吹田市立博物館・講演 『 むかしの中国から学ぶ /【全6講】 』

◆講師 : 真儒協会会長 高根 秀人年 (たかね ひでと) 

《 はじめに 》

“縁尋の機妙”をもちまして、さる(‘11)6月、吹田市立博物館にて
むかしの中国から学ぶ』と題して、(土日)連続6回の講演を行いました。

これは、同博物館の「万博市民展 〜 千里から上海へ〜 」
(‘11.4.29〜7.3) のイベントの一つとして企画され,
私が講師として招聘〔しょうへい〕されたものです。


吹田市立博物館


地元近所でもあり、啓蒙活動の一つと思って快くお引き受けいたしました。

6回の講演内容は、中国(東洋)源流思想の本格的・多彩なもので構成いたしました。 ───

第1講 「 孔子 と 論語 」  
第2講 「 易占 と 易学 」 
第3講 「 陰陽相対 」 
第4講 「 五行(中国医学) 」  
第5講 「 英語でABC論語カルタ」  
第6講 「 世界の占い・実践 」
 


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私にとりまして、6回の土日・集中連続講座は、
久々に“力”の振るいがいがありました。

永年培〔つちか〕った知的財産をもとに、教材・資料を編集いたしました。

はりきって、初心者から専門家まで対応できる、
中身の濃い斬新〔ざんしん〕なものに仕上げました。

ところで、吹田市立博物館は、交通の便悪く、
今回の特別展・イベントの知名度も今一つで、
全般的には低調な催し・講座が多かったようです。

が、私の 『むかしの中国から学ぶ』の講座は、例外的な盛況ぶりでした。

通例になく、毎回60〜80名程の方々が集い、熱心に聴講されました。



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受講者は、さまざまな“層”からなっており、
とりわけ人生経験豊富な教養人が多かったようです。

講演会場の博物館大講座室は、広く明るく設備が充実していました。

テープ録音・ビデオ録画・写真撮影なども、
博物館スタッフや市民ボランティアの皆さまのご尽力のもと
至れり尽くせりでした。


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私のほうでも、嬉納〔きな〕・汐満 両先生による講演のお手伝いや、
真儒定例講習受講生の聴講・協力が得られました。

あらためて、皆々さまに感謝御礼申し上げます。

振り返って観ますれば、この博物館・土日集中連続講座は、
私個人にとっても真儒協会にとりましても、
今年一番の善き啓蒙活動になりました。

これら一連の講座教材・レジュメをまとめ、
順を追って広くブログでご紹介してまいりたいと思います。



第1講「孔子と論語」



■講師 : 真儒協会会長/たかね易学研究所学長 高根 秀人年 (たかね ひでと)

《プロフィール》 
 S.29年生。 慶應義塾大学法学部卒 / 経済学修士・法学士・商学士 /
【資格】 文科省1級カラーC.(第1回認定)・ インテリアC.・ 
      教員免許状(社・国・商・書・美)ほか / 
【著書】 『易学事始』・『易経64卦解説奥義』ほか / 
【講演】 みずほ会〔旧第一勧銀ハート会〕(江坂東急イン)・
      第三銀行女子チアリーダーセミナー(三重研修センター)・
      日本易学協会大講演会(東京湯島聖堂)ほか多数



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●吹田市立博物館・講演 『 むかしの中国に学ぶ /【全6講】 』


【第1講】 §.孔子と「論語」  
 
      (‘11.6.4 )

《 開講にあたってのごあいさつ 》

「中国〔チュンクオ〕」(中す国) → わが国と“一衣帯水”/
GDP.世界第2位(2010)/人口約13億(わが国の10倍以上)/ 
5年ほど前に儒学を復活「国教」化/ 
2008.8.8.8 北京奥林匹克〔ペキンオリンピック〕開催・開会式で
『論語』の冒頭をアピール/ 

◎今・・・ 中国の子ども達は熱心に 『 論語 』 を学んでいます。
モノ(経済)のみならず “精神” も充実しつつあります。

一方、わが国の子ども達は、今春から小学校5・6年で英語が必修となりました。
わが国の古き善き “ 精神 〔こころ〕 ” は失われたままです。

美しい日本の “徳” も “ことば” も荒〔すさ〕んでいくばかりです。

「温故而知新」、“オリエンタル・リナシメント”〔東洋精神の再生・復活〕の時です。

そのために、さあ学びましょう!


§.はじめに 

*三聖人の時代 : 
  孔子(中国) / 釈迦(インド) / ソクラテス(ギリシア)  cf.イエス=キリスト/マホメット

*東洋人物類型 : 
  聖人 ── 君子 ── 大人〔たいじん〕 ── 小人 ── 愚人

*四書五経〔ししょごきょう〕:
   『易経』 ・ 『書経(尚書)』 ・ 『詩経』 ・ 『礼記〔らいき〕』 ・ 『春秋〔しゅんじゅう〕』/
  『論語』 ・ 『孟子〔もうじ〕』 ・ 『大学』 ・ 『中庸〔ちゅうよう〕』 ── 
  (朱熹/朱子が 『四書集注〔しっちゅう〕』 を著して四書の経典としての地位は不動)  

  cf.『孝経』=曾子


◆ プロローグ : 序 ── 「諸子百家」 の中の 儒家と道家 (老荘)

 皮肉なこと逆説的なことですが、洋の東西を問わず、
科学技術も学術文化(思想)も戦争によって、
急速かつ飛躍的に創造発展いたします

兵器の開発、富国強兵のためにです。

古代中国において、なんと 500年 以上にわたり戦乱の時代が続きます。
(BC.770 春秋時代 〜 BC.403 戦国時代 〜 BC.221 秦による全国統一)

この間、“百家繚乱〔りょうらん〕”・“百家争鳴”などという言葉があるように、
多くの学術文化が華やかに花開きました。── 諸子百家」と総称いたします。

 さて、世界の“3 〔4〕 大聖人”の一人、孔子(BC.551〔552〕〜BC.479)が
中国に生まれたのはそんな戦乱の時代、春秋時代の終わりごろです。

インドでは、シャカ族の王子、ゴータマ・シッダールタ
〔Gautama Siddhartha  BC.463〜BC.383?/BC.563〜BC.483?〕が、
苦行・修養の後、大悟しブッダ (仏陀 Buddha: 覚者)となり
仏教の教えを説き始めた頃です。

仏教は、やがて中国に伝わり花開き、
朝鮮・日本・・・とアジア全域に決定的な影響を与えていくことになります。

西洋は、と目を向けてみますと。
ローマ帝国による、地中海世界統一よりはるか昔のころ。

古代ギリシアのポリス〔都市国家〕がおこり、
アテネを中心に古代民主制が華やかに盛期を迎え(BC.5世紀頃)ていました。

ここに、古代ギリシア哲学(= ヨーロッパ学術)の祖 
ソクラテス〔Sokrates  BC.469頃〜BC.399〕が歴史の舞台に登場します。

「ソクラテスより賢い者はいない」との信託をうけ、
自らは己の無知を自覚し(無知の知)哲学の出発点としました。

「善〔よ〕く生きること」を追求します。

“問答法〔ディアレクティケー〕”により語り、誤解され民衆裁判で死刑になります。

が、その思想哲学は弟子のプラトン〔Platon〕 → アリストテレス〔Aristoteles〕 へと受け継がれ、
ギリシア哲学として発展大成し、西洋思想の礎となっていきます。

なお、ちなみに、「日の出づる処の国」わが国は、
まだ“倭〔わ〕”の国とも呼ばれず、邪馬台国よりはるか大昔、縄文の原始時代です。

以上 3人の聖人が、あたかも何らかの意思が働いたかのように、
時をほぼ同じくして世界史上に登場します。

そして、500年ほど遅れて、紀元の頃、
イエス・キリスト〔Jesus Christ  BC.4頃〜AD.30頃 〕 が誕生し、
(ユダヤ教に対して)世界宗教キリスト教の開祖となります。── 4大聖人です。


では、中国・「諸子百家」に再び目を戻しましょう。

群雄割拠も7大国に淘汰されます(戦国の七雄)。
「秦」 は、法家思想を取り入れ富国強兵策を推し進め、
強力な軍事国家を創り上げます。

そして、政(後の始皇帝)が中国統一の偉業を達成します。

しかし、信じ難いことですが、この法家思想にもとづく秦は、
わずか15年ほどで崩壊します。

法家思想の源は儒家思想といえますが、
孔子は、平たく今時〔いま〕の言葉でいえば、
(あくまで当時は)“負け組”だったのです。

後の漢代(武帝)に、国教(国の教え)となります。

儒学は、本質的に、平和・安泰の時代の思想だと思います。

そして、ここに聖人孔子と並称しても良いような哲人がいます
(もし、実在するならですが)。

老子です。

老子は人物を特定することも、実際いたのかどうかも分かりません。
が、少なくとも、『老子』 という本を著わし道家思想を唱えた人(人々?)がいたことは事実です。

老子を祖とする道家思想(老荘思想)は、
以後、儒学と並ぶ中国(東洋) 2大潮流を形成していくこととなります。

「諸子百家」の思想・教えが、その時代背景からして
実践的・実学的であったのに対して、
道家思想(老荘思想)は、宇宙論(形而上学)を持つ唯一優れた特異なもの、
哲学的に最も優れた思想であった、と私は感じています。

私は、「諸子百家」の幾数多〔いくあまた〕の哲人・学派の中で、
その後世・歴史への影響力という点で、
“ 孔子・儒家 ” と “ 老子・道家 ” が双璧といっても良いと思うのです。



【 諸子百家(百家争鳴)】

戦争の時代に科学・学術文化は、大きく発展します。
古代中国、春秋戦国時代(BC.770〜BC.221)に、
政治・経済・社会・文化あらゆる分野から
思想家・学派が「百花繚乱 〔りょうらん〕」のごとくに現れました。

これを諸子百家」〔しょしひゃっか:子は先生、家は学派の意〕と総称します。

華やかに競い合うさまを「百家争鳴」ともいいます。
戦乱の世にあって“ 離 〔り〕 = 文飾 ” の時代のエポック〔画期〕となりました。

諸子百家は、『漢書〔かんじょ〕』・芸文志〔げいもんし〕によれば、
儒家・道家・墨家・兵家・陰陽家・縦横家・名家・農家・雑家・小説家の
十家に分類されています。

小説家を除いて 九流とし、それに法家を加えて 十流としています。

この中で、後世、現代に到るまで多大な影響を与え続け、
東洋源流思想の2大潮流を形成するのが、儒家 と 道家 です。


◎【儒家】: 

 周王朝初期の社会を理想、当時は用いられないが
 後(漢代〜)中国の国教・正統的思想となります

 *孔子・『論語』・、── 曽子・『孝経』、── 子思・『中庸』 

 *孟子・『孟子〔もうじ〕』・仁義・性善説、 *荀子・『荀子』・性悪説 

 ( 後世の展開 ・・・→ 朱子≪朱子学≫、 王 陽明≪陽明学≫ )


◎【道家】: 

 “ 老荘思想 ” ・ “ 黄老の学 ” として広まった。
 儒家と対峙〔たいじ〕、対極にあるともされています。
 宇宙の原理である「道」、「無為自然

 *老子・『老子』(『老子道徳経』); 
   「有」と「無」と「道」/「無為にしてなさざるなし」/
   「小国寡民」/「柔弱謙下〔じゅうじゃくけんか〕」/道(上篇)と徳(下篇)

 *荘子・『荘子〔そうじ〕』; 
   「無用の用」/「逍遥遊〔しょうようゆう〕」/ 
   「包丁〔ほうてい〕」/「朝三暮四」/「渾沌〔こんとん〕の死」/
   「蝴蝶〔こちょう〕の夢」/「井の中の蛙〔かわず〕」/
   「邯鄲の歩 (ものまね)」/「泥の中の亀」/
   「蝸牛〔かぎゅう〕角上の争い」/「万物斉同」

 *列子・『列子』; 
   「杞憂〔きゆう〕」/「愚公、山を移す」/「知音〔ちいん〕」(友人知己)


◎【墨家】: 

 兼愛 ・ 博愛 (無差別愛) と 倹約 を説く、
 「非攻」(自衛のための戦闘的集団の結成)、「墨守」、 
 戦国期に儒家と双璧をなしましたが秦の統一とともに消えていきます

 *墨子を開祖とする、*告子


◎【法家】: 

 礼や道徳ではなく、君主の法や刑罰によって国を統治しようとする
 君主権の絶対と官僚制度の確立を説く、「信賞必罰」
 (古くは管仲〔かんちゅう〕に始まり晏嬰〔あんえい〕・)
 商鞅〔しょうおう〕・李斯〔りし〕 ・・・→ 秦に登用され秦による天下統一に寄与

 *韓非・『韓非子』; 
   「濫吹〔らんすい〕」(実力がないのにその位にいることのたとえ)/
   「宋襄〔そうじょう〕の仁」(行きすぎた親切心)/
   「矛〔ほこ〕と盾〔たて〕」(矛盾:つじつまが合わないこと) /
   「守株〔しゅしゅ・くいぜを守る〕」(待ちぼうけ)


◎【兵家】: 

 兵法(用兵・戦略)を研究、孫子〔孫武/そんぶ〕、呉子〔呉起/ごき〕

 *孫武の『孫子』 ・・・ 
   「彼を知り、己を知れば百戦殆〔あやう〕からず」、
   「百戦百勝は善の善なるものにあらず」  →  戦わずして勝つ、 
   「常山の蛇」、 “風林火山”  → 「その疾〔はや/と〕きことの如く、
   その徐〔しず〕かなることの如く、侵掠〔しんりゃく〕することの如く、
   動かざることの如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆〔らいてい〕の如し。」
   (cf.武田信玄の旗印)


◎【陰陽家】:

 陰陽五行説(「陰陽」は光と影)・木火土金〔ごん〕水、

 *鄒衍〔すうえん〕   cf.西洋「四元素説」


◎【縦横家】: 

 外交術、 *蘇秦の「合従〔がっしょう/縦〕」策 と *張儀の「連衡〔れんこう/横〕」策


◎【名家】: 論理学・詭弁、 *公孫龍・「白馬非馬論」、*恵施(子)


◎【農家】: 重農主義、神農を本尊とする、*許行〔きょこう〕


◎【雑家】: その他学派


◎【小説家】: つまらぬ小話を説く、思想希薄 



(この続きは、次のブログ記事に掲載しております。)


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