こちらは、前の記事の続きです。
コギト(我想う)
≪ 【損・益】の深意 ―― 現代的意義を考える ≫
易の賓卦・反卦の【損・益】卦、五行思想の相剋〔そうこく〕関係【水】と【火】、陰・陽の相対関係を、矛盾・対立するものとして(弁証法的に)捉えるのは、西洋的かもしれません。
私が想いますに、今一つの考え方として、両者がペアで協力してはたらくという捉え方ができるのではないでしょうか。東洋的視点とも言えましょう。それは、車の両輪やコイン(紙幣)の裏表などと例えるよりは、「呼吸」のような関係に似ていると想います。―― といいますのは。
「呼吸」は、 (1)「呼〔はく〕」と「吸〔すう〕」が、反対の用(作用・はたらき)でありながら、お互いを助け合っています。「出入」〔人が出たり入ったり/食物の排泄と摂取〕、「終始」〔物事の終わりと始まり〕、「忘却と記憶」〔忘れることと覚える保持すること〕などの関係も、同様です。
(2)次に強調したいのが、両者の順序です。どちらが先行か、後行かです。深呼吸は、まず、しっかりと吐いて(汚れた空気を出して、肺を空にして)から、新鮮な空気を十二分に吸い込むのです。
ですから 「呼 ⇒ 吸」 です。食物も、まずお腹を空腹にして(宿便を)排泄してからしっかりと食べます。「出 ⇒ 入」です。
頭の中も、まず忘れてリセット(空〔から〕・無)にしてから、新しい知識や忘れたことを再び記憶します。記憶の定着は“憶え ー 忘れる”を17回以上繰りかえすと実現すると心理学でいわれていると聞いたことがあります。
つまり、記憶のコツは、忘却することにあるということです。ですから、「忘却 ⇒ 記憶」です。
また、ものごと、終わりは始まり。終わって始まります。『大学』に「物に本末有り、事に終始有り。先後するところを知れば、則ち道に近し。」とあります。英語の“コメンスメント”〔commencement:卒業式〕も始まりの意味です。「始終」といわず「終始」といいます。「終 ⇒ 始」です。
――― このように、【損・益】も【損】が先で【益】は後です。またかくあるべきなのです。
さて、平成の大衆社会は、先賢の教えに学ばず、カケネなしの愚行を繰り返しています。全く、ちぐはぐ、トンチンカンな社会状況です。
己の利ばかりを思い、“ 過陽 ”で “ わからぬ ” 状況が蔓延しております。企業・経済人は、まず(先に)ユーザーへの福音となるように社会貢献を考え、利益は後です。
公務員・教育の現場も“中庸”を欠き、駁雑〔ばくざつ〕に過ぎます。まず、よく省〔かえり〕み省〔はぶ〕き、空〔あき〕を創ってから新規事を益〔ま〕すのです。
なお、余事ながら付言しますと。人生にもリセットが大事かもしれません。まず、チャラ(白紙)にして、新しい人生が描けるのでしょう。
○ 「蘧〔キョ〕伯玉 行年五十にして四十九年の非を知り、六十にして六十化す。」 ※補)
(『淮南子〔えなんじ〕』)
安岡正篤先生の著書〔講演録〕・『易と人生哲学』 (致知出版社) で知り、感銘を受けた文言です。私は、50の歳の時に奇〔く〕しくも、この言葉・この本に出合ったわけです。今にして想うにつけても、まさに、「縁尋機妙」な出合いでした。
※補) 蘧伯玉〔きょはくぎょく〕という人は 孔子がたいへん尊敬していた衛〔えい〕の国の賢大夫です。その名言が これです。その意味は、今までの四十九年の人生が間違っていた と認識して、五十歳で人生を“リセット”したということです。なかなか出来ないことです。そして、「六十にして、六十化す。」と続きます。つまり、今までの人生が全部駄目だったと認めたうえで、そこから 自己改造して進歩向上させていくことが出来るものなのです。
《 参考資料 》 1.
( たかね・「易経64卦解説奥義/要説版」抜粋引用)
《 41 & 42 のペア 》
41. 損 【山沢そん】 は、へらす。
包卦(乾中に坤)
● “損益の卦”、上経の“泰否の卦”と好一対、賓卦 「益」、 「遜」にも通じへりくだり奉仕する、“損して得とれ”、“ Give and Take ”/“One lost, two found.”
―― まず与える 易は損が先、 正しい投資
5爻 「十朋〔じっぽう〕の亀〔き〕」(神占をするための高価な霊亀)登場、元吉
cf.貝原益軒・・・ 84歳で死ぬ1・2年前に 「益軒」を名のる、それまでは「損軒」、(『養生訓』)
■ 沢は地表面が減損したものですから、沢が深いほど山は高い。
1)地天泰であったものが、3爻の一陽を減らして上爻に益した象。即ち、内を損して外を益した象。
2)外、私の心を去って動ぜず(艮山)、内、悦んで(兌沢)修養努力する象。
○ 大象伝 ;
「山下に沢あるは損なり。君子以て忿〔いか〕りを懲〔こ〕らし欲を塞〔ふさ〕ぐ。」
(沢は地表面が減損して、それが山となっている、自然の理です。そこから君子は、損することの道理を悟り、自分を抑え怒らぬように節制し、私欲・欲望を抑え 塞ぎ止めるようにするのです。)
42. 益 【風雷えき】 は、ます・ふやす。
包卦(乾中に坤)
● 益する道、損(正しい投資)があって益あり、 賓卦 「損」
「損して已〔や〕まざれば必ず益す」(序卦伝)、 2爻 「十朋の亀」、永貞吉
■ 1)動いて(震雷)従う(巽風)象。
2)上より下にくだる。 「否」の4爻と初爻が入れかわったもので、上を損じて下を益すの象。
3)雷(震)の裏卦が風(巽)で、陽陰共存の象。
○ 大象伝 ;
「風雷は益なり。君子以て善を見ればすなわち遷〔うつ〕り、過ちあればすなわち改む。」
(風と雷は、互いに助け益します。そのように 君子は、自分の徳義が益するように、善いと見れば就〔つ〕き従って動き、自分に過失があれば勇気をもって改めるのです。)
cf. 『論語』より ;
「利に放〔よ〕りて行へば怨み多し。」 (里仁第4)
「君子は義に喩〔さと〕る。小人は利に喩る。」 (里仁第4)
「過〔あやま〕っては則ち改むるに憚〔はばか〕ること勿〔なか〕れ。」
(学而第1、子罕第9)
■2012年3月25日 真儒協会 定例講習 老子[20] より
(この続きは、次の記事に掲載させて頂きます。)
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