October 06, 2014

ウィザードリィの呪文名に関しての誤解と由来についての真説

twitterで、こんな発言が流れてきた。

「Wizの呪文は、新言語だった。
 例えばMAHALITOならば
 ・MA(範囲は1グループ)
 ・HA(火属性)
 ・LITO(敵モンスターのHP3〜24減らす)
 という解釈をコンピュータに読ませている。
 まさに文字通りの『呪文』である」

気になってネタ元を探してみると、どうも「RPG大辞典倉庫Lv5」の、
「トゥルー・ワード」の項からの引用らしい。

結論から言ってしまうと。
この記述、100%誤りです!

仮にこういう仕様を採用していたとしたら、
Lv1の魔術師呪文であるHALITOは「火属性の3〜24ダメージ」になってしまう
(実際は1〜8ポイントしかダメージがないのは、遊んだことがあればご存じでしょう)、
MAHAMANはHAMANの1グループ対象呪文になってしまうし(実際は効果が増えている)、
DALTOとLAHALITOとはともに6〜36ダメージのグループ呪文だが(属性が違う)、
どのあたりの音節でダメージ範囲や、攻撃対象を定義しているのか?
という事になってしまうし、
果てはMAMORITOとかBAHALITOとか、「ありえそうな」組み合わせまで通ってしまいそうな気がする(笑)


Wizardryの呪文入力の仕様について、シナリオ1〜4の制作者であるロバート・ウッドヘッド(狂王様)は、
1999年のインタビューにおいて、このように述べています。


Q:
ウィザードリィでは呪文名がどこの国の言語でもない独特のものになっていますが、
これは誰が何を基に考えたのでしょう?

A:
あれは偽ウェールズ語みたいなものだ。
でっち上げた単語と接頭辞をひと揃え用意して、いい響きになるまでこね回した。
そのあとプログラムで使えるように少し修正しなければならなかったが。
プログラム内で呪文の名前をそのまま使用するにはコンピュータの容量が足りなかったので、
そのかわりに、プレイヤーが呪文名を入力したら入力文字を加算して、掛け算も行って―
"ハッシュ関数"と呼ばれる奴だ―、
それぞれの呪文名が他とは異なるひとつの数値になるようにした。
こうすると、
< if spellName = "MAPORFIC" then >
と書くべきところを
< if spellNumber = 1234 then >
で済ますことができる。
これなら容量も食わないし、ゲームの実行速度も速くなる。

(「ウィザードリィコレクション」(1999,鈴木常信著,ローカス), P37より引用)


ウィザードリィの原作者は単語と接頭辞を創作したことは認めているが、
プログラム的には呪文入力に対し先頭から1文字ずつ解析をしている、
つまり、「単語ごとの」解析はしていないのです。

こうしてロバート・ウッドヘッド氏が独自に創作した言語に、
日本で竹内誠氏(小説「ウィザードリィ異聞 リルガミン冒険奇譚」の著者)によって、
「真言葉(トゥルー・ワード)」という二次創作がつけられ、
そしてこの「真言葉(トゥルー・ワード)」がいつの間にか公式設定と誤解される程の扱いとなっていき、
冒頭で記したようなデマも出回るようになった…というわけです。







…と、一年半ほど前までは筆者もそう思っていたのさ!





実は、ウィザードリィの呪文を構成する言語に関しては、
完全にロバート・ウッドヘッド氏オリジナルの発想というわけではありません。
それを理解するためには、ウィザードリィが製作された背景を追っていく必要があります。

ウィザードリィが製作された背景について、多くの人が知っているのは、
「コンピュータ上でダンジョンズ&ドラゴンズを遊ぶために製作された」という事だと思いますが、
ロバート・ウッドヘッド氏の製作動機は、それだけではありません。

先述のインタビューにおいて、ロバート・ウッドヘッド氏は
コーネル大学に在籍していた時のことをこう語っています。


Q:
どのような状況で、なにからウィザードリィを思いつかれたのでしょうか。

A:
"Dungeons & Dragons"のようなファンタジーRPG、
そしてPLATOで動いていたコンピュータ・ゲームにヒントを得て作ったんだ。
PLATOは初期の教育用ネットワーク・システムで、
ニュース配信用メール、チャット、多人数ゲームなど現在のインターネットが持っている機能のかなりの部分を―
1970年代初期にだよ―備えていた。
スーパーコンピュータ上のPLATOで作ったいくつかのダンジョン探検ゲームが走っていたね。
1980年、私は成績不振によってコーネル大学から1年間の休学を申し渡された。
コンピュータ(とPLATO)で遊びすぎて、勉学に費やす時間が不足していたんだ。
で、母(すごく怒っていた)の寝椅子に転がって、何をするか考えた。
そしてAppleIIみたいなマイクロコンピュータ上で巨大なダンジョンゲームが作れるかどうか試すことを思いつき、
"PALADIN"と名付けたゲームのプログラムを書き始めた。

(「ウィザードリィコレクション」(1999,鈴木常信著,ローカス), P34より引用)

ロバート・ウッドヘッド氏はPLATOというプラットフォームで動いていたゲームにのめり込み、
廃人化しかけたあまりに休学処分を受けてしまったので、
そうだ、手元のAppleIIにスパコンで動いていたようなゲームを作ってやるぜ!
という、何か間違った気がしなくもない熱意の末に、
後に出会ったアンドリュー・グリーンバーグ氏と共にウィザードリィを生み出したわけです。
重要なのは、「ウィザードリィは既存のゲームの本歌取り(インスパイア)によって生まれた」という点です。
このインタビューの内容だけで、「ウィザードリィはコンピュータRPGの元祖」という、
あたかも常識のように語られていた話題が間違いであることがわかります。

では、その「インスパイアされたゲーム」とはいったい何なのか。
その代表として挙げられるのが、1977年にPLATO上のオンラインゲームとして誕生した『Oubliette(ウブリエット)』です。

このゲームは街の酒場で他のプレイヤーの作成したキャラクターとパーティを組み、
ワイヤーフレームで描かれた疑似3Dの迷宮を探索し、強力なモンスターを倒し
手に入れたアイテムを鑑定し、ダンジョンの奥深くを目指す…という、
ほとんどWizardryと同様のコンセプトを持った作品です。

また、職業にSamurai,Ninjaを実装していたり(リンク先PDF注意、6ページ目)、
地下ダンジョンの構造にアルファベットが埋め込まれていたりと、
和風要素やダンジョン構造のお遊びといった、ウィザードリィを特徴付ける要素は既にこのゲームで盛り込まれています。

最もたるものは呪文名で(リンク先は上述のPDFと同一、10〜11ページ目)、
なんとレベル1の魔術師呪文に"dumapic"があり(但しwizの同名魔法と効果は異なる)、
その他の呪文も独自のスペリングになっていることがお分かりいただけるかと思います。

この呪文名は"Varget"と呼ばれる独自の古代言語体系に従って命名されており、
スマートフォン版Oubliette(iOS/Android)を開発したGABYSOFTのホームページでその体系について説明されています。
ちなみにこの設定はトゥルー・ワードのように後から二次創作されたわけではなく、
オリジナル版に関わっていたスタッフ(David Emigh)によってゲーム制作の初期段階で作成されたものです。

呪文名の一致、そして呪文体系の類似性から、
ウィザードリィの呪文名が、このゲームの影響を受けている可能性は非常に高いのです。

またウィザードリィが影響を受けていると思われるのはこの作品だけではなく、
打倒Oublietteを目指して製作、1979年にリリースされた『Avatar』などの影響もあると思われます。

これらの『Oubliette』や『Avatar』といった作品に関しても、
それらが生まれる以前にPLATO上で動作していた作品―
pedit5』『Orthanc』『dnd』など―の影響を受けています。
そのあたりの系譜については、海外サイトのCRPG Addict
日本語で読めるドキュメントとしては、書籍「ロールプレイングゲームサイドVol.1」が非常に詳しいです。


以上、ウィザードリィの呪文名を軸にして、
簡単にウィザードリィが生まれる背景とそれ以前のコンピュータRPGについて記してみました。

当時PLATOというネットワークに触れることが可能な、
ごく限られた層しか遊べなかったコンピュータRPGの要素を上手く抽出し、
当時普及しつつあったAppleIIというマシンで、
個人単位で幅広い層が遊ぶことができるように翻案と調整を行い、
そして商業的に成功することができたという実績こそが、
コンピュータゲーム史におけるWizardryの本当の位置付けではないか。
と、筆者はそう思っております。


※参考Webサイト
Hardcore Gaming 101: Wizardry
http://www.hardcoregaming101.net/wizardry/wizardry.htm
The CRPG Addict: Game 12: Oubliette (1977)
http://crpgaddict.blogspot.jp/2013/10/game-12-oubliette-1977.html
The CRPG Addict: Game 124: Avatar (1979)
http://crpgaddict.blogspot.jp/2013/11/game-124-avatar-1979.html
GABYSOFT : Oubliette
http://gabysoft.com/Oubliette/Oubliette-game.aspx
Oubliette Fan Page by Snafaru
http://www.zimlab.com/oubliette/

※参考文献
ウィザードリィ・マガジン(1991,ビジネスアスキー)
ウィザードリィ・コレクション(1999,ローカス)
ロールプレイングゲームサイド Vol.1 (2014,マイクロマガジン) 「真説・コンピュータRPGの起源」

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この記事へのコメント

1. Posted by 参考にしマウス   October 07, 2014 01:12
ツイッターで解説してらしたときには
「初代PC版はTILTOWAITがTだけで発動するのも真語説と矛盾」
とおっしゃっていたかと思いますが
これはTで始まる呪文が他に無かったからその時点で呪文Noが渡された
という解釈でいいんでしょうか?
2. Posted by jzunkodj4y   October 07, 2014 05:59
だいたいその通りかと。
TZALIKが追加されたシナリオ5ではTだけでは打てませんw
3. Posted by やくたたず   February 21, 2015 11:08
ウィザードリィマガジン内で発表された竹内氏の
トゥルーワードの対応効果表は、もっと抽象的な
表現であり、「TRPG大辞典倉庫」の筆者が意訳
or簡略化する段階で、今のゲーム的な表現になったので、
より違和感が増すんだと思います。
4. Posted by jzunkodj4y   February 21, 2015 11:42
RPG大辞典倉庫の記述は、
「呪文名は特殊な実装をしている」という事実と、
「単語ごとに意味がある」という創作(トゥルーワード)を結びつけて考えた結果、
生まれた誤解なのだろうとは思います。

RPG大辞典倉庫は2chに投稿された匿名個人の記事をまとめたものであり、
特に査読等が行われているわけではないので、
こういった誤解や曲解に基づく記事は非常に多かったりします。
機会があれば、そのあたりについても書いてみようかな、と。
5. Posted by Jade   March 17, 2015 12:23
5 丁寧な解説、ありがとうございました。
Wizシリーズ大好きなのに、デマを信じてリツイートまでしちゃってました。恥ずかしいです。
6. Posted by jzunkodj4y   March 17, 2015 21:31
デマが生まれるということはそれだけ知名度が高いという事でもあるので、
それだけウィザードリィというタイトルが日本で愛されてきた証かもしれません(笑)

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