インターナショナルスクールの開校が続いている。本格的な英語教育を求める保護者の需要に応じた動きだが、多くは法律上の「学校」でなく、日本の小中学校の卒業資格は得られない。公立校と掛け持ちで籍を置き、卒業資格を得ようとする保護者もいて、現場は対処に苦慮するが、国は積極的な対応を取っていない。専門家は国に対し、スクールに通う子供の実態把握と、そこでの学びを評価する仕組みの整備を求めている。
寮費含め９３０万円…「教育輸出」図る英国
岩手県八幡平市に昨年８月、「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」が開校した。英国元首相・チャーチルの出身校でもあるハロウスクールの全寮制の系列校。初年度は１２か国・地域から小６〜中３にあたる約１８０人が入学し、日本人は４割を占める。将来的には高３までの９２０人の在校生を見込む。
授業は全て英語で、デジタル技術を活用した教科横断的なカリキュラムが特徴だ。学費は寮費も含め年間約８５０万〜約９３０万円。マイケル・ファーリー校長（５９）は「イギリスのパブリックスクールの制度を取り入れ、これまで日本にあったインターナショナルスクールとは異なる」と話す。
国内では英国名門校の開校が続いており、ラグビー発祥の地でもあるラグビー校は今年８月に千葉県柏市で、１５０年以上の歴史を持つマルバーン・カレッジも同９月に東京都小平市に系列校の開校を控える。
国際教育評論家の村田学氏は「英国は国家戦略として教育輸出を掲げている。英語で質の高い教育を受けさせたいという日本の高所得層を中心とした保護者のニーズと合致した」と分析する。文部科学省はインターナショナルスクールの数を把握していないが、村田氏によると、国内には少なくとも８０校あるという。
国内進学視野に公立校にも在籍
ただ、インターナショナルスクールの多くは、学習指導要領に沿った授業を行う学校教育法１条で定める「学校」（１条校）ではなく、日本の小中学校の卒業資格を得られない。さらに同法では、保護者に日本国籍の子供を１条校に通わせる「就学義務」も課している。
国内の高校や大学に進学する際に入学資格が得られない事態を避けようと、子供が数日しか登校しない公立校に籍を作る保護者もいる。一時的な登校でも卒業資格を認めるかは自治体に委ねられているが、受け入れ校の負担増や義務教育の形骸化につながりかねない。
東京都内の公立中学校では、インターナショナルスクールに通う生徒が１０人在籍し、スクールが夏休みに入った７月前半の１週間だけ通ってくる。同中学校で学んでいないため、通知表は出せないが、校長は「籍がある以上、卒業証書を渡さざるを得ない」と話す。
一方、世田谷区は公立校との掛け持ちは認めていない。２校同時に通うのは不可能で、短期間だけ通う子供のための教材準備など教員負担も増えるとして、区立小中に通うにはスクールの退学証明書の提出を求めている。
長男（５）をインターナショナルスクールの幼稚園に通わせる八王子市の主婦（４２）は「就学義務の問題はあるが、英語力をつけるのを優先し、小学校もスクールに通わせたい」と話す。小３の長女（８）をスクールに通わせるか検討中の板橋区の会社員女性（５０）は「日本の学校のように幅広い知識が身に付くのか心配。一度入ると日本の学校には戻ってこられなそう」と不安を口にする。
学びをどう評価
１条校に認定されるインターナショナルスクールもある。小学生対象に２０２０年４月に開校した神石インターナショナルスクール（広島県）は、週末も授業にあてながら、学習指導要領と世界のスクール向けに開発された国際的な教育プログラムを両立させている。
不登校児らが通うフリースクールは１条校でないが、施設での学びは教育機会確保法で認められており、在籍校の校長は、学習記録を基に出席扱いにできる。しかし、インターナショナルスクールに通う子は同法の対象外だ。文科省は「１条校に通ってもらうよう教育委員会から督促してもらうしかない」と具体的な対応を取る予定はないという。
弁護士で兵庫教育大准教授（教育学）の神内聡氏は「公立校に在籍しながら、実態はインターナショナルスクールにしか通っていない状況を国は黙認すべきでない」と文科省の姿勢を批判。「まずはスクールに通う子供の現状を把握した上で、学習内容などを適切に評価する仕組みを検討するべきだ」と話している。
