■ 孝経 ( 諫争章 第15 ) 執筆中
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■ 論語 ( 孔子の弟子たち ―― 子 路 〔1〕 )
§.はじめに 子 路
私は、孔子(と弟子)の言行録である『論語』が、その優れた一面として、文学性・物語性をも持っていると考えています。(優れた歴史書『史記』もまた文学性・物語性・思想性を持っています。)
そういう意味での『論語』を、人間味(情味)豊かに飾るものが、子路の存在です。『論語』での登場回数も子路(=由〔ゆう〕)が、一番多いのではないでしょうか。子路の存在・キャラクター、その言動によって、『論語』は より身近により生き生きとしたものとして楽しめるのだと感じています。世代を超えて子路のファンの人も多いのではないでしょうか。
ところで、中島 敦〔あつし〕の短編歴史文学 『弟子』は、子路を描いています(次々回述べる予定です)。その波乱の生涯の中でその最後(膾〔なます〕のごとく切り刻まれて惨殺される)も、ドラマチックです。※注)
子路は、姓を仲、名を由〔ゆう〕、字〔あざな〕を子路といいます。また別の字を季路ともいいます。孔子とは、9歳差。“四科十哲”では、冉有〔ぜんゆう〕とともに政事(政治活動)に勝れると挙げられています。
子路は、元武人(侠客〔きょうかく〕のようなもの:博徒・喧嘩渡世)の経歴で、儒家・孔子派の中での特異・異色〔ユニーク〕な存在です。その性状は、粗野・単純・気一本・一本気の愉快な豪傑といったところでしょう。殺伐物騒な戦乱の時代にあって、現実政治的な役割と孔子のボディーガード的役割を兼ねていたのではないでしょうか。“お堅い”ムードになりがちな弟子集団の中にあって、豪放磊落〔ごうほうらいらく〕なムードメーカー的存在でもあったでしょう。
私は、『論語』の子路に、『三国志』(『三国志演義』/吉川英治・『三国志』)の豪傑 “張飛〔ちょうひ〕”〔劉備玄徳(と関羽)に従う義兄弟〕を連想しています。虎・虎髭〔とらひげ〕と愛すべき単純さ(そして劇的な死)のイメージが、楽しくまた鮮烈に重なっています。
※注) 孔子73(72)歳の時(孔子の死の前年)、子路は衛の内紛にまきこまれて惨殺されました。享年64歳。(後述)
「由が如きは其の死を得ざらん( ―― 得ず。然り。)。」(先進・第11−13)
(由のような男は、まともな死に方はできまい。/畳の上で死ぬことはできないかもしれない。) と日ごろから言っていた孔子の心配が、予言のように的中してしまったことになります。
1) 破れた綿入れを着ていてもサマになる ――― 第一印象
○ 「子曰く、敝〔やぶ〕れたる縕ウン袍〔うん/おんぽう〕を衣〔き〕、狐貉〔こかく〕を衣たると立ちて恥じざる者は、其れ由〔ゆう〕なるか。」 (子罕・第9−27)
《 大 意 》
孔先生がおっしゃるには、「破れた綿入れの上衣を着て、立派な狐〔きつね〕や貉〔むじな〕の毛皮の衣を着た人達と並んで立っても、(毅然として一向に)恥ずかしがらないのは、まず由(=子路)だろうね。」
2) “暴虎馮河〔ぼうこひょうが/か〕”のルーツ! ――― 子路の性格
○ 「火烈にして剛直、性、鄙〔ひ〕にして変通に達せず。」 (『孔子家語』)
《 大 意 》
激しく剛直で、品性ヤボで野生的、物事の変化・融通・裏表がわからない。
○ 「柴〔さい〕や愚、参や魯、師や辟〔へき〕、由〔ゆう〕や喭〔がん〕。」
(先進・第11−18)
《 大 意 》
柴(子羔/しこう)は愚か〔馬鹿正直〕で、参(曾子)は血のめぐりが悪く、師(子張)は偏って中正を欠き、由(子路)は粗暴・がさつだ。
○ 「子、顔淵に謂いて曰く、之を用うれば則ち行い、之を舎〔す〕つれば則ち蔵〔かく〕る。唯我と爾〔なんじ〕と是れあるかな。 | 子路曰く、子三軍を行なわば(行〔や〕らば)、則ち誰と與〔とも〕にせん(する)。 子曰く、暴虎馮河し(て)、死して悔いなきものは、吾與にせざるなり。 必ずや事に臨んで懼〔おそ〕れ、謀〔ぼう/はかりごと〕を好んで成さん者なり。」
(述而・第7−10)
《 大 意 》
孔先生が顔淵におっしゃるには、「自分を認めて用いてくれる人君があれば、出て道を行い、(人君や世の中から)見捨てられたら、退いて静かに蔵〔かく〕れる。このような時宜〔じぎ〕を得た出処進退ができるのは、わしとおまえくらいだろうね。」
(それを聞いてやきもち気味で)子路は、「先生が、大国の軍隊を率いて戦争をされるとしたら、誰と一緒になさいますか。」と尋ねました。孔先生がおっしゃるには、「虎に素手で立ち向かったり、河を徒渉〔かちわたり〕したりするような(命知らずな)ことをして死んでもかまわないというような者とは、わしは一緒にやらないよ。わしが一緒にやるとしたら、必ず事にあたって敬〔つつ〕しみ懼〔おそ〕れ、慎重に計画を練って成し遂げるような(深謀遠慮な)人物とだね。」
※ 「用之則行、舎之則蔵」 →
「用舎行蔵」(=行蔵自在):
君子の行動が、世に処するに時の宜しき得て滞ることがないこと。
cf.福沢諭吉の幕臣・勝海舟(と榎本武揚)に対する批判・詰問
(「瘠我慢之説〔やせがまんのせつ〕」と「丁丑〔ていちゅう〕公論」)
→ 勝の返事:「行蔵は我に存す、毀誉〔きよ〕は他人の主張、我に与〔あず〕からず我に関せずと存候〔ぞんじそうろう〕。」
(出処進退は自分自身が〔知っています〕決めます。その評価は、あれこれ他人が勝手にすることです。〔世間の風評など〕私の知ったことではありませんし、関わりもありはしません。)
→ 榎本の返事:公務多忙につき、今は返事が書けません
cf.高杉晋作&坂本竜馬の言葉 ・・・ 自分の成すべきことは自分が一番良く知っている
・「世の中は よしあしごとも いわばいえ 賤〔しず〕が誠は 神ぞ知るらん」
・「世の人は われをなにとも いはばいへ わがなすことは われのみぞしる」
※ 「暴虎馮河」: 暴虎=素手で虎に向かうこと、馮河=舟なしで大河を渡ること。血気の勇にはやる命知らずのこと。
子路は、自分の勇敢さを自慢して、孔子に自分の名前を出してもらうことを期待して問いかけました。が、ピシャリと匹夫の勇を戒められ道理に適った勇気を諭されたのです。
( つづく )
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■ 本学 【司馬遷と『史記』 ― 2 】 執筆中
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■ 易経 ( by 『易経』事始 Vol.2 ) & ( by 「十翼」 )
§.易の思想的基盤・背景 (東洋源流思想) 【 ―(6) 】
C. 変化の思想 (易の三義【六義】)〔 Principle(Classic) of Changes 〕
《 ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変っているのを発見した。彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。 》 Franz Kafka Die Verwandlung,1916 (カフカ・『変身』)
“易” = 変化 Change “蜴”(カメレオン)
“ The Book of Changes ” (変化の書・『易経』)
※ 2008.12 世相を表す文字 「変」 (2007「偽」)
2009.1 「変革」をとなえて、オバマ新米大統領登場・就任
(注) 漢字検定協会・理事長父子 逮捕!
1)。 「変 易」 ・・・ か〔易〕わる
易の名称そのものが変易の意義をもつ、生成変化の道、 天地自然は大いなる変化、変易。自然と人生は大いなる「化」
ex.―― 季節・昆虫の変態・無常/お化け(女性の化粧)/“大化の改新”(645)
○「結局最後に生き残る者は、最も強い者でも最も賢い者でもない。それは変化し続ける者である。」
(チャールズ・ダーウイン)
・ イノベーション=「革新」
・ 「日新」: 「湯の盤の銘に曰わく、苟〔まこと〕に、日に新た、日々に新たに、又日に新たならんと。」 (『大学』) cf.“日進月歩”
・ 「維新」: 「詩に曰わく、周は舊〔旧〕邦なりといへども、その命、維〔こ〕れ新たなり。」
(『大学』、詩=『詩経』・大雅文王篇)
ex.――“松下電器”、五坪の町工場から従業員一万人・売り上げ一千億に進化発展
・ 松下幸之助氏の「変易」(変革・イノベーション、テレビブラウン管技術の輸入)と「不易」なるもの
cf.“Panasonic パナソニック”: 一万五千人 人員削減(半分国内)、
ソニー:一万六千人、 NEC:二万人 (09・2/4)
・ 「革命」 (Revolution) と「進化」 (Evolution)
※ 参考 ―― 古文にみる “変化”
◎ 『徒然草〔つれづれぐさ〕』・吉田兼好 ・・・・・
「変易」“へんやく” = (仏教的)無常観・ 諸行無常・漢籍の素養
○ 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理〔ことわり〕をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の世のゆめのごとし。たけき者もつひには滅びぬ。ひとへに風の前の塵〔ちり〕に同じ。」 (『平家物語』)
○ 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例〔ためし〕なし。世中にある人と栖〔すみか〕と、またかくのごとし。」 (『方丈記』、鴨長明)
○ 「また知らず、仮の宿り、たがためにか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる。」 (『方丈記』、鴨長明)
※ 考察 ―― “転石、苔〔こけ〕を生ぜず” 〔A rolling stone gathers no moss.〕
英: 本来イギリスのことわざで、苔を良いものと考え(石の上にも三年で)腰を落ち着けていなければ苔も生えない、との意味。英は静止社会で、転職も軽々しくするなということ。
米: 英人が植民してつくったアメリカ合衆国では、意味が逆転します。米は、動的社会。 苔を悪いものと考え、「流れぬ水は、腐る」で、いつもリフレッシュ、転職するのは力のあるエリート(ヘッドハンティング)ということです。
2)。 「不 易」 ・・・ 不レ易・かわらぬもの
変化の根柢に不変・永遠がある、不変の真理・法則の探求、 “千古不易”、“千古不変”、“真理不変”、“一〔いつ〕なるもの”、“永遠なるもの” 変わらぬ物の価値、 目立たぬが確かな存在
・ 自然界の法則 & 人間界の徳(仁)、芸術の世界での「美」 ――本質的なもの
ex.―― “ 不易〔フエキ〕 糊〔のり〕”: 「硼酸〔ほうさん〕またはサルチル酸のような防腐剤と香料とを入れて長く保存できるようにした糊」 (広辞苑)
“パーマ” 〔 parmanent wave 〕
“(日清)チキンラーメン”: 1958年誕生、ロングヒット商品、カップメン、カップヌードルの発明
□「化成」: 変化してやまない中に、変化の原理・原則を探求し、それに基づいて人間が意識的・自主的・積極的に変化してゆく。 クリエーション(創造)
ex.――ー 「三菱化成」(化学合成ではない)=「化し成す」(「離」卦)
※ 参考 ―― 変わらぬもの
◎ “松に古今の色なし”
○ 「松樹千年翠〔みどり〕 不入時人意(時の人の心に入らず)」
「松柏〔しょうはく〕千年青」 (『広燈録』など)
○ 「子曰く、歳〔とし〕寒うして然る後松柏の彫〔しぼ〕むに後るるを知る。」
松柏 = まつとかや = 君子の節操 (『論語』子罕・第九)
○ 「 ―― 難いかな恒〔つね〕有ること 」 (『論語』述而・第七)
※ 考察 ―― 変易と不易
・ “不易流行” (松尾芭蕉、蕉風俳諧の境地)
◇「不易 は詩的生命の基本的永続性を有する体。 流行は詩における流転の相で、その時々の新風の体。 この二体は共に風雅の誠から出るものであるから、根元においては一に帰すべきものであるという。」 (広辞苑)
・ “流行色”と “恒常的流行色”
・ “不易を大切にし、流行に対応する教育” ―― 「21世紀を展望した我国の教育の在り方について【第一次】・中央教育審議会答申 (平成8〔1996〕・7・19)
○ 豊かな人間性など「時代を超えて変わらない価値あるもの」(不易)を大切にしつつ、「時代の変化とともに変えていく必要があるもの」(流行) に的確かつ迅速に対応していく ・・・・ 」
◎「積善の家には必ず余慶〔よけい〕あり。積不善の家には必ず余殃〔よおう〕あり。」
( 坤・文言伝 )
→ 「殃」は災禍
3)。 「簡 易」 〔かんえき・かんい〕
・・・(中国流で易簡、 Purity ピュアリティー / Simplity シンプリティー)
変化には複雑な混乱ということがない。平易簡明、無理がない
ex. ――― “簡易郵便局”、“簡易保険”、“簡易裁判所”
※ 参考 ―― 茶道 “ Simple is beste ” シンプル・イズ・ベスト
○ 「自然は単純を愛す」 (コペルニクス)
○ 「自然は常に単純であり、何らの自家撞着〔じかどうちゃく〕をも持たない」
(ニュートン)
○ 「真理は単純なり」 : 道元は中国から何も持ち帰らなかった。目はヨコに鼻はタテに附いているとの認識を新たにしてきた。 (あたりまえのことを、当たり前と認識する)
4)。 「神 秘」 ・・・・
易は「イ」、「夷〔えびす・イ〕」に通じ、感覚を超越した神秘的なものの意。自然界の妙用「神秘」、奇異。
◎ 「希夷」の雅号 ・・・ 聞けども聞こえず見れども見えず(五官・五感をこえて)、それでいて厳然として微妙に、神秘に、存在するもの。
5)。 「伸びる」 ・・・・ 易〔の〕ぶ、延・信
造化、天地万物の創造、進化でどこまでも続く、伸びる、発展するの意。
○ 「悪の易〔の〕ぶるや、火の原を焼くが如く::」
6)。 「治める」 ・・・・ 修 ・ 整
天地の道を観て、人間の道を治めるのが易。
○ 「世を易〔か・変〕えず」 ―― 「世を易〔おさ・治〕めず」 と読むと良い。
(「乾」・文言伝 初九)
(易学の源流思想 完 )
( 「十翼」 :序卦伝 (1) は 執筆中 )
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