【 40章 】
(去用・第40章) 注1) ≪ 「有生於無」 ―― 「道」の作用 ≫
§. 「反者道之動」〔ファヌ・チャ・タオ・チ・トウン〕
注1) 「去用」は、「作用に去〔ゆ〕く」で意味がはっきりしません。偉大な道の作用を目指すの意?かも、世俗的で強引な作用を除けの意? かもしれません。
「道」が動いて「有」となり(=反)、「有」が静まって「無」となります(=常)。「常」は「弱」であり、「弱」は「静」であり、それが万物の生みの母です。短い文言ですが「道」の全様を説き尽くしています。
※注2) この章、帛書では 41章と 42章との間に位置しています。(40章と41章を入れ替えるとよい) 従って、前の文(前の2句)は41章を受け、後の文(後の2句)は42章に吸収すると解かり良いです。
○「反者道之動、弱者道之用。※ |* 天下万物生於有、有生於無。※注2)」
■ 反〔はん〕(反〔かえ〕る者)は道の動、弱〔じゃく〕(弱き者)は道の用。 |
− − − − − − − − − − − − − − ※
天下の万物は有〔ゆう/う〕より生じ、有は無より生ず。
*“ For though all creatures under heaven are the products of Being,
Being itself is the product of Not−being. ” (A.Waley adj. p.192)
*“ The myriad creatures in the world are born from Something, and Something from Nothing.” (D.C.Lau adj. p.47)
《 大意 》
(道という)根源〔根元〕に返〔反〕ろうと(回帰)してゆくのが道の働きです。ひたすら柔弱〔じゅうじゃく/にゅうじゃく〕なのが道の作用なのです。 |
世界の万物は「有」(道の用)から生じますが、その有は「無」から生じるのです。
・「反者」 = 「返」 :
『老子』の「反」には、1)対立・反対の意 2)循環・反復・回帰の意 があります。
ここでは、2)循環・反復・回帰の意 です。――― 老子の“回帰・復帰の思想”です。
cf.楚簡は「返也者」
“ In Tao the only motion is returning.” (A.Waley adj. p.192)
・「有生於無」:
「無」が象〔しょう・すがた・かたち〕を現して「有」となり、「有」が象を消して「無」となり、森羅万象の変化はこの交代が繰り返され循環します。仏教でいう「因果承続の理」でしょう。
cf.「 ――― 有とは限定であり固定であって、無こそ永遠であり全体である。有限の形の世界からは無という他〔ほか〕はない。無から有を生ずと申しますが、本当に有というものは無から出て来るのであります。無は、言い換えれば全、完〔まった〕しであります。西洋ではこれを Complete wholes といっております。これはうまい訳の仕方であります。そこから有限・現実の世界に現われて来ると、それはもう限定・固定されてしまう。決して無でもなく常道でもないのであります。」
(*安岡・前掲書A p.98引用)
★ POINT! (by.たかね)
《 ―― 天地万物の生成論 ―― 》
【老子】:
※「無」=「道」 → 有
※「無」は“Nothing” ということではありません
→ 「一」=気 → 「ニ」=陰・陽(地・天) → 「三」=陰・陽・沖 (三才)→→ 万物
【易学】:(儒学)
* | 有
| 「太極」ありき → 「2」(両儀) → 「4」(四象) → 「8」(八卦)・・・「64」
→ 「2」=陰・陽(地・天) → 「3」=陰・陽・中 →→ 万物
※「易に太極あり。これ両義を生ず。両義は四象を生じ四象は八卦を生ず」(繋辞上伝)
【科学】:(宇宙物理学)
? →?→ ビッグバン! →(暗黒時代)⇒ ☆ファーストスター →→→ 万物
※137億年前 ← 《 拡大・膨張 》
cf.(生物学) 易・太極=卵細胞 → ips 細胞(‘12 山中教授)
cf.【宗教】:(仏教)
無 = 「空〔くう〕」 → 有 = 「色」〔森羅万象/=万物: Everything〕
※「 色即是空(しきそくぜくう)。空即是色(くうそくぜしき)。」: 空と色は“環状”で循環(時間・季節のめぐり)
【宗教】:(キリスト教・ユダヤ教・神道)
* | 神 ありき → 「2」=男・女 → 「3」=父・母・子 ・・・ →→ 万物
(雄・雌) ex.アダム&イヴ/イザナギ&イザナミ ・・・
cf.≪宇宙の誕生≫ 「暗黒空間(時代)」/水素・ヘリウム・暗黒物質/「ファーストスター」 (太陽の100万倍・青白〜白)/宇宙の膨張は加速度的・「暗黒エネルギー」の存在
(‘11.10.5 ノーベル物理学賞: 米 ソール・パールマター博士、豪 ブライアン・シュミット博士、米 アダム・リースら3氏による“宇宙の膨張加速の発見”)
→ ※宇宙の始まりに急激な膨張(インフレーション)があったとする理論を支持することにもなりました。/膨らむ宇宙の結末は、(1千億年後)空間も引き裂かれてバラバラになるのでしょうか?
参考資料
○「無極にして大極」 (近思録) ・・・ 朱子は 【大極 = 有】 と考えています
○「是の故に易に太極あり。是れ両儀を生ず。両儀四象を生じ、四象八卦を生ず。八卦吉凶を定め、吉凶大業(たいぎょう)を生ず。」 (繋辞上傳)
○「太初(たいしょ)に言(ことば)あり、言は神と共にあり」 (旧約聖書)
○「天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時、高天原(たかまのはら)に成れる神の名は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、次に高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、次に、神産巣日神(かむむすひのかみ)。」 (古事記・冒頭)
○「道は一を生じ、一は二を生ず。」(老子) ・・・ 道を「一」が生ずる前の「無」と考えています
コギト(我想う)
≪ タマゴが先か?ニワトリが先か? ≫ ―― 生命の 根源
「ゼロ/零」 = 「無・道(空)」 → 「タマゴ」(有)が生じる前の状態、“原始のスープ”(“宇宙のチリ”・“水素/ヘリウム/暗黒物質”)
「一」 = 「1元気」 → 「タマゴ」(卵〔らん〕/胚)・単細胞 (“ファーストスター”)
「ニ」 = 「陰・陽(地・天) の2元気」 → 成体・多細胞/雌雄
「三」 = 陰陽の気を和合させるある種の触媒 → 自己増殖・繁殖
・・・万物(生物)生成のメカニズム
◆ タマゴが先か? ニワトリが先か?
論理的思考(文章)のトレーニングに良いテーマです。―― ニワトリ(=成体)がいきなり出来るという考えでは、“神が創りたもう”ということで宗教・神話になってしまいます。「タマゴ」(ラン・単細胞/=有) がまず誕生したと考えるのが論理的です。その誕生の前提に原素材のある空間としての「無」が必要です。「無」は、全く何も無いという意味の「無」ではなく、「有」の前提としての「無」です。
最新の宇宙物理学で、宇宙の誕生は、次のように解明されています。(ビッグバン“The Big Bang”の後)星々が宇宙のチリから誕生する前の空間を暗黒空間(≒ 老子の 「玄」 )と呼びます。水素・ヘリウム・暗黒物質があったと考えられています。その 「恍惚」 たる 「無」 の空間から、太陽の100万倍の明るさの(青白〜白) 「一」 つのファーストスターが誕生するのです。
現代の生物学や地学でも、地球の生命誕生は、原始の一定の条件のもとで最初のタンパク質(アミノ酸)が生まれたと考えられています。
そして、生命誕生の今一つのポイントは、自己増殖作用です。子孫を残すことが出来なければ生命の誕生とはなりません。 「二」 は、その陰陽・雌雄と考えられます。単細胞から多細胞に殖え、さらに子孫(=DNA)を連続させます。連綿として続く命の連鎖・循環、永遠なるものです。その意味で、“赤ちゃんの年は20万歳”・“人間(生き物)はDNAの乗物”とも表現されています。
要するに、元〔はじめ〕に「タマゴ」が生じ「ニワトリ」になり、(雌雄にわかれ/2羽の鳥?)子孫としてのタマゴを産んだのです。なお付言すれば、今の成体(ニワトリ)は、元〔はじめ〕に「造化」されてより 「進化」という過程を経て在り、その進化のプロセスの途上の一時点として今存在しているわけです。
( ※ 文中の * の語は、「老子」の専用語です)
cf. → ips 細胞(‘12 山中教授)
■2011年12月25日 真儒協会 定例講習 老子[17] より
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