※この記事は、老子の“現実的平和主義” に想う (第2回)の続きです。
老子の“現実的平和主義” に想う (第3回)
──── 『老子』・「不争」/「兵は不祥の器」/「戦いに勝つも、喪礼を以て之に処り」
/永世中立国スイス/老子とシュヴァイツァー&トルストイ/安岡正篤・「シュヴァイ
ツァーと老子」/佐藤栄作&ケネディ大統領会談/儒学(孔子)の平和主義 ────
《 (空想的)平和主義/反戦 》
わが国の“日本国憲法”において(3つの)柱として、
“永久平和主義(戦争放棄)”は唱えられています。
従って、言葉は誰しもが聞いているわけです。
が、しかし、“日本国憲法”は理想主義の憲法です。
近代民主主義の精神として平和主義が具体的に立論されたのは、
1625年 グロチウス(1583〜1645)の
『戦争と平和の法』 に始まるとされています。
そして、ホッブズ(1588〜1679)をはじめ諸賢人・哲人をへて、
1795年 カント(1724〜1804)の 『永久平和のために』に到り
組織立ったものになってまいりました。
然るに、私はそもそも、四大聖人・老子の時代から、
平和への想い願いは、“平和思想”として
しっかりと優れたものがあると言ってよいと考えています。
それにもかかわらず、いっこうに人間世界から争い・戦争はなくなりません。
否、むしろその規模・内容(武器)において、
拡大の一途を辿っています。
石ころ・コン棒から刀槍、銃火器、そして核兵器へと。
今や、地球は、生命そのものが何度も死滅し、
地球そのものが破壊されるほどの核兵器を持つに至っています。
戦争をなくし、争いのないユートピア社会を造るという課題は、
宗教も哲学思想も、夢に過ぎないことを“歴史”が明確に示しています。
人間というものは、先哲による平和への偉大な思想・理論を持ちながら、
いっかな実践を伴わぬということです。
「空想的社会主義」という語がありますけれども、
“空想的平和主義/反戦主義”とでも名付けられそうなものが
跋扈〔ばっこ〕しているのが現実です。
── 根拠のない楽観(信頼)主義・他力本願の“平和”、
かけ声ばかりの“平和”・“反戦”は、絵空事〔えそらごと〕でしかありません。
私は、それは“本〔もと〕”が誤っているからだと考えています。
《 スポーツ と 戦い 》
今夏(’12.8)、ロンドン五輪が開催されました。
連日連夜、メダル・メダル・・・、記録・記録・・・、と
マス・メディアが煽る〔あお〕り、
選手も民衆も勝つことばかりに過度にこだわり、
メダルや記録に血眼〔ちまなこ〕になっています。
オリンピック競技大会を「平和の祭典」と表現していた
マス・メディアがありました。
が、私には今のそれは、“享楽・見せ物の祭典”・
“戦いの祭典”のように思われてなりません。
そもそも、 「(オリンピックは勝ち負けではなく)参加することに意義がある」
との名言が語られたのは、104年前の“ロンドン大会”ではなかったでしょうか。
民主主義・哲人政治もオリンピック(オリンピア)競技大会も、
ルーツは古代ギリシアです。
これら古代ギリシアの偉大な文化遺産を受け継いだ世界は、
頽廃〔たいはい〕を遂げていると言わざるを得ません。
現在(2012年)ギリシアは、国家自体が経済的に破綻しようとしています。
── 私は、古代ローマ帝国末期の民衆が、
「パンと見せ物」に酔い毒されていたことを、また思い起こしてしまいました。
ヨーロッパには、“凱旋門”〔がいせんもん〕という
建築物の文化遺産が多く残されています。
それは同時に、武力による征服と征服の歴史を物語るものでもありました。
古代ローマ帝国の時代より、
“凱旋”軍はさぞ賛美され華やかに迎えられたことでしょう。
わが国の、ロンドン五輪メダリスト“凱旋パレード”も銀座で行われました
(’12.8.20)。
膨大な人々が集い迎えました。
それは一興で良いとしても、
メダルを取れなかった多くの選手は一顧だにされず、
否、恥辱、肩身の狭い有様です。
健闘を労〔ねぎら〕われることもないように見受けられます。
現代企業の“成果主義”と同じで、結果の良し悪しがすべてなのです。
私は、スポーツもスポーツマンシップも好きではありません。
当世のそれが、勝つことしか眼中になく、
“敬”〔けい/=うやまい・つつしむ〕の精神も欠如しているからです。
大人〔おとな〕の実社会では極度に勝つことのみが価値づけられ、
子どもの教育現場では徒競争で皆が手をつないでゴールしたり、
劇で出場者全員が桃太郎やシンデレラ(主役)という
奇妙キテレツなる “何でも同じ主義” が跋扈〔ばっこ〕しています。
わが国は、まったく“過陽”にして
“中庸”(=バランス)を欠いてしまっている病的精神情況にあります。
孔子の教え(儒学)も、勝つことのみを善しとはしていません。
そもそも、儒学の徳目の柱が “譲〔じょう/ゆずる〕” ということです。
例えば、『論語』の中に「礼射(弓の礼)」についての記述があります。
○ 「子曰く、射は皮を主とせず。
力の科〔しな〕を同じくせざる為なり。
古〔いにしえ〕の道なり。」 (八佾3−16)
■ 孔先生がおっしゃるには、
「礼射(弓の礼)では、皮(=的〔まと〕)を射貫〔いぬ〕くことを第一としない。
それは、個々人の能力には強弱(=ランク)があり同じではないからだ。
これは古(周が盛んであったころ、徳を尊び力を尊ばなかった時代)に行われた道なのだヨ。」
(それが、今や弱肉強食の武力中心となり、
礼射でも、力ばかりを尊んで皮(=的)を射貫くことを主とするようになってしまった。)
儒学は、平和主義の教えであり、
歴史的にも平和な時代に「国教」として採用されてまいりました。
至れるもの、2大源流思想の儒学と黄老(孔子と老子)は、
“平和”の視点からもぴったりと、その主旨を同じくしているといえましょう。
ところで、私は、日本の“武道”はその精神において、
儒学の教えに通ずるものがあると感じています。
それは、精神の修養、徳性の涵養〔かんよう〕を目的とするものであり、
相手に対する“敬”といったものです。
“敬”は、“うやまい・つつしむ”ことで、
人間を人間たらしめている根本的徳性です。
“敬”を知ることから進歩・向上があるのです。
敬し敬うことを日本語で「参〔まい〕る」といいます。
武道で用いる「参った(参りました)」はここからきています。
剣道(時代劇など)で、構えて向かい合っただけで
「参りました」という場合をよく目にしますね。
相手を敬う、相手に感服すればこそ「参った」であり、
勝ち負けをいうなら「(コン)チクショウ」・「クソッ」ということになります。
また、国際競技で日本の選手の活躍を、マス・メディアが安易に讃美して
「サムライが云々〔うんぬん〕 ── 」と報じています。
“サムライ〔侍〕”=武士(もののふ)は、
日本における伝統的・理想的人間像です。
中国の“君子〔くんし〕”、
英国の“ジェントルマン〔紳士〕”に相当するでしょう。
それは、“敬”に根ざしているものです
(*「参る」から側〔そば〕に近づき親しみたい =「侍〔はべ〕る」・「侍〔じ〕する」)。
ですから、“サムライ〔侍〕”は、当世のスポーツマンとは違うと思います。
“勝てば官軍、勝てばサムライ〔侍〕”では、
まことに浅薄ではありませんか。
さて、武道であった“柔道”は、東京オリンピックの時初めて五輪競技となりました。
スポーツの「ジュウドウ:JUDO」となりました。
その時の、名選手(金メダリスト)がオランダのアントン・ヘーシンクです。
(76歳で2010年にご逝去。)
そして、神永昭夫選手(故人)は日本の柔道が偉大であった時代の
尊敬すべき柔道家であったと思います。
偉大な柔道家お二人の戦いに関する記事があります。
── (アントン・ヘーシンクさんの)
▼「神永昭夫選手(故人)との無差別級決勝は、あの場面無しに語れない。
勝利を決めた瞬間、興奮したオランダの関係者が畳に駆け上がるのを、
厳しく手で制止した。
自身には笑顔もガッツポーズもない。
敗者への敬意と挙措に、多くの日本人はこの柔道家が「本物」だと知った
▼その強さは際立っていた。
勝てる者はいないと言われた。
白羽の矢が立ったのが神永選手である。
「誰かがやらなければならない大役」だったと、
非壮とも言える記述が公式報告書に残る
▼そしてノーサイドの高貴が、この勝負にはあった。
一方が「神永さんは敵ではなく仲間なのです」と言えば、
一方は「私のとるべき道は良き敗者たること。心からヘーシンクを祝福しました」。
素朴さの中で五輪は光っていた
▼「日本に生まれた柔道が世界に広まり、オランダで花咲かせたことを祝福し・・・・」
と当時の小欄は書いている。
「柔道からJUDO]への貢献は末永く続いた。
思えばまたとない人物に、あのとき日本は敗れたのであろう。
(朝日新聞・「天声人語」抜粋、2010.8.30)
現代。
国際的大会の舞台で、勝ってメダルの決まった日本の選手が、
両手を挙げて飛び上がって喜びを現わし、
負けた選手は床に崩れ落ちているという場面をよく目にします。
また、かつて「ヤワラチャン」と愛称され国民的英雄となった
女子柔道・金メダリストは、今、なぜか国会議員になっています。
次に、日本の国技になっている“相撲”について一言いたしておきますと。
相撲には源流思想(易学)がよく取り入れられ、
その影響が色濃く残っています。
具体的には、「陰陽」・「五行〔ごぎょう〕」・
「易の八卦〔はっか/はっけ〕」などの思想です・・・
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