儒灯

【温故知新】儒学の普及に力を注いでおります真儒協会 会長、高根秀人年の個人ブログです。 『論語』、『易経』を中心に、経書の言葉を活学して紹介して参ります。 私個人の自由随筆、研究発表などのほか、真儒協会が毎月行っております定例講習についても掲載しております。

易経(象による64卦解説)

第30回 定例講習 (2010年5月30日) その2

前の記事の続きです。


本学  【 高根ブログの解説 】

 平成22年度 “真儒の集い” 特別講演 
 “『グリム童話』 と 儒学   ―― 現代日本を“中す”一つの試論 ―― ”。 (高根秀人年)
レジュメを欠席者・新参加者のために要説いたしました。

 また、ブログ 【儒灯】 (儒学からの言霊) 
―― 黄門さまの“虎変” と 「伯夷伝」 ―― を解説いたしました。



易経  ( 『易経』 64卦暗記法 ― 卦の順番/卦の番号 ― )


『易経』 64卦暗記法

――― 卦の順番/卦の番号 ―――

高根 秀人年      


『易経』 は、乾・坤に始まり、既済・未済に至る、64卦の循環で、世界・人生を象〔かたどっ〕ています。したがって、その順番には、一定の理〔ことわり〕にもとずく順序があります。それを説いたものが、『十翼』 の「序卦伝」 です。

  例えば、始まりは“乾・坤” 2卦のペアです。 
NO.1 が“乾=天”で、次にNO.2 “坤=地” があります。

『聖書』 の「天地創造」でも、『古事記』などの神話でも同じですね。

終わりは、“既済・未済” 2卦のペアです。
NO.63 “既済=完成”があって最終卦NO.64 “未済=未完成”があります。

この順番によってこそ、無限に循環いたします。無始無終・無終の道が実現するのです。


  さて、『易経』 の配列は、この順番に定まっているわけですから、
NO.1 〜 NO.64 の序列・順番を理解し、暗記すると同時に、何番の卦かということも暗記するのがベストです

そこで、その順番と何番の卦であるかの暗記法を、先人のアイデアも参考にしながら考案し、まとめあげました。

   ――― がんばって、口ずさみながら覚えましょう。コツコツと、努力あるのみです!


 §.64卦暗記法―― (1)卦の順番 

20100530_image1
20100530_image2




 §.64卦暗記法 ―― (2)卦の番号 

《 上 経 》
                                                                    
1. 乾  ※  乾 「元亨利貞(げんこうりてい)」 ・ 「自強不息(じきょうふそく)」
2. 坤  ※  坤 「厚徳載物(こうとくたいぶつ)」
3. 屯  「お」の苦しみ、水雷屯
4. 蒙  「界(海)」もうろう、山水蒙
5. 需  「本」の指折り数え求め待つ、水天需
6. 訟  「法全書」片手に“訴えてやる!”、天水訟
7. 師  「転八倒(起)」戦〔いくさ〕の卦、地水師
8. 比  「方美人」みんなに親しむ、水地比
9. 小畜  「労」して少しく蓄〔たくわ〕える、風天小畜
10. 履  「テン(10)」で、天〔テン〕沢履
11. 泰  「イイ感じ」で男女和合し、地天泰
12. 否  「十二ケ月」で一年塞〔ふさ〕がり終わる、天地否
13. 同人  「勇ん遺産)」で集まる、天火同人
14. 大有  「意志」が天に通じて天祐あり、火天大有
15. 謙  「以後もよろしくお願いします」とお辞儀する、地山謙
16. 予  「いろんな」準備楽しく、雷地予
17. 随  「柔軟」に随〔したが〕う、沢雷随
18. 蠱  「娘十八」“虫”が三匹、山風蠱
19. 臨  「行くぞ」船出だ咸臨丸〔かんりんまる〕、地沢臨
20. 観  「二十面観音」人生の洞察/「二十〔はたち〕」で観光旅行、風地観
21. 噬コウ  「フイ」に歯にはさまる、火雷噬コウ
22. 賁  「夫婦」仲良く高齢社会、山火賁
23. 剥  「ふさぎ込む」身心の剥がれ、山地剥
24. 復  「西」からもどる太陽、地雷復
25. 无妄  “おんにこにこ 腹立つまいぞや そはか”、天雷无妄
     ( 腹を立てぬ呪文/ )
26. 大畜  「二郎」は大いに蓄え、山天大畜
27. 頤  「フナ寿司」食べて食養生、山雷頤
28. 大過  「双葉」も大いに過ぎて棟木〔むなぎ〕となる、沢風大過
29. 坎  「まれ者」の三難卦、坎為水
30. 離  「三十女」・中女で、離為火 



《 下 経 》

31. 咸  「さあ いこう!」船出だ、/ 「先よし」、沢山咸
32. 恒  親子「三人」でいつも変らぬ愛情、雷風恒
33. 遯  「ミミっちくなく」・「サッサと」引退、天山遯
34. 大壮  「ミシミシ」と音立てたいそう〔体操〕、雷天大壮
35. 晋  「三十五」は人生のまっ盛り、火地晋
36. 明夷  「三浪」は “暗黒時代”、地火明夷
37. 家人  「み(ん)な」そろって家庭円満、風火家人
38. ケイ  「見渡せば」女同士の反目、火沢ケイ
39. 蹇  「惨苦〔ざんく・さんく〕/残酷」な足止め、水山蹇
40. 解  「四十」にして惑わずで解決、雷水解
41. 損  「よい投資」で “損して得とれ”、山沢損
42. 益  利益は「世に」還元すべし、風雷益 
43. 夬  しっかり「試算」して大決心/「予算」オーバー、沢天夬
44. コウ  「夜夜〔よよ〕」の思わぬ出合い、天風コウ
45. 萃  「しごいた」網に魚がいっぱい、沢地萃
46. 升  「丸」つづきでスピード昇進、地風升 
47. 困  「至難」だ困った/赤穂〔あこう〕「四十七士」、沢水困
48. 井  「世渡りじょうず」が集まる井戸端会議、水風井
49. 革  「良くなれ」と改革、沢火革
50. 鼎  「五十」にして安定・三角関係、火風鼎  
51. 震  「強引ごういん〕」な地震・雷、震為雷
52. 艮  「ゴンに山」は、艮為山
53. 漸  「イッツ ミー (It‘s me:それが私です)」、縁談 OK!、風山漸
54. 帰妹  「御用」があれば、と妹もいっしょ、雷沢帰妹
55. 豊  「GOGO!(ゴーゴー!)」/「午後」の豊かな太陽、雷火豊
56. 旅  「ころあい」をはかって一人旅に出る、火山旅
57. 巽  「」が風にしたがって舞う、巽為風  cf. 白粉〔おしろい〕
58. 兌  「こわ〜い」のは口の災い、兌為沢
59. 渙  「ゴクン」と飲んだ水汗と散る、風水渙
60. 節  「六十」の還暦(耳順〔じじゅん〕)は人生の節目、水沢節
61. 中孚  「無為自然」でからっぽ、風沢中孚
62. 小過  「」やらぬこと、雷山小過
63. 既済  ※  「既済は定まるなり。」
64. 未済  ※  「未済は男の窮まるなり。 




【 卦の番号 暗記法 / 解 説 】

《 上 経 》
                                                                    
1. 乾  ※  乾 「元亨利貞(げんこうりてい)」 ・ 「自強不息(じきょうふそく)」

2. 坤  ※  坤 「厚徳載物(こうとくたいぶつ)」
  ( は、全陽〔純陽・老陽・男性〕 ・・・ 分化発展の原則、乾=健の意、
  天の運行・剛健、龍(ドラゴン) ・「元亨利貞」(卦辞)  
  ※ 乾の四徳 ・・・ 循環連続性 ・「自強不息」(大象); 
  「天行は健なり。君子以て自ら強〔つと〕めて息〔や〕まず。」 )
  ( は、全陰〔純陰・老陰・女性〕 ・・・ 統一含蓄の原則、母なる大地、
  牝牛横たわり草を喰むイメージ、“柔順の貞”・“女性の貞”、 ・ 「厚徳載物」(大象)
  ;「地勢は坤、君子以て徳を厚くし以てものを戴〔の/たい〕す。」 )

3. 屯  「お」の苦しみ、水雷屯
  (*4難卦; 創造・生み=産み の苦しみ、天下草創 )

4. 蒙  「界(海)」もうろう、山水蒙
  ( 頭の中が蒙〔くら〕い、山の下に水でモヤ → 視界がモヤ〜としている )

5. 需  「本」の指折り数え求め待つ、水天需
  ( 需〔もと〕め待つ、“密雲すれども雨ふらず” 、5は東洋の代表数 )

6. 訟  「法全書」片手に“訴えてやる!”、天水訟
  ( 訴える・訴訟、男性同士・表立った〔陽と陽〕背反、「行列のできる相談室」 )

7. 師  「転八倒(起)」戦〔いくさ〕の卦、地水師
  ( 戦〔いくさ〕・苦しい時、戦の軍師 → 先生 )

8. 比  「方美人」みんなに親しむ、水地比
  ( したしむ、「八方美人」 は誰にでも愛想が良い人、
  *「八頭身美人」と間違えないように )

9. 小畜  「労」して少しく蓄〔たくわ〕える、風天小畜
  ( 畜=蓄、1)留〔とど〕め・ 2)貯〔たくわ〕え・ 3)養う )

10. 履  「テン(10)」で、天〔テン〕沢履
  ( ふみ行う、英語のテンと天のゴロ合わせ・・・10番目のくくりで覚えましょう )

11. 泰  「イイ感じ」で男女和合し、地天泰
  ( “泰否の基本ペア卦”。天地交流・男女和合、
  地は下に天は上に行こうとして交流、合体融合の象 )

12. 否  「十二ケ月」で一年塞〔ふさ〕がり終わる、天地否
  ( 泰と反対に八方塞がり、天地交流せず男女和合せず )

13. 同人  「勇ん遺産)」で人が集まる、天火同人
  ( 志を同じくして多くの人が集まる、同士が勇んで /遺産相続をアテにして )

14. 大有  「意志」が天に通じて天祐あり、火天大有
  (*3大上爻;高根 日の4〔5〕卦;大いに有〔たも〕つ、中天の太陽、天佑あり ) 

15. 謙  「以後もよろしくお願いします」とお辞儀する、地山謙
  ( へりくだる、謙虚・謙遜、“稔ほど頭をたれる稲穂かな” )

16. 予  「いろんな」準備楽しく、雷地予
  (*“時”・時宜5卦; 1.あらかじめ  2.遊び楽しむ  3.怠る )

17. 随  「柔軟」に随〔したが〕う、沢雷随
  (*“時”・時宜5卦; つきしたがう、“時にしたがい、事にしたがい、人にしたがう”、
  「臨機応変」、柔軟な姿勢が大切・・・ )

18. 蠱  「娘十八」“虫”が三匹、山風蠱
  ( 皿の上に虫が3匹〔木皿の中の虫〕、蛇も 18はお年頃 悪い虫に要注意 )

19. 臨  「行くぞ」船出だ咸臨丸〔かんりんまる〕、地沢臨
  ( 春たけなわ・スタート、1860 勝海舟 「咸臨丸」にて太平洋をわたる )

20. 観  「二十面観音」人生の洞察/「二十〔はたち〕」で観光旅行、風地観
  (*精神性3卦; 精神性重視、観世音(観音・観自在)菩薩・・・精神の高められた心でみる
  /心眼で深く観る、“観光”の語源・4爻辞 「国の光を観る」 )

21. 噬コウ  「フイ」に歯にはさまる、火雷噬コウ
  ( 噛〔か〕み合わせる。口の中の障害物・・・口中に4爻の1陽があるのがこの象。
  好事〔こうず〕魔多し )

22. 賁  「夫婦」仲良く高齢社会、山火賁
  (*高根 日の4〔5〕卦;かざる・あや。沈みゆく太陽・晩年・夕日・高齢社会の卦 )

23. 剥  「ふさぎ込む」身心の剥がれ、山地剥
  ( 身心のはがれ、“退勢の極致”、1陽崩壊寸前にて男性苦労の象 )

24. 復  「西」からもどる太陽、地雷復
  ( 「復」=ルネサンス (仏・英) Renaissance 、再生・復活、
  “復は反〔もど〕るなり”(雑卦伝) ・・・ 西に沈んだ太陽が戻る )

25. 无妄  “おんにこにこ 腹立つまいぞや そはか”、天雷无妄
  (*精神性3卦; うそ・いつわりのないこと。无は無で 妄〔みだ〕り無いの意。至誠。
  “おんにこにこ ・・・ ”は腹を立てぬ呪文との連想 )

26. 大畜  「二郎」は大いに蓄え、山天大畜
  (*3大上爻; 大いにとどめ・蓄えること。「二郎」は単なるゴロあわせ )

27. 頤  「フナ寿司」食べて食養生、山雷頤
  ( あご・おとがい。身心ともに養う。 
   琵琶湖の「フナ寿司」伝統的珍味で単なるゴロあわせ )

28.大過  「双葉」も大いに過ぎて棟木〔むなぎ〕となる、沢風大過
  (*4(3)難卦; 大(陽)が過ぎる。
  「棟撓〔むなぎたわ〕む」(卦辞)・・・棟木は屋根を支える横木 )
 
29.坎  「まれ者」の三難卦、坎為水
  (*4(3)難卦; 習坎・水また水、水はなやみ、険難重なる象。 )

30.離  「三十女」・中女で、離為火 
  ( 離為火 は、麗〔り〕。中女・・少女と大女の間、魅力的な「三十女」を連想 )



《 下 経 》

31.咸  「さあ こう!」船出だ、/ 「先よし」、沢山咸
  (*愛情 4卦; 「咸臨丸」スタート;咸卦と臨卦から名づけました。感応の卦、
  恋愛・愛情の始まり )

32.恒  親子「三人」でいつも変らぬ愛情、雷風恒
  (*愛情 4卦; 恒は、恒常・久しい。夫婦・親子の幾久しく変らぬ愛情 )

33.遯  「ミミっちくなく」・「サッサと」引退、天山遯 
  (*精神性3卦;“時”・時宜5卦; 遯は、逃れ退く。隠居・引退の卦。
  解脱・達観。 ・・・  人は引き際が大切です )

34・大壮  「ミシミシ」と音立てたいそう〔体操〕、雷天大壮
  ( 大壮は、陽(大)気 壮〔さかん〕なりです。「体操」 と“かけ”ました )

35.晋  「三十五」は人生のまっ盛り、火地晋
  (*3吉卦; 高根 日の4〔5〕卦; 晋=進ですすむ、地上(真上)の太陽。
  人生でいえば中年壮年、まっ盛りです )

36.明夷  「三浪」は “暗黒時代”、地火明夷
  (*高根 日の4〔5〕卦; 地中の太陽、明らかなもの・明るいもののやぶれること。真っ暗 )

37.家人  「み(ん)な」そろって家庭円満、風火家人
  ( 家庭の平和・調和、家を斉〔ととの〕える道 )

38.ケイ  「見渡せば」女同士の反目、火沢�露 
  ( そむく・異なる。 火=離女・中女 と 沢=兌女・少女の二女反目 )

39.蹇  「惨苦〔ざんく・さんく〕/残酷」な足止め、水山蹇
  (*4(3)難卦;  寒さに足が凍えて進めない字義、足止めストップ )

40.解  「四十」にして惑わずで解決、雷水解
  ( とける・ちらす、問題解決、氷解。「四十」不惑は『論語』からの連想 )

41.損  「よい投資」で “損して得とれ”、山沢損
  ( “損益のペア卦” “ Give and Take ” 正しい投資は利益を生む )

42.益  利益は「世に」還元すべし、風雷益 
  ( 損(正しい投資)があって益あり、益=易のあるべき姿は社会貢献 )

43.夬  しっかり「試算」して大決心/「予算」オーバー、沢天夬
  ( 夬=決。よほどの決心・決定〔勇断果決〕、堤防決壊〔ぶちこわし〕 )

44.コウ 「夜夜〔よよ〕」の思わぬ出合い、天風コウ 
  (*“時”・時宜5卦;愛情 5卦; 男性は夜の仕事の女性との出会い、
  女性は玉の輿、女性との出会いで発展〔男女とも〕 )

45.萃  「しごいた」網に魚がいっぱい、沢地萃
  ( あつまる。人やモノがあつまる、 選挙吉 )

46.升  「丸」つづきでスピード昇進、地風升
  (*3吉卦; 高根 日の4〔5〕卦; 順を追って昇り進む、高位に昇る〔出世〕 )

47.困  「至難」だ困った/赤穂〔あこう〕「四十七士」、沢水困
  (*4〔3〕難卦; 行き詰まって困り、苦しく悩む。/赤穂浪士「四十七士」の打ち入りも
  至難・困難と連想 )

48.井  「世渡りじょうず」が集まる井戸端会議、水風井
  ( 恵みの井戸、「世渡りじょうず」な“オピニオン・リーダー”を連想 )

49.革  「良くなれ」と改革、沢火革
  ( あらたまる、かわる。改革・革新・革命 Revolution の革 )

50.鼎  「五十」にして安定・三角関係、火風鼎 
  ( 鼎は、かなえ、古代中国の三本足の煮炊きする器。 
  三脚で安定。『論語』にいう知命「五十」は人生安定、三角関係も安定の時? )

51.震  「強引ごういん〕」な地震・雷、震為雷
  ( 震は激しく・「強引」に動く。天にあっては雷、地にあっては地雷。)

52.艮  「ゴンに山」は、艮為山
  ( 艮は坤と区別して「ゴン」と発音、その象意は「山」、
  ゴンイザン ⇒ ゴン ニ サン のゴロあわせ )

53.漸  「イッツ ミー (It‘s me:それが私です)」、縁談 OK!、風山漸
  (*3大上爻;3吉卦;愛情 4卦; 正婚・結婚の卦。 
  ※お見合いの場面の連想で、見合い写真をみて「それは、私です!」 )

54.帰妹  「御用」があれば、と妹もいっしょ、雷沢帰妹
  ( 自由恋愛・副妻・愛人、恋愛ご注意の卦。 
  ※古代中国では、姉の貴人との結婚には妹を伴いました )

55.豊  「GOGO!(ゴーゴー!)」/「午後」の豊かな太陽、雷火豊
  (豊かに盛大の意「いけ!いけ! どんどん」/「午後」太陽と豊大の連想 )

56.旅  「ころあい」をはかって一人旅に出る、火山旅
  (*“時”・時宜5卦; 旅卦は孤独な一人旅、修行の旅、行かねばならぬ旅。
    ―― 「ころあい」をはかって出発しよう )

57.巽  「」が風にしたがって舞う、巽為風  cf. 白粉〔おしろい〕
  ( 巽は 風、風にただよう。風のように従い従って〔巽順〕吉。 )

58.兌  「こわ〜い」のは口の災い、兌為沢
  ( 兌の象意は、口。口禍・失言には要注意 )

59.渙  「ゴクン」と飲んだ水汗と散る、風水渙
  ( 水上の風、風により水が散ってしまうの象意 )

60.節  「六十」の還暦(耳順〔じじゅん〕)は人生の節目、水沢節
  ( 竹のふし、人生の節目。還暦〔『論語』でいう耳順〕は、
  満60〔数え61〕歳で干支〔えと/かんし〕の暦が一巡して
  生まれた時の干支に戻ることです )

61.中孚  「無為自然」でからっぽ、風沢中孚
  ( まこと・愛情・、また中がからっぽ〔空虚〕・タマゴの殻。 
  風と水という自然の相応は 人の虚心な信〔まこと〕で、
  老荘思想の「無為自然」を連想 )

62.小過  「」やらぬこと、雷山小過
  ( 少しく〔陰に〕過ぎる。「」やること=大禍 は禁物というもの )

63.既済  ※  「既済は定まるなり。」
64.未済  ※  「未済は男の窮まるなり。」
  ( 既済は、すでに成る、ととのう。64卦 最終卦のひとつ前の卦。
   “有終の道(美)”、成就・完成、ジ・エンド 〔THE  END〕、 不良。 )
  ※ 既済は、1)すべてが、完成・成就したの意。それで安定している。
     2) 3陰3陽 の 6つの爻すべてが正位を得ているから安定している。

(未済は、未完成。 64卦 最終の卦=人生に完成はない、 無終の道=循環・無始無終。 )
※ 未済は、1)未完成、いまだことが成就しないの意。つまり、男の道=君子の道がいまだ定まっていないの意。
2) 3陰3陽 の 6つの爻すべてが不正位。3つの陽爻(男)が位を得ていないので、男の身の行き詰まりです。 3陰爻が、それぞれ陽爻の下にあって陽爻を承〔う〕けています。女(陰)が行き詰まることはないので、男(陽)の行き詰まりといえます。
3)全爻、不正位に加えて、2爻が坎険の中から出られないので、「男の窮する」の意。

  ● 人類の歴史は行き詰まることなく、再び始まります。 「終始」 = 終りて始まる
     という悠なる易学の循環の理がここに示されているのです。
    
                                              ( 完 )

                                             


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第十九回 定例講習 (2009年3月22日)

第十九回 定例講習 (2009年3月)












孝経   ( 紀孝行章 第10 − 《2》 )

“親に事〔つか〕うる者は、上〔かみ/うえ〕に居て〔おご〕らず、下〔しも〕と為りてせず。醜〔しゅう/もろもろ〕に在〔あ〕りて争わず。上に居て而て驕れば則ち亡ぶ。下と為りて而て乱すれば則ち刑せらる。醜に在りて而てえば則ち兵せらる。 三者除せざれば、日に三牲〔さんせい〕の養〔やしない〕を用うと雖〔いえど〕も、猶お不孝たるなり。

《大意》 「親へのつとめを立派に果たす人は、人の上に立っても(リーダー〔指導者〕)おごり・高ぶることなく、人の下で支えるようになっても(反抗などして)秩序を乱すようなことはしない。世の人々(大衆)の中にあっても争い合うことはない。 リーダーの立場にいるにもかかわらず、おごり・高ぶれば、たちまちその地位を失い滅んでしまうだろう。部下であって反乱を起こせば、必ず刑罰を受ける。大衆の中で争い合えば、必ず刃傷〔にんじょう〕ざたになるだろうよ。以上の3つの不善のこと(驕・乱・争)が除かれないとすれば、いくら毎日親を、ごちそう・珍味の食事で養ってあげたとしても、やっぱり “不孝”の罪を免れないのだよ。」

● 「驕・乱・争」という不善の行為を行えば、結局は不孝の子を免れません。

・ 「醜」=衆または衆類(仲間)の意  
・ 「兵」=武器の総称ですが、ここでは刃傷殺戮〔にんじょうさつりく〕
・ 「三牲」=神霊に供える 牛・羊・豕〔いのこ:イノシシ・豚〕の最も丁重な犠牲(太牢:たいろう)

○ 個人の孝の実践がよろしければ、社会の秩序は安心であり、道徳的によろしければ、その結果として法的にも問題は起こらないと考えています。

 

論語

「子曰く、中庸〔ちゅうよう〕の徳たる、其れ至れるかな。民鮮〔すく〕なきこと久し。」 
(擁也第 6 −29)

《大意》 中庸の徳というものは、ほんとうに至れる徳であるなあ。しかしながら,(世が乱れてしまって)その中庸の徳が鮮なくなって もう久しいね。

・ 孔子(儒学)の教えは、“中庸の徳”を尊びます。“”は ホド〔程〕よく過不足なく、 “”は平正で不変なことです。後に、孔子の孫である子思が、その教えを明らかにするために『中庸』という本を著すこととなります。

・ 21世紀の我国は、“戦国”の時代ではありませんが、モノの豊かさとはうらはらに人心は乱れ、道徳は忘れられ、この憂〔うれ〕いそのものだと思います。

ちなみに、アニメの名作「千と千尋〔ちひろ〕の神隠し」で、千尋が行きたい“魔女・ゼニーバ”の所へ行ける(40年前の使い残りの)電車の切符、を“かまじい”から受け取るときのやりとりに注目です。 

「行くにはな〜、行けるだろうが、帰りがなー。」・
昔は戻りの電車があったんだが、近頃はいきっぱなしだ。それでも行くかだ!」 
「うん、帰りは線路を歩いてくるからいい」。

そして、電車の線路は、水に浸〔つ〕かり沈みかけていました。 
―― さて、その電車の行き先(電車前面に書いてある)が何処と書いてあったかご存知ですか? 

中道」(=中庸)とありました。
中徳を失った(失いかけている)現代人への寓意〔ぐうい〕でしょうか。 


本学   《 『中庸』 1 》     ( by 『易経』事始 )

● 中庸

・ 「」=人間社会は矛盾の産物、その矛盾(撞着〔どうちゃく〕)したものを結ぶ
   中す・中〔あた〕る ―― 融合・結合 ・・・ 限りない進歩・発展
   “これこそ絶対のもの” =“相反するもの” =“陰の極と陽の極”
   例 :男女が結ばれて子供が生まれる(未来に向かう進歩・発展)
   “神道〔しんとう〕” では “産霊〔むすび〕”/中す=結び・結ぶ・化成

・ 「」=つね・常・並・用いる、平正で常に変わらないこと

・ 「中庸」=常識(常識に適っている、中の精神)。ホド良く過不足のないこと。
  中程(真ん中)の意ではない。正しきをとって正しい向に向かわねばならない
    “折衷〔せっちゅう〕”・・・ 折は、くじく、悪しきをくじき正しきを結ぶ(安岡氏)
    “易姓革命〔えきせい〕” (孟子) ・・・ 中国では、ゼロにして又始めることのくり返し 
       cf. J.ロックの革命思想(抵抗権を認める社会契約説)
    “易世革命〔えきせい〕” (易の六義) ・・・ 世をかえ〔易〕るというより世を修(治)める

 

◎ ヘーゲル弁証法 参考図

ヘーゲル弁証法 参考図




cf.Hegel,W.( ヘーゲル ) ※ 観念弁証法
   Marx,K.( マルクス ) 唯物弁証法(唯物史観)
            ・・・ 弁証法 + フォイエルバッハ唯物論



※ ヘーゲル 観念弁証法

ヘーゲル 観念弁証法


● 「中和」=中と和、和 ・・・ 和合、調和すること

 ○ 「和〔わ・やわらぎ〕を以って貴〔たっと〕しとなし、忤〔さから〕ふること無きを宗〔むね〕とせよ。」
     (聖徳太子、十七条憲法 604年)
 ○ 「礼の用は和を貴となす」  (『論語』・学而第1)
 ○ 「礼は之れ和を以て貴しとなす」  (『礼記』・儒行篇)
 ○ 「君子は和して流れず」  (『中庸』)
 ○ 「喜怒哀楽の未だ発せざる、之を中と謂ふ。発して皆節〔せつ〕に中〔あた〕る、之を和と謂ふ。
    中なる者は、天下の大本〔たいほん〕なり。和なる者は、天下の達道なり。
    中和を致して、天地位し、万物育す。」  (『中庸』・朱子章句第1章2節)
 ○ 「過ぎたるは 猶及ばざるが如し」  (『論語』・先進第11) *陰・陽でも考えてみよう

 ※ 参考 酸(陽)とアルカリ(陰) ―― 「塩(えん)」 ・・・ 人体でも大切

 


易経      ―― 《 象による 64 卦解説 》 (其の4)    

下経

  (続き)

《 49 & 50 のペア 》

49. 革 【沢火かく】 は、あらたまる、かわる

● 改革・革新・変人・易道家、 革〔かわる〕=変革・Change : 破壊し捨てる、
革命 Revolution (クーデター・政変) と 維新 Evolution (進化・日々に新た・・・) 、互卦「天風姤」(秘密)    ※ 「大正」の語源 ―― (「大亨以正」)

cf. “易姓革命”(孟子):「姓を易〔か〕え命を革〔あらた〕む」 中国では ゼロにしてまた始めることのくり返し
        ※ J.ロックの革命思想(抵抗権を認める社会契約説)

易世革命”(易の六義):世をかえるというより世を修(治)める
5爻辞 :「大人虎変す」 面目一新、革命成功の時 (※陽爻)
上爻辞 :「君子豹変す」 行けば凶 (※陰爻)

■ 上卦兌沢で水、下卦離火で 1)水と火と消しあう(相剋)象(※水火の“中”す)
2)離の夏から 兌の秋の季節変化、動物の毛変わり
3)兌の金(属)を離火で熔かす(五行相剋)
4)二女同居してうまくゆかぬ象(離の中女の上に兌の少女がのっていて順序転倒 ―― 変化する、モメる、/矛盾をどう処理するか ―― 中す)

cf. 易道(占)家の良卦 (離は聡明・兌でインスピレーション、「変化」=易、易学は大化・維新の学、革命・改革する人・指導者、先天卦は「需」=儒者=易者 ?)

○ 大象伝 ;「沢中に火あるは革なり。君子以て‘暦’〔こよみ〕を治め時を明らかにす。」
(兌沢の中に離火がある。すなわち、水火相争いどちらが勝っても変わる象。〔対立する二物が並存して推移する象〕。この象にのっとって、君子は、指導者として暦〔農耕暦〕を正しく制定し、季節の四時の推移を明確に示したのです。)

50. 鼎 【火風てい】 は、かなえ

● 三者鼎立〔ていりつ〕、三角関係、養いのナベ(※「かなえ」は、古代中国の三本足の煮炊きする器)、仏教での線香立て(焼香の器) ?
三人で支え三人なら成就(三頭政治) ・・・三国鼎立(魏・蜀・呉)/三本の矢(毛利元就)/三本の剣(「ホラチウス兄弟の誓い」 ダビット)
「革は故きを去るなり、鼎は新しきを取るなり」(雑卦伝) :革は破壊・鼎は建設の意、“革鼎”革と鼎で革命は成功する ex. 信長―秀吉―家康 にて天下安定

■ 下卦が巽木、上卦が離火   1)木を以て火を燃やす象
2)火中に風木を入れて煮炊き〔烹飪:ほうじん〕する象
3)卦象は、鼎をかたどる。初爻は鼎の脚、2・3・4爻の3陽は腹(胴)、5爻は耳、上爻は弦
4)離は明知・明徳、巽は謙遜に順〔したが〕う。明知に順って行動する

○ 大象伝 ;「木の上に火あるは鼎なり、君子以て位を正し命を凝〔な〕す。」
(巽木の上に離火があるのが鼎です。君子は、この〔煮炊きする象にのっとるのではなく〕鼎の美しく安定した形体にのっとって、自分の位置するところを正して、天から与えられた命を成就〔凝す=成す〕するのです)
  


《 51 & 52 のペア 》

51. 震 【しん為雷】 は、うごく・おどろく     

八重卦(純卦)

● 洊雷〔せんらい〕、 雷また雷、音・電磁波・インターネット・Eメール・電子レンジ、
「震は、百里を驚かすも、匕鬯〔ひちょう〕を喪わず。」(卦辞) ;沈着と恐懼修省〔きょうくしゅうせい〕が必要

■ 震雷の上に震雷。震は、振であり動。天にあっては雷、地にあっては地雷。坤の地中に一陽が生じ、地を破って奮い動き出そうとする象。人では長子・後継者。
上下6爻 全て不応。

○ 大象伝 ;「洊〔しき〕りに雷あるは震なり。君子以て恐懼修省す。」
(震雷の上に震雷の象。この象のように、君子は、恐れ慎むことを忘れず、常々よく 徳を修め自分自身を修正し、省みるのです。)

52. 艮 【ごん為山】 は、とどまる     

八重卦(純卦)

● 兼山〔けんざん〕、兼山艮、 山また山、カベまたカベ、“表鬼門”( =丑寅〔うしとら〕 

cf. 鬼門は、気門・生門で 陰陽の気の交替の時であり、元気・生気すべての気が生じます)
“風林火山”の山;「動かざること山の如し」(『孫子』)、地震 ・雷の時は泰山・富士山のように どっしりと落ち着くこと。 「至善に止まる」(『大学』)

cf. 野中 兼山(土佐の人,浅蜊と蛤)、 片山 兼山(上野〔こうずけ〕の人)

cf. 児童心理学での 厳しい山=父のカベ的存在、“双子の黄色い山”=母への愛情への欲求(甘え)、乳房

■ 山また山(双子山)の象。人事では、止まって進まぬ進退、一陽が二陰の上に止まってこれ以上進めず止まっている象。隠居・分限に止まるの象。天に近いのが山 ・・・ 目立つ(出世)。少年同居の象にて無心に遊ぶ。

・ 上下 6爻すべて不応

○ 大象伝 ;「兼ねて山あるは艮なり。君子以て思うこと その位を出でず。」
(山また山でお互い交わらず、止まるべき所に止まっている。このように君子は、〔上にあれば上、下にあれば下で〕自分の職分・才能の分限に止まって、逸脱しないようにするのです。)

※ この一文は 『論語』にあります。「曾子曰く、君子は思うこと其の位を出でず。」
(憲問第14) ;(君子は思い慕うことが、己の本分・職分の外に出ない)


《 53 & 54 のペア 》

53. 漸 【風山ぜん】 は、少しずつ進む    

3吉卦・3大上爻、 愛情4(5)卦

● 正婚・正妻、 賓卦「帰妹」、“小を積んで大となす”、継続の吉
「女の帰〔とつ〕ぐに吉なり」(卦辞)
上爻 「鴻〔こう・かり〕逵〔き〕に漸〔すす〕む。」 ;水鳥が雲(高い天空)を飛ぶ
(意の如くなる)。

■ “山に植林する象”・“千里一歩の意”(新井 白蛾)
下卦が艮山、上卦が巽風・巽木にて
1) 山の上の木が、日を追って漸〔ようや〕く成長する象。
2) 〔男性(艮)が求め〕、女性(巽女)が落ち着いて(艮)求婚を待っている象。
3) 艮の家、その外に巽女が出て行く=嫁ぐ象。

・ 漸は、地天泰の3爻の陰と4爻の陽が交代し、それぞれ正位を得たもの

○ 大象伝 ;「山の上に木あるは漸なり。君子以て賢徳に居りて俗を善くす。」
(艮山の上に巽木が、居るべきところにあって高大であるのは、それが少しずつ成長発展していったからです。このように、君子は、その賢明なる徳を内に止め 漸次進歩発展し、善き風俗を形成するように〔民心に親しむように〕努め続けるのです。)

54. 帰妹 【雷沢きまい】 は、結婚(嫁入り)   

愛情4(5)卦、 帰魂8卦

● 自由恋愛・副妻・愛人、 女の生霊(ジェラシー)、 賓卦 「漸」
「帰妹は女の終りなり」(雑卦伝) ;女〔むすめ〕の終りで、人の妻としての始め
「征〔ゆ〕けば凶なり」(卦辞) ;64卦中 最も警戒を要する
4爻 “鶍〔いすか〕の觜〔はし〕の食い違い”、“待てば海路の日和あり”(晩婚)

■ “少女、男を追うの象” (白蛾)。 
下象・沢の陰気が上蒸して、上象・震の陽気が感じて動く象。 
1) 「漸」と反対で女性(兌)のほうから、〔悦楽の気分で〕男性(震)に婚を求めている象。
2) 2爻から5爻まで、位が正しくない。 
3) 柔(陰)が剛(陽)に乗じている ;(3爻の陰が初・2爻の陽の上に、陰の5爻・上爻が4爻の陽の上に乗って 〔女性が男性を凌いで〕いる。

○ 大象伝 ;「沢上に雷あるは帰妹なり。君子以て終わりを永くし敝〔やぶ〕るるを知る。」
(兌女、悦楽気分で上方の男性を追って失敗する。そこで、君子は、遠くを慮〔おもんばか〕り、物事〔結婚〕が末永く続くように、トラブルが生じることをよく察知して、始めによく深意・慎むように戒めるのです。)

※ 耳に痛い内容です。自由恋愛にせよ見合い結婚にせよ、この大象を よく玩味せねばならない現代の世相でしょう。(高根) 


《 55 & 56 のペア 》

55. 豊 【雷火ほう】 は、

● 豊大に富む、人生のまっさかり
※ 「豐」の字義 : 豆の字は 神前に供物を捧げる器具、上部は 山に木がたくさん茂っている象で、山のようにお供えを盛っている形です

■ 卦象は下卦離火・上卦震雷。
1)雷がとどろき、稲妻が光る象。 (音と光で豊大の極)
2)十分に出来た女性(離の中女)が立派に出来上がった男性(震の長男)に寄り添った象。
3)卦徳では、離は文(明徳・明知)、震は武(活動・行動)にて“文武両道”・盛大。

○ 大象伝 ;「雷電みな至るは豊なり。君子以て獄を折〔さだ〕め、刑を致す。」
(雷鳴と電光が共に至るのが豊の卦象です。このように、君子は、まず下卦の明徳・明知をもって〔訴訟の〕正邪曲直を正し裁定し、上卦震の行動をもって罪有る者には刑罰を執行するのです。)
 
56. 旅 【火山りょ】 は、旅立ち

● 修行の旅、行かねばならぬ旅、孤独な旅人  ※「旅」=進む道の意
芸術・学術・医術など精神的のことは吉

cf. 杜甫、松尾芭蕉〔ばしょう〕・『奥の細道』、 留学 ・・・・ 空海ら(遣唐使節)
坂本竜馬 :“人の言うにまかせよ、我行く道は我のみぞ知る”

■ 下卦 艮山で上卦 離火。   1)山上の火が燃え移って一ヶ所に止まらぬ象。
2)山をめぐって太陽が移り進む象。
3)豊が幽居の象であるのに対して、旅は郷里を離れた外遊の象。
4)下卦艮から上卦離に向かうから、朝から日のある中〔うち〕に旅行する象。
5)止まって(艮)明に麗く(離)から、日暮れになれば、灯火・明らかな館に宿泊する象。 だから、「小しく亨〔とお〕り、貞なれば吉。」(卦辞)

○ 大象伝 ;「山上に日あるは旅なり。君子以て明らかに慎んで刑を用いて獄を留めず。」
(艮山の上に離火があり、燃え移り久しくは留まらないのが旅の卦象です。また、離の明知・明察と艮の断行を意味しています。これにのっとって、君子は、刑罰には明察をもって 慎重の上にも慎重を期し、裁くべきは裁き 訴訟を留めておくようなことはせず、断行するのです。)

cf. (2009現在) 死刑判決確定後の再審請求により(DNA鑑定などで)、無罪(冤罪)となる場合が問題となっています。また、長い期間の審議・裁判も問題です。(高根)


《 57 & 58 のペア 》

57. 巽 【そん為風】 は、したがう。 伏入。    

八重卦(純卦)、 重巽、 随風巽

● 風のように従い従う、風のたより(郵便)、「大人を見るに利〔よ〕ろし。」(卦辞)

cf. フィトアロマテラピー〔植物芳香療法〕の卦 (風―香りー鼻の象) (by.高根)
イソップ 寓話 ・・・ “樫〔かし〕とアシ”・“北風と太陽”

■ 巽は 風・伏入・命令・謙遜に順うの意。どこへでも柔順に入り込んでいく象。
互卦は「火沢睽〔けい〕」であるから、内心背き離れるの意をふくむ。

・ 巽〔したが〕うの2つに意味 : (1)下の者が上の者に巽う  (2)上の者が下の者に巽う (ex. 現代の民主政・選挙 ・・・世論に巽う? 教師が生徒・保護者の要望に巽う教育?それが良いことでしょうか?

・ 初爻・4爻の陰が主爻で、2爻・5爻(中正)の大なる陽に巽順している。

○ 大象伝 ;「随〔したが〕へる風は巽なり。君子以て命を申〔かさ〕ね事を行う。」
(巽為風は、風のあとにまた風が随〔したが〕って吹いている象です。この象にのっとって、君子は、命令が行き渡るようにくり返し丁寧に説き示し〔説明責任を果たし〕、手落ちなくして後実施するのです。〔そうしてこそ、民は皆風のように従い従うのです。〕)
 
58. 兌 【だ為沢】 は、よろこぶ。     

八重卦(純卦)、 麗兌、 麗沢兌

● 悦び・また悦び、“笑う少女”の象、神職・医業(得に歯科)は吉、講習・セミナー、飲食・社交性、女難・色難・Sex

cf. 男の兌・笑う ・・・ 男性苦笑い(仕方がない)、男は苦しい時 笑わねばならない (高根)
「男というものはつらいもの、顔で笑って腹で泣く」 (フーテンの寅さん)

■ 兌は沢。沢は、草木の茂る湿地、止水のあるところ。すべての生物は沢をより所として成長し、悦び、楽しむ。潤沢。季節は秋・実りの秋。
“少女笑う象”(白蛾)、口を開いて笑う・語る象、乙女相随って笑い語る象。

○ 大象伝 ;「麗沢〔りたく :麗は附くの意〕は兌なり。君子以て朋友講習す。」
(沢が2つ並んでいるのが兌の卦です。お互い和悦の心を持って、潤し益し合うのです。このように、君子は、朋友とお互い講習し〔勉学にいそしみ〕潤沢し合って向上し合うように心がけねばなりません。)

cf. 慶応義塾大学 :お互いが教えあった伝統から、今でも「君」づけで教師を呼んでいます(「先生」といえば 福沢諭吉です)


《 59 & 60 のペア 》

59. 渙 【風水かん】 は、散る、離れる

● 散る、離れる。水上の風、吉凶共に散らす、善悪の二面あり
「王有廟にいたる」(卦辞);(民心が渙散せぬよう、万民の艱難が渙散するよう祈る)

・ 兌沢で朋友講習し、各々四方に渙散し大業を成す。やがて結集・結実する。

cf. 幕末〜維新の三大学塾 : 山口・萩の“松下村塾〔しょうかそんじゅく〕”(吉田松陰)、大阪の“適塾”(緒方洪庵)、大分の咸宜園〔かんぎえん〕(広瀬淡窓)。その俊英たちが四方に散って、〔明治維新の〕大業を成しました。

■ 下卦坎水の上に、上卦巽風があり   1)風、水上に在って水を吹き散らす象。
2)風=木 = 舟、帆を張って水上を行くの象。
3)下卦坎の寒気が、上卦巽の春風によって渙散、冬のなごりを春風で吹き散らす(春一番)象。
4)人事では、坎の艱難が、巽の新風によって渙散し、新たなスタートの象。

・ 渙は、「天地否」(天地閉塞)の4爻の陽が2爻に来て、坎水となり、2爻が4爻に位を得て巽風となったと考えられます。天の気 下って雨となり、地の気 昇って風となり、天地の閉塞が渙散するのです。

○ 大象伝 ;「風の水上を行くは渙なり。先王以て帝を享〔まつ〕り廟を立つ。」
(下卦坎の水上を、上卦巽風が吹いて水が飛散するのが渙の象です古の天子は、この象を観て、〔渙散することがないように〕上帝を祭り、廟を建てて祖霊をお祭りして、人心を萃〔あつ〕めるように努められたのです。)

60. 節 【水沢せつ】 は、竹のふし (節は“たけかんむり”)

節目〔ふしめ〕、節度・節制・節操、志節・志操、ダム・・・「止まるなり」(雑卦伝) 
※ 物事ホド〔程〕良く節すれば亨〔とお〕る

cf.“節から芽が出る” ( 教派神道ex.竹のふし、ハスの地下茎など)、 音楽の楽節、
「雁書」・・・ 蘇武〔そぶ〕の“節”

■ 下卦が兌で、上卦が坎水。坎は水で通ずる。兌は止水で止める。竹は、中は空で通じているが止まるところがある。

沢上に水をたたえた象。(※ ―― 水 涸れれば「困」となり、溢れれば「大過」となる。水を調節するダムの作用が「節」 )

・ 5爻は陽剛・中正な天子、2爻は剛健な賢臣が中爻にあって陰柔に流れることを防ぎ、天子と同徳相通じて中庸の節を実現している

○ 大象伝 ;「沢上に水あるは節なり。君子以て数度を制し、徳行を議す。」
(下卦兌沢に程よく上卦坎の水が蓄えられ、ダムのように調整されて安泰な象が節です。このように、君子〔人君・リーダー〕は、もろもろの事柄に制度や規則を定め、人倫の節を説き示し、人〔人臣〕の才知力量・徳や行いを協議〔し任用〕するのです。)

※ 数度 = 礼制・礼数法度〔れいすうはっと〕 :数は多寡、度は法制

cf. 「有子曰く、礼は之れ和を用って貴しとなす。先王の道、これを美となす。小大之に由る。行はれざる所あり、和を知って和すとも、礼を以て之を節せざれば、亦行はるべからざるなり。」 (『論語』 学而第1)


《 61 & 62 のペア 》

61. 中孚 【風沢ちゅうふ】 は、まこと・信にあたる。   

遊魂八卦、 大卦(大離)

● 愛情、“キス・オブ・ファイアー”、からっぽ〔空虚〕、「豚魚にして吉なり」(卦辞)
※ 「」の字義は、爪の下に子がある形、親鳥が爪で卵を抱いている象形。
※ 「豚魚」 ・・・ (1)豚や魚にまで及ぶ。   (2)豚・魚は貧しい人のお供え。
(3)江豚、すなわち黄河イルカ (兌の水中にあって風に口を向けるいるか)。

■ 下卦に兌沢、上卦に巽風。風と水という自然の相応は、人の虚心な信〔まこと〕
1) 沢の口と風の口と相接する(巽=倒兌/大離)、口移しの象、“火の接吻”の象
※互卦は「山雷頤〔さんらいい〕」で、親鳥がくちばしで雛鳥の口にエサを与える象。
2) 親鳥が爪で卵を抱いている象。「孚は卵なり」(4個のタマゴ・・・3・4爻の陰?)
3) 卵の象。3・4爻の陰は 土で黄色から黄味、2・5爻は白味、初・上爻はカラ、陽は円く固く 色は白だから。
4) 舟(風木)沢上を行く象。

○ 大象伝 ;「沢上に風あるは中孚なり。君子以て獄を議し、死を緩〔ゆる〕す。」
(巽風は兌沢上を無心に吹き渡り、沢水はその風に無心に随って波立ちます。この象にのっとって、君子は、孚の心によって刑罰の理非曲直を十分に審議し、あえて厳罰〔死罪〕を科すことなく、寛大に更生の道を開いてやるのです。)

62. 小過 【雷山しょうか】 は、少しく〔陰に〕過ぎる   

遊魂八卦、 大卦(大坎)

● “飛鳥 山を過ぎるの象”(白蛾)、“安分知足”(分に安んじ足るを知る)の意、
「小事には可なり、大事には可ならず。飛鳥これが音を遺〔のこ〕す。」(卦辞)
(上るには宜しからず、下るには宜し、安分知足、謙虚・控え目であれ)

■ “飛鳥 山を過ぎるの象”(白蛾) 倒艮、艮
下卦艮山の上に震雷が鳴っている形  1)山は大、雷は小にて小過。
2) 4陰 2陽、陽は大で陰は小にて 陰が過ぎている(小過)の象。人では陰の気過ぎ、国家社会では小人が大人より過ぎている。
3)飛鳥の象。・・・ 3・4爻の陽爻が胴体、上下の 4陰が広げた翼。

○ 大象伝 ;「山上に雷あるは小過なり。君子以て行ないは恭に過ぎ、喪は哀に過ぎ、用は倹に過ぐ。」
(艮の山の上に雷が鳴り渡っていますが、その音の程度は 小〔すこ〕し過ぎているだけです。この象にのっとって、君子は、日常の行いはむしろ恭敬に過ぎるほどに慎み、喪では哀しみ過ぎるほどに悼み、日用の出費は倹約に過ぎるほどに節します。〔恭・哀・倹に過ぎることは、小過の卦義によく適っているのです。〕)

cf. 寸暇を惜しんで、過ぎるほどに学びたいものです! (高根)


《 63 & 64 のペアー 》

63. 既済 【水火きさい/きせい】 は、すでに成る、ととのう

● 「既〔おわ〕り 済〔す〕む」、“有終の道(美)”、成就・完成、ジ・エンド 〔THE  END〕、 不良、 「初めは吉にして、終わりは乱る」(卦辞)
“月満つれば欠ける”・・・変化に備えること、 先天卦「地天泰」・・・泰平の世も永くは続かない
・ 初爻辞 「その輪を曳〔ひ〕き、その尾を濡らす。咎なし。」 ―― 64未済辞解説参照のこと

■ 上卦 坎水、下卦 離火
1) 6爻全てが正しい位にある。下卦の中爻には陰爻、上卦の中爻には陽爻が位置している。 正位・中正・正応・正比。 64卦中唯一の完全なる卦象
※互卦をみると「未済」を含む
2)火は下(卦)より炎上し、水は上(卦)より潤下する。水火相交わり、各々その用を済〔な〕す。  ex. 火と水で湯が沸き、料理が出来る
3)火に水を注いで、火の消える象。 夫婦不和の象

○ 大象伝 ;「水の火上に在るは既済なり。君子以て患を思いて豫〔あらか〕じめこれを防ぐ。」
(水の性は潤下し、火の性は炎上し、相交わり相資って用を済す卦象です。しかし同時に、バランスを崩すと水・火相剋し滅ぼしてしまいます。この象にのっとって、君子は、その後の憂患すべきこと困難を慮って、あらかじめそれを防ぐ手立てを講ずるのです。)
※ 「患を思う」は坎難の象、「豫め防ぐ」は離明の象

64. 未済 【火水みさい/びせい】 は、未完成      

64卦 最終卦

● 最終の卦=人生に完成はない、 無終の道=循環・無始無終、 
  ―― 「物に本末あり、事に終始あり。」 (『大学』 始終ではない)
  英語の「卒業」“Commencement ; コメンスメント”は、始まりの意
先天卦 「天地否」 ・・・「泰」・「否」の相対
“花落ちて実結ぶの意”(白蛾) :後に楽しみあり ―― 中論 /
  ヘーゲル弁証法の「合」〔ジンテーゼ〕/アウフヘーベン〔止揚・楊棄・中す〕
「小狐ほとんど済〔わた〕らんとして、その尾を濡らす。」(卦辞)

※ 未済初爻にも「その尾をぬらす」とある、    小狐=子狐、 狐は坎の象
  「済」の字義:(1)わたル、わたス ・・・(川を)渡る、渡す
  (2)なス、なル ・・・なしとげる、できあがる
  (3)すくウ ・・・救う、助ける

cf.チャーハン、準備万端ととのったり ーーあとは炒めるだけ
エジソン、“99%の努力と 1%のインスピレーシヨン” ーー大事なのは、1%のほう!

■ 上卦 離火、下卦 坎水
1) 6爻全てが、陰陽逆で正位を得ていない。下卦の中爻の陰位には陽爻が、上卦の中爻の陽位には陰爻が位置している。しかし、全て正応・正比。
※ 互卦は「既済」、未済の中に完成の意を包む
2)上卦の火は上にあって炎上し、下卦の水は下にあって潤下する。水火交わらず用を成さない象。
3)光明(離)を望んで険(坎)を済〔わた〕る象。
4)女性上位の象。 ( ※「地天泰」も女性上位)

○ 大象伝 ;「火の水上に在るは未済なり。君子以て慎みて物を辨〔べん〕じて方〔ほう〕に居〔お〕く。」
(火の性は炎上し 水の性は潤下するので、両者は相交わることなく、功用を発揮することが出来ず物を済わせない象です。しかし反面で、火・水は、相異なるものとして居るべき所に存在している象でもあります。この視点にのっとって、君子は、慎重の上にも慎重にもろもろの事物を弁別して、それぞれをその居るべき場所・位地・方位に置くのです。)


§. “〔 Dragon ; ドラゴン〕” から “小狐〔 Little Fox 〕” ・・・・・

◎ 『易経』も『論語』も ーー 無始無終円通自在
 
「未済はまた新たな咸を体することであり、乾を始めることでもある。かくして、ずっと限りなく循環していく。無始無終であり、無限の循環は尽きることがない。我々はここに六十四卦の偉大な循環連鎖をみることができるのであって、これがいわゆる『大易』というものです。」
                             ( 安岡 正篤 『易と健康(上) 易とはなにか』 )

                                              (以 上)


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第十八回 定例講習 (2009年2月8日)


第十八回 定例講習 (2009年2月)



孝経   ( 紀孝行章 第10 ― 《1》 )

 “ 子曰く、孝子の親に事〔つか〕うるや、 〔きょ/おる〕には則ち其の敬を致し、 〔やしない〕には則ち其の楽〔たのしみ〕を致し、 〔やまい〕には則ち其の憂〔うれい〕を致し、 には則ち其の哀〔かなしみ〕を致し、 〔まつり〕には則ち其の厳〔げん〕を致す。  五者備わる。 然る後、能く親に事うるなり。”

 《大意》 孔先生がおっしゃいました。「孝行な子が親につかえるには、どのようにすべきだろうね。ふだん(親が)家に居〔い〕るときには心から敬意を尽くし、(衣食日常)養うときには心から楽しんで(うれしそうな顔つきで)するようにし、病気のときには心から心配し、(もし)亡くなったときには心から哀〔かな〕しみ、御霊〔みたま〕を祭るときには心からおごそかにする、ということが大切だね。この 5つの善い事ができてはじめて、子として親へのつとめを果たしたということができるのだよ。」

 ● ・ 「紀」=記 に通じて、記録するの意。孝行についてのことを紀〔しる〕す章。
     孔子が具体的なアドバイスとして、5つの善事の奨励、3つの不善の戒めを述べられました。
    ・ 「居・養」=親が元気であるときの、現実生活の基本として《敬》と《愛》のことを述べています。

 ○  「子曰く、生けるにはこれに事〔つか〕うるに礼を以てし、
     死すればこれを葬〔ほうむ〕るに礼を以てし、これを祭るに礼をもってす。」 (『論語』・為政第2)

論語

 「 過ぎたるは 猶〔なお〕及ばざるが如し 」 (先進第 11 −16)

 “”は、代表的な再読文字で“なお 〜 ごと シ”と、二度読みます。再読文字の学習の意味からも、漢文でよく出てくる おなじみの一節です。

 《大意》 やり過ぎるのは、やり足りないのと同じようなものだ(どちらもよくない)の意です。過不足のない、中庸〔ちゅうよう〕 を得ていることが大切であることを述べた章です。 孔子に問うた 子貢は、やり過ぎた(師〔子張〕という弟子)のほうが、及ばぬ(商〔子夏〕という弟子)よりもよい(マシ)と思ったようですね。それに対する孔子の答えがこれです。

私は、以上の一般的説明の後で、学生に“皆さんはどう思いますか?” “孔子の真意はどうなのでしょう?”と問いかけることにしています。(例えば、言い過ぎて人を傷つける場合と 言うべきことが言い足りない場合との比較です)
学生達の答えはさまざまですが、私は“孔子は及ばないほうが優れていると考えている”と思います。徳川家康も同じ捉え方のようで、「東照君遺訓」の中に
「人の一生は 重き荷を負うて遠き道を行くがごとし。 ―― 及ばざるは 過ぎたるに勝れり。」とあります。
 
 

本学    《 中庸 入門 》    ( by 『易経』事始 )

‘ (I am the sun god, Apollo. )
Think of the responsibility I have !  The skies and the earth must receive their share of heat.  If the chariot goes too high, the heavenly homes will burn.  If it goes too low, the earth will be set on fire.
I can not take either of these roads.  There must be some balance.
This is true of life, itself.  The middle course is the safest and best. ’

〔 Phaёthon “ Popular Greek Myths” 〕

《大意》 「(私は、太陽の神・アポロである。) 私が担っている責任の重さを想ってもみよ! 天と地には、それぞれ相応の熱を与え得ねばならぬのだ。もし、(太陽の2輪)馬車の運行する道筋があまり高すぎれば、天の御殿が燃えてしまうだろう。低きにすぎれば地上は火事となるだろう。
私は、そういう(2つの極端な)道をとるわけにはいかぬのだ。 それなりのバランスというものをはからねばならぬのだ。 このことは、人生そのものにも当てはまる。 中庸の道こそが最も安全で、また善き道なのだ。

〔 パエトン・『ギリシア神話』 〕


§.「中(ちゅう)」の思想 (『中庸』・中道・中徳・中の説…中の学問・弁証法

○ 「そこで、この陰陽相対性理法によってものごとの進化というものが行われるのですが、
  この無限の進化を『中』という。だから易は陰、陽、中の理法であり学問である。」
   (『易とはなにか』、安岡正篤)
○ 「中行にして咎无(とがな)し」 (『易経』・夬九五)
○ 「子日く、中庸の徳たる、其れ至れるかな。民鮮(すく)なきこと久し。」 (『論語』・雍也第6)

(中庸ということの道徳としての価値は、最高のものであるなあ。しかしながら世が末世になって、中庸の徳の鮮ないことはもう久しいことだなあ。)
    
・ 易は、「 中=むすび 」である。 
  易の最も重視するものが “時中(時に中す)” = 中道に合致すること。 ※時中=中節
・ 東洋の儒教、仏教、老荘―(道教) ・・・は、すべて中論   
・ 西洋の弁証法(論理学の正・反・合) ―― ヘーゲル弁証法、アウフヘーベン(止揚・揚棄)

● 中=「むすび(産霊)」・天地万物を生成すること   

  ○ 「天地因縕〔いんうん〕として、万物化醇す。男女精を構(あ)わせて〔構=媾精〕,万物化生す。
    易に曰く、三人いけば一人を損す。一人行けば其の友を得、と。致一なるを言うなり。」 
    (繋辞下伝)
    (天地も男女も二つ〔ペアー〕であればこそ一つにまとまり得るとの意)
  ※ 参考 ・・・ 日本の「国学」、神道(しんとう)、随神(かんながら)の道
     ―― 天御中主神 〔あめのみなかぬしのかみ〕;天の中心的存在の主宰神
   
● 中=なか・あたる、「ホド(程)」、ホドホド…あんばい(塩梅・按配)する、良いあんばい、調整、
   いい加減=良い加減=中道・中庸、 中庸は天秤〔てんびん〕=バランス=状況によって動く
   ♪“ホドの良いのにほだされて…”(「お座敷小唄」) “千と千尋の神隠し”の「中道」行き電車、
   “ヴントの中庸説”、 入浴の温度、 飲み物(茶・酒)の湯加減、 
   スポーツ競技での複数審査員の合算評点法 ・・・ etc.

  1)静的(スタティック・真ん中)なものではなく、動的(カイネティック、ダイナミック)
  2)両方の矛盾を統一して、一段高いところへ進む過程、無限の進化
     例 ―「中国」、「中華」、「黄中」、「心中〔しんじゅう、心・中す、=情死〕、「折中」
   ※ 参考 ―“中(なか、あたり)” さん〔人名〕、大学・中学・小学、「中学」は違う!


 ◎ 中庸参考図 (棒ばかり)

棒ばかり
 


 

 

易経      ―― 《 象による 64 卦解説 》 (其の3)

下経

※ 上経は乾&坤、下経の冒頭は咸&恒。(上経の「屯」にあたる)
 「乾坤2卦が 天地万物を創るのと同じく、咸恒2卦から人生万般の問題が生まれる。」
  (『易と健康(上) 易とはなにか』)


《 31 & 32 のペア 》

31.咸 【沢山かん】  は“”。

愛情4(5)卦〔咸・恒・漸・帰妹・(姤)〕、 包卦(坤中に乾)

● 感じて応〔こた〕える、 恋愛の卦、“咸臨丸”スタート、「女を取〔めと〕るは吉なり」(卦辞)

■ 恋愛=男女(艮と兌)の相思・相愛。陰陽が互いに引き合い感じ合う象(艮と兌が表裏をなす)。男性(艮の少年)が 下にあって女性(兌の少女)に想〔おもい〕をよせる象。山と沢は 相互に感じあって相補うもの(艮山の気は下がり、兌沢の気は上がり交わる自然の咸の象)。

○ 大象伝;「山上に沢あるは、咸なり。君子以て虚にして人を受く。」
(自然界で、兌沢の水は 下って艮山の土を潤し受容されます。人間界では、山の高きをもって沢の卑〔ひく〕きに下るのです。このように君子も、おのれの心を空しくして、先入観なく 素直に人の言葉・誠意を受け入れるのです。)

32.恒 【雷風こう】 は恒常・久しい。

愛情4(5)卦、 包卦(坤中に乾)

● 幾久しく変わらぬ愛情、結婚・夫婦の卦

※「亘」(わた・る)の字義 :下の「一」は地平線・日は太陽・太陽が地平線から出て昇って沈む(その動きが上の「一」)を表している

cf. 孟子の“恒産〔こうさん〕”(安定した収入)

「曰く 恒産無くして恒心有る者は 惟〔これ〕士のみ能くすと為す。民の如きは則ち 恒産無ければ因りて恒心無し。苟〔いやしく〕も恒心無ければ放・辟・邪・侈・無さざる無し。」  (『孟子』 梁恵王下)

■ 結婚・夫婦 = 成男と成女(震と巽)との相愛。若者(艮)は夫(震)となり 少女(兌)も婦(巽)となり、位置も夫が外・上(卦)になり 婦が内・下(卦)と変わっています。 夫は外に向かってよく働き 婦は内でよく随〔したが〕っています。 各爻の陰陽が正しく応じています。

○ 大象伝;「雷風は、恒なり。君子以て立ちて方を易〔か〕えず。」
(自然界で、雷と風が上下あるべくあって 助けあって万物を化成してゆきます。このように、君子も 自らの立つべき所に自立し、自分の進むべき進路、方向・方針を変えないのです。)

cf.“ Hic Rodhos, Hic Salta!〔ここがロドスだ ここで跳べ!〕” (ヘーゲル)


《 33 & 34 のペア 》

33. 遯 【天山とん】 は逃れ退く

精神性3卦 (観・无妄・遯)、大卦(大巽)、消長12卦 (7月)

● 解脱〔げだつ〕達観、「時と與〔とも〕に 行うなり」(彖伝)、孤高、天国、“壺中〔こちゅう〕の天

cf.朱晦庵〔しゅかいあん〕 = 朱子(朱熹)が自ら 「遯翁」と号す 

※ 明夷は地中に追いやられ、遯は 高地にいる 

■ 山の上に天。
1)乾の君子が高地(艮山)に 隠遯 している象。
2) また 二陰の小人(初爻と2爻)が勢いを増して陽の君子が押されていく、が 「天地否」には至らぬ)象。

・ 2爻と5爻が正応。

○ 大象伝;「天の下に山あるは、遯なり。君子以て小人を遠ざけ、悪〔にく〕まずして厳しくす。」
(山は天に迫ってそびえていますが、山高くとも天にとどかずです。この象にのっとって、君子は、小人を遠ざけるのに、憎しみをもってではなく 自然に近づくことが出来ないように、自分を厳正にすることが大切です。)

34. 大壮 【雷天たいそう】 は、陽(大)気壮〔さか〕ん

大卦(大兌)、12消長卦 (3月)

● 青信号・進めの卦、牡羊登場(3爻)突進・上爻身動き出来ない、猪突猛進

■ 上卦(震)・下卦(乾)ともに陽であり、雷が天上に鳴り 剛健にして動き 陽気壮んの象。初爻から4爻まで陽で、君子の道が長じている形。 地天泰の一段進んだ形。

○ 大象伝;「雷の天上に在るは、大壮なり。君子以て礼にあらざれば 履〔ふ〕まず。」
(震雷が乾の天上に鳴っています。万物を生成するとともに、パワー〔威力〕を示しているのです。この象のように、君子は、克己し 礼に外れた行動をするものではありません。)

※ 乾天 = 礼儀(公明正大)、  震雷 = 履む

cf.「礼は 天の経なり、地の義なり、民の行いなり」 (『春秋左氏伝』)


《 35 & 36 のペア 》

35.晋 【火地しん】 は、すすむ

三吉卦、遊魂八卦、高根流 日の4(5)卦 〔升・晋・賁・明夷・(大有)〕

● 地上(真上)の太陽、中年壮年、昼、晋(すすむ)・進め(5爻)、 
4爻 大ネズミ登場(鼫鼠;〔せきそ〕、 384爻のうち最悪人の意)

cf. 人名 ・・・ 安倍 晋三 元総理、 高杉 晋作

■ 地(坤)上の太陽(離)にて、太陽が地を照らしている象。臣下が、大明・明徳の天子(君主)に 付き従う象意。

○ 大象伝;「明 地上に出づるは晋なり。君子以て自ら明徳を昭〔あきら〕かにす。」
(離明の太陽が、昇り進んで 地上を照らしています。この象のように、君子は、自らが持っている明徳を輝かせるよう努めるのです。)

cf.「大学の道は 明徳らかにするにあり」 (『大学』)

36.明夷 【地火めいい】 は、明るいもののやぶれること

遊魂八卦、高根流日の4(5)卦

● 地中の太陽、“君子の道 閉ざされ、小人はびこる”、夕暮れ、夜の卦

cf.“天の盤戸〔いわと〕開き”、ヨーロッパ中世の“暗黒時代” ―― ルネサンスで復活、「地雷復」の卦

※ 今の時代 = 徳のない時代、蒙〔くら〕い時代

■ 地(坤)中の太陽(離)にて、正しきものが 傷つけられ やぶられる。夜の象。正論の通らぬ時代。“暗黒時代” 。

○ 大象伝;「明の地中に入るは明夷なり。君子以て衆に莅〔のぞ〕み、晦〔くら〕きを用いて(しかも)明らかなり。」
(離明が地中に入っています。この象にのっとって、君子は 衆民に臨むにあたり、あまり細かいことに立ち入らず、聡明さを隠しておき 衆民を親しませます。それでいて、内には 明徳・明察を失わないようにするのです。)

※ 晦〔くら〕い処にいて、明るい方をみれば、すべてが はっきり見えます。自分自身は、目だたぬようにしましょう。

cf.馬鹿殿 (馬鹿になれる殿 = 名君)、班超(―― 細かいことは言わぬ。“虎穴にいらずんば虎子を得ず”)


《 37 & 38 のペア 》

37.家人 【風火かじん】 は、家庭の人・家族 

包卦(乾中に坎)

● 家庭の平和・調和、家を斉〔ととの〕える道(家庭の平和は女が貞正に婦道を守って実現)、男の発展・女の縁談

4爻・・・女性しっかりして大吉(陰爻)    5爻・・・男性しっかりして大吉(陽爻)

※ 火は物事を進めるエネルギー、文明のみなもとは 「」と「石のカケラ

■ 1)風(巽)が火(離)を燃やす。  2)長女(巽)と次女(離)並ぶ象。 
 3)下卦の離女が、巽女の下位で柔順に随〔したが〕っていて、長幼の序 正しき象。

・ 離の主爻 2爻は(陰爻を以て陰位にいて) 中正を得、巽の主爻  4爻も陰爻で陰位に 正位している。 5爻も、陽爻陽位にて 正位。

○ 大象伝 ;「風の火より出づるは家人なり。君子以て言には物あり。行いには恒〔つね〕あり。」
(巽風・離火は、火が燃えて風が生ずる象。このように君子は、言〔ことば〕には、それ相応の法(理由・実体)があるべきで、行ないには徳にのっとった一定の方針を持ち、不変性・恒久性を持たなければなりません。)

cf. 現在、本来の意味での家庭・家族が崩壊して、ただ同居生活しているだけになりつつあると思います。(高根)

38. 睽 【火沢けい】 は、そむく・異なる。

包卦(乾中に坎)

● 嫁と姑、二女反目。女性同士の背反 (先天卦「訟」は 男性同士の背反)。
   「小事に吉なり」(卦辞)

■ 1)二女反目 :姑〔しゅうとめ〕と嫁 (離女と兌女)、下卦(内卦)の兌女は内に留まって悦び、上卦(外卦)の離女は うとんざれて外に行こうとしている象。
2)火と水で背反 :上卦の離火は 燃えて上へ昇り、下卦の兌沢は流れて降り、乖〔そむ〕き離れる象。

・ 中庸の徳をもって、2爻、5爻の中爻は 相応じている。兌の和悦をもって、離の明徳に付き従ってゆく、と捉えられます。

cf. 「睽」のへんは「目」で離・陽の火、右側は「癸」で陰の水。

注) 五行思想では、水と火は 相剋〔ライバル関係〕です。 が、易では水と火の相対立するものを止揚 〔中、アウフヘーベン〕して、価値の高い 新しいものがうみだされると考えます。(元来 天地万物、皆 矛盾するところがあります。)相反し、剋し合っておわるものではありません。 例えば、水と火でお湯が沸き生米から 美味しいごはんを炊くことができます。

○ 大象伝 ;「上に火、下に沢あるは睽なり。君子以て同じくして異なる。」
(上卦に離火、火卦に兌沢があり そむきあっている。この象のように、君子は その志すところは一〔いつ〕ですが、水火・陰陽のように表面的なものは同じではありません。大同の中の異なるもの、を知っておかねばなりません。)


《 39 & 40 のペア 》

39. 蹇 【水山けん】 は、足の不自由・行き悩む

3(4)難卦、包卦(坤中に離)

● 寒さに足が凍えて進めない、足止めストップ、「西南に利ろし」(卦辞)、「難〔むずかし〕きなり」(序卦伝)

cf. 『蹇蹇録〔けんけんろく〕』 (陸奥宗光〔むつむねみつ〕) ―― “蹇蹇匪躬〔けんけんひきゅう〕”(みのことにあらず : 自分の名誉や富貴のためではなの意)。

「四面楚歌」( 『史記』 ・“時利あらずして騅〔すい〕ゆかず” 〕。
“艱難〔かんなん〕、汝を玉にす”

■ 自然界では、手前に艮の山、向こうに水の険難、2・3・4爻も坎を形づくり険   難が重なっている形。前途の坎険に対して、艮の足止めストップするのがよい。
「険(上卦の坎)を見て能く止まる(下卦の艮山)、知なるかな。」(彖伝〔たんでん〕) また、坎を冬とし 艮を山とするので、冬山で行き悩むの象。

○ 大象伝 ;「山上に水あるは蹇なり。君子以て身に反〔かえ〕りて徳を修む。」
(艮山の困難の上に 更に坎水で、上下共に行き悩む。このような時に、君子は、ただわが身に反〔かえ〕って 省みて、ますます徳を修めることで解決をはかるのです。)

cf.「行なひて得ざるものあれば、皆反りこれを己にもとむ」 (『孟子』・離婁上)

40. 解 【雷水かい】 は、とける・ちらす

包卦(坤中に離)

● 春の雪解け。(1)悩みが解ける・解決 と (2)解約・解消の二意があり解釈は難しい。「渙」も散らすの意。

■ 1)雷(震)と水(坎)で、雷雨の象。=巣籠りの虫が這〔は〕い出し、啓蟄〔けいちつ〕。
2)下卦の坎は艱難・冬・寒、上卦の震は活動・春・スタートの意。 
3)「蹇」の処置よく 「蹇」の外に出た象。 
4)坎の冬の苦しさから脱し 春到来の象。 
5)坎水の険難凌いで(解消して)、その外に動く(新たなスタート)の象。

○ 大象伝 ;「雷雨作〔おこ〕るは解なり。君子以て過を赫〔ゆる〕し罪を宥〔なだ〕む。」
(雷雨起こり、天地の閉塞を解消して新たに生命が活動・生長する。このように、君子は時機をみて 過失をおかした者を赦〔ゆる〕し、罪をおかした者も寛大な処置をとり、人心を一新 のびのびとするようにはかるのです。)

cf. 「稲妻〔イナズマ〕」: 古代人は、雷によって陰陽交流し、稲が実ると考えました。


《 41 & 42 のペア 》

41. 損 【山沢そん】 は、へらす 

包卦(乾中に坤)。

● “損益の卦”、上経の“泰否の卦”と好一対、賓卦 「益」、 「遜」にも通じへりくだり奉仕する、“損して得とれ”、“ Give and Take ”―― まず与える 易は損が先、 正しい投資

5爻 「十朋〔じっぽう〕の亀〔き〕」(神占をするための高価な霊亀)登場、元吉

cf. 貝原 益軒・・・ 84歳で死ぬ1・2年前に 「益軒」を名のる、それまでは「損軒」

■ 沢は地表面が減損したものですから、沢が深いほど山は高い。
1)地天泰であったものが、3爻の一陽を減らして上爻に益した象。即ち、内を損して外を益した象。 
2)外、私の心を去って動ぜず(艮山)、内、悦んで(兌沢)修養努力する象。

○ 大象伝 ;「山下に沢あるは損なり。君子以て忿〔いか〕りを懲〔こ〕らし欲を〔ふさ〕ぐ。」
(沢は地表面が減損して、それが山となっている、自然の理です。そこから君子は、損することの道理を悟り、自分を抑え怒らぬように節制し、私欲・欲望を抑え 塞ぎ止めるようにするのです。)


42. 益 【風雷えき】 は、ます・ふやす

包卦(乾中に坤)

● 益する道、損(正しい投資)があって益あり、  賓卦 「損」
「損して已〔や〕まざれば必ず益す」(序卦伝)、 2爻 「十朋の亀」、永貞吉

■ 1)動いて(震雷)従う(巽風)象。   2)上より下にくだる。 「否」の4爻と初爻が入れかわったもので、上を損じて下を益すの象。 
3)雷(震)の裏卦が風(巽)で、陽陰共存の象。

○ 大象伝 ;「風雷は益なり。君子以て善を見ればすなわち遷〔うつ〕り、過ちあればすなわち改む。」
(風と雷は、互いに助け益します。そのように 君子は、自分の徳義が益するように、善いと見れば就〔つ〕き従って動き、自分に過失があれば勇気をもって改めるのです。)

cf. 『論語』より ; 「利に放〔よ〕りて行へば怨み多し。」 (里仁第4)
「君子は義に喩〔さと〕る。小人は利に喩る。」 (里仁第4)
「過〔あやま〕っては則ち改むるに憚〔はばか〕ること勿〔なか〕れ。」(学而第1、子罕第9)
 


《 43 & 44 のペア 》

43. 夬 【沢天かい】 は、決なり

準四難卦、 12消長卦 (4月)

● よほどの決心・決定(勇断果決)、堤防決壊(ぶちこわし)、 君子夬夬(決めるべきをきめる) ―― “真の知とは決断すること”
初爻 “ならぬ堪忍するが堪忍”
5爻 「莧陸〔けんりく〕、夬夬。中行にして咎なし」 (「山ごぼう」引き抜いて吉、中行 = 中庸)

■ 五陽進み 上爻に迫る、一陰の小人を五陽の君子が消し去ろうとしている象。
健(乾)にして悦ぶ(兌)。 上爻の陰(小人)は、5爻の天子に親しくして高位にあってよからぬ策を弄している。弁舌はたくみ。 決して和する象。

○ 大象伝 ;「沢の天に上るは夬なり。君子以て禄を施して下に及ぼし、徳に居ることはすなわち忌む。」
(沢の気である水が、天に上り 必ずまたあふれて雨となって下り万物を潤わせます。この象にのっとって、君子は、俸禄を施し恵みを万民に及ぼすのです。ただ、自分が沢徳を積み それを蓄え止めておくことを 戒め・忌み嫌う〔分かち合う〕のです。)


44. 姤 【天風こう】 は、遇う、出会うこと 

愛情5卦、 12消長卦 (6月)

● 思わぬめぐり会い、邂逅〔かいこう〕、「女壮〔さかん〕なり」(卦辞)、女性は玉の輿(シンデレラ?)、女性との出会いで発展(男女とも)
5爻辞 ;「章〔あや〕を含めば、天より隕〔お〕つることあり。」 天恵あり、幸福がふってくる。 章 = 知識・才能・徳、寵愛 

■ 夬の上爻の陰が下に回った五陽一陰卦。 「地雷復」の錯卦( = 裏卦、復の陰陽逆の卦)、 12消長卦にて陰がやがて勢いを増す ―― 陰気上昇、「女壮なり」

○ 大象伝 ;「天の下に風あるは姤なり。后〔きみ〕以て命を施して四方〔しほう〕に誥〔つ〕ぐ」
(上卦乾天の下に、下卦巽の風が吹いています。風は、天の下を吹き渡ってあまねく触れ風靡〔ふうび〕していきます。このように、君子は、命令を発布してあまねく 四方の民に告げ教化するのです。)


《 45 & 46 のペア 》 

45. 萃 【沢地すい】 は、あつまる。

● 人やモノがあつまる、 冠婚葬祭、 祭祀の卦(先祖を祭る)、 万民・人心あつまる、 選挙吉

cf. 「抜萃」=エリート :雑然とあるものの中から抜いて萃める。人材登用、抜擢

■ 坤地の上に兌沢。  1)地に秋の収穫の潤沢あり、悦び・豊作の象。 
2)兌を巫女 坤を衆民とし、天子が祭祀をして万民・人心これに従い集る象。  
3)兌を悦び 坤を柔順とし、悦びもって万民 萃〔あつ〕まる象。「順〔したが〕って悦ぶ」(彖伝)
4)沢水が地上にあつまって万物を潤します。 ※ 沢水 地にあつまる象を、占家は 洪水あるも豊作と判断するといいます。 ―― “エジプトはナイルの賜物”(ヘロドトス)《 by.高根 》

・2爻と5爻、正位正応

○ 大象伝 ;「沢の地に上るは、萃なり。君子以て 戎器〔じゅうき〕を除〔おさ〕め、不虞〔ふぐ〕を戒〔いまし〕む。」
(沢が地の上にある。すなわち 人・モノがたくさん集った象であり、また 水高きにあって決壊・氾濫するかも知れない象です。この象にのっとって、君子は、平素から武器を修理整備して不測の事態に備えるのです。)

※ 除〔おさ〕め=治める、修理・整備する。3・4・5爻の巽、整えるの意。
※ 「治に居て乱を忘れず」 (易経・繋辞伝)

46. 升 【地風しょう】 は、のぼる 

3吉卦 (晋・昇・漸)、 高根流 日の卦

● 順を追って昇り進む、昇天、先祖を祭って開運、「南征して吉」(卦辞)
5爻辞 「貞しければ吉なり。階〔きざはし〕に昇る。」(女性 “玉の輿”)

■ 下卦 巽風で、上卦 坤地 
1)巽風はまた木、木が地中から生長・大きくなる象。向上発展。
2)また、地中の巽木は 木の根であり芽です。3・4・5爻に震があり、その芽が 震の伸長発展の気をもって 上に昇り進む〔生長していく〕象。
3)卦徳、下卦巽は謙遜、上卦坤は柔順。謙遜に柔和して正道に従って高位に昇る(出世する)ことが出来ます。

・2爻と3爻、中庸の徳あり、正位正応

○ 大象伝 ;「地中に木を生ずるは升なり。君子以て徳に順〔したが〕い、小を積みて以て高大なり。」
(坤地の中に巽木が生じて生長発展して大きく上昇していく象。このように、君子は、〔木が時に従い、天に従って生長することを悟り〕自ら慎んで、徳を修め徳に従うことに心がけ、小さな善事・小さな才徳を積み重ねて高大なものに到達するように努めるのです。)


《 47 & 48 のペア 》

47. 困 【沢水こん】 は、くるしむ、なやむ 

三難卦。

● 困難、“艱難辛苦”、“粒粒辛苦”、“四面楚歌”、「大人は吉にして咎なし」(卦辞)
“精神一到 何事か成らざらん”
※「困」の字義は、囲いの中の木。行き詰まって困り、苦しく悩むこと
5爻 “艱難〔かんなん〕汝を玉にす”・‘Adversity make a man wise.’(逆境は、人を賢くする。) 祭祀することで開運 
※神はその人(の能力)にみあった試練(苦労)を与えるものです!(高根)

■ 沢の止水が下に漏れ枯れている象。“漏水枯渇の象。 2爻の陽が初爻と3爻の陰に、4爻と5爻の陽が3爻・上爻の陰におおわれている象。(君子が小人におおわれて困窮している形)

2爻は陰位に剛健(陽)にして中徳,5爻は中正にて中徳を持っている。

○ 大象伝 ;「沢に水なきは困なり。君子以て命を致し志を遂〔と〕ぐ。」
(沢の水が下に漏れて枯れ窮まるのが困の卦象です。これにのっとって、君子は、困難な時に臨んでは、どんなことにも 一命を投げ打って初志を貫いて、志・目的を遂行達成するのです。)

48. 井 【水風せい】 は、井戸

● 恵みの井戸、 「丼」は井戸とつるべ(「丼」は井戸の古字、「、」は釣瓶)、 男性と女性(色情問題・性行為)

※ 難問題に行き詰まり、反省・内省して自己を深めることを、井戸掘りになぞらえて物語っています

上爻 :万人に分かち合う(人のために尽くすことでうまくゆく) ―― ※ 64卦の中で陰爻で卦極にあって“元吉”と書かれているものはこの卦だけ

cf. “オピニオン・リーダー”、“ポンプの呼び水”/ 「寒泉精舎」、岡田寒泉の雅号

■ 下卦に巽木・上卦に坎水。巽は 木・伏入・往来、坎の水の中に巽木が伏入して水を汲み上げる象。険難を前に自ら修める象。

瓶〔つるべ〕=釣瓶は、巽の象。2・3・4爻の兌で水の容器とし、また3.4.5爻の離で中虚・容器とする。

井戸とつるべ=男女の象 :(1)水の陽と風の陰、(2)深層心理学的解釈による (by. 高根)

cf. 易道(占)家の良卦 (坎水は宗教性、巽風は神職・インスピレーシヨン、井戸のまわりに人が集るごとく人が相談に集るからか?)

○ 大象伝 ;「木の上に水あるは井なり。君子以て民を労〔ねぎら〕い 勧め相〔たす〕く。」
(水火風木で、井戸に釣瓶を入れ水を上に汲み出す象。この象にのっとって、君子は、善政を行って民を労い いたわると共に、民を励ましお互いに協力することを勧め、助け合うようにするのです。)


                                     (以 上)


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第十五回 定例講習 (2008年11月) vol.4

vol.3の続きです。

《 29 & 30 のペア 》

29. 坎水 【かん為すい】  は、みず

8重(純)卦、3難卦、習坎

● 水また水、水はなやみ、移動・智恵、気学一白水性、弁護士・法律家、盗人、
   “知識の泉” 、 a walking dictionary [encyclopedia]〔生き字引〕、
   ・ “坎とは陥〔おちい〕るなり”(序卦伝) ・・・いかにして艱難辛苦を処理していくかという
     “意志の原則”― 「艱難、汝を玉にす」
   ・ 「険の時用大なるかな」(彖伝) ・・・険をその時々に適応して用いることは、
     大いに重要・必要なことである。
  cf. 黒田如水(官兵衛:秀吉の軍師)、横山大観の「生々流転」(水の循環を描く)
  cf. 「知者は水を楽〔この〕み、仁者は山を楽〔この〕む。
     知者は動き、仁者は静かなり。」 (『論語』・擁也第6)
  cf. 「君子の交わりは淡きこと水の如し、
     小人の交わりは甘きこと醴〔れい/あまざけ〕の如し。」(『荘子』)
  cf. 「水魚の交わり」(『三国志』、劉備と孔明)

■ 習坎(重なることを習という)、水また水。  
   1) 険難重なる象。
   2) 2爻 と 5爻が、各々2陰に落ち込んでいる象。 しかし、この象は内に信実あり。
     陰の肉体の中に、中庸の徳を持った陽の精神がしっかりと宿っている象でもある。

○ 大象伝 ;「水シキ〔しき〕りに至るは習坎なり。君子以て徳行を常にし、教事を習う。」
(水がしきりに流れくる象が習坎〔坎為水〕の卦です。君子は、この不変・不休の象 〔常久なる象〕にのっとって、艱難辛苦の中に在っても、〔むしろ、、その苦労の中で自分を磨き上げ〕徳義・徳行をいつも自分のものとして、学問の修養についても怠りなく反復〔習い習{かさ}ねる〕努力して息〔や〕むことがないのです。)

 たかね研究 : 
 ・ 知 と 智 ・・・知は 矢と口で他を傷つける、
           (シブ)柿を日に干すと甘く変わるように「日」を加えたものが 「智」。
            → 水(坎)=知 プラス 日(火・離)
 ・ 学  ・・・「学ぶ」は、“まねるーまねぶーまなぶ”/
          「習」は、習(なら)い習(かさ)ねる。
          学を重ねる。善き習慣は、“習い性となる”(習慣は第2の性)。
 ・ 学問修養 ・・・江戸5代将軍綱吉(“犬公方”)、儒学の修養・振興
           (日本儒学の発展/ 湯島聖堂/ 生類憐れみの令 ・・・)

30. 離火 【り為か】  は、麗〔り〕。

8重〔じゅん〕卦、重離

● 火また火、つき離れる、太陽、聡明・美、九紫火性、“日はまた昇る”
     ・・・日の昇らぬ明日はない
   ※ 火は何かに“ついて”初めて炎上する(cf.発火の3要素:モノ・酸素・温度)
    人も何に(正しき)に、誰につき従うかが大切
       ex.秀吉→ 今川義元から織田信長へと離れついた
   ・ 「日月は天に麗〔つ〕き、百穀草木は土に麗く。重明以て正に麗けば、
     すなわち天下を化成す。」 (太陽・月は天につき、あらゆる穀物草木は
     土についています。離卦は、火であり明であり重離・重明です。
     君臣共に明智をもって、正しいものにつくことによって、天下のあらゆるものが
     化育され生長するのです。〔天下万民も教化・育成されるのです。〕)
   cf. 人の心の火の用心”(真瀬中州) / “一灯照隅。万灯照国”
     (安岡正篤・関西師友協会) / 文化・文明の源は「火」と「石のかけら」(高根)
 ※ 2つの徳性(安岡氏):(1)明暗、心を明るく (2)清潔、浄不浄 
                    ・・・ 心に(の)太陽を!離の徳?(高根)

■ 火また火、重離、重明。
   1) (坎水と逆に)2爻と5爻が陰(柔順中正)。
     炎の中心は暗い(温度も低い、燃えていないガス状態) 
      ―ー 心を空しくして明を継ぐ。
     2爻の美徳 ---- 陰位に陰爻で正しく中庸の徳あり、「柔、中正に麗く」(彖伝)
   2) “雉 網中に罹〔かか〕るの象”(白蛾)
       ・・・内卦の離を雉とし外卦の離は網とする。雉も網も離の象。

○ 大象伝 ;「明 両〔ふた〕たび作〔おこ〕るは離なり。大人以て明を継ぎ、四方を照らす。」
(“日はまた昇る”で、太陽は明日も昇る。上・下卦共に聡明・明らか奈象です。徳のある大人・君子は、この象にのっとって、先人代々の明徳を継承しその明徳を日々新たにして、四方を(徳の光で)明るく照らす万民の光となるのです。)

   「明」を継ぐに「明」をもってするの美

 ( 補 )
  ・ 「元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。今、女性は月である。
    他に依って生き、他の光によって輝く、
    病人のやうな蒼〔あお〕白い顔の月である。 ・・・・・」 
     (平塚らいてう、『青鞜』発刊の辞 1911.)
  ・ 「文明とは人の身を安楽にして心を高尚するをいうなり。」 (『文明論之概略』)
  ・ 「文明とは正義のひろく行われることである。
    豪壮な邸宅、衣服の華美、概観の壮麗ではない。」 (『代表的日本人』)

 たかね研究 :   と  /  と  / 一白 と 九紫

《 水と火 》
1) 五行思想では相剋の関係“水剋火”(水で火を消す)。
  その場合、火のパワーが強すぎると(「焼け石に水」で)水で消えない。
  あるいは水が蒸発してしまい“剋”が逆転する。 
    (・・・ 命学・九星気学・四柱推命など)
2) 易の中論だと、水と火(正・テーゼと反・アンチテーゼの異質・対立するもの)を、
  統一・止揚して(アウフヘーベン・中す)、新たなるもの(合・ジンテーゼ)を生み出す。
   〔ヘーゲル弁証法〕
  ex. 水と火で、ごはん・料理ができる。男と女で、子供がうまれる。

《 坎と離 》
・ 坎=水は智恵、離=火は聡明  / ・ 坎離は陰陽逆=中男と中女
・ 坎は耳(の穴)・鼻(の穴)・肛門・性器、離は目=視覚・明らか(離火は両眼)
cf. 「渾沌〔こんとん〕の死」(『荘子』) ・・人には7穴(体は9穴)ある。
   渾沌は“のっぺらぼう”。1日に1つずつ穴をあけてやったところ、7日で死んだ。
    ――無為自然の本性は、人知を加えると死んでしまう。

【考察】 アマテラスオオミ神は、イザナギの命(男神)の左目(左は陽)から生まれた
     太陽神(陽・離・中女)。 ・・・「
     そのスサノオの命は、イザナギの命の鼻(の穴)から生まれた。・「
   cf. 鼻の外形は盛り上がっているので =艮=山の象 / 
      (フルへッヘンヘンド=うずたかい=鼻、『蘭学事始』)
   ※ 邪馬台国の女王は「卑弥呼」、そのが政治を代行した。
      この史実(『三国志』魏志倭人伝)と我国の『古事記』の話とを
      併せて考えてみたい。

《 一白水性と九紫火性 》
・ 気学宿命星「一白水性」 : 命式干支(四柱・日干支)に「壬」・「癸」、「子」・「亥」 
    のある人。  動く人多し。 “転石、苔を生ぜず。” / 
    「駅馬」 ・・・移動性は大吉 / 家相6帖と6帖の通し間を嫌う ・・・
    6=坎、6・6→「坎為水」
・ 気学宿命星「九紫火性」 : 命式干支に「丙」・「丁」、「午」・「巳」のある人。
    美的な世界(芸能・美術・デザイン・キレイ系・・・)の人
    新しい時代の資格としては、インテリアC・カラーC・福祉住環境C ・・・。/
     “離れつく”は、「T・P・O (時・所・場合)が大切。
※ ちなみに、私(高根)は、本命星 一白・月命星 九紫で水・火の二面性を持っています。

                                         

                                              ( 以 上 )


続き 「下経」 は、第十八回 定例講習の記事をご覧下さい。

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第十五回 定例講習 (2008年11月) vol.3

vol.2の続きです。

《 23 & 24 のペア 》

23. 剥 【山地はく】  は、はげる・みだれる

準4難卦、 12消長卦 (10月)

● 身心のはがれ(「傷官〔しょうかん〕」・・・身心のメス)、“退勢の極致”、ガン・
   かいよう注意            ※ 賁が破るといった方向にいった

■ 上卦 艮山、下卦 坤地。
   1) 12消長卦にて、陰が上昇し上爻に1陽だけが踏み止まって残っている象。
     下の5陰がせまり、その1陽も剥がれ落とされようとしている象。累卵の危機。
   2) “旧を去って新生ずるの意”(白蛾) ・・・12消長卦にて、
     上爻の1陽は剥がされ尽くされてしまうが、やがて再び1陽生じ
     “1陽来復”の「地雷復」となる。
   3) 陰の小人(達)が勢いと数を増してきて、君子を追い出し、
     残るはただ一人の君子のみ。
   4) 高い山(艮)が崩れて、地(坤)に附着した象。
   5) 地に山ある象。坤は陰柔薄弱、風雨により土台が剥落して艮山不安定、
     崩壊の成り行きを示す。
   6) 1陽5陰卦、1陽崩壊寸前にて男性苦労の象。

○ 大象伝 ;「山の地に附くは剥なり。上は以て下を厚くし宅を安んず。」
(艮山が坤地に付いているのが剥の象です。これは、山が崩れて平地になろうとしているのは、地盤が薄くて不安定だからです。地盤が堅固であれば、山もまた安泰なはずです。
君子たるものは、この象にのっとって、上の立場にあるものは、天下万民の生活に厚く恵みを施し豊かにするように努め、そうすることで、自分の居る地位をも安泰にするよう心がけなければなりません。)

24. 復 【地雷ふく】  は、かえる・くり返す

12消長卦 (12月)、 (陰暦11月・冬至の卦)

● スプリング・ハズ・カム〔 Spring has come. /春は来(き)ぬ=春が来た、
                               今は春です〕
   “一陽来復(福)”・・・冬からやっと春の兆し、出直し、   ルネサンス
   明治の維新 ・・・幕府の引退、近代日本の世界史上への躍進
   ・ 「復はそれ天地の心を見るか。」(彖伝)・・・陰陽の消長・循環、
     偉大なる天地自然の摂理・営みに対する畏敬の念! 
        ※ 人間社会においてもあるでしょうか?
   ・ “復は反〔もど〕るなり”(雑卦伝) ・ “剥すること上に窮まれば下に反〔そ〕る。
     故にこれを受くるに復を以てす。”(序卦伝) ・・・ 
               賁,剥すれば一転して復(“文芸復興)”

 たかね研究 :  「復」=ルネサンス (仏・英) Renaissance
                (伊)リナシメント / 再生・文芸復興
・ 西洋(14−16c): “世界と人間の発見”(Burckhard 〔ヤコブ・ブルクハルト〕)
  ・・・中世“暗黒時代”から復活、近代への幕開け。
     ギリシア・ローマ古典文化の再生・復活、
     プラス・アルファー(当時の東方文化) =ルネサンス
・ 東洋(21c)の文芸復興〔オリエンタル・リナシメント〕・「温故知新」
  ・・・日本の現代“蒙の時代”― 準暗黒時代 / 
     (1)儒学文化のルネサンス
     (2)日本的なるモノ(平安・江戸時代の再考)
  cf. 理想社会〔ユートピア〕・理想状況を過去にもとめる(温故)のは東洋流

■ 下卦 震雷、上卦 坤地。(「剥」の綜卦)
   1) “一陽来復”:12消長卦、1陽5陰卦。「剥」の1陽が剥がれ尽くされ、
     坤地となった大地に1陽が戻ってきた象。
   2) リーダー〔指導者〕のいない民衆(坤地)の中に、1陽のリーダー・
     君子が戻ってきた。復活、新しい局面が拓けていく。
   3) “地を掘って宝を得るの象”(白蛾) ・・・地は外卦坤、宝は内卦震の象。
     掘るは震の動から。

○ 大象伝 ;「雷の地中に在るは復なり。先王以て至日に関を閉じ、商旅行かず、后〔きみ〕は方を省〔かえり〕みず。」
(震雷が坤地のに在って、雷鳴を発するにいたらぬ象が復卦です。つまり、雷の気・陽の気がまだ生じたばかりで弱いので、これを大切に養い育ててゆかねばなりません。
そこで古のよき王は、一陽来復の日にあたる「冬至」の日〔天文上の年始〕には、天下遍〔あまね〕く安静に活動を休止しました。例えば、関所を閉ざして、商人や旅人も足止めしました。また、天子(君主)も四方への巡視を行なわないで静かに過しました。 〔これらは全て、安静にして将来の善き大計を練り、弱い1陽を養い育てようとする意図からなのです。〕」

       ・ 后=君主   ・ 方=政治


《 25 & 26 のペア 》

25. 无妄 【天雷むぼう】  は、うそ・いつわりのないこと 

精神性3卦

● “無為自然”(老荘)の精神 ・・・ 無心にして人為・作為を用いないこと
              ※ 无は無で 妄〔みだ〕り無いの意。至誠。天地自然のまま。
   “自然の運行”、生まれたての赤ちゃん、神意に逆らえば天罰てきめん、
   “随神〔かんながら〕の道”(神道〔しんとう〕)
   ・ “无妄は災いなり”(雑卦伝):天の命、大自然の摂理に対する畏怖を示したもの
   ・ 「大いに亨りて以て正しきは、天の命なればなり。」(彖伝)
     「亨以、天之命也。」 → 「大正」の出典、他に「大畜」卦彖伝、「臨」卦彖伝
   cf. 横山大観の「無我」 ・・・無心

■ 上卦 乾天の下に震雷。      
   1)落雷の象。不慮の災難の意
   2)上卦乾は天行、下卦震は動・春・生命 ・・→ 天行により四時の変化があり、
     妄〔みだ〕りなく万物がそれに従ってゆく。
   3)「天地否」【天/地】の初 に外から1陽が来て无妄となったと見る。・・→
     「剛 外より来りて内に主となる。」(彖伝)

○ 大象伝 ;「天の下に雷行き、物与〔みな〕无妄なり(物ごとに无妄を与〔あた〕う)。先王以て茂〔さか〕んに時に対し万物を育う。」
(乾天の下に震雷が進み行く象が、无妄です。つまり、天の健全な運行に従って、万物は生まれ生長・発展してゆくのです。世界のあらゆるものが、この自然の法則・原理に従って運行しているのです。
古のよき王は、このことに鑑み、“天の時”に従い対応して、しっかりと成すべきことを成し、万物万民の育成に努めたのです。)

26. 大畜 【山天たいちく】  は、大いにとどめ・蓄えること

3大上爻

● 大は陽・陽徳、“千里の道も一歩から”、継続の吉、“大器晩成”
   ・ 「日〔ひび〕にその徳を新たにす。剛上りて賢を尚ぶ。
     能く健を止むるは、大正なり。」(彖伝)
    「日新其徳」=※ “日新” 
     cf. 「苟〔まこと〕に日に新た日々に新たに 又日に新たなり。」(『大学』)/
    「剛上而尚賢」=陽爻が上爻に上っているのはの意/
    「能止健、大正。」(立派に健すなわち乾の尊いものを止めているのは、
     大いに正道に適っています。)=※ 「大正」の出典
     他に「无妄」卦彖伝、「臨」卦彖伝
   ・ 上爻辞 「天の衢〔ちまた〕を何〔にな〕う、亨る。」 ・・・運気盛大、山の頂上

■ 下卦 乾天は、尊い・財貨・仁徳、上卦 艮山は、家・身体・止めるの意。
   1) 山中に天の気が蓄積されている象。家の中に財貨ある象。
   2) 大人君子が大徳・大才を蓄えていて動ぜぬ象。
   3) “金厳中に在るの象”(白蛾) ・・・金は乾の象。厳〔いわお〕中は、
     艮が上卦にある象。君子が才徳を蓄えて時機到来を待っている。

○ 大象伝 ;「天の山中に在るは大畜なり。君子以て多く前言往行を識〔しる〕し、以てその徳を畜う。」
(乾天のパワー〔気〕が 艮山の中にあって、しっかりと蓄積されているのが大畜の卦象です。君子たるもの、この象にのっとって、古の賢人たちの教えや行いを省みて認識し〔止め〕、その徳を養い蓄積するように努めるのです。)


《 27 & 28 のペア 》

27. 頤 【山雷い】  は、あご・おとがい

遊魂8卦、 似離で空虚

● 身心ともに養う、演説、“口は災いのもと(禍の門)”、“欲望の問題”、食養生、
   更年期・生活習慣病
   ・ 「頤を観てみずから口実を求む。」(卦辞) ・・・養うモノ、口に入れるモノ
       「口実」の語源 ―― (通例言い訳、弁解の意) 
   ・ 4爻辞 「虎視眈々」〔こしたんたん〕 ・・・虎視するように熱意をもっての意

■ 下卦 震、上卦 艮。
   1) 雷が山下に動くのは、草木を発生・養育せる象。
   2) あけた口の象。頤は おとがい・上あご(艮の1陽)と下あご(震の1陽)のこと、
      その間の陰爻は〔空虚〕歯の象意。→ 養う(正しく心と体を養う)=頤養の正道
    cf. 貝原 益軒 『養生訓』 /
        安岡 正篤著 『易と健康(下) ・ 養心養生をたのしむ』
   ※ 高齢社会進展の現在、“頤養の道”をしっかり考えたいものです。(by高根)

○ 大象伝 ;「山下に雷あるは頤なり、君子以て言語を慎み、飲食を節す。」
(艮山の下に震雷があるのが頤の卦です。艮山は止まって動きませんが、内にエネルギーがあって〔震が動いて〕万物を発生・育成する象です。 君子は、この象にのっとって、禍の基となる言語を慎み、健康の基である飲食を節して、しっかりと自らの徳と身体を養うのです。)

       ※ 口入れ(飲食)、口だし(言語・失言)を重視!ご用心!
        太っているリーダーはダメ ?!      ・・・・・・・(by.高根)

28. 大過 【沢風たいか】  は、大いに過ぎる

遊魂8卦、 似坎で悩み多し

● 大(陽)が過ぎる 「過」は“不及”の反対、 過食・飲み過ぎ・過労死・房事過多
   ・ 「棟撓〔むなぎたわ〕む」(卦辞)・・・棟木は屋根を支える横木
   ・ 「クツガ〔くつが〕えるなり」(雑卦伝)・・・家 倒壊の危機
   ・ 2爻:老夫、若い妻をもらう(良い)、5爻:老婦、若い夫をもらう(良くない
       ・・・老夫と老婦とでなぜ違うか?考えて見ましょう!
  cf. 「過ぎたるは猶、及ばざるが如し」(『論語』・先進第11) =「中庸」
     ・・・ 「過」と「不及」とどちらがまだ良いか? → 「不及」
     ・・・ 本来、草木を養育すべき水沢が、大いに過ぎて滅失させる
        (水も多すぎると植物を腐らせる。)
        “過食”・“過色”・・・・ 本来良いものも 過ぎるとダメ

■ 下卦 巽風、上卦 兌沢。
   1) 似坎〔にせかん〕にて、坎の洪流・氾濫の憂い。/
     水中に風木の象にて洪水や沈没。
   2) 棟撓む象。棟(2・3・4・5爻の4陽)が強すぎて、両端の柱(初・上爻の2爻)
     弱く下に曲がる。  下卦巽木、上卦兌は倒巽で木。
     巽は長い・調えるで4陽強剛で棟の象。/大坎の似象で、坎には棟の象あり。
     撓むも坎の象(凹む)。/巽は曲がる、兌は毀折から撓むの象。
   ※ 2陰4陽の卦は15卦あるが、大過は陽4つの爻が中央に結集していて過大。
   3) 君子栄えて小人衰えている象。 下卦巽は順う、上卦兌は和らぎ悦ぶ。
     2爻・5爻は陽爻にて剛強・中庸の徳。
   4) 巽木が兌沢の下に埋もれて、腐ってゆく象。
   5) 巽の船が、兌沢の中に沈没した象。
   6) “常山の蛇の如き象”(白蛾) ・・・「常山の蛇その首を撃てば則ち尾至り、
     その尾を撃てば則ち首至り、その中を撃てば首尾共に至る也」(『孫子』九地篇)
      ・・・上・下に口あり、中は全て陽で剛強。

○ 大象伝 ;「沢の木を滅すは大過なり。君子以て独立して懼れず、世を遯〔のが〕れて悶〔うれ〕うることなし。」
(兌沢の下〔中〕に巽木が沈んでいるのが大過の卦です。本来、木を養育する水も、大いに過ぎれば木を〔腐らせて〕滅ぼしてしまいます。
君子は、この象にのっとって、〔リーダーの立場にあれば、人に過ぎたる行いをするように心掛ける。〕危急存亡の時、〔濁世にあっても、洪水のような非常事態にあっても〕 毅然として自主独立して、恐れ動揺することなく、また世を遯〔のが〕れ隠れて憂悶〔ゆうもん: うれい・もだえる〕することもないのです。)

※ 「独立不懼」 cf.「独立自尊」(福沢諭吉)
※ リーダー(指導者)は、ブレてはいけません。(‘09 麻生内閣)


続きは、次の記事(vol.4)をご覧下さい。

第十五回 定例講習 (2008年11月) vol.2

易経       ――― 《 象による 64 卦解説 》 ( 其の2 )

上経

  (続き)

《 15 & 16 のペア 》

15. 謙 【地山けん】  は、へりくだる

● 謙虚・謙遜、“稔るほど 頭〔こうべ〕をたれる 稲穂かな”・“たれるほど 人の見上げる 藤の花”、頭・腰を低く(商人)、男性裸身

・ 「君子は終りあり。」(卦辞) ・・・君子は、3爻の1陽をさす。謙徳を履み行なうならば、終りを全うすることができる。

“艮は東北の卦なり、万物の終りをなすところにして始めを成すところなり”(説卦伝)の終りの意。

cf. 「始めあらざるなく、克〔よ〕く終有るは鮮〔すく〕なし。」(『詩経』)・「物に本末〔ほんまつ〕あり。事に終始あり。」(『大学』)・・・君子は終りを慎む

・ “物を称〔はか〕って平らかに施す意”(白蛾) ・・・高い山が下にあり 低い地が上にあるのは、高きを減らして低きに施す象、平準化作用。これは、謙譲の美徳あればこそ。

※ 64卦中、すべて良いことばを連ねているのは謙卦のみ

■ 下卦 艮山、上卦 坤地。
   1) 地中に山、艮の山の高きものが坤の地の低きものの下にある象。
   2) 1陽(3爻の君子)が、5陰の賢臣を心服させている象。
   3) 上卦の中爻、5爻が謙卦の天子。陰爻をもって陽位にあるのは、
      本来剛健であるべき天子の位にあって、柔和で謙譲の徳、中庸の徳を持つ
      天子であることを意味している。
   4) 男性裸身の象。(1陽5陰卦、腰部にあたる3爻が陽)
               cf.「天沢履」・・・女性裸身の象

○ 大象伝 ;「地中に山あるは謙、君子以て多をヘラ〔へら〕し、寡〔すくな〕きを益し、物を称〔はか〕り、施しを平かにす。」
(坤地の下に艮山があるのが謙の象です。君子はこの象を観て、多くあるものを減らして、少ないものを増〔益〕していくように図るのです。そうして、そのホドホド〔中庸〕をはかり考えて、施し与えることが偏らないように公平にすることを心がけるのです。)
         ※ 「君子中庸、君子而時中〔ときじくあたる〕」 (『中庸』・第2章)

16. 豫 【雷地よ】  は、あらかじめ

“時”・時義5卦、 〔豫・随・遯・コウ・旅〕

● 豫の3義 ・・・ (1)あらかじめ  (2)遊び楽しむ  (3)怠る
   ・ “冬来りなば春遠からじ”(シェリー) は、まだ冬 
         ・・→ 豫は「春」到来、もう春。 / 「地雷復」は春が来た、今は春。
   音楽・歌舞・楽器・先祖の祭祀に吉

■ 下卦 坤地、上卦 震雷。
   1)地上に雷が鳴っている象。“春雷”、地の上に振るい動かす形。春。
   2)震を、春の芽・若木・蕾〔つぼみ〕とし、地上に新芽が萌え出ている象。春。
    ※ 「地雷復」の雷と地が交替した。「復」は地中に震の芽があり、
       それが地上に出たものが「豫」。
   3)5陰が、1陽(4爻)に随う象。1陽は、震の主爻で前進する君子。
     「復」で最下位(初爻)にあったものが、地上に躍り出て衆陰を統率している。
     時期到来して震が力を振るう形。

○ 大象伝 ;「雷の地を出でて奮うは豫なり。先王以て楽〔がく〕を作り徳を崇〔たっと〕び、殷〔さか〕んにこれを上帝に薦〔すす〕めて以て祖考を配す。」
(雷が時を得て、地上に躍り出て奮い立って活動を開始しました。そうして、万物が生き生きと悦び楽しむのが豫の象です。
この象にのっとって、古のよき王は、〔雷鳴にならって〕音楽を作り、先代の王の徳を崇め讃えて、盛んに奏して天帝を祭り、先祖や亡き父の御霊〔みたま〕を併せて祭られたのです。〔そして君子たるものは、これにならい、万民をも悦び楽しませることに心がけなければならないのです。〕)
         ・殷=盛んの意   ・祖考=祖先と亡父   ・配=合、併の意


《 17 & 18 のペア 》

17. 随 【沢雷ずい】  は、つきしたがう

帰魂8卦

● “にしたがい、にしたがい、にしたがう”、自然の法則(きまり)に随う、
  動くことが時のよろしきに適〔かな〕うこと、中道(正道)を得ること、“臨機応変”、
  “随身”

■ 下卦 震雷、上卦 兌沢。
   1) 悦びに動いて随うの意、悦んで随うの意。
   2) 陰の小(兌)に、陽の大・強なるもの(震)が随う象。
     また、兌は1陰に2陽が随う象、震は2陰に1陽が随う象で、
     いずれも小に大が随う象。
   3) 成年男性が乙女に随喜する象。少女の笑顔(兌)に魅せられて震男が追う象。
   4) “馬に乗って鹿を追うの象”(白蛾)・・・内卦震は 元気な駿馬、外卦兌は鹿

○ 大象伝 ;「沢中に雷あるは随なり。君子もって 晦〔ひのくれ/くら・き〕に嚮〔むか〕えば入りて宴息す。」
(上卦兌沢の中に、下卦震雷があるのが随卦です。兌沢は秋、震雷は春に動き現われますが、秋になって潜〔ひそ〕み休息しているのが随の象です。 つまり、動くことが時のよろしきに適っているのです。
君子は、この象にのっとって、〔昼間は大いに活動・精励するとしても、働くばかりではなく〕 日の暮れに向かえば〔晦くなれば〕、家に帰って英気を養うためにこころ穏やかに休息するのです。」

・ 晦=日の暮れ。下卦震が動いて上卦兌の西に向かう象意から
・ 宴息=宴は安らか、息は休息。兌の悦びは安らか、2・3・4爻の艮は止まる・休息の象意から

 朱子の雅号は「晦庵〔かいあん〕」

18. 蠱 【山風こ】  は、事(事故)。

帰魂8卦、 準4難卦

● 皿の上に虫が3匹(木皿の中の虫)、酸欠・カビ状態、無風状態、“身から出た錆”、房事過多・精気虚損、

※「蠱惑〔こわく〕」:まどわす・たぶらかす、「――な眼」。「蠱女」:人を惑わす婦人

・ “幹事(事を幹〔おさ〕める者)”が大事 (爻辞より「幹」)
・ 「甲に先立つこと三日、甲に後〔おく〕るること三日」(卦辞) 
      ・・・十干にて「辛と乙」、 辛=新・革新   丁=丁寧の意
・ “喜びを以て人に随う者は、必ず事あり。・・・蠱とは事なり。”(序卦伝)

■ 下卦 巽風、上卦 艮山。
   1)山の下の風。動くべき巽風が艮止〔ストップ〕されて、ふさがっている象。
     (風がストップするとモノは腐る)
   2)巽の臭気あるモノが、艮の箱の中に止められている形。腐敗。
   3)大女(巽:中年)が、若い青年を追っている象。
     年少の男性の心の内(下卦)に年上の女性が伏入(巽)し、
     艮男が惑って(巽)いる象。   ※ 蠱惑の象 
   4)乱れが極限にまで達して、新しいものがおこる意。

○ 大象伝 ;「山下に風あるは蠱なり。君子以て民を振〔すく〕い徳を育〔やしな〕う。」
(艮山の下に巽風があり、風は山に阻まれて流れない象。また、事ある時でもあることを示す象です。君子は、この事ある時の象にのっとって、清新の気をもって万民の心を振るい起こし〔巽徳〕、心気一転させ、自分自身の徳を養い育てる〔艮徳〕ように努めるのです。)

※ 「君子以振民育徳」 → “風〔ふう〕をおこすは吏と師”(by.高根)


《 19 & 20 のペア 》

19. 臨 【地沢りん】  は、すすむ・せまる

大卦(大震)、 12消長卦 (1月)※旧12月

● 春たけなわ。のぞみ見る(上から下を臨む、下が悦んで仰ぐ) 
cf. 「観」は仰ぎ見る、隣席・臨機・光臨 
cf. 「賁臨〔ひりん〕」、“臨機応変”、スタート、転換・変化、黎明〔れいめい〕 
※ 次に「泰」になる、 学問芸術吉

   ・ 「咸臨丸」 ・・・ 1860.勝海舟「咸臨丸」にて太平洋をわたる  
           cf.(1868.3.14 勝 − 西郷会談にて江戸開城)
   ・ 「亨以。天之道也。 〔大いに亨りて以て正しきは、天の道なり。〕」(彖伝)
            ※ 「大正」の出典 / 他に「大畜」彖伝、「无妄」彖伝

■ 下卦 兌沢、上卦 坤地。
   1) (蠱の難事を排除して)難事去った内なる悦び(兌)、外には順う(坤)象。
     ・・・・「復」の1陽が長じて2陽になったもの、君子(陽)の道が長ずる義。
   2) 地と沢と互いに臨み見ている象。水辺より陸を臨む、あるいは陸の水に臨む象。
     (地上の水は沢に流れ入り、沢の水は蒸発して雲となり雨となって地を潤す。
     地は万物を育み、水はまた沢に流れ入り循環する。)
   3) “少女母に従うの意”(白蛾) ・・・少女(兌)と母(坤)相互に臨み見る象。
     外卦の坤母に内卦の兌女が従っていく意。
   4) 2爻の陽の主爻は、5爻の陰と相応じ合っている。
     天子と賢臣が相互に臨み合っている象。

○ 大象伝 ;「沢上に地あるは臨也。君子以て教思すること窮まりなく、民を容れ保んずること疆〔かぎ〕りなし。」
(地の上から下の沢を見下ろす。臨み見るのが臨卦です。この象を観て、君子たるものは、〔水の浸み潤すごとく〕人民を教え導くことについてよくよく深く考えて、窮まることなく思いを致します。そうして、人民を包容して安泰に保護していくように限りなく努力するのです。)

教思无窮 = 教は兌の象、2・3・4爻の震の象。窮まりなしは兌水と坤の意。
容保民窮 = 坤が民、容も包容で坤、「保」んずは「安」んずで坤の象、
       疆りなしも坤地が万物を載せること限りなしの象意。

※ 松平容保〔かたもり〕・・・会津藩主・京都守護職(新撰組のスポンサー)

20. 観 【風地かん】  は、あおぎみる

精神性3卦〔観・无妄・遯〕、 大卦(大艮) 12消長卦 (9月)※旧8月
(「臨」彖:8月に至れば凶あらん ・・・)

● 精神性重視、心眼で深く観る、“観光”、教育・教化・指導・(感化)、大衰の卦、
   観世音(観音・観自在)菩薩・・・精神の高められた心でみる
   ・ 「観」の意 (1)みる → よくみる・こまかにみる
           (2)大観(俯瞰) → 大所高所からみわたす ex. 横山大観
           (3)仰観 → 下より仰ぎみる
   ・ 「孚〔まこと〕ありてギョウ若〔ぎょうじゃく〕たり。」(卦辞)・・厳粛な気持ちで事に臨む
     ギョウ若=厳粛な形、様子、恭敬のさま
   cf. 大阪 四条畷〔しじょうなわて〕神社 ―― 石段の両側に「有孚」・「ギョウ若
   ・ 4爻辞 「国のる」 ・・・国の文化を観、将来を観る、“兆し”を読む。
                      “観光”の語源  cf.観象=易の占の結果を観る
   ・ “臨観の義はあるいは与え、あるいは求む”(雑卦伝)
       ・・・見下ろすと見上げる → 相方で与え合ったり求め合ったり 
       (主君・リーダーと平民・一般とで)

たかね研究 :  “見えざるものを見、聞こえざるものを聞く”
「観」は 目が3つ・・・両の目と“心眼” ex.塙〔はなわ〕保己一、ヘレンケラー    
                cf.手塚治虫・「三ツ目がとおる」
       耳も3つ・・・両の耳と“心耳” ex.ベートーベン“第九”の作曲、
                             千手舞踊団メンバー
」= “兆し”・“機微” ・・・物事が変化する前に先んじて現われる、
                   わずかな兆し・兆候(機微)。心眼・直感で“観る”
・ 「立筮」 / シックスセンス〔第6感(観)〕 / インスピレーション〔霊感〕

■ 下卦 坤地、上卦 巽風。
   1) 風と地、心がすなおでへりくだる象。
   2) 上卦巽風は号令、下卦坤の民が仰ぎみる象。
   3) 坤地を巽風が行く、万物は風に接する。
     風が遍〔あまね〕く地上を吹き渡るよう四方を観察するの義。
   4) 上に2陽あり、下の4陰を観下ろし、4陰は上の2陽を仰ぎ見る。
   5) 全体的には、大艮の象。艮は門・宗廟、民はみなこれを仰ぎ見る。
   6) 12消長卦にて、上に2陽を残すのみ。「大壮」の裏卦で大衰の象。 
     5爻の君子ピンチ!(「臨」彖辞 「八月に至れば凶あらん ・・・」)

○ 大象伝 ;「風の地上を行く観なり。先王以て方を省〔かえり〕み、民を観て教えを設く。」
(巽の風が地上を行くのが観卦です。風は万物を育成し、万物は風の吹くままになびき順って動いているのです。
古のよき王は、この風の恵みが万物に及ぶ象にのっとって、東西南北を、遍く巡幸(観察)なさり、人民の生活風俗の情況を観察され、徳育を教化(感化教育)し、それぞれに適した善政を布〔し〕いたのです。)

※ 今の日本、永田町の議員ご歴々も心してほしいものです。(by.高根)


《 21 & 22 のペア 》

21. 噬コウ 【火雷ぜいこう】  は、噛〔か〕み合わせる

● 口の中の障害物・二途がある ・・・(1)かみくだく・のみこむ   (2)吐き出す
   好事〔こうず〕魔多し、障害・妨害・詐欺注意、言葉にも注意
   4爻: 骨付き肉をかんだら金の矢じりが出てきた、労して功あり。

■ 上卦 離火、下卦 震雷。  離火は光で雷と光、稲妻
   1) “頤中物有るの象”(白蛾)・・・頤〔い/おとがい〕は「山雷頤」【山/雷】のこと、
     その口を開いた口中の象。口中に4爻の1陽があるのがこの象。 
     問題は頤〔おとがい〕の中の物、1陽は強く堅いもの。
   2) 国家社会では、4爻は奸臣・悪人。
     この悪人のため君臣は相和すことが出来ない象。
       → 裁判によって断乎、処罪排除せよ。
   3) 囚獄の象。 頤は口の象であると同時に、大離の象で、囲まれた場所の意。
     4爻の1陽は、3・4・5爻 坎の主爻で罪人。
     また上卦離は明らかにするで裁判下卦の雷は懲らすで処罰の意。

○ 大象伝 ;「雷電あるは噬コウなり。先王以て罰を明らかにし法を勅〔ととの〕う。」
(下卦が震雷であり、上卦が離電であるのが噬コウです。古のよき王は、“威光”すなわち、電光の明るさと雷の強力なパワー・威厳にのっとって刑罰を明らかにし、処罰すべきものには断乎たる処置を下せるように、法令を厳正に整え正したのです。)

           ※ 「礼」の実現・法治主義 ?

22. 賁 【山火ひ】  は、かざる・あや 

高根流 日の4(5)卦、 〔升・晋・賁・明夷・(大有)〕、
高根流 高齢社会の卦

● “文化の原則”は、知識・教養で身をかざること、本当のかざりは躾〔しつけ〕、
   晩年・夕日・有終の美、衰退の美・“モミジの紅葉”・・・もみじ狩り(=愛でる)、
   “賁臨”、やぶれる・失敗する
   cf. 「火」と「石のカケラ」から文化・文明はスタートした。(by. 高根) 
   ・ 「天文を観て以て時変を察し、人文を観て以て天下を化成す。」(彖伝)
   文明(離)の宜〔よろ〕しきに止まる(艮)のが人文
     人文を観察して天下の人々を教化育成すべき
   ・上爻辞: 「白く賁る。」“白賁”・・・美の極致、あや・かざりの究極は「白」・“素”
        (1)すべての光を反射する 
        (2)なにもない(染まっていない・白紙・素)
   ※ インテリアC、カラーC、福祉住環境C・・・の卦/高齢社会の卦 (by.高根)

■ 上卦 艮山の下に下卦離。 
   1)離の美を止めている象。 
       →  文明(離)の宜〔よろ〕しきに止まる(艮)のが人文。・・・・
   2)山下に火ある象。山に沈む太陽(夕陽・夕映え・晩年にきらめき)。
   3)下卦離は、1陰を2陽でおおい隠し、上卦艮は2陰を1陽がおおっている象。
     共に表面を飾っている。
   4)“門内美を競うの象”(白蛾)・・・外卦艮を門とし、内卦離を美・競うの意。
     離火は、上り艮はストップで争い競うの意。
   5)“明 遠きに及ばずの意”(白蛾)・・・艮山の下に離の太陽、斜陽の象。

○ 大象伝 ;「山下に火あるは賁なり。君子以て庶政を明らかにし、あえて獄を折〔さだ〕むることなし。」
(上卦艮山の下に離火がある象が賁です。君子は、〔離火の徳にのっとって〕もろもろの政〔まつ〕り事を美しく明らかなものとし、また〔艮山の徳にのっとって〕、あえて軽々しく裁判をし断を下し処罰するようなことはしないのです。)

      cf.安政の大獄(1858−59):井伊直弼/吉田松陰・橋本佐内ら死刑
        蛮社〔ばんしゃ〕の獄(1839):洋学者弾圧事件/
                           渡辺崋山・高野長英ら処罰(自刃)

たかね研究 :
 ・ 「美しい国 日本」(安倍晋三 政権)・・人の徳と「離」の文化
 ・ 孔子と易筮 : 「孔子嘗て自ら筮す。其の卦賁を得
            愀然〔しゅうぜん〕として不平の状有り。・・・」(『孔子家語』)
 ・ 《夕日の象》 ―― 「夕焼けこやけで日が暮れて・・・」 (中村雨紅)
 ・ 《高齢者考》 ―― 「唄をわすれた金絲鳥〔かなりや〕は/
               後の山に棄てましょか/
               いえいえそれはなりませぬ ・・・」 (西条八十)

 

続きは、次の記事(vol.3)をご覧下さい。

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