“甘やかし” を “麦ふみ” に想う
─── “ゴミふみ”と麦ふみ /“じゃがいも理論”/ 「甘やかし子を捨てる」 /
舐犢〔しとく〕の愛・“舐猫の愛”/ 『孝経』 / 「家貧しくして孝子出づ」 ────
《 はじめに 》
私は、週2回、勤務先の高校で、“(もえるゴミの)ゴミふみ”をしています。
── どういうことかと申しますと、次のような事情です。
ゴミの公的回収費用は、(有料化の論議はあるものの)どこも無料だと思います。
そして、“ゴミ(回収ビニール)袋”のあり方は、自治体によってまちまちです。
このところ、ゴミ袋は指定化・有料化の傾向にあります。
一般のゴミ袋も店頭から、黒い袋は次第に姿を消し、
いつしか白色・半透明のものに変わってきていますね。
例えば、四国・愛媛の郷里の市〔し〕では、一枚(大)40円ほどの指定袋です。
現住の大阪北部の市では、市が自治会を通じて一定数無料配布しています。
一般の白または半透明袋でもよいことになっています。
これに対して、職場のある大阪南部の市では、(大)100円と少々高値です。
有料ゴミ袋の利益は、ゴミ回収関連の経費の一部を補填〔ほてん〕しているのでしょう。
一枚の値段は、しれているとも言えます。
それでも、(学校のように)消費数がまとまるとかなりの負担金額になります。
このゴミ袋にかかる費用を少しでも節約するために、
できるだけ(圧縮し、カサを減らして)“詰め込む”・“押し込む”ということです。
そんなわけで、やや大きめ(70リットル)厚出で黄色い柄の袋に、
“これでもか”といわんばかりに“親の敵〔かたき〕のように”、
大の男が足で踏みに踏んで
飲料の紙パックなどなどを踏みつぶしているというわけなのです。
まあ、特殊地域的な異様な風情〔ふぜい〕
(椿事〔ちんじ〕?)といったところでしょうか。〔苦笑〕
長い前置きは、この位といたしまして。
この“ゴミふみ”をしながら、不思議と“麦ふみ”を連想いたします。
そのあれこれ脳裡〔のうり〕に想っていますことを、今回まとめてみました。
《 麦踏み 》
文部省唱歌・“冬景色”に、 ♪♯
「 1.さ霧消ゆる 湊江〔みなとえ〕の 舟に白し 朝の霜
ただ 水鳥の声はして いまだ覚めず 岸の家 / ♪
2.烏〔からす〕鳴きて 木に高く 人は畑に 麦を踏む
げに小春日の のどけしや かえり咲きの 花も見ゆ 」
とあります。(カラオケにあるので、時々歌っています♪)
私が幼少の砌〔みぎり〕、自分の家は農家ではなく、都市在住でしたので
「畑に 麦を踏む」という直接の体験はないのですが、
小学国語の教科書挿し絵に、麦踏みの光景の挿し絵が幾度か登場していたのを
微〔かす〕かにに記憶しています。
ついでに、「小春日」。
小春日・小春日和〔こはるびより/小6月/ Indian summer〕は、
晩秋から初冬にかけてのポカポカと暖かいうららかな(=小春)日・ひよりのことです。
学生諸君で勘違いしている人が見受けられますが、
春の候を指した用語ではありません。
昨年(‘10.12)師走のはじめ頃、
天気予報で「小春日和」の表現をつかっていたのは、興深いものがありました。
(ちなみに、昨年末に発表の、一年の世相を表す漢字は「暑」でした。)
─── 話を戻しまして。
今時の学生には、とんと「麦踏み」の話が通じません。
例によって、言葉そのものの内容を示す説明と、
加えて(何故かという)解説が必要です。
ところで、『孟子』(公孫丑上)の中に、「助長」という寓話があります。
稲の成長を助けてやろうと、一日中引っ張り伸ばし
全部ダメにしてしまった愚かな男の話です。
(周りの人が)無理に力を添え、かえってこれ(=本人)を害することです。
(そこから、悪い傾向を一層強くすること、
/物事の成長・発展のために外から力を添えることの意で使われます。)
「助長」は、稲を引っ張りダメにすることでたとえた、孟子の作り話です。
が、「麦踏み」は麦を踏んで善くする現実の話・実際の話です。
冬の寒さの中、成長して伸びようとしている麦の若芽を足で踏みつけるのです。
それによって、(適度な負荷・ダメージによって)、
逆に麦がしっかり丈夫に育つということなのです。
冬期、土が霜で浮いた状態なのを踏み固める効果があるのかも知れません。
中国には、「獅子の子おとし」
(獅子=ライオンは中国にいませんから虎でしょう。
虎は、生まれた子を千仞〔せんじん〕の谷に落とし、
這い上がり生き残った子だけを養育する)
という、まことしやかな言い伝えもあります。
わが国にも、「可愛い子には、旅をさせろ」・「他人の釜の飯を喰わせろ」
・・・ などなど。
自分の子を苦難・艱難の環境において、
その器量を試したり 育成したりせよと誡〔いまし〕めていますね。
《 “甘やかし” と “じゃがいも理論” 》
“じゃがいも理論”は、誰もご存知ないでしょう。
これは私が高校生の頃、単なる思いつきで考案したものを自称したものです。
私の若かりし時登場した「ポテトチップス」は、スナック菓子の主流となり、
ありきたりと思われていた「じゃがいも(馬鈴薯〔ばれいしょ〕)」も
人気のシャレた野菜となりました。
さらに、その後“カウチ・ポテト族”などという、
(数十年前の)当世若者気質〔かたぎ〕を表わす言葉も誕生しました。
これは、自宅で“カウチ”に寝そべって(孤独に)“ポテトチップス”をかじりながら、
独りファミコンなどに時を過ごす若者気質のことです。
平成の御世、「ポテトチップス」の類のスナック菓子は全盛を極め
店頭にところ狭しと安価に並べられています。
そして、“じゃがいも”も、昔は非常に安価で庶民的で、
“コロッケ”・“肉じゃが”を始め家庭料理(お袋の料理)の主要食材でした。
“片栗粉”(馬鈴薯でんぷん)も懐かしいです。
が、今時、都市部でスーパーの店頭に並ぶと
(ひと山いくらでなく、一個いくらで売られており)
決っして安価とはいえないと感じることしきりです。
さて、私は農業に関する専門知識があるわけではありません。
けれども、洋の東西を問わず、広く栽培され
古くから好んで食されているこの“じゃがいも”の栽培は、
肥沃な土地である必要はありません。
いな、むしろ痩〔や〕せた土地で良く育ちます。
しっかりと、せっせと光合成(炭酸同化作用)を行い、
できた養分(デンプン)を 根(=じゃが芋部)に蓄えるのです。
人間(ヒト)の場合も、(経済的にもお金持ちではなく)
一見小柄で華奢〔きゃしゃ〕な体つきのお母さんが、
ずいぶん子沢山であったりすることを思い浮かべたものです。
そこから、
「物質的・生物学的環境に(適度に)恵まれていない方ほうが、
子孫を多く残す意思・パワーがある」
と、考え “じゃがいも理論” と名付けました。
今(2010.12)、エチゼンクラゲの異常発生が報じられています。
その原因を、学者は異常気象により、クラゲにストレスが加わり
多量の繁殖をもたらしたのではないかと説明していました。
およそ、動植物=生物〔せいぶつ〕の本能として、
自分の生〔せい〕の不安(ストレス)があると
子孫を残そうという本源的働きが活発になるということなのでしょう。
シンプルといえばシンプルな、自然の摂理には違いありません。
現代日本の、物質的に過度に恵まれた社会において、
子供を産み育てようという、
人間本来の、女(母)性本来の意思・願望が鈍化〔どんか〕してきています。
今や※出生率は、1.2人程にまで半減しています。
生物学的・民族的・国家的危機です。 注1)
われわれ人間ともうしますものは、ともすると、自分が生物であること、
動物であることを忘れてしまいがちです。
天地自然の存在を超越した、何かしら特別な存在であると錯覚する人がいます。
「結局最後に生き残る者は、最も強い者でも最も賢いものでもない。
それは、変化し続けるものである。」
これは、『種の起源』で著名な生物学者チャールズ・ダーウィンの言葉です。
(儒学=『易経』は、変化とその対応の学です。)
“甘やかし”・“過保護”は、ヒトを種〔しゅ〕として弱くしてしまいます。
“負のDNA”を連鎖させます。
人工薬や好環境に依存し過ぎると、自然治癒力を弱めていゆき、
いずれヒトは簡単に疾病〔しっぺい〕に斃〔たお〕れてしまいます。
今の日本人は、“負のDNA”を連鎖させ、
どんどん弱くなっていくように思えてなりません。
“じゃがいも”は、“じゃがいも”の立場から言えば、
“甘やかされず”(劣悪な)環境に変化・適応し、
種としてのパワーを強めながら種として繁栄しているとも表現できましょう。
注1)
正確には※「合計特殊出生率」。
本来人口が減少せずに、(ひと組=2人の男女が)再生産されるためには、
“2.2人”ほどの子どもを育てなければなりません。
今や、子どもの数は着実に減少し、(2005年で) 1.25人にまで低下しています。
半数近くに減った子ども達は、長じてまた、
半減に近い次世代しか生産しないという“連鎖”です。
日本人で減った人口(労働力人口)は、当然に、外国人が流入してくるわけです。
この「少子化」の現状を、「(女性の)産む権利=産まない権利」や
教育費の高額や「経済社会的な子育て環境の不整備」などの理由に
すり替えているように思われます。
そもそも、主要因は、子(子孫)を産み育てる本能・本源的パワーそれ自体が、
鈍化衰退していることにあります。
(ヒトという)種〔しゅ〕の危機、日本人という民族の危機です。
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