薄々軽々と報じているところです。
また、干支は旧暦(太陰太陽暦:我国で明治維新期まで用いられました)
ですから、年始は 2月4日(立春)からで、2月3日(節分)までは、まだ「己・丑〔つちのと・うし/き(こ)・ちゅう〕です。
これらを確認した上で、今者〔いま〕の慣行に合わせて、一足先に「庚・寅」年のお話をしておきたいと思います。
《 庚・寅&八白土性の深意 》
さて、今年の干支「庚・寅」には、どのような深意があり、どのように方向づけるとよいのでしょうか。
「庚〔かのえ=金の兄/こう〕」には、おおよそ 1)継承・継続 2)償う 3)更新・奮起 の
3つの意味があります。
つまり、前年からのものを継続して、罪・汚れを払い清めて償うと共に、更新していくということです。
革命〔revolution〕に持ってい行かずに 進化〔evolution〕に持っていくということです。
「寅〔とら/いん〕」。
字の真ん中は、手を合わせる・手を差し伸べる・協力することを表し、
下の“ハ”は人を象〔かたど〕っています。
つまり、志を同じくするものが手を取り合って助け合うの意です。
そこから、「同寅(=同僚)」、「寅亮(=助け合う)」、「寅清(=助け合って旧来の妨害・惰性などを排除してゆく)」といった熟語もあります。
この2つを合してまとめると、前年のことを継承して一致協力、創造的に更新進展させる、といった意味になるかと思います。
※(以上は、安岡正篤氏干支学によりました。
『干支新話(安岡正篤先生講録)』・関西師友協会刊 参照)
また、九性(星)気学で今年は、「八白〔はっぱく〕土性」にあたります。
これは、変化・改革・蓄積・相続・ストップ〔中止・停滞〕といった複雑な意味合いを持っています。
表面上安定した、遅滞・停滞した社会的ムードの中で、実直で辛抱強い対応が望まれます。
(国内外で)“政治(家)”が話題となり、経済(不況)の打開が図られる年と思われます。
《 寅→虎 と 漢学 /「虎変」について 》
ところで、“寅=虎”で、虎は日本でも昔から非常に身近です。
“トラさん”と称されて愛着も持たれています。
もっとも、虎は(太古の昔はともかく)日本にはいません。
漢籍の中に、とてもよく虎が登場いたしますので、漢学との歴史的かかわりの中で身近になっていると言って良いでしょう。
虎は、黄河流域から満州・朝鮮にかけて生息しています。
アジアの農耕民族の日常生活の中で、極めて身近で、恐るべきものであったと考えられます。
最も古い経書の『易経』 をはじめとして、虎は漢籍・漢学の中に頻繁に登場します。
「儒学と虎」というテーマは、後日改めて「言霊」で述べたいと思います。
今回は、お馴染みのものを少々項目だけ紹介しておくこととします。
―― 例えば、次下の通り。
・「暴虎馮河〔ぼうこひょうが〕」 (『論語』・述而第7)
・「苛政は虎よりも猛なり」 (『礼記』)
・「虎の威を仮〔か/=借〕る狐」 (『戦国策』・楚)
・《虎は死んでも皮を残す、人は死んでも名を残す》は、浪花節〔なにわぶし〕の文句、
漢文では、「豹は死して皮を留め、人は死して名を留む」
(『五代史』・王彦章〔おうげんしょう〕)
・「虎穴に入らずんば虎子〔こじ/こし〕を得ず」 (『後漢書』・班超伝)
☆「雲は龍に従い、風は虎に従う」 (『易経』・文言伝)
☆「虎視眈眈〔こしたんたん〕」 (『易経』・山雷頤卦)
☆「虎の尾を履〔ふ〕む」 (『易経』・天沢履卦、『書経』・君牙)
☆「大人虎変〔たいじんこへん〕」/「君子豹変」 (『易経』・沢火革卦) 等々。
最古の古典・経書にして東洋の“奇書”『易経』には、虎にかかわる有名な言葉が数多くあります。
私は、今年「庚・寅・八白土性」には、「虎変」・「豹変」こそふさわしいと思います。
易卦・「沢火革」は、“革命”の語源です。
虎は陽(5爻)、豹は陰(上爻)による違いで、意味するところ虎・豹は同じと考えて良いと思います。
日本では「君子豹変」を、変わり身の早さという悪い意味に用いていますが、完全な誤りです。
虎や豹の毛(模様)が美しく生え変わることに例えたもので、
立派に善く変化することです。
旧悪を改め去ること著しい時にこそ用いる言葉です。
この一年、皆様それぞれの「虎変」・「豹変」を志向していただきたいものです。
因〔ちな〕みに、中国は、(おそらく世界一)何でも料理して食す国柄です。
“虎料理”なるものはご存知〔ぞんち〕ですか。
―― 猫料理です(虎はネコ科)。犬(狗)料理はよく知られていますが猫も食べます。
《 干支・九性の易学的考察/「无妄」卦 》
次に(やや専門的になりますが)、今年の干支・九性を易の64卦になおして(翻訳して)解釈・検討してみたいと思います。
昨年の干支、己・丑は「坤為地〔こんいち〕」。(‘09.3月“儒灯”参照のこと)
今年の庚・寅は、「天雷无妄〔てんらいむぼう/むもう〕」卦となります。
(以下、高根 「『易経』64卦奥義・要説版」/第15回 定例講習‘易経’No.25参照のこと)
「无妄」卦は、精神性3卦の1つで、「无」=「無」で 妄〔みだ〕り無いの意、うそ・いつわりのないことです。
至誠、“無為自然”(老荘)の精神、“自然の運行”、神意に逆らえば天罰てきめん、“随神〔かんながら〕の道”(神道〔しんとう〕)といった意味です。
「大亨以正、天之命也。(大いに亨りて以て正しきは、天の命なればなり」(彖伝) とあり、元号「大正」の出典ともなっています。
象〔しょう/かたち〕でみてみますと、上卦 乾天の下に震雷で落雷の象。
「天地否〔てんちひ〕」(天地交流せず八方塞がり = 現代日本の閉塞〔へいそく〕感?)の初爻に外から1つの陽(剛健・明るく活動的なもの)が来て「无妄」となったと見ることが出来ます。
一例を政界の動きに求めてみますと。昨年8月、「坤」・陰の閉塞感を破って、歴史的政権交代が実現し、民主党・鳩山内閣による政治がスタ−トしました。
高い支持率、世論の期待を担っての華々〔はなばな〕しいスタートです。
今年はその本格的展開(“正念場”?)で、政権の真価が問われる年です。
が、発足語3ヶ月余を経て、現今〔いま〕1月早々と、支持率は40%台に低下しています。
「无妄」卦の深意に学び慮〔おもんばか〕り、天意(民意?)逆らって天罰てきめんとならぬように、と、もし私がブレーンであれば説くところです。
為政者(指導者・リーダー)の立場にある皆さまのために、「无妄」卦・大象の引用解説を付け加えておきます。
○ 大象伝 ;
「天の下に雷行き、物与〔みな〕无妄なり(物ごとに无妄を与〔あた〕う)。先王以て茂〔さか〕んに時に対し万物を育う。」
(乾天の下に震雷が進み行く象が、无妄です。
つまり、天の健全な運行に従って、万物は生まれ生長・発展してゆくのです。
世界のあらゆるものが、この自然の法則・原理に従って運行しているのです。
古のよき王は、このことに鑑み、“天の時”に従い対応して、
しっかりと成すべきことを成し、万物万民の育成に努めたのです。)
そして、今年の九性・「八白土性」を易学の八卦〔はっか/はっけ〕でいうと、
「艮〔ごん〕」であり「土〔ど〕」です。
64卦(重卦)では、「艮為山〔ごんいざん〕」が相当します。
「艮」は、山・荒野の象〔しょう/かたち〕です。
「艮は止なり」(説卦伝)とありますように、止はストップ・畜止(たくわえ動かないこと)・停止・休止の意味です。
八卦「震」の逆で退く・遅れる・滞るの意味です。
また風水方位でいう“鬼門〔きもん/=気門・生門で陰陽の気の交替のときで元気・生気すべての気が生じます〕”( =丑寅〔うしとら〕)です。
『論語』(擁也第6)に「仁者は山を楽しむ」、『大学』(第1段・1)に「至善に止まる/止する」とあります。
泰山・富士山のように、どっしりと落ち着きたいものです。
《 「革」卦 と 「鼎」卦 》
ところで、昨年 平成21年の世相をあらわす文字は「新」でした。
(一昨年は「変」)
新しいものが誕生したからでしょう。
『大学』に、「周は旧邦なりと雖も其の命維〔こ〕れ新たなり。」とあります。
“明治維新”の典拠です。
一言に要せば、進化〔evolution〕です。
「新」の本来の面目躍如は、今年にこそあるかと思います。
先述のように、易に「沢火革」卦があります。
“革〔かわる〕”、“革命”(命が革〔あらたま〕る)の意味です。
ペアの次の卦「火風鼎〔かふうてい〕」と相俟って、革新・革命とその後の建設の問題を説いた卦です。
「革」卦の主爻(定卦主) ―― 6爻の中で最も徳があり時・位を得ている爻が5爻の尊位です。
その(陽の)5爻が、「大人虎変す」です。
(陰の)上爻が、「君子豹変す」です。
5爻は内閣でいえば総理、会社でいえば社長、上爻は内閣では元老・顧問、会社でいえば会長・相談役といったところでしょう。
そして、虎変を「大人虎変すとは、其の文炳〔へい〕たるなり」(毛が生え変わり文様が更にあきらかに輝き、美しくなる)と注釈しています。
「革は故〔ふる〕きを去るなり。鼎は新しきを取るなり。」(雑卦伝) とありますように、
「革」は破壊であり、「鼎」は建設です。
「革・鼎」で革命は、成功成就するのです。
国内外の政治を見てみますと。昨年1月アメリカでは、“Change〔変革〕”を唱えて民主党・オバマ大統領が誕生しました。
我国でも、8月に民主党による歴史的政権交代を実現し鳩山内閣が誕生しました。
この両者は、おおきな期待と指示を得て、旧態を革〔あらた〕めました。
今年は、創造・建設してゆかねばなりません。
“鼎新〔ていしん〕”です。
オバマ政権も鳩山(小沢?)政権も、支持率7割ほどをもってスタートしましたが、
この1月には40%台に落ち込んでいます。
政権の無徳ぶりと、国民の無節操を改めて感じているところです。
しっかりと鼎新して、立派に「虎変」を実現してほしいものです。
《 今年の真儒協会は・・・ 》
正月、「正」は「一〔いつ〕」に止まる/止する、と書きます。
現今〔いま〕、“「一」なるもの”、“変らぬもの”、“不易なるもの”の価値を見直さなければなりません。
それは、“大常”、“受け継がれるもの”でもありましょう。
具体的に、人間界における“「一」なるもの”は、
忠恕(まごころと思いやり)の道、正しい道筋のことです。
孔子の「一貫〔いつもってつらぬく〕の道、孟子の「揆一〔きいつ〕」です。
真儒協会は、この“「一」なるもの”・ “不易なるもの”で、こころの蒙〔くら〕きを啓〔ひら〕く活動を「庚・寅・八白土性」(天雷无妄・艮為山)の深意・真意をふまえて、充実させてまいりたいと思います。
昨年、「己・丑・九紫火性」(坤為地・離為火)は、陰の統合・含蓄の示唆に順〔したが〕って、儒学についての研究・論稿・講習内容などを整理・編集し、まとめ始めました。
今年もそれを継承更新してまいります。
教材編集に力を入れ、著書の出版に向けての準備をしてまいりたいと思っています。
ところで、インターネットは 小ドラゴン(=震)です。
“ユビキタス社会”形成に向かって、電波という雲に乗って天翔けているところです。
真儒協会も昨年春、漸くH.P.《儒学に学ぶ》・ブログ《儒灯》 を立ち上げ発信活動を開始しました。
執筆に力を入れ、過年度の各種講習内容レジュメ〔要約〕も、半ばはセットアップいたしました。
今年は過年度のもののセットアップを完了し、更に毎月の智的情報を掲載・蓄積してまいりたいと思います。
今年も、皆様には、よろしくネットをご活用いただきますと共に、当協会活動へのご理解ご協力を賜りますようお願いいたしまして結びといたします。
PS.――
4月の “平成22年度 《真儒の集い》”では、私が特別講演の講師を務めます。
テーマは、「“グリム童話”と儒学 ―― 現代日本を“中す〔Aufheben〕” 1つの試論 ―― 」です。
ドイツの偉大な知的財産を儒学思想の視点から考察いたします。
(おそらく)日本で初めてのテーマに、ささやかなチャレンジをいたします。
今年度の真儒講習のスタートに相応しい斬新〔ざんしん〕なものにしたい、と思っております。
よろしく、お誘いあわせの上ご参加ください。
(ご来聴できない方は、後日のレジュメをお楽しみ下さい。)
真儒協会会長 高根 秀人年
※こちらのブログ記事はメルマガでも配信しております。
メルマガは「儒学に学ぶ」のホームページからご登録いただけます。
→ http://jugaku.net/aboutus/melmaga.htm
にほんブログ村