May 22, 2015

ウィザードリィの「評価」を、改めて考える

3週間ほど前に、こんなニュース記事がありました。

米国立ゲーム博物館、「TVゲームの殿堂」入り最終候補ゲーム15作品を発表

詳細については記事を参照してほしいのですが、
候補として挙げられている作品は『ポン』、『マリオ』、『ドゥーム』、
ワールドオブウォークラフト』、そして近年日本でも流行を見せている『マインクラフト』と、
多少ゲームに詳しい人なら納得する作品が上がっています。

ところが、上記のニュースを取り上げたblogやまとめサイトでは、
「なんでウィザードリィが入ってないんだ!?」という声をかなり見かけます。

参考…google検索:ウィザードリィ 「TVゲームの殿堂」


そこで今回は、「この選考になぜウィザードリィが入らないのか」を、
あくまで筆者自身の独断となりますが、書いていってみたいと思います。


このTVゲームの殿堂の選考に関して、
作品のノミネートを公式ページで行っているのですが
その選考基準として、以下のような項目が挙げられています。

・広くそのゲームが知られており、象徴的な作品であること。
・一過性のブームではなく、長期的に楽しまれている作品であること。
・国境を越え、国際的な人気を持つ作品であること。
・他のゲームやエンターテイメント、大衆文化や社会に影響を与えたゲームであること。


この基準を見て、「ウィザードリィ、全部当てはまるじゃん!」と思った人も少なくないかと思います。


ええ、当てはまります。
世界中にたった1国、日本においては。



第1の選考基準である、「そのゲームが広く知られているか」という点についてですが、
国際的にはウィザードリィについては、
「コンピュータ上でD&D系の再現を試みた、コンピュータRPG黎明期の作品」程度の認識に収まっています。


「あれ?世界初のコンピュータRPGなんじゃないの?」と思われた方。

ウィザードリィは、実は既存のオンラインRPGを参考にして、
ソロプレイ特化に調整して世に出た商業作品です。


そんなアホな!と思われた方。
筆者blogの過去記事、ウィザードリィの呪文名についての記事の後半部をご一読ください。


「でも、ウィザードリィは世界初の商業RPGなのでは?」と思われた方。

ウィザードリィと双璧と称される『ウルティマ』、ご存知ですよね。
そのウルティマの原作者ロード・ブリティッシュことリチャード・ギャリオット氏の処女作、
アカラベス』をご存知でしょうか?
最近無料配布されている(4Gamer.netの記事)このゲームですが、
英語版Wikipediaの記事によれば、このゲームは1979年にジップロックに入れて手売りという、
最近の同人ゲームではもはや見られないような同人パッケージでまず販売され、
その後1980年に商業流通を開始した…とあります。
1981年のウィザードリィより早いです。


「なんてこった!世界初の商業RPGはウルティマの先祖だったのか!」と思われた方。

テンプル・オブ・アプシャイ』という作品をご存知でしょうか?
この作品も商業RPGですが、発売は1979年です。
やっぱり、1981年のウィザードリィより早いです。
この作品は英語版Wikipediaによれば、1982年の時点で30,000本を売り上げ、
同時点でのウィザードリィ(24,000本)、ウルティマ(20,000本)の売り上げを超えていた作品とのこと。
ともかく、ウィザードリィ以前にも、多くのRPGが商業流通していたことを理解して頂ければ。


「でも、テーブルトークRPGのゲームマスターをコンピュータで自動化させる、
 というコンセプトを生み出したのはウィザードリィじゃないの?」と思われた方。

違います。
ここまでに話題にした『アカラベス』『テンプル・オブ・アプシャイ』の
英語版Wikipediaの記事の中に、"Dungeons & Dragons"の文字が入っている事に
(きちんと読まれた方なら)気付いておられるでしょうか。
ついでに言うと、ウィザードリィの元ネタとして近年知名度が上がった『ウブリエット』や、
同じくPLATO上のRPGとして有名な『dnd』(これは名前からしてモロだ)の記事にも、
"Dungeons & Dragons"の文字が入っています。

すなわちウィザードリィに限らず、黎明期のコンピュータRPGは、
ほぼすべてがD&Dの影響を受けたもの
となっているのです。

そういった背景からは、それだけD&Dという作品が当時のコンピュータオタク…
ギークたちに浸透していたかが伺えるかと。
1つの優れた作品に対して、それに影響を受けた、あるいはそれを模倣した作品が多数現れるのは、
古今東西を問わず、よく起こる現象です。
(ポケモンに対する亜流ポケモンや、パズドラに対する亜流パズドラの氾濫なんかがそんなケースでしょう)


「でも、ウィザードリィは世界で初めて敵の姿を表示したコンピュータRPGらしいけど?」と思われた方。
(いい加減な記事を書いてグラディウス警察がフル装備になった某レトロゲームズにこう書いてあった)

先述の『アカラベス』の紹介記事や、
CRPG Addictのウブリエット紹介記事を読もう!な!


とは言え、ウィザードリィが当時高い評価を得た…というのは確かで、
商業コンピュータRPG黎明期の代表作であることに間違いはないでしょう。
(初代のウィザードリィはワードナ様ことアンドリュー・グリーンバーグ氏が
徹底的にバランス調整を行い、
結果として約1年ほど発売が遅くなった、という逸話がある…
但し、これは製作者の学業と並行していたためでもあります)、


日本では、ここまで挙げたように様々なWizにまつわる都市伝説が出回ってますが、
海の向こうでは当然こんな都市伝説はありませんし、
都市伝説を抜きにすれば、冒頭に挙げた評価は妥当なものかと思います。


何故そんな評価の作品が、日本で長く愛され、
現在は公式にライセンスが日本の企業に移ってしまうほど、
日本で高い人気を誇っているのか…と申しますと、
やはり、散々『ドラゴンクエスト』の元ネタの1つであると言われたのが大きいかと。
(実際の元ネタが『夢幻の心臓II』だとか、そういう件はここではあまり関係ないので脇に置いておいて)

ドラゴンクエストの誕生までを描いた公式創作作品『ドラゴンクエストへの道』では、
ウィザードリィとウルティマに触れたことがDQ誕生のきっかけの一つとして描かれていますし、
ポートピア連続殺人事件』のFC版で追加された地下ダンジョンに、
わざわざウィザードリィのパロディメッセージを仕込む、
また、2011年に開催されたウィザードリィ30周年イベントでは、
初期のドラゴンクエストのプログラマーである中村光一氏が
DQの戦闘システム、呪文名にはウィザードリィの影響がある事を語っているなど、
ドラゴンクエストの製作者がウィザードリィというタイトルに対して、
相当のリスペクトを払っていたのは疑いようのないところでしょう。

そして日本での流行を支えるに至ったもう1つの理由が、
「FC版のローカライズに成功したこと」だと筆者は思っています。
当時のDQ人気を受けて、そのドラクエの元ネタと言われたシリーズ作品、
『ウルティマ 恐怖のエクソダス』と『ウィザードリィ 狂王の試練場』が
ほぼ同時期にFCで発売されたわけですが、
原作はともに当時のFCのRPGの基準(=ドラクエ)と比較して極めて難易度の高い代物であり、
そのままではおそらく受け入れられないであろう…と感じたのか、
両者ともに、独自のローカライズを行っています。

ウルティマ側は当時から才能を見せていたアイドルプロデューサーであり、
ヒットメーカーであった秋元康を監修に起用。
アイドルソングのタイアップや、FCメインユーザー層である小学生でも理解できるようなテキストの置き換えなど、
まさに芸能界の手法を応用したようなローカライズ。

一方ウィザードリィ側はあえてFCメインユーザー層を切り捨てるような「13歳以上にオススメ」という広告
実績のあったファンタジー挿絵作家や、有名音楽家の起用によるブランド付け。
「アメリカ生まれの名作」を主張するような舶来品的アピールや、攻略記事・ファン交流的記事といった、
雑誌を中心とした、ティーン層以上向けの宣伝展開。

まったく別のベクトルで日本での展開を行った2作ですが、
その結果は今現在の皆様がご存知の通りかと思います。
その後ウィザードリィは小説化漫画化、CDドラマ化、アニメ(OVA)化…と、
メディアミックスを進めていき、日本で一定の地位を確立しました。
ウィザードリィが日本で愛されるようになったのは、ゲーム自体の出来だけでなく、
こうした宣伝戦略のクリティカルヒットも存分に絡んでいると、筆者は思うのです。


さてさて長くなりすぎて、本来の「なぜWizは殿堂入りノミネートされないのか」を説明する…
という目的を忘れつつあったので、改めて冒頭に示した選考基準を見直してみます。

・広くそのゲームが知られており、象徴的な作品であること。
→商業コンピュータRPG黎明期の名作であることには違いないが、
 象徴的かどうか、と問われると(日本以外においては)ウィザードリィは微妙。

・一過性のブームではなく、長期的に楽しまれている作品であること。
→日本でこそ絶え間なくシリーズ作品の新作が発表されているが、
 それ以外では2001年のウィザードリィ8を最後に長らく作品がリリースされていませんでした。
 (20年シリーズが持った、という事実でも凄いことではありますが)
 2013年にウィザードリィオンラインが欧米でサービス開始しましたが、
 わずか1年半でサービスを終了しています。


・国境を越え、国際的な人気を持つ作品であること。
→日本では恒常的な人気を得ました。
 アメリカでもウィザードリィ8については2001年のメディア主催の賞を獲るなど、
 この面については少しだけ考える必要があるかもしれません。

・他のゲームやエンターテイメント、大衆文化や社会に影響を与えたゲームであること。
→日本では言わずと知れたDQや初期の『女神転生』、
 海外では『バーズテイル』や『マイトアンドマジック』といったフォロワーは生みました。
 しかしドラクエはともかく、世界中でこれらフォロワー含む作品が
 大衆文化に影響を及ぼしたかは不明ですし、
 女神転生やマイトアンドマジックは今や『ペルソナ』や『ヒーローズ・オブ・マイトアンドマジック』といった、
 ウィザードリィの影響の見られない派生作品の方が有名です。

…とまあこんな感じで、さすがにテレビゲームというもののありかたを一変させた「マリオ」や、
携帯ゲーム機の歴史のターニングポイントとなった「ポケモン」と比較すると、
さすがにウィザードリィは「ゲームの歴史の殿堂」入りには遠いタイトルではないかな…と思うのです。
もしこれが日本の博物館が主催なら入ったかもしれないけれど、アメリカ主催ですし(笑)



日本だと半ば神格化に近いほどの扱いを受けてしまった『Wizardry』ですが、
世界的には決してそこまでではない点を認識しておかなければ、
『Wizardry』というゲーム、そしてそのブランド自体の
本当の素晴らしさと、そこから得るべき反面教師とすべき点は見えてこないと思うのです。


ついでに、ある環境で形成された評価「だけ」で物事を見よう、とする試みは、
(別にこの件に限ったことではなく)極めて危険でありますよ…と、
現代の世の中に対する警鐘っぽい物言いでなんとなく締めてみたい(笑)

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この記事へのコメント

1. Posted by hally   May 27, 2015 00:44
こんばんは。「ウィザードリィ」が何故候補に入らないのだという声は海外にもないわけじゃないんです。本場オールドタイマーの間でも「ウィザードリィ」を評価する声は相応にあります。もちろん、それよりずっと大きいのは「ウルティマ」を評価する声で、その「ウルティマ」さえ殿堂入りのラインナップに入っていないんだから、本場的にもどうなのよという感じですね。


海外ではこうしたセレクションにおいて、CRPGというジャンルそのものが日本に比べると弱い立場におかれがちです。そもそもこの殿堂入りラインナップからはWindows以前のパソコンゲームがごっそり脱落しているわけですから、もはや「歴史的価値」と「文化的価値」は分けて考えるべきものになっているのかもしれません。
2. Posted by jzunkodj4y   May 27, 2015 08:21
コメントありがとうございます。

「海外ではCRPGの立場そのものが弱い」というのは盲点でした。
言われてみれば確かにそんな感じを受けます。
3. Posted by るてい   May 31, 2015 19:53
世界で初めて何かを「導入した」ことと、世界で初めて「完成の域に導いた」ことの評価軸は別に見るべきじゃないでしょうか(それがWizardryに当てはまるかどうかは知りませんが)
例えばスーパーマリオブラザーズは押しも押されもせぬ横スクロールプラットホームの金字塔ですが、それ以前にも似たゲームは幾らでも挙げられるでしょう。D&Dにしても「世界初のRPG」といいながら、個々の要素で先行するものはありますし、重要なのはジャンルの代名詞となせるような完全性を獲得したことなのではないかと。
4. Posted by jzunkodj4y   May 31, 2015 22:26
コメントありがとうございます。

確かに初代ウィザードリィの完成度は当時としては高いものですし、
コンピュータ黎明期の代表の1つとして挙げられるのは間違いないと筆者も思うんですが、
やはり他作品への影響を考えたときに(日本以外では)そう大きな存在ではなく、
この点が重要視されている選考基準に漏れたのではないかな…と考えています。

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