『徒然草〔つれづれぐさ〕』 にみる儒学思想 其の2 (第1回)

─── 変化の思想/「無常」/「変易」/陰陽思想/運命観/中論/
“居は気を移す”/兼好流住宅設計論( ── 「夏をむねとすべし」)/
“師恩友益”/“益者三友・損者三友”/「無為」・「自然」・「静」/循環の理 ───

★ 数年前に「『徒然草〔つれづれぐさ〕』に見る儒学思想」を執筆・発表いたしました。
http://blog.livedoor.jp/jugaku_net/archives/50707301.html
その後、加筆・段の追加などを行いましたので、(一部重複させながら)
「『徒然草〔つれづれぐさ〕』に見る儒学思想 其の2」として発表いたします。


≪§.はじめに ≫

○「つれづれなるままに、日くらし、硯〔すずり〕にむかひて、
心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそものぐるほしけれ。」

〔 これといってする事もなく、退屈で心さびしいのにまかせて、一日中、硯に向かって、
次から次へと心に(浮かんでは消えて)移り変わっていく、つまらないことを、
とりとめもなく(なんということもなく)書き付けていると、妙に感興がわいてきて、
狂気じみている(抑えがたいほど気持ちが高ぶってくる)ような気がします。 〕 *補注1) 


吉田兼好〔けんこう〕・『徒然草〔つれづれぐさ〕』の、
シンプルな冒頭(序段)の文章です。

中学・高校で 誰もが習い親しんだものです。
中味・段のいくつかもご存知かと思います。

兼好法師は、当代の優れた僧侶・歌人であり教養人でありました。

歴史的に、中国の源流思想は *補注2) 専らインテリ〔知識人〕である聖職者に学ばれ、
彼らの思想のみなもとを形成いたしました。

『徒然草』の思想的・文学的バックグラウンド〔背景〕を形成するものの中心として、
仏教典籍以外に、国文学(平安朝)和歌・物語と漢籍(中国の古典)があげられます。

漢籍では、儒学の四書五経、とりわけ『論語』の影響がきわめて大きいといえます。

私は、『徒然草』を研究・講義する折も多いので、
今回は、私流に、儒学=易学思想や黄老(老荘)思想の視点から
これを観てまとめてみたいと思います。


補注1)

学生諸君のために、煩瑣〔はんさ〕ながら、文法詳解を少々致しておきます。

「心にうつりゆく」 : 「うつり」を「移り」ととれば“それからそれから”の意。
「映り」と解すると“心という鏡に、次々と映ってくる”の意になります。/

「よしなしごと」 : 「よし」は、由緒・理由。
「よしーなしーごと」の三語が合わさった一語の複合名詞。/

「書きつくれば」“已然〔いぜん〕形+ば”の形。これは、
1)順態確定条件(原因・理由)を表し「ので」・「から」と訳します。
2)一般(恒時)条件を表し「〜するといつも〜する」の意。
  ex.「命長ければ恥多し」【第7段】
3)軽く次へ続けて偶発的事件の前提を表し、「〜すると」と訳します。
ここでは、3)の意で「かきつけていると」の意。/

「あやしうこそものぐるほしけれ」 : 「こそ」は、強意の係助詞で「じつに・まことに」の意。
係り結びによって下を已然形で結びます。 
「ものぐるほしけれ」は、形容詞「ものぐるほし」の已然形です。
(形容詞「ものぐるほし」に過去の助動詞「けり」の已然形「けれ」がついたものと間違えないこと。
ですから、「狂気じみていた」と訳すのは誤りです。
「けり」は連用形接続ですから終止形にはつきません。)
また、主語は省略されています。
主語を補えば、“自分が・自分のこころが”が普通ですが、
他に“書いたものが”・“書きつけることが”・“書く態度が”などと考える説もあります。
 兼好法師がこの序文で、この随筆を書いた時の態度や所感を、
“自分ながら変で、まことに狂気じみて思われる”と表現しているのは、
筆者としての謙遜表現です。言葉どおりに解してはまずいでしょう。


補注2)

易学思想と黄老(老荘)思想が東洋思想の2大潮流を形成いたします。
その後の、仏教思想を加えて3大潮流となります。

中国の思想を(陶鋳力をもって)受容・摂取した日本においても同様です。


★『徒然草』 段・抜粋の原文は、
『日本古典文学大系/方丈記・徒然草』 ほかによりました。(原文引用は省略) 

また、原文の読みがなは 、現代かなづかいで表記しておきました。

現代語訳・文法詳解は、高校生諸氏の学習に愛用されてきている
『新・要説 徒然草』(日栄社)を中心に参照しました。


≪ 吉田兼好・『徒然草』 抜粋 ≫

 鎌倉時代、中世の開幕は、貴族が社会の中心の座を譲り
武家の時代が到来したことを意味しました。

この新しく、激動と混乱の時代も、
元寇を契機として急速に幕府の力が衰えてゆき、
南北朝の動乱の時代へと向かってゆきます。

吉田兼好が生き『徒然草』を著したのは、
こういう時代変化と社会不安の時期だったのです。・・・


※ この続きは、次の記事に掲載いたします。

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