■ 易経 ――― 《 象による 64 卦解説 》 ( 其の2 )
上経
(続き)
《 15 & 16 のペア 》
15. 謙 【地山けん】 は、へりくだる。
● 謙虚・謙遜、“稔るほど 頭〔こうべ〕をたれる 稲穂かな”・“たれるほど 人の見上げる 藤の花”、頭・腰を低く(商人)、男性裸身
・ 「君子は終りあり。」(卦辞) ・・・君子は、3爻の1陽をさす。謙徳を履み行なうならば、終りを全うすることができる。
“艮は東北の卦なり、万物の終りをなすところにして始めを成すところなり”(説卦伝)の終りの意。
cf. 「始めあらざるなく、克〔よ〕く終有るは鮮〔すく〕なし。」(『詩経』)・「物に本末〔ほんまつ〕あり。事に終始あり。」(『大学』)・・・君子は終りを慎む
・ “物を称〔はか〕って平らかに施す意”(白蛾) ・・・高い山が下にあり 低い地が上にあるのは、高きを減らして低きに施す象、平準化作用。これは、謙譲の美徳あればこそ。
※ 64卦中、すべて良いことばを連ねているのは謙卦のみ
■ 下卦 艮山、上卦 坤地。
1) 地中に山、艮の山の高きものが坤の地の低きものの下にある象。
2) 1陽(3爻の君子)が、5陰の賢臣を心服させている象。
3) 上卦の中爻、5爻が謙卦の天子。陰爻をもって陽位にあるのは、
本来剛健であるべき天子の位にあって、柔和で謙譲の徳、中庸の徳を持つ
天子であることを意味している。
4) 男性裸身の象。(1陽5陰卦、腰部にあたる3爻が陽)
cf.「天沢履」・・・女性裸身の象
○ 大象伝 ;「地中に山あるは謙、君子以て多をヘラ〔へら〕し、寡〔すくな〕きを益し、物を称〔はか〕り、施しを平かにす。」
(坤地の下に艮山があるのが謙の象です。君子はこの象を観て、多くあるものを減らして、少ないものを増〔益〕していくように図るのです。そうして、そのホドホド〔中庸〕をはかり考えて、施し与えることが偏らないように公平にすることを心がけるのです。)
※ 「君子中庸、君子而時中〔ときじくあたる〕」 (『中庸』・第2章)
16. 豫 【雷地よ】 は、あらかじめ。
“時”・時義5卦、 〔豫・随・遯・コウ・旅〕
● 豫の3義 ・・・ (1)あらかじめ (2)遊び楽しむ (3)怠る
・ “冬来りなば春遠からじ”(シェリー) は、まだ冬
・・→ 豫は「春」到来、もう春。 / 「地雷復」は春が来た、今は春。
音楽・歌舞・楽器・先祖の祭祀に吉
■ 下卦 坤地、上卦 震雷。
1)地上に雷が鳴っている象。“春雷”、地の上に振るい動かす形。春。
2)震を、春の芽・若木・蕾〔つぼみ〕とし、地上に新芽が萌え出ている象。春。
※ 「地雷復」の雷と地が交替した。「復」は地中に震の芽があり、
それが地上に出たものが「豫」。
3)5陰が、1陽(4爻)に随う象。1陽は、震の主爻で前進する君子。
「復」で最下位(初爻)にあったものが、地上に躍り出て衆陰を統率している。
時期到来して震が力を振るう形。
○ 大象伝 ;「雷の地を出でて奮うは豫なり。先王以て楽〔がく〕を作り徳を崇〔たっと〕び、殷〔さか〕んにこれを上帝に薦〔すす〕めて以て祖考を配す。」
(雷が時を得て、地上に躍り出て奮い立って活動を開始しました。そうして、万物が生き生きと悦び楽しむのが豫の象です。
この象にのっとって、古のよき王は、〔雷鳴にならって〕音楽を作り、先代の王の徳を崇め讃えて、盛んに奏して天帝を祭り、先祖や亡き父の御霊〔みたま〕を併せて祭られたのです。〔そして君子たるものは、これにならい、万民をも悦び楽しませることに心がけなければならないのです。〕)
・殷=盛んの意 ・祖考=祖先と亡父 ・配=合、併の意
《 17 & 18 のペア 》
17. 随 【沢雷ずい】 は、つきしたがう。
帰魂8卦
● “時にしたがい、事にしたがい、人にしたがう”、自然の法則(きまり)に随う、
動くことが時のよろしきに適〔かな〕うこと、中道(正道)を得ること、“臨機応変”、
“随身”
■ 下卦 震雷、上卦 兌沢。
1) 悦びに動いて随うの意、悦んで随うの意。
2) 陰の小(兌)に、陽の大・強なるもの(震)が随う象。
また、兌は1陰に2陽が随う象、震は2陰に1陽が随う象で、
いずれも小に大が随う象。
3) 成年男性が乙女に随喜する象。少女の笑顔(兌)に魅せられて震男が追う象。
4) “馬に乗って鹿を追うの象”(白蛾)・・・内卦震は 元気な駿馬、外卦兌は鹿
○ 大象伝 ;「沢中に雷あるは随なり。君子もって ※晦〔ひのくれ/くら・き〕に嚮〔むか〕えば入りて宴息す。」
(上卦兌沢の中に、下卦震雷があるのが随卦です。兌沢は秋、震雷は春に動き現われますが、秋になって潜〔ひそ〕み休息しているのが随の象です。 つまり、動くことが時のよろしきに適っているのです。
君子は、この象にのっとって、〔昼間は大いに活動・精励するとしても、働くばかりではなく〕 日の暮れに向かえば〔晦くなれば〕、家に帰って英気を養うためにこころ穏やかに休息するのです。」
・ 晦=日の暮れ。下卦震が動いて上卦兌の西に向かう象意から
・ 宴息=宴は安らか、息は休息。兌の悦びは安らか、2・3・4爻の艮は止まる・休息の象意から
※ 朱子の雅号は「晦庵〔かいあん〕」
18. 蠱 【山風こ】 は、事(事故)。
帰魂8卦、 準4難卦
● 皿の上に虫が3匹(木皿の中の虫)、酸欠・カビ状態、無風状態、“身から出た錆”、房事過多・精気虚損、
※「蠱惑〔こわく〕」:まどわす・たぶらかす、「――な眼」。「蠱女」:人を惑わす婦人
・ “幹事(事を幹〔おさ〕める者)”が大事 (爻辞より「幹」)
・ 「甲に先立つこと三日、甲に後〔おく〕るること三日」(卦辞)
・・・十干にて「辛と乙」、 辛=新・革新 丁=丁寧の意
・ “喜びを以て人に随う者は、必ず事あり。・・・蠱とは事なり。”(序卦伝)
■ 下卦 巽風、上卦 艮山。
1)山の下の風。動くべき巽風が艮止〔ストップ〕されて、ふさがっている象。
(風がストップするとモノは腐る)
2)巽の臭気あるモノが、艮の箱の中に止められている形。腐敗。
3)大女(巽:中年)が、若い青年を追っている象。
年少の男性の心の内(下卦)に年上の女性が伏入(巽)し、
艮男が惑って(巽)いる象。 ※ 蠱惑の象
4)乱れが極限にまで達して、新しいものがおこる意。
○ 大象伝 ;「山下に風あるは蠱なり。君子以て民を振〔すく〕い徳を育〔やしな〕う。」
(艮山の下に巽風があり、風は山に阻まれて流れない象。また、事ある時でもあることを示す象です。君子は、この事ある時の象にのっとって、清新の気をもって万民の心を振るい起こし〔巽徳〕、心気一転させ、自分自身の徳を養い育てる〔艮徳〕ように努めるのです。)
※ 「君子以振民育徳」 → “風〔ふう〕をおこすは吏と師”(by.高根)
《 19 & 20 のペア 》
19. 臨 【地沢りん】 は、すすむ・せまる。
大卦(大震)、 12消長卦 (1月)※旧12月
● 春たけなわ。のぞみ見る(上から下を臨む、下が悦んで仰ぐ)
cf. 「観」は仰ぎ見る、隣席・臨機・光臨
cf. 「賁臨〔ひりん〕」、“臨機応変”、スタート、転換・変化、黎明〔れいめい〕
※ 次に「泰」になる、 学問芸術吉
・ 「咸臨丸」 ・・・ 1860.勝海舟「咸臨丸」にて太平洋をわたる
cf.(1868.3.14 勝 − 西郷会談にて江戸開城)
・ 「大亨以正。天之道也。 〔大いに亨りて以て正しきは、天の道なり。〕」(彖伝)
※ 「大正」の出典 / 他に「大畜」彖伝、「无妄」彖伝
■ 下卦 兌沢、上卦 坤地。
1) (蠱の難事を排除して)難事去った内なる悦び(兌)、外には順う(坤)象。
・・・・「復」の1陽が長じて2陽になったもの、君子(陽)の道が長ずる義。
2) 地と沢と互いに臨み見ている象。水辺より陸を臨む、あるいは陸の水に臨む象。
(地上の水は沢に流れ入り、沢の水は蒸発して雲となり雨となって地を潤す。
地は万物を育み、水はまた沢に流れ入り循環する。)
3) “少女母に従うの意”(白蛾) ・・・少女(兌)と母(坤)相互に臨み見る象。
外卦の坤母に内卦の兌女が従っていく意。
4) 2爻の陽の主爻は、5爻の陰と相応じ合っている。
天子と賢臣が相互に臨み合っている象。
○ 大象伝 ;「沢上に地あるは臨也。君子以て教思すること窮まりなく、民を容れ保んずること疆〔かぎ〕りなし。」
(地の上から下の沢を見下ろす。臨み見るのが臨卦です。この象を観て、君子たるものは、〔水の浸み潤すごとく〕人民を教え導くことについてよくよく深く考えて、窮まることなく思いを致します。そうして、人民を包容して安泰に保護していくように限りなく努力するのです。)
・ 教思无窮 = 教は兌の象、2・3・4爻の震の象。窮まりなしは兌水と坤の意。
・ 容保民窮 = 坤が民、容も包容で坤、「保」んずは「安」んずで坤の象、
疆りなしも坤地が万物を載せること限りなしの象意。
※ 松平容保〔かたもり〕・・・会津藩主・京都守護職(新撰組のスポンサー)
20. 観 【風地かん】 は、あおぎみる。
精神性3卦〔観・无妄・遯〕、 大卦(大艮) 12消長卦 (9月)※旧8月
(「臨」彖:8月に至れば凶あらん ・・・)
● 精神性重視、心眼で深く観る、“観光”、教育・教化・指導・(感化)、大衰の卦、
観世音(観音・観自在)菩薩・・・精神の高められた心でみる
・ 「観」の意 (1)みる → よくみる・こまかにみる
(2)大観(俯瞰) → 大所高所からみわたす ex. 横山大観
(3)仰観 → 下より仰ぎみる
・ 「孚〔まこと〕ありてギョウ若〔ぎょうじゃく〕たり。」(卦辞)・・厳粛な気持ちで事に臨む
ギョウ若=厳粛な形、様子、恭敬のさま
cf. 大阪 四条畷〔しじょうなわて〕神社 ―― 石段の両側に「有孚」・「ギョウ若」
・ 4爻辞 「国の光を観る」 ・・・国の文化を観、将来を観る、“兆し”を読む。
“観光”の語源 cf.観象=易の占の結果を観る
・ “臨観の義はあるいは与え、あるいは求む”(雑卦伝)
・・・見下ろすと見上げる → 相方で与え合ったり求め合ったり
(主君・リーダーと平民・一般とで)
☆たかね研究 : “見えざるものを見、聞こえざるものを聞く”
・ 「観」は 目が3つ・・・両の目と“心眼” ex.塙〔はなわ〕保己一、ヘレンケラー
cf.手塚治虫・「三ツ目がとおる」
耳も3つ・・・両の耳と“心耳” ex.ベートーベン“第九”の作曲、
千手舞踊団メンバー
・ 「幾」= “兆し”・“機微” ・・・物事が変化する前に先んじて現われる、
わずかな兆し・兆候(機微)。心眼・直感で“観る”
・ 「立筮」 / シックスセンス〔第6感(観)〕 / インスピレーション〔霊感〕
■ 下卦 坤地、上卦 巽風。
1) 風と地、心がすなおでへりくだる象。
2) 上卦巽風は号令、下卦坤の民が仰ぎみる象。
3) 坤地を巽風が行く、万物は風に接する。
風が遍〔あまね〕く地上を吹き渡るよう四方を観察するの義。
4) 上に2陽あり、下の4陰を観下ろし、4陰は上の2陽を仰ぎ見る。
5) 全体的には、大艮の象。艮は門・宗廟、民はみなこれを仰ぎ見る。
6) 12消長卦にて、上に2陽を残すのみ。「大壮」の裏卦で大衰の象。
5爻の君子ピンチ!(「臨」彖辞 「八月に至れば凶あらん ・・・」)
○ 大象伝 ;「風の地上を行く観なり。先王以て方を省〔かえり〕み、民を観て教えを設く。」
(巽の風が地上を行くのが観卦です。風は万物を育成し、万物は風の吹くままになびき順って動いているのです。
古のよき王は、この風の恵みが万物に及ぶ象にのっとって、東西南北を、遍く巡幸(観察)なさり、人民の生活風俗の情況を観察され、徳育を教化(感化教育)し、それぞれに適した善政を布〔し〕いたのです。)
※ 今の日本、永田町の議員ご歴々も心してほしいものです。(by.高根)
《 21 & 22 のペア 》
21. 噬コウ 【火雷ぜいこう】 は、噛〔か〕み合わせる。
● 口の中の障害物・二途がある ・・・(1)かみくだく・のみこむ (2)吐き出す
好事〔こうず〕魔多し、障害・妨害・詐欺注意、言葉にも注意
4爻: 骨付き肉をかんだら金の矢じりが出てきた、労して功あり。
■ 上卦 離火、下卦 震雷。 離火は光で雷と光、稲妻
1) “頤中物有るの象”(白蛾)・・・頤〔い/おとがい〕は「山雷頤」【山/雷】のこと、
その口を開いた口中の象。口中に4爻の1陽があるのがこの象。
問題は頤〔おとがい〕の中の物、1陽は強く堅いもの。
2) 国家社会では、4爻は奸臣・悪人。
この悪人のため君臣は相和すことが出来ない象。
→ 裁判によって断乎、処罪排除せよ。
3) 囚獄の象。 頤は口の象であると同時に、大離の象で、囲まれた場所の意。
4爻の1陽は、3・4・5爻 坎の主爻で罪人。
また上卦離は明らかにするで裁判下卦の雷は懲らすで処罰の意。
○ 大象伝 ;「雷電あるは噬コウなり。先王以て罰を明らかにし法を勅〔ととの〕う。」
(下卦が震雷であり、上卦が離電であるのが噬コウです。古のよき王は、“威光”すなわち、電光の明るさと雷の強力なパワー・威厳にのっとって、刑罰を明らかにし、処罰すべきものには断乎たる処置を下せるように、法令を厳正に整え正したのです。)
※ 「礼」の実現・法治主義 ?
22. 賁 【山火ひ】 は、かざる・あや。
高根流 日の4(5)卦、 〔升・晋・賁・明夷・(大有)〕、
高根流 高齢社会の卦
● “文化の原則”は、知識・教養で身をかざること、本当のかざりは躾〔しつけ〕、
晩年・夕日・有終の美、衰退の美・“モミジの紅葉”・・・もみじ狩り(=愛でる)、
“賁臨”、やぶれる・失敗する
cf. 「火」と「石のカケラ」から文化・文明はスタートした。(by. 高根)
・ 「天文を観て以て時変を察し、人文を観て以て天下を化成す。」(彖伝)
※ 文明(離)の宜〔よろ〕しきに止まる(艮)のが人文。
人文を観察して天下の人々を教化育成すべき。
・上爻辞: 「白く賁る。」“白賁”・・・美の極致、あや・かざりの究極は「白」・“素”
(1)すべての光を反射する
(2)なにもない(染まっていない・白紙・素)
※ インテリアC、カラーC、福祉住環境C・・・の卦/高齢社会の卦 (by.高根)
■ 上卦 艮山の下に下卦離。
1)離の美を止めている象。
→ ※ 文明(離)の宜〔よろ〕しきに止まる(艮)のが人文。・・・・
2)山下に火ある象。山に沈む太陽(夕陽・夕映え・晩年にきらめき)。
3)下卦離は、1陰を2陽でおおい隠し、上卦艮は2陰を1陽がおおっている象。
共に表面を飾っている。
4)“門内美を競うの象”(白蛾)・・・外卦艮を門とし、内卦離を美・競うの意。
離火は、上り艮はストップで争い競うの意。
5)“明 遠きに及ばずの意”(白蛾)・・・艮山の下に離の太陽、斜陽の象。
○ 大象伝 ;「山下に火あるは賁なり。君子以て庶政を明らかにし、あえて獄を折〔さだ〕むることなし。」
(上卦艮山の下に離火がある象が賁です。君子は、〔離火の徳にのっとって〕もろもろの政〔まつ〕り事を美しく明らかなものとし、また〔艮山の徳にのっとって〕、あえて軽々しく裁判をし断を下し処罰するようなことはしないのです。)
cf.安政の大獄(1858−59):井伊直弼/吉田松陰・橋本佐内ら死刑
蛮社〔ばんしゃ〕の獄(1839):洋学者弾圧事件/
渡辺崋山・高野長英ら処罰(自刃)
☆たかね研究 :
・ 「美しい国 日本」(安倍晋三 政権)・・人の徳と「離」の文化
・ 孔子と易筮 : 「孔子嘗て自ら筮す。其の卦賁を得。
愀然〔しゅうぜん〕として不平の状有り。・・・」(『孔子家語』)
・ 《夕日の象》 ―― 「夕焼けこやけで日が暮れて・・・」 (中村雨紅)
・ 《高齢者考》 ―― 「唄をわすれた金絲鳥〔かなりや〕は/
後の山に棄てましょか/
いえいえそれはなりませぬ ・・・」 (西条八十)
続きは、次の記事(vol.3)をご覧下さい。