2014年04月08日

疑義照会(回答)票(厚生労働省)

平成24年1月30日厚生労働省年金局より以下の疑義照会(回答)が日本年金機構に出された。しかし、この内容は民法の失踪宣告制度と、消滅時効(166条)を正確に理解しているものではない。間違っている箇所にはブログ運営者が下線を引いてある。

照会日 平成24年1月30日
照会部署 年金給付部 給付指導グループ
照会担当者 高−晋−

主要担当部署の長の確認 海−原

案件 受付番号 No.2012−2 死亡推定日から長期間経過後に失踪宣告を受けた場合の遺族年金の消滅時効について

内容
 平成3年6月に行方不明となった者の家族が、生存を信じてその者の国民年金保険料を納付していたが、失踪宣告の請求をした結果、「死亡とみなされる日:平成10年6月27日」「失踪宣告の裁判確定日(原文のママ):平成22年8月11日」と戸籍に記載された。
 この者の加入制度は国民年金のみであり、行方不明当時、この者に生計を維持されていた妻と9歳の子がおり、その妻から今般、遺族基礎年金の請求があった。)寨茵当時支給可能であった平成10年7月から平成13年3月分の遺族基礎年金の支給可否について、南関東ブロック本部相談給付支援グループから疑義照会が上げられている。
 時効の起算日については、年金法及び会計法において特段の規定がないため、民法166条により、「権利を行使することができる時」となるが、当事例の場合、「権利を行使することができる時」については平成22年8月11日(失踪宣告の裁判確定日)と∧神10年6月27日(死亡とみなされる日)が想定される。
 「権利を行使することができる時」とは、権利を行使するのに法律上の障害がなくなった時であり、権利者の一身上の都合で権利を行使できないことや権利行使に事実上の障害があることは影響しない、(「我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権」(第2版追補版)【日本評論社】p320)
 また、普通失踪の場合、最後に不在者の生存が確認された時(最後の音信時)から、生死不明、つまり生存の証明も死亡の証明も、ともに立たない状態が7年継続している場合、利害関係人(配偶者、法定相続人、親権者など)の請求により家庭裁判所は、失踪の宣告をすることができる。
 本件の場合、残された妻は何らかの事情(一身上の都合など)により、失踪の宣告の請求を平成22年まで行わなかったものと思われるが、失踪の宣告の請求は、7年間の失踪期間経過後であれば、妻自身の判断で平成10年当時も可能であったことを踏まえると、ニ[Ь紊両祿欧あったとは言えず、平成10年当時、失踪宣告の請求を行い、宣告を受け、遺族基礎年金の請求を行うことは可能である。(権利の行使をすることができる。)
 したがって、λ楫錣了効の起算日は、平成10年6月27日(死亡とみなされる日)になると思料するが、貴局の意見をご教示いただきたい。

回答
 貴見のとおり取り扱われたい。


失踪宣告がなされた場合の遺族年金の消滅時効の起算点

  失踪宣告がなされた場合における国民年金の死亡一時金および遺族基礎年金の請求権の消滅時効の起算点について、厚生労働省年金局と日本年金機構は「失踪宣告により死亡とみなされた日、すなわち失踪から7年経過した日の翌日から消滅時効が進行している」としています。これは民法166条1項の消滅時効の起算点をあやまって、解釈しているものです。この誤った消滅時効の起算点により、死亡一時金の不支給や遺族年金の一部不支給決定がなされ、本来受給すべきものが支払われないことになっています。この問題の詳細をお知らせすることで、この理由で遺族年金が一部不支給とされた事例の掘り起しの一助となれば幸いです。

  日本年金機構年金給付部給付指導グループから2012年1月30日に内部の疑義照会に対して、「失踪宣告により死亡とみなされた日の翌日から(遺族基礎年金の請求権の)時効が進行している」とする回答が出されていました。

 なお、この回答が出されるまでは、消滅時効の起算点は、失踪宣告の審判の確定日の翌日とされていました。

 この消滅時効の起算点の変更は、2011年頃に多数の長期間所在不明高齢者の家族に老齢年金の支給が継続されていたという社会問題に関連して行われたものであり、2014年3月で解散した年金業務監視委員会の郷原信郎委員長(弁護士)のブログで次のように説明されています。

「厚労省と日本年金機構は、老齢年金を受け取っている所在不明高齢者の家族に、失踪宣告申立てをするように勧奨した。しかし、長期間所在不明だった高齢者に失踪宣告が出され、失踪後7年目に死亡したとみなされると、それ以降の長期間の分の遺族年金が支払われることになる(例えば、20年間の所在不明であれば、13年前に死亡したとみなされ、13年間の遺族年金が支給されることになる)。
一方で、「死亡とみなされた日」以降に支給されていた老齢年金は返還させる必要が生じるが、会計法により返還請求権は5年で時効消滅してしまうので、最大でも5年分しか取り戻せない。そのため、老齢年金と遺族年金が重複して支給される期間(20年間の所在不明であれば8年間)が生じ、事実上、老齢年金を不当に受け取っていた所在不明高齢者の家族に対しても、さらに支給せざるを得ないケースが続出することになる。
そこで、厚労省は、失踪宣告の場合の消滅時効の起算点を「死亡とみなされた日」に変更することで、老齢年金と遺族年金の重複支給をしないで済ませようとしたのである。」

  老齢年金と遺族年金の二重取りを防ぐためには、国民年金法および厚生年金保険法の改正によって対処するべきことでしたが、民法に抵触する内部取扱いを作成して対処してしまったということです。
  しかも、この内部取扱いは国民に公表されなかったため、平成26年に明らかにされるまで、理由も不明のまま死亡一時金の不支給や遺族年金の一部不支給とされた遺族がいるということになります。

2013年11月18日

労働基準法による休業手当と民法の危険負担

1 休業手当の趣旨
 故意・過失などによって、使用者の責任で就業ができなかった場合、労働者は、反対給付としての賃金の請求権を失わない(民法536条2項)。
 しかし、使用者の故意・過失とまではいえない事情で、就労できなくなった場合には、賃金請求権は発生しない。そのような事態に備えて、労基法26条は、休業手当の定めをおき、その休業期間中、使用者は労働者に対して平均賃金の6割以上の休業手当を支払うことにより、労働者の生活を保護することとしている。

2 両規定の違い
(1)休業手当を支払わないと罰則が科され、付加金の支払いが命じられる場合があること(労基法120条1号、114条)。

(2)民法536条2項は任意規定なので、労使が合意してこれを排除することが可能であり、労働関係においては、排除する特約が締結される可能性が強いこと。一方、労基法26条は強行規定であり、同条が定める基準を下回る合意は無効となること。

(3)民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」と比べて、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の範囲の方が広いこと。

3 労基法26条の使用者の責に帰すべき事由
使用者の責に帰すべき事由とは、
使用者の故意、過失または信義則上これと同視すべきものよりも広い。
不可抗力によりものは含まない。
すなわち、天災事変のような不可抗力の場合を除いて、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含む。
 
   顱〃弍直祿
・親工場の経営難から下請工場が資材、資金の獲得ができず休業した場合(昭23.6.11基収1998号)
・関連企業の争議による業務停止に起因する休業(扇興運輸事件 熊本地八代支決昭37.11.27 労民集13-6-1126)、
・雨天の予報のため元請が工事を中止したため下請けの従業員が就労できなかった場合(最上建設事件 東京地判平12.2.23 労判784-58)、
・会社が業務を受注できなかったために休業となった場合(大田原重機事件 東京地判平11.5.21 労判776-85)、
・ゴルフ開発計画の凍結により事務所を閉鎖したものの担当者からの要請で就職せず待機していた場合(ピー・アール・イー・ジャパン事件 東京地判平9.4.28 労判731-84)、
・派遣労働者が派遣先からの差し替え要求により就労場所(派遣先)を失った場合(三都企画建設事件 大阪地判平18.1.6 労判913-49)などがある。
髻.好肇薀ぅによる休業
労働組合が争議をしたことにより、同一事業場の当該労働組合員以外の労働者の一部が労働を提供しえなかった場合にその程度に応じて労働者を休業させることは差し支えない(昭24.12.2基収3281号)が、事業場における一部の労働者のストライキの場合に、残りの労働者を就業させることが可能であるにもかかわらず、使用者がこれを拒否した場合は、使用者の責めに帰すべき事由に該当する(昭24.12.2基収3281号)。
鵝.蹈奪アウトによる休業の場合にも使用者は休業手当支払義務を負わない(昭23.6.17基収1953号)。
堯ゝ擔処分による休業
人身事故を起こしたタクシー運転手に対して司法機関の処分が出るまでの間の特別休職について、これを労基法26条の「休業」に当たるとして平均賃金の6割を使用者が負担すべきとしたもの(相互交通事件 函館地判昭63.2.29 労判518-70)。
懲戒委員会の審査の間、労働協約に基づく休職処分を受けた場合、これが使用者の責に帰すべき事由にあたるとして休業手当の支払いを命じたもの(日通運転手アカハタ配布立寄事件 大阪地判昭47.10.13 判時697-93)。

4 故意、過失による休業
 過失による休業は、労基法26条の使用者の責めに帰すべき事由に該当する。この場合、民法536条2項と競合して適用される(昭22.12.15基発502号)。ただし、労基法26条は、労務の履行の提供は要しない(最高裁 昭37.7.20判決)。
 したがって、使用者の故意、過失による休業の場合は、民法により全額の賃金請求権が労働者にあるが、このうち労基法26条の範囲内において同条の適用があり(実益は、労基法114条の付加金にある。)、賃金の支払いその他の賃金の関する労基法の他の保護規定は、全額に対して適用される。もっとも、休業手当は就業規則に定めがあり、現実にはその内容(平均賃金の6割、あるいはそれ以上の額の支払い)が労働契約の内容となっているとみられるので、その範囲の額が労基法の保護を受けることになる(「労働基準法 上」厚生労働省労働基準局編 労務行政)。

少し事情は違うが、参考として片山組事件(最一小判平10.4.9 労判736-15)
(1)事件のあらまし
原告Xは昭和45年3月被告Yに雇用され、建設工事現場における現場監督業務に従事していた。平成2年夏、Xは、バセドウ病にり患している旨の診断を受け、以後通院治療を受けながら、平成3年2月まで現場監督業務を続け、その後、次の現場監督業務が生ずるまでの間、臨時的、一時的業務として、Yの工務管理部において図面の作成など事務作業に従事していた。Xは、平成3年8月から現場監督業務に従事すべき旨の業務命令を受けたが、病気のため現場作業に従事できないこと、残業は1時間に限り可能なこと、日曜日・休日の勤務は不可能であることなどを申し出、Yの要請に応じて診断書を提出した。そこで、Yは平成3年9月30日付の指示書で、Xに対し10月1日から当分の間自宅で病気治療すべき旨の命令を発した。これに対して、Xは事務作業を行うことはできるとして主治医の診断書を提出したが、現場監督業務に従事しうる旨の記載がないことから、Yは自宅治療命令を持続した。その後、平成4年2月5日に現場監督業務に復帰するまでの期間中、YはXを欠勤扱いとし、その間の賃金を支給せず、平成3年12月の賞与も減額した。そこで、Xは欠勤扱い期間中の賃金と12月賞与の減額分をYに請求して提訴した。
(2)判決の内容
労働者側勝訴
労働者が職種や業務内容を特定しないで労働契約を締結した場合、実際に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が完全にはできないとしても、労働者の能力、経験、地位、企業の規模、業種、労働者の配置・異動の実情や難易度等に照らして、その労働者を配置する現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、労働契約に従った労務の提供をしているといえる。Xは21年以上にわたり現場監督業務に従事してきたが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督に限定されていたとは認定されていないし、Xは事務作業に従事することができ、本人も事務作業をすることを申し出ていた。そうすると、Xが労働契約に従って労務の提供をしていなかったと断定することはできないので、Xが配置される現実的可能性のある業務が他にあったかどうかを、再度検討すべきである。
なお、差戻審判決(東京高判平11.4.27 労判759-15)では、Xに遂行可能な事務作業がありこれに配置する現実的可能性があったとして、賃金請求権を認められている(最三小決平12.6.27 労判784-14の上告不受理により確定)。




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2013年10月04日

年次有給休暇はなぜ取りにくいのか

1 年次有給休暇の取得率
 年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨で、労働基準法によりその付与が義務付けられています。しかし、厚生労働省「平成23年就労条件総合調査」によると平成22年に付与された年次有給休暇日数(繰越日数は除く。)は、労働者1人平均17.9日、そのうち労働者が取得した日数は8.6日で、取得率は48.1%と低水準です。しかも、この調査は常用労働者が30人以上の民営企業を対象としており、30人未満の企業の取得率は明らかになっていません。

周りに迷惑がかかるので遠慮

 約7割の労働者が年次有給休暇の取得にためらいを感じており、その理由として、「周りに迷惑がかかる」「後で多忙になる」「職場の雰囲気が取得しづらい」が挙がっています(平成12年三和総研「長期休暇制度に関する研究」)。このように、年次有給休暇の取得について事業場における労使当事者の意識が前向きなものとなっていないことや、休暇取得のイニシアティブを労働者の時季指定に委ねているという制度そのものが低い取得率の要因の一つとなっているとも考えられています。
また、年次有給休暇を付与していない企業の件数は調べられていませんが、「年末、お盆、ゴールデンウィークの休日があるので、有給休暇はない。」とか、「俺の法律には有給休暇10日間なんてない!」などと平然としている事業主は稀ではありません。

2 計画的付与の悪用
年次有給休暇の取得率を上げることを意図して創設された計画的付与制度の導入状況を見ると、平成19年において年次有給休暇の計画的付与制度がある企業は(平成20年就労条件総合調査)17.0%となっており、制度創設以来低い水準が続いています。
 
休日を計画的付与にしてしまう

  さらに、従来からあった年末年始、お盆、ゴールデンウィークの休日の全部または一部を計画的付与日とすることで、年次有給休暇の付与日数を実質的に減らそうとする企業もあり、計画的付与制度を悪用あいている例もあります。計画的付与制度が、このように運用されるなら、「うちは、年末、お盆、ゴールデンウィークの休日があるので、年休は必要ない。」という企業と大差はありません。

3 時季指定の時期
年次有給休暇は、使用者が労働者の請求を承認することによって初めて取得できるというものではありません。労働者が年次有給休暇を取得する時季と日数を特定すれば、使用者は事業の正常な運営を妨げる場合と判断し、それを示さない限り、拒否することはできません。それでは、労働者がいつまでに時季指定をしなければならないかについて労基法は何も定めていませんが、使用者が事業の正常な運営を妨げる場合にあたるかどうかを判断するのに必要な時間的余裕をもって行うべきであると考えられています。

請求時期を決めてもよい

就業規則などに、年次有給休暇の請求は○日前までにしなければならないという規定をおくことについては、使用者に時季変更権を行使するか否かを判断する時間的余裕を与えると同時に、代替要員の確保を容易にすることにより、時季変更権の行使をなるべくしなくてもいいようにしようとする配慮をしたものと認められ、年休の時季を指定すべき時期についての制限として合理的なものなので、法39条に違反するものではないとする判例があります(此花電報電話局事件 最高裁判 昭57.3.18)。ちなみにこの就業規則では、休暇の前前日までに所属長に年休請求をなすべきと定められていました。

事後請求を認めるかは使用者の裁量

ところで、遅刻や急病のために年次有給休暇を使いたいと申し出たところ、事後請求は認めないと断られたという例があります。事後請求については、当然に認められるものではなく、使用者の裁量によるものとされています。ただし、労働者の請求の事情が年次有給休暇として処理することが妥当であると認められるのに、使用者が他の事情に基づいてその処理を拒否するなど裁量権を濫用したと認められる特段の事情が認められる場合に限り違法となるという裁判例(東京貯金事務センター事件 東京高判 平6・3・24)があります。

4 年次有給休暇の使用目的
  年次有給休暇の取得時は、使用目的欄のある年休取得届等を提出することが一般に行われています。使用目的をめぐって、子どもの学校行事で年次有給休暇を請求する場合に、学校のプリント提示を求め、後で参観の内容を聞かれるという例や、農作業という理由で年次有給休を取得し、実際はゴルフに行ったところ、会社にばれて、嘘をついて年休を取ったということで解雇されたという例もあります。
労働者が虚偽の理由を付して年休を請求したことについて、「労働者は有給休暇の請求については何ら理由を付する必要はなく、従ってたまたま開示された理由が虚偽のものであったとしても、使用者が右請求に対し現に時季変更権を有するか、或は右変更権の生じることが客観的に予測されるなど、特設の事情ある場合のほかは、単に虚偽理由を付したことをもつて誠実義務に違背するものということができない」とする裁判例(久保田鉄鋼蟷件 大阪地裁判 昭41・7・8)があります。

使用目的を聞いてはいけない

労働者の年次有給休暇の時季指定に対して、使用者は時季の変更ができるだけで、認めるか否かの権限はありません。「年次有給休暇の権利は、労基法39条1、2項の要件の充足により、法律上当然に労働者に生ずるものであつて、その具体的な権利行使にあたっても、年次休暇の成立要件として『使用者の承認』という観念を容れる余地はない」とし、「年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨と解される。」(林野庁白石営林署事件 最高裁二小判 昭48・3・2)と最高裁は判断しています。
したがって労働者は年次有給休暇の使用目的を明らかにする必要はなく、取得抑制につながる年休取得届等の使用目的あるいは理由欄は削除しなくてはなりません。

5 不利益取扱い
  年次有給休暇取得を理由とする不利益取扱いも取得をためらわせる理由ですが、年次有給休暇を取得したことにより、「賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」(労基法第136条)とされています。直接的に賃金の減額をしなくても、年次有給休暇取得率を賞与の査定に使うという使用者もいますが、年休取得日の属する期間に対応する賞与の計算上年休取得日を欠勤として扱い、賞与を減額することは許されないとされた判例(エス・ウント・エー事件 最高裁三小判 平4・2・18)もあり、許されないことです。

6 未使用年休の取扱い
  年度内に消化されずに残った年次有給休暇は、次年度に繰越されると厚生労働省の解釈例規(昭22・12・15 基発501号)は解しており、労基法第115条の時効の適用を受けて年次有給休暇は2年間その権利が消滅しないとされています。

繰越分から消化する

そこで、繰越された年次有給休暇と当年度のもののどちらから消化するのかが問題になります。消化の順番は労使の合意によるが、繰越分から先に消化すると推定するべきとされています(平成17年「厚生労働省労働基準局編「労働基準法 上」567ページ」。
  在職中には年次有給休暇が取得しづらいので、未使用の年次有給休暇を退職時には使ってしまいたいと考えますし、実際多くの労働者がそうしています。それでも、退職時とはいえ長期に休まれると代替要員の手当ができないとか、引継ぎができないということで拒絶する事業主がいます。退職時は、使用者は時季変更権を行使する余地はないので、年次有給休暇の取得を認めなければなりません。

7 年次有給休暇の取得単位
労基法第39条は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨から、年次有給休暇は一日単位によるものであり、時間単位取得は認めないとしてきました。ちなみにILO132号条約では、年次有給休暇を3労働週とし、分割取得も認めていますが、分割された部分の一は、少なくとも2労働週とすることを求めています。

時間単位取得が可能になる

平成22年改正労働基準法は、年次有給休暇の取得率が5割を下回る水準で推移していること、労働者からの時間単位取得の希望もあるということから、年次有給休暇について5日の範囲内で時間単位取得ができることになっています(労基法第39条第4項)。もちろん、まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇本来の趣旨を損なうことは許されません。
年次有給休暇を時間単位で与えることができるようにするには、事業場において労使協定の締結が必要ですが、この労使協定は、個々の労働者に対して時間単位による取得を義務付けるものではなく、時間単位取得か日単位取得かの選択は、労働者の意思によるものとされています。
しかし、案外、この時間単位年休は、管理が煩雑であるためにぢょ導入が敬遠されているようです。平成22年の就労条件総合調査では、時間単位年休を認めている企業は7.3%です。

半日単位取得も可

なお、従来から半日単位による付与については、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で運用される限りにおいて、認められてきました(平21・5・29 基発第0529001号)。

7 年次有給休暇の積極的取得と業務改善
  年次有給休暇の取得率向上といっても、現状のままの体制では困難です。しかし、「特に年休制度はとっていないけれど、病気等で休んだ時は給料を引いてないからいいんだ。」とか、「ぎりぎりの人員でやっているから、年休を取ってもらったら困る。」などと現状維持をしていると、従業員の士気が下がり、人が定着しないとか優秀な人材の確保ができないといった問題も生じます。

誕生日を計画的付与に

例えば近畿ブロック仕事と生活の調和推進会議編「仕事と生活の調和好事例集」でも、生産部門では社員を多能工化して、他部門の応援を可能とする体制づくり、事務部門では、コンピューターシステム活用により、休暇を取得しやすい環境づくりをしている(和歌山 製造業)、誕生日と前後する土日を連続して計画的年休消化し、年休取得日の分散化もできた(京都 製造業)等の先進事例を集めて掲載しています。余剰人員のいない中で、年次有給休暇の積極的取得を行うためには、このような先進的な企業の事例に学び、仕事の内容や進め方などの見直し行うことが欠かせません。




2013年10月03日

限度時間を守った36協定と労働時間の客観的記録

労働時間の適正管理:限度時間を守った36協定と労働時間の客観的記録
1 時間外・休日労働の手続
(1)36協定なしの残業・休日労働
時間外労働や休日労働は本来臨時的なものであり、最小限に留められるべきものです。労基法は、時間外労働・休日労働に関する協定(以下「36協定」という。)の締結及び所轄労働基準監督署長への届出(労基法第36条)並びに割増賃金の支払い(労基法第37条)を要件として、例外として時間外労働・休日労働を認めています。

36協定の届出は約4割

ところが法の遵守は徹底されず、厚生労働省の「労働時間等総合実態調査結果」(平成17年度)でも、36協定の締結・届出は37.4%の事業場で行われているにすぎません。1〜9人が28.1%、10〜30人が63.7%と規模が小さい事業場がその率を低くしています。その上に、協定の有効期間が始まってしばらくしてから届出が行われることも少な
くありません。
いったん重大な事故が起こった場合においては、36協定を締結することなく違法な長時間労働や休日労働を行わせたことについて法違反の責任が問われる例もあるのですが、その他の多くの違反状態は放置されているということになります。このことからも、残業が日常の業務に組み込まれ、常態となっていることがわかります。時間外労働・休日労働を行わせるためには、36協定を締結し、必ず有効期間が始まる前に届出をしなければならないことを徹底する必要があります。

(2)限度基準を守った適正な36協定
このようにわが国では、残業をすることが当然という職場意識があること、残業手当が生活費に組み込まれていること等により、時間外労働が恒常的に行われ、不況時に残業が減ることで収入減となることが問題視されるような実態があります。本来時間外労働・休日労働は臨時的なものであり、最小限に留められるべきものであるはずですが、労基法は延長時間や日数の上限を明確にしていません。

限度基準による延長時間の制限

36協定の延長時間については、労基法第36条第2項に基づき「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成15・10・22 厚生労働省告示355号、以下「時間外労働の限度基準」という。)が示され、一定期間の延長の限度時間を超えないように36協定受付時の窓口指導等の行政指導が行われています。
しかし、36協定そのものが、「時間外労働の限度基準」により一定期間における延長の限度時間を定めながら、特別条項付協定を締結すれば1年の半分までは限度基準を超える時間外労働が可能となるなど、労働時間の原則の例外にさらに例外を認める制度になっています(「時間外労働の限度基準」第3条但し書)。

(3)改正労基法による割増率
 労働時間の原則を徹底させ、時間外労働・休日労働を本当に例外とするためには、それを必要とする事由、手続、時間外労働の上限時間などの要件を明確にすることが重要です。また、時間外労働の割増率を高くするという方法もあります。

時間外労働の割増率が5割に

平成22年4月1日から施行される改正労基法では、1か月60時間を超える時間外労働に対して割増率を5割としました(労基法第37条)。このように割増率を引き上げることにより長時間労働を抑制することが改正労基法の意図するところです。しかし、この割増率引き上げについては当分の間中小企業には適用が猶予されます(労基法第138条)。
さらに、改正労基法では、 特別条項付きの時間外労働協定では、月45時間を超える時間外労働に対する割増賃金率も定めること(「時間外労働の限度基準」第3条第1項)、 ,領┐亘…螻篩賃金率(25%)を超える率とするように努めること(同基準第3条第3項)、 月45時間を超える時間外労働をできる限り短くするように努めること(同基準第3条第2項))が必要となります。これは中小企業にも適用されます。

(4)36協定と適正な労働時間管理
前述のように労基法は、36協定の締結・届出を要件として、例外として時間外・休日労働を認めています。したがって、適正な労働時間管理が行われるためには、36協定の締結・届出が適切に行われる必要があります。

周知されていない三六協定

さらに、36協定はその内容を労働者に周知させなければなりません(労基法第106条)。その目的は、労働者の無知に乗じて不当な取扱いがなされることを防止することにあり、ゆるがせにできないことです。しかし、これについても労働組合が広報しているから会社としては周知手続をとっていないとか、労務担当になって初めて36協定を見た等という実態があります。

(5)限度時間を超えない延長時間
時間外労働・休日労働時間が月45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとの医学的知見が得られている(「過重労働による健康障害を防止するための事業者が講ずべき措置」平成18・3・17 基発第0317008号)ので、36協定締結においては、「時間外労働の限度基準」(前述(2))の限度時間を超えない延長時間を協定することが重要です。
やむを得ず、特別条項を付ける場合も、1年の半分は認められている(前述(2))から機械的に6か月とするのではなく、期間は最小限にし、延長時間も必要最小限に留めたほうがいいでしょう。
      
(6)労働者の過半数代表の選任
36協定の一方の締結当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者とされています(労基法第36条)。労働組合の組織率が20%を割っている現在、とりわけ多くの中小企業においては過半数労働組合がありません。そのような場合の過半数代表者については、]基法第41条の管理監督者でないこと、協定を締結する者の選出を明らかにした投票、挙手等の方法による手続により選出された者であることのいずれにも該当することが求められています(労基法施行規則第6条の2)。

知らない間に過半数代表に

はたして適正に労働者代表が選任されているかというと、なかには親睦会の代表が自動的に36協定の労働者代表となっていたり、ひどい場合は過半数代表とされた労働者本人の知らない間にはんこが押されていたりということもあります。労働者代表を適正に選出することが徹底されなければなりません。

2 労働時間管理の重要性
(1)労働時間の記録・管理の必要性の根拠
労基法には、労働時間の管理・記録の義務を直接明記した規定はありませんが、時間外労働手当や休日労働手当の支払いのためには労働時間を知る必要があること、また、労働者の安全衛生管理(例えば、長時間労働者の面接指導等)において労働時間を把握する必要があることから、使用者は労働時間を記録し、管理する義務があります。
また、賃金台帳には、労働日数、労働時間数、延長時間・休日労働時間・深夜労働時間数を記載しなければならない(労基法施行規則第54条)と定められており、そのためにも日々の労働時間の記録と管理が必要であり、その記録は、3年間の保存を義務付けられています(労基法第109条)。

(2)46通達
中央労働基準審議会において、平成12年11月30日に「時間外・休日・深夜労働の割増賃金を含めた賃金を全額支払うなど労働基準法の規定に違反しないようにするため、使用者が始業、終業時刻を把握し、労働時間を管理することを同法が当然の前提としていることから、この前提を改めて明確にし、始業、終業時刻の把握に関して、事業主が講ずべき措置を明らかにした上で適切な指導を行うなど、現行法の履行を確保する観点から所要の措置を講ずることが適当である。」との建議がなされました。

求められるタイムカード等による記録 

これを受けて、労働省(当時)は、労基法は、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかであるとし、いわゆる46通達(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13・4・6基発第339号)を示して、労働時間の使用者による現認、タイムカードやICカードなどの客観的な記録を基礎として確認し、記録する方法を労働時間の把握の原則的な方法としています。そして、労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図らなければならないとしています。

自己申告制は例外

さらに、労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するという自己申告制の不適正な運用により、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるとし、自己申告制はこれを行わざるを得ない場合の例外的方法として位置づけました。自己申告制を行わざるを得ない場合、ー己申告制の対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと、⊆己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること、O働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないことが求められています。

(3)自己申告制に関する裁判例
裁判例でも、タイムカードを採用せず、申告残業がある場合にのみその時間を所定労働時間に加算させていた事案(技研工業所事件 東京地裁判 平成15・5・19)で、「使用者には、原則として自ら始業終業の確認をし、又はタイムカード等の客観的記録で確認し、記録を残す義務がある」とし、自己申告制についても、46通達の基準と同様の基準を採用しています。同判決は、上司は抽象的には自己申告の残業時間数を抑制しない旨を表明しているが、客観的な視点から労働時間を管理させようとはせず、VDT作業の休息時間を労働時間に算入しない等労働時間管理が適正ではないとして、自己申告制による時間数を採用せず、集計表記載の作業時間をもとに割増賃金の支払いを命じています。
このように、出来る限り自己申告制は排除して、労働時間の客観的な把握と記録を行うことが、サービス残業や長時間労働をなくして適正な労働時間管理を行うためには欠かせないことです。


2013年10月02日

労使協定なしの親睦会費等の天引きは違法

1 守られない賃金5原則
  賃金は労働時間と並んで労働者にとって最も重要な労働条件です。労働の対価が確実に労働者の手に渡るように、労基法第24条は、通貨で、直接、全額、毎月1回以上、一定期日に支払うという賃金5原則を定めています。
しかし、人材派遣会社株式会社グッドウィルが1995年の創業時から2007年4月30日までの期間に 同社に登録し働いていた労働者の賃金からデータ装備費(一勤務に付き200円)を、任意であるといいながら実際には強制的な徴収を行い、その使途も不透明として問題になりました。グッドウィルに限らず、賃金控除協定を行わずに親睦会費等を天引きする企業は多数あります。親睦会費を集めながら、旅行や親睦会を殆ど行わず、社員が若いので慶弔費もめったに支出されないで貯まる一方という事例もあり、さらに、労働者の退職時に貯まった親睦会費が返還されないということもあります。そのような状態を放置すると、退職時等に労働者からの不満が出て、労働基準監督署への申告がなされることも少なくありません。

親睦会費の控除は労使協定で

2 一部控除が認められる場合
  労基法は、賃金の全額払いを定めながら、法令に別段の定めがある場合又は一定の要件を満たした賃金控除協定を労使間で締結した場合には、親睦会費や昼食代等の名目で賃金の一部を控除することを認めています。
一部控除を認めた法令には、所得税等の源泉徴収を認める所得税法第183条及び地方税法第321条の5、社会保険料の控除を認める健康保険法第167条、厚生年金保険法第84条、雇用保険料の控除を認める労働保険徴収法第31条があります。減給制裁の制限を定める労基法第91条も賃金の一部控除を認める法令の一つです。
労使間の賃金控除協定の要件は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働組合がない場合、あるいは労働組合はあるが過半数を組織していないときは事業場の労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合をいいます。

労働者代表との協定でなければ無効

3 有効な労使協定
「労働者の過半数を代表する者」は、管理監督者でなく、その協定をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者でなければなりません(労基法施行規則第6条の2第1項)。時間外労働協定に関する判断ですが、最高裁判例でも、協定当事者が労働者の過半数を代表する者でなければ、協定は有効とは認められていません(トーコロ事件 最二小判 平13・6・22)。
控除可能な項目は、「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ、法第36条の時間外労働と同様の労使協定によって賃金から控除することを認める趣旨」(昭和27・9・20 基発第675号、平11・3・31 第168号)であり、労基法第17条の前借金の相殺禁止の特例を認めるものではありません。さらに、実物給与を支給し、その部分を控除することは労使協定を行っても認められません。
賃金控除協定の書式と記載項目については労基法で示されていないので、任意の書式でよく、その内容は少なくとも々欺の対象となる具体的な項目、各項目ごとに控除を行う賃金支払日を記載する必要があり(前掲基発第675号、第168号)、さらに9欺する賃金の合計額の賃金に占める割合を記載することが望ましいといえます。

労使間の賃金控除契約も必要

さらに、賃金控除協定は、それによって賃金控除を行う場合は労基法違反にならないという免罰的効果(罰則の適用がない。)しかなく、個々の労働者の毎月の賃金からその一部を控除できるという民事的効力はないという考え方が支配的です。ですから、民事的効力を得るためには賃金控除協定だけでは足りず、労使間の契約が必要であり、具体的には就業規則等に控除について規定する必要があります。

4 控除額の限度
  賃金の控除額の限度については、労基法に定められていません。行政解釈では、「控除される金額が賃金の一部である限り、控除額についての限度はない」(昭29・12・22 基収第6185号)とされています。もちろん、労基法24条は、「賃金の一部を控除して支払うことができる。」と規定しているので、賃金の全額を控除することは許されず、本条の趣旨から労働者の生活を脅かすような金額の控除は出来ないと考えるべきでしょう。

5 過誤払いの返還
賃金の支給基準について誤解があった等の理由で、間違って多く賃金を支払っていたということがあります。このような場合は、過払いを受けた労働者に返還を求めることができます。給与担当者に過失がある場合でも構わないと解されています。過払い部分を賃金から控除するという内容の労使協定がある場合には、賃金からの控除が認められます。

労使協定無しの過払い返還天引き可
 
また、労使協定がなくても、その控除が、過払のあつた時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期において行われ、かつ、労働者に予告し、その額が多額にわたらない等労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものであるときは、労基法24条1項の規定に違反しない(福島県教組事件 最一小判 昭44・12・18)と最高裁により判断されています。
 この合理的に接着した時期とは具体的にはどの程度か不明です。これについて、最高裁は、10月及び12月に支給された過払い賃金の過払い部分を翌年の3月20日に支払分から減額した事例について、減額措置が遅れた主なたる原因が、県教育委員会事務局が相殺をするか否かもしくはその法律上の可否、根拠等の調査研究に相当の日時を費し、または他の所管事務の処理に忙殺されていた点にあったことから、労基法第24条の例外にはあたらない(群馬県教組事件 最二小判 昭45・10・30)、と判断しています。
実務的には、労使協定を締結して返還を求めるのが無難な方法だと思われます。

6 通貨払い
  労働者の同意を得た場合には、労働者の指定する銀行その他の金融機関の労働者本人名義の預金又は貯金へ賃金を振り込むことが認められています(労基法施行規則第7条の2第1項)。労働者の同意を得る方法としては、「賃金の口座振込同意書」(任意様式)を労働者から提出させれば、労働者の意思の確認を行うことができ、指定する預金口座等に振り込んでいることも証明できます。
「『振込み』とは振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出しうることをい」(昭和63.1.1 基発1号)います。実際に、取引銀行の提案ということで、賞与の一部を銀行の定期預金で払う企業がありましたが、労働者の指定する口座ではないうえに、定期預金は賞与の所定支払日に払い出しができないので、労基法違反となります。

自社製品の購入強制は労基法違反

  実物給与が認められるのは、労働組合法上の労働協約による場合であり(労基法第24条第1項)、さらに労働協約の適用を受ける労働者に限定されています(昭63・3・14 基発150号)。実物給与とは、自社製品などの有形物、小切手、住宅供与、通勤定期券等の無形の利益も含ます(昭25・1・18 基収第130号、昭33・2・13 基発90号)。不況になると、賞与時に自社製品の購入勧奨が行われることがありますが、強制になれば、通貨払いの原則に違反する可能性があります。スーパー等で賃金の一部を自社の商品券で払うことがありますが、これも労基法違反となります。

7 毎月1回以上
  賃金締切日と支払日の間隔は、毎月20日締切り、当月30日払いというように10日や、2週間程度が一般的ですが、まれに、末日締切り、翌月末日払いというような長い間隔で支払う企業があります。不当に長い期間でない限り、締切り後ある程度の期間を経てから支払う定めをすることは認められていますが、1か月も期間をおくのは不当と思われます。新たに雇入れた労働者については、雇入れ後2ヶ月近くも賃金が支払われない期間があるので、毎月払いの原則に違反していることになります。

請求後7日以内の支払い義務

8 退職時の賃金支払い
  賃金締切日と支払日が一致していないので、退職時においては最後の締切日後の賃金が残ります。賃金は支払日に払えばいいのですが、労働者の足留防止と遺族の生活保護のために、労基法第23条は、労働者の死亡又は退職の場合において、労働者あるいは遺族の請求があった場合には、請求後7日以内に賃金を支払わなければならないとしています。
このことを労働者が知らないために、支払日まで待つということもあります。また、トラブルがあって退職あるいは解雇された場合、最後の賃金を取りに来るようにと言われても行きにくいために、泣寝入りする労働者もいます。それを期待してそれまで振込であっても、取りに来るようにという使用者もいます。支払い方法については、在職時に銀行振込みであったなら、退職後も銀行振込みをするべきであると考えられています。
また、有期労働契約を結んでいる労働者がやむをえない事由もなく期間途中で辞職する場合や、期間の定めのない契約を結んでいる労働者が突然辞職した場合には、最後の賃金をあえて払わないという報復措置が行われることもあります。たとえ労働者に非があったとしても賃金を支払わなければ、労基法第23条あるいは第24条違反になります。

出産、疾病等の場合は支払日前の賃金請求可

9 非常時払い
  労働者本人または労働者の収入によって生計を維持する者の出産、疾病、災害の場合及びやむを得ない事由による1週間以上の帰郷の場合に、労働者が賃金の支払いを請求したときは、非常時払いとして 賃金支払日前であっても、労働者の賃金支払い請求に使用者はが応じなければなりません ((同法第25条、労基法施行規則第9条)。
疾病は、業務上・外を問いません。また、労働者の収入によって生計を維持する者とは、労働者に扶養義務のある親族に限らず、同居人も含まれるとされています。親族であっても、労働者の収入によって生計を維持していない者は含まれません。
請求後何日以内に支払わなければならないかは定めがありませんが、本条の想定する緊急性から考えて、遅滞なく、具体的には労基法第23条の7日以内よりもかなり短い期間内に支払わなければならないと解されています。
支払われる賃金は、 通常は労働者の請求の時点より以前の労働に対する賃金です。いつの時点を基準とするか定めがないこと、本条の前提とする非常事態への対応を考慮すると、 労働者から特に請求があれば「支払日以前」の労働とすべきと解されています。























2013年09月28日

労働条件の明示

1 労働条件の書面による明示の重要性  中小企業では労働者を口約束で雇入れることが多く、雇入れ時に労働条件を書面で明示しない事業主は珍しくないのですが、労働関係のトラブルには、労働条件の書面による明示があれば起こらなかっただろうというものが少なくありません。例えば、賃金額を口約束し、貰ってみたら労働者の期待していた金額を下回り、不足分を請求しても、言った、言わないという争いで双方納得のいく金額を見出せないということがあります。  このような争いを防ぐためにも、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労基法第15第1項)。明示すべき事項は同法と同法施行規則で下表1のように定められており、,らイ泙任了項は書面によらなければなりません。そして、モデル様式と示されている「労働条件通知書」は雇用保険の被保険者資格得喪手続にも欠かせないものとなっています。 労基法制定時は、就労前に労働条件が明らかにされないまま、労働者が不当な条件で働かされることが多かったので、そのようなことを防ぐために規定されたものです。したがって、明示された労働条件が事実と違う場合は、労働者は、即時に労働契約を解除する権利が与えられ(同法第15第2項)、さらに就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合は、使用者は、必要な旅費を負担しなければならないとされています(同法第15第3項)。 「労働条件通知書」等で明示すべき労働条件 必ず明示しなければならない事項  ]働契約の期間 ◆―業の場所・従事すべき業務の内容  始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(早出・残業等)の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 ぁ…其發侶萃蝓Ψ彁察支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期 ァ‖狄Δ亡悗垢觧項(解雇の事由を含む。) Α‐叉襪亡悗垢觧項 定めをした場合に明示しなければならない事項  ‖狄手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払いの方法および支払時期 ◆[彁に支払われる賃金、賞与、最低賃金額に関する事項  労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項 ぁ^汰粥Ρ卆犬亡悗垢觧項 ァ/Χ鳩盈に関する事項 Α〆匈科篏・業務外の傷病扶助に関する事項 А”従粥制裁に関する事項 ─ゝ擔Δ亡悗垢觧項 2 パートタイム労働者と建設労働者  とりわけ労働条件が不明確なことが多い建設労働者とパートタイム労働者の保護のために、労基法第15条による労働条件の明示に加えて、それぞれ建設労働者の雇用の改善に関する法律第7条(罰則なし)により、「事業主の氏名又は名称、事業所の名称及び所在地、雇用期間並びに従事すべき業務の内容」を、短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律(いわゆるパートタイム労働法)第6条(罰則あり)により、「昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無」について書面等による明示を義務付けています。   3 期間の定めのある労働契約の更新・雇止めの有無と判断基準の明示  パートタイム労働者のように期間の定めのある契約(以下「有期労働契約」という。)によって雇用されている場合でも、反復更新されることで何年も働き続け、更新を当然のこととするようになります。しかし、種々の理由で、突然に更新無しと告げられることもしばしばあり、争いが生じます。  そこで、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決のため、厚生労働省は、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示)を示し、労働基準監督署長が助言及び指導を行うことができるようにしています。 使用者は、期間の定めのある労働契約を行う時は、労働者に対して、契約期間満了後の更新の有無を明示しなければならず(同基準第1条)、さらに、契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準の明示を義務付けられています(同基準第2条)。明示の方法は、書面によるのが望ましいとされています。 4 労働契約法による明示  労基法と労働契約法の違いですが、労基法は民法の特別法でもありますが、労働基準監督署の監督指導や罰則により義務の履行を強制する行政取締法規です。一方労働契約法は罰則がなく、当事者の意思を尊重し自主的な決定に委ねるという契約一般の原則に基づく民法の特別法ですが、罰則がないから守らなくて良いというものではありません。判例上のルールが条文化され、裁判になったら労働契約法に定められたように扱われるということが示されており、トラブル回避のために労使が留意しなければならない行動基準です。 労働契約法第4条第1項では使用者は、労働者に、労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにすることを求めています。そして、同法第4条第2項では、「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。」としています。契約一般は口頭でも可能なので、口頭で明確な合意をしても書面がないことだけで無効とするのは問題があるので、「できるだけ」ということになっています。また、労基法第15条は雇入時だけの義務ですが、労働契約法の書面による確認は、労働契約の変更時にも行わなければならないものです。更に、表1 銑グ奮阿砲弔い討盻駝未任粒稜Г求められています。 5 派遣条件の明示  派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、派遣労働者であることを明示しなければなりません(派遣法第32条第1項)。さらに、派遣元事業主は、派遣労働者として雇い入れたのではない労働者を新たに労働者派遣の対象としようとするときは、労働者にそのことを明示し、同意を得なければなりません(派遣法第32条第2項)。 派遣元事業主は、派遣労働者に対し、派遣労働者であることの明示と労基法第15条による労働条件通知書に加えて、さらに、就業条件明示書を交付して派遣条件(表2)の明示をしなければなりません(派遣法第26条、第34条、派遣法施行規則第22、22の2、25条)。 就業条件明示書で明示すべき派遣条件 1 従事する業務の内容 2 就労する派遣先の事業所の名称、所在地、就業場所 3 派遣先で、就労を指揮する者の氏名 4 派遣期間及び派遣就業する日 5 就業の開始・終了の時刻および休憩時間 6 安全衛生に関する事項 7 苦情の処理に関する事項 8 派遣契約解除の場合の措置 9 紹介予定派遣の場合は、紹介予定派遣である旨、その他紹介予定派遣に関する事項 (以上、派遣法第26条第1項) 10 派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日 11 派遣元責任者、派遣先責任者に関する事項 12 就業時間外・就業日外労働に関する事項 13 福祉増進のための便宜供与 14 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項 (以上派遣法施行規則第22、22の2条) 6 求人票や求人広告記載の労働条件 (1)求人票や求人広告は労働契約の申込みの誘い ハローワーク(公共職業安定所)への求人申込みや新聞等の求人広告で労働者の募集を行う場合も、労働条件の明示義務があり(職業安定法第5条の3)、同法42条は、新聞等により労働者の募集をするに当たって、労働条件の明示について誤解を生じさせないよう的確な表示に努めなければならないとしています。虚偽の広告・条件呈示により、職業紹介、労働者の募集等を行った者については罰則規定が設けられています(同法第65条)。 それでも、求人票や求人広告に書かれた労働条件と実際が違うというトラブルは珍しくなく、そのような場合、大抵「労働条件通知書」は交付されていないので、労働者は求人票や広告に記載された労働条件の履行を使用者に要求して争いになります。 しかし、ハローワークの求人票や雑誌や新聞に掲載する求人広告は、使用者からの個別の労働契約の申込みではなく、法律上は申込みの誘引(誘い)にすぎず、そのまま労働契約の内容になるとはいえないと考えられています。 (2)求人票等記載の労働条件を著しく下回ることは信義則違反 八洲測量事件(東京高裁判決 昭58.12.19)の判決は、求人票や広告に記載された賃金見込額等は、確定的な労働契約ではないが、求人者は信義則上求人票記載の見込額を著しく下回る労働条件を確定するべきではないとする判断を示しています。 しかしながら、求人は労働契約申込みの誘引であり、求人票はそのための文書であるから、本来そのまま最終の契約条項になることを予定するものでないとし、新卒の場合、求人の段階では現行初任給額かそれ以上の初任給見込額を求人票に記載し、入社日に確定額を提示する場合があるが、石油ショックなどがあり、賃金確定額が見込額より低くでも社会的非難に値せず、信義誠実義務の原則に反しないとして賃金見込額と確定額との差額の請求を認めませんでした。 (3)特段の事情がない限り求人票は雇用契約の内容になる 一方、求人票は、求職者に他の求人との比較考量と選択の機会を与えること、及び、真実の労働条件の提示を義務付けることで、求人者が実際とは違う好条件を餌にして労働契約を締結し、悪条件で労働を強いるという弊害を防止することを目的として求人者に義務付けられたもの(職業安定法第5条の3)なので、求職者は求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になると考えるし、通常求人者もそれが雇用契約の内容になることを前提としているので、求人票記載の労働条件は、当事者間でこれと異なる合意をするなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容になると解するのが相当であるとする裁判例(千代田工業事件 大阪高裁判決 平2.3.8)もあります。 ハローワークの求人票や雑誌や新聞に掲載する求人広告は、そのまま労働契約の内容になるとはいえませんが、通常は、求人票や広告に記載されているとおりの労働条件を確定するべきでしょう。

2013年09月26日

労働基準法のはなし2

1 労働基準法の適用単位と適用範囲
(1)適用範囲
  労基法は原則として労働者を使用する全ての事業に適用されます。なお、一般職の国家公務員については適用されず、船員法による船員、一般職の地方公務員については一部の条文を除いて適用されません(労基法第112、116条)。
(2)適用単位
  労基法は事業場単位で適用されます。行政解釈では「工場、鉱山、事務所、店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいう」(昭22.9.13 発基17号)とされています。さらに、同一の企業でも、例えば本社が東京、工場は埼玉と所在地が違えばそれぞれ別々に適用されます。したがって、時間外・休日労働協定は本社、工場、支店は別々の事業場として届け出る義務があり、就業規則届出義務の10人以上という要件も事業場毎の人数を数えます。しかし、同一場所にあっても、著しく労働の態様が違う部門がある場合、例えば新聞社の本社と同一場所にある印刷部門は本社とは別の事業として法が適用されます。
 (3)国外への適用
  労基法は行政取締法規として、日本国内にある事業にのみ適用があるので、企業が国外に工場を持った場合、その工場についてその適用は及びません。海外出張者については国内の事業場の使用者から指揮命令を受けて一時的に国外で就労しているにとどまるので、労基法が適用されます。なお、同法の民事的効力は、契約当事者が日本の法によると定めた場合及び契約当事者の意思が明らかでなく、契約地が日本である場合には及ぶものと解されています。
  労災保険法は海外の事業場へは適用されないので、海外出張者は特別加入の手続きをとることによって、労災保険の適用対象となります(労災保険法第27条7号、第30条)。

2 均等待遇の原則(労基法第3条)
(1)国籍、信条、社会的身分による差別の禁止
  労基法第3条は、「労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。」としています。これらの差別禁止理由は限定的に列挙されたもので、性差別、年齢差別などここに挙げられていない事由は含まれないので、現在はパートタイム労働者と正社員との差別的取扱いや年齢差別などをどう取り扱うが問題となっています。

(2)性差別
  労基法第4条により賃金についての男女差別は禁止されていますが、その他の性差別について労基法は禁止していません。1986年に男女雇用機会均等法が施行されるまでは、結婚退職制や男女別定年制などの男女差別について、憲法14条の平等原則の趣旨を踏まえた民法第90条公序良俗の解釈問題として裁判で争われ、その結果無効とされました。

(3)パートタイム労働者と正社員における均等待遇
 パートタイム労働者と正社員の差別について労基法第3条は適用がありません。ILO175号条約(日本は未批准)では同一労働同一賃金の原則が定められていますが、ヨーロッパと違って、日本では職種毎の賃金が個々の企業を超えて横断的に形成されていないこと、賃金額の決定に年齢、勤続年数、家族の有無など職種とは関係のない要素が大きな要素を占めていることにより、同一労働同一賃金の原則が適用されにくいので、パートタイム労働者と正社員における賃金格差を差別と断定するのは難しい状況があります。
しかし、正社員と同一の仕事をしている臨時社員の賃金が正社員の賃金の8割以下であるときは、同一(価値)労働同一賃金の原則自体ではないが、その根底にある均等待遇の理念に反し、公序良俗違反として違法となるという裁判所の判断があります(丸子警報機事件 長野地裁上田支部判決 平8.3.15)
パートタイム労働法と正社員との差別的取扱い禁止
  2008年年4月1日いわゆるパートタイム労働法(短時間労働法)が改正・施行され、同法第8条で、「正社員と同視すべきパートタイム労働者」の待遇について、そのすべての待遇について、パートタイム労働者であることを理由に正社員と差別的に取り扱うことが禁止されています。しかし、「正社員と同視すべきパートタイム労働者」とは、正社員と職務(仕事の内容や責任)が同じで、人材活用の仕組み(人事異動の有無や範囲)が全雇用期間を通じて同じで、かつ、契約期間が実質的に無期契約となっているパートタイム労働者をいい、パートタイム労働者の一部に適用されるにすぎません。

(3)国籍を問わず平等に適用される労働関係法
  外国人労働者は、合法的就労者682,450人(前年同期比3,796人、0.6%の減少)で、2013年1月1日現在の不法残留者数は,62,009人(法務省)を併せると744,459人(厚生労働省 2012年10月末現在)となっています。少子高齢化が進むことや人材の国際的な異動に歯止めはかけられないことから、今後も外国人労働者が増える可能性があります。低賃金や不安定雇用により、外国人労働者が社会の底辺化するというようなことは避けなければなりません。外国人労働者が国籍や人種により差別されず、安定した生活を営める制度を確立・維持していく必要があります。
  労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法などほとんどの労働法令は外国人労働者(不法就労者であっても)に対して、適用されます。労基法第3条は労働者の国籍を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならないと明記されています。最低賃金法も適用されます。
  社会保険については、事業所が健康保険および厚生年金保険等の適用事業所であれば、使用者は外国人労働者を健康保険及び厚生年金保険等に加入させる義務があります。健康保険及び厚生年金保険等に加入義務のない事業場で就労する外国人労働者は国民健康保険及び国民年金に加入することができますが、加入の前提として各市町村では不法滞在を問題としますので、不法就労者は加入できません。厚生年金保険・国民年金保険とも、短期間で帰国による掛け捨てを防止するために、短期在留外国人に対する脱退一時金制度が設けられています。

3 強制労働の禁止(労基法第5条)
  戦後間もない頃まで行われていた、「タコ部屋」、遊郭、紡績工場の寄宿舎等で、暴行・脅迫・監禁等で労働を強制する封建的慣習は、労基法第5条で「労働者の自由意志に基づく労働を保障せんとすることを目的」として(昭23.3.2 基発381号)禁止されました。
  1990年以来中小企業においても認められるようになった(実習制度は1993年)外国人研修・技能実習制度は、技能移転を通じた開発途上国等への国際協力を目的としていますが、いわゆる3K職種など日本人労働者を確保できないとか、中国などの外国製品との価格競争にさらされている中小企業が、低賃金の労働力確保のためにこの制度を利用する事例が目立ち、パスポート取上げ、強制貯金、権利主張に対する強制帰国、保証金・違約金による身柄拘束などで、最低賃金未満で労働させる、長時間労働を行わせるなどという問題が生じています。強制労働だという社会的批判もあります。

4 公民権行使の保障と裁判員  
  労働基準法7条では,労働者が勤務時間中に選挙権を始めとする「公民としての権利行使」し、あるいは「公の職務の執行」するために必要な時間を請求した場合は、それを拒んではならないとし、裁判員も「公の職務の執行」に含まれています(昭63.3.14 基発150号)。このため,裁判員の選任または実際に裁判に参加するために、労働者から必要な時間の請求があった場合,使用者はこれを拒むことはできません。
  また、裁判員に選任された労働者がその職務遂行のために休暇を申請・取得することにより,使用者から解雇など不利益な取り扱いを受けることを防止するため,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第100条に「不利益取扱いの禁止」の規定が設けられています。
  公民権行使の時間の給与については、労基法7条は何も触れていないから,有給か無給かは,当事者の自由に委ねられているとされています(昭22.11.27 基発399号)。

5 労働者
(1)労働者の定義とパートタイム労働者
  パートタイム労働者には労基法が適用されないと誤解し、年休を与えていないとか、健康診断を実施していないという使用者は少なくありません。労基法第9条は、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、正社員であるとか、パートタイム労働者であるとか区別をしていないので、労基法は労働者の種類を問わず、すべての労働者に等しく適用されます。パートタイム労働者だけでなく、アルバイト、嘱託、契約社員、臨時社員、準社員など、呼び方は異なっても、労働基準法を始め、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法は原則として正社員と等しく適用されます。

(2)個人請負と労働者性
  個人請負にすれば、労基法が適用されず、残業代手当を払う必要がなく、年次有給休暇も与えなくてよいという理由で、社員を請負契約によって使うという企業があります。
しかし、労働者か否かは契約形式ではなく、事業に「使用される」者であるか否か、その対償として「賃金」が支払われるか否かで決まります。請負契約という形式をとっても、その実質が労働者であると判断されれば労基法の適用を免れることはできません。
  例を挙げれば、バイシクルメッセンジャー等について、厚生労働省の通達(平19.9.27基発0927004号)で、ゞ般海瞭睛撞擇喊觜塋法に係る指揮監督が行われていること(指揮監督があること)、勤務日及び勤務時間があらかじめ指定され、出勤簿で管理されていること(拘束性があること)、B召亮圓悗稜杼業務の委託は認められていないこと(代替性がないこと)、な鷭靴隆靄槓盥舂┐欠勤等により加減されること(報酬の労務対償性があること)等が認められ、さらに、労働者性の判断を補強する事実として、テ伴の商号の使用は認められず、事実上兼業を行うことは困癖な状況にあること等が認められ、総合的に判断して労基法第9条の労働者に該当すると認められています。



























2013年09月25日

なぜ労働基準法を守らなければいけないか

1 なぜ労働関係法を守らなければならないか
(1)労働者保護を目的とする労働基準法
雇用契約を契約自由の原則(契約は個人の自由な意思に基づいてなされるべきであり、どんな内容の契約を結ぶかは自由であるという原則)のもとに放置しておくと、労使の経済力や交渉力が不均等なので、低賃金・長時間労働などの劣悪な労働条件が横行し、健康破壊や社会問題が発生することは戦前の「女工哀史」(細井和喜蔵著)等の経験からも明らかです。
 このような劣悪な労働条件から労働者を保護するために、契約自由の原則を修正した憲法第27条「賃金、就業時間、休息その他の勤務条件に関する基準は、法律でこれを定める」に基づき、労働基準法は労働条件の最低基準を定め、罰則を設けてそれを守ることを強制しています。
 労働基準法第1条は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすものでなければならない。」と規定していますが、「人たるに値する生活」とは憲法第25条の定める健康で文化的な生活を実現するものです。したがって日本の労働関係法は、労使双方の自由な契約のもとに過労死するような長時間労働を認めているわけでもなく、それを労働者の自己管理に委ねてよしとしているのではありません。

(2)使用者や社会をも守る労働基準法
  しばしば「労働基準法は労働者ばかり保護して、経営者のことは考えてくれない、使用者を保護する法律はないのですか。」という不満を聞きます。しかし、労働基準法は労働者だけのものではありません。労働条件に最低基準を設けないでおくと、より低劣な労働条件によって製品の値段を下げること等により優位に立とうとする経営者が現れ、労働者の生活を配慮した労働条件を守ろうとする企業を排除する結果となります。労働基準法は、労働条件に最低基準を設け、それを下回る労働条件を許さないことで、抜け駆けをできないようにさせるという意味で、使用者にとっても必要な法律なのです。そして、企業において健全な労働基準を維持すれば、労働者は生理的限界を超えて働かされることもなく、かつ、安全で健康的な職場と労働条件を与えられることになり、労働意欲や質が向上して企業業績も上がるということになります。
  さらに、個々の企業において労使双方に対してもたらされるこれらの利益は、産業界全体の能率的な経済的生産性をもたらし、公共の福祉が向上し社会全体の利益へとつながり、安定した社会が作られるのです。残念なことに現在の日本では、非正規雇用者の割合が35.2%と過去最高となり(労働力調査 2012年)、それを原因の一つとする格差拡大は社会不安を生み出しています。

(3)労働基準監督機関の役割
労働基準法等の労働保護法規は、労働条件の最低基準を設定し、
 〔瓜上の実現を図るために、労働基準法第12条により、「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効」とし、無効となった部分は、労働基準法で定める基準まで引き上げることとし、
罰則を設けて、これに違反する使用者を罰する(同法第13章)
ことによりその実行の確保を期しています。しかし、現実にこの最低基準が守られない事態が生じたとき、民事訴訟手続により侵害された権利の回復を図るには時間とお金がかかります。また、賃金不払いで使用者が罰金を科されても労働者の賃金の強制的な取立てができるわけではない等、刑事罰を事後的に課しても権利の救済には不十分な結果となります。そこで時間とお金をかけずに労働者の権利の救済を行うために日常的に法の遵守状況を監督するという行政的監督制度が設けられています。

(4)労働監督制度の歴史
 前述のような必要性により、1833年にイギリスにおいて世界で初めての労働監督制度が設けられ、欧米先進国に広がりました。1919年ベルサイユ平和条約に規定された監督制度は、国際労働機関ILOに引き継がれ、さらに1947年に「工業及び商業における労働監督に関する条約(第81号)」が採択され、今日国際的にも普遍的な制度となっています。
 日本では、工場法(1916年施行)により、中央と地方に監督機関が設けられましたが、ヾ篤珍反サ擇咾修了愆系統が統一的でなかったこと、監督官の資格、素質及び身分保障が十分でなかったことにより本来の機能を発揮できませんでした。
 そこで、労働基準法による労働監督制度は、国際労働条約に従って監督権限を地方行政機関に委任せず、厚生労働省労働基準局から末端の労働基準監督署に至るまで、すべて厚生労働大臣の直轄管理の下に置き、その統一的行政監督の効果を期待するものとなっています(労働基準法第97、99、100条)。また、労働基準法第97条により労働基準監督官の資格、任免及び身分保障を規定しています。
 このように整備された労働監督制度ですが、現実には労働基準監督官の数は3,752人(2008年3月31日現在)、そのうち第一線で監督業務に従事しているのは約1,500人にすぎず、また、労働基準監督署は近年20署も減らされて2008年323署+4支署となり、企業の法違反について監督指導が十分にできるとは言いにくい体制です。

(5)条文だけではわかりにくい法制度
 労働基準法を理解するためには、その省令である労働基準法施行規則、大臣告示や膨大な行政解釈にもおおよそ目を通す必要があります。また、労働安全衛生法や最低賃金法等の関係法令とも関連づけた労務管理が求められます。
 例えば、労働時間については労働基準法に定められた労働時間の基準を守るのは当然のこととして、同時に労働安全衛生法に定める健康診断の実施と事後措置や長時間労働者への医師による面接指導も関連させた管理を行わなければなりません。
 また、社会問題いもなった「名ばかり管理職」については、労働基準法第41条を読んでも何が労働時間の規定の適用を受けない「管理監督者」かはわかりません。これについては、行政解釈【監督又は管理の地位にある者の範囲】(昭22.9.13 発基17号 昭63.3.14基発150号)に、「]働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者、⊇仟犇个砲弔い童軍覆粉浜を受けないこと、4靄楜襦¬鯢媼蠹、賞与についてその地位にふさわしい優遇措置が取られていること」という三つの基準が示されています。このように条文だけではわかりにくい制度が、個々の企業で拡大解釈され「名ばかり管理職」が社会問題にまでなった一因と言えます。
【主な関係法令】
・賃金の支払の確保等に関する法律 ・最低賃金法 ・労働時間等の設定の改善に関する特別措置法 ・労働安全衛生法 ・作業環境測定法 ・じん肺法 ・労働者災害補償保険法 ・家内労働法 ・労働契約法等
  
(6)後を絶たない労働基準法違反
 種々の問題があるとはいえ、整備された法制度があるにもかかわらず、2011年度のサービス残業により是正勧告された賃金の不払い額(不払い額100万円を超えるもの)は146億円ということです。また、過労死等による労災の支給決定件数をみると、2011年度は338件で前年度比28件(9.0%)増加し、精神障害による労災の支給決定件数は475件で前年度比150件(46.1%)増加しています。
   こうした賃金不払や健康被害は、労働関係法規を守っていれば本来起こるはずのないものです。しかし、「そうはいっても残業は減らせない。」とか、「長時間労働させても残業手当さえ払っておけばいいのではないか。」と考える経営者や管理者は少なくありませんが、このような姿勢でこれからの企業経営に問題がないとは言い切れません。

(7)企業の社会的責任
 近年CSR(Corporate Social Responsibility)、即ち「企業の社会的責任」の表明と実行が求められるようになってきています。「企業の社会的責任」とはその利害関係者に対して会社の財務状況や経営の透明性を高めるなど説明責任を果たし、適切な企業統治と法令遵守を実施すること、環境や労働問題などについて自主的に取り組むことをいいます。
 CSRが企業の利害関係者としての従業員にかかわる労働分野に及んだものが労働CSRです。労働CSRには、優れた人材の登用、エンプロイアビリティ(雇用される能力)の向上、家庭生活に配慮した職場環境の実現、女性管理職の積極的登用等の倫理的責任や能動的責任も掲げられますが、法令遵守(コンプライアンス)が当然に含まれ、その基本となります。法令とは国内法に止まらず、〃觴劼亮由及び団体交渉権、強制労働の禁止、児童労働の実効的禁止、じ柩儺擇喊Χ箸砲ける差別の排除からなるILOの中核的労働基準がその基本となるとされています。
その当否はさておき、アメリカでは、SAI(Social Accountability International)という民間の社会基準認証機構が作成したSA8000(ILO条約や国連の人権条約などに準拠した「公正労働基準」)の認証が受けられなければ企業取引ができないという社会環境が作られつつあると聞きます。また、ISO(国際標準化機構)では労働CSRを含む規格(ISO26000:認証規格ではなくガイダンス規格)作成を現在進めています。将来的には、グローバルな事業展開にあたって労働CSRに取り組んでいない企業は排除される可能性も考えられます。国内でも、食品偽装を行った企業が倒産に至ることも少なくないように、近い将来、過労死やサービス残業を起こした企業が、その存続すら危うくなるような厳しい批判にさらされる可能性がないとは言えません。


















2013年09月24日

裁判所へ行こう・・・裁判記録の閲覧をしてみた

1 診断書なしでも障害年金
 2011年1月13日の朝刊に、「診断書なしでも障害年金」という記事が出ていました。63歳の女性が、聴覚障害を理由として障害年金の20歳前障害として認定日請求をしたのですが、20歳当時の診断書がないので認定日請求が認められず、事後重症となった事案について、行政訴訟を提起して勝訴したというものです(神戸地裁 平23・1・12判決)。
 朝日新聞、神戸新聞の記事には、20歳時からの受給権が認められたことが書かれているだけで、時効については一言も触れていませんでした。私は記事を読んで、記者は紙面の都合で時効にまで言及していないか、あるいは不勉強でそこまで思いが及ばないかのどちらかで、時効についての情報が欠落しているのだと思いました。
 それでも、裁判をすれば時効の援用がないのではないかと誤解を招きかねないということもあり、読売新聞を読んだところ、「国民年金法は受給権の時効を定めており、判決が確定しても、申請があった5年前の02年以降分の受給となる見通し。」と書かれていました。

2 裁判記録を見る
 そんな事情もあって神戸地裁に行ってみようと思い立ち、裁判記録を閲覧してきました。本当の目的は、裁判でどのような資料を提出して勝訴を勝ち取ったのか確認するためでした。
 裁判の傍聴は時々するのですが、記録を見るというのは初めてのことで、インターネットで閲覧方法の情報を読んでから取り掛かりました。必要なものは、印鑑、身分証明書と収入印紙150円分です。他の人とかち合ったり、控訴されて書類が高裁に移送されたりしていると無駄足になるので、事前に電話で申し込んでおきます。第三者による閲覧の場合は、コピーや写真撮影などはできないのですが、メモを取ることは許されているというのでレポート用紙を持参しました。
 閲覧前に閲覧申込用紙に名前と目的を書きます。収入印紙は申込用紙に貼るようになっていますが、係が「貼っておきます。」と言ってくれました。目的欄には、「調査研究」と記載し、さらに閲覧時間を書くのですが、軽い気持で1時間と書いたことが間違いのもとで、1時間10分を要し、それでも十分とは言えませんでした。2時間ぐらいにしておけばよかったと後悔しました。気が小さいので延長したいと言うことができませんでした。
 閲覧場所は、神戸地裁の場合は事務所の一部が仕切られていて(透明の仕切り)、そこに会議用の長机が2台あり、狭いのですが同時に3、4人は閲覧可能となっています。私の行ったときは、弁護士が関係事件の閲覧をしていました。裁判所によっては閲覧室が設けられているところもあるようです。
 
3 争点
 平成19年に先天性聴覚障害による障害基礎年金の認定日請求を本人が行い、事後重症とされたために自分で審査請求をし、棄却されまたものです。その時点で弁護士に依頼して再審査請求をすることになったようです。再審査請求事由の内容はいたって簡単なもので、既にその時点で訴訟に踏み切るしかないという判断が伺われました。
 裁判の争点は、20歳前障害について認定日請求をする際20歳当時の診断書を必要とするか、⊂赦49年3月1日(聴覚障害の認定基準が変更されている日)において旧国民年金法別表2級に該当するかの二つです。
争点,砲弔い萄枷十蠅蓮◆峭駝映金法(昭和60年改正前も同様)は、裁定請求において医師の診断書を提出することを要件としておらず、当該基準に該当するか否かを判断するにあたって、医師の診断書の記載によることを定めた法の規定はない。」とし、「医師の診断書は裁定機関に要求される認定判断の客観性・公平性を担保し、かつ円滑に裁定することを可能とするために要求されているものにすぎない」のであり、「司法判断は、必ず聴力の測定結果が記載された医師の診断書の記載によらなければならないということはなく、他に障害の程度を判断するための合理的な資料が得られる場合には、それによって障害の程度を認定することもできるというべきである。」と判示しています。
 争点△砲弔い討蓮高度感音声性難聴は高熱によって引き起こされるようなものではなく、先天性の障害と考えられること(医師の意見書による)、原告本人の発音障害から、発音習得年齢である5、6歳時点において既に聴力がなかったと判断できることで、昭和49年3月1日において旧国民年金法別表2級に該当する聴力障害があったと判断しています。被告国は原告の聴覚障害は進行性のものであると主張したのですが、そのことの可能性を裏付ける具体的事実はないとして、この主張は退けられています。

4 新聞情報は正確か
 余談ですが、判決文に時効については1つも書かれていませんでした。つまり、読売新聞が正確だったということになります。このように新聞記事が必ずしも正確と言えないことは、自分の良く知っていることが記事になったときにわかります。私の体験の1つを挙げれば、労働行政と外郭団体の共催した講演会で私が最も長時間話をし、最後まで残って出席者の相談に応じて雪の降りしきる中を帰った翌日、北日本新聞を開いてみたら講演会の記事の中に自分の名前も話の内容も一行も書かれていないということがあり、記者は何を聞いて帰ったのかと驚かされたことがありました。
 新聞やテレビの情報に接するときに、その情報を主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のことをメディア・リテラシー( media literacy)と言いますが、そこがしっかりしていないと、良く知っているはずの年金の時効についても、新聞記事の方がもしかしたら正しいのではないかと思わされてしまいます。

5 提出資料
 ところで、同じ20歳前障害であっても、下枠内のとおり、知的障害(精神遅滞)の障害基礎年金請求においては20歳当時の診断書がなくても、請求時点においての日常生活における障害の程度と20歳当時の状態が変わらないことを明らかにすることができれば認定日からの支給が認められるという通知があり、少数と思われますが、診断書がなくても遡及受給が認められている例はあるのです。その際の証明資料としては、医師の意見書と家族や担任教師の申立書などとなります。

595 知的障害に係る障害認定について
問 20歳到達時から相当期間経過後に知的障害を原因とする裁定請求があった場合、従来、裁定請求時の現症等診断書の内容に基づき総合的に判断して遡及認定を行ってきたが、制度改正後の障害認定においてもこの取扱いとして差し支えないか。
答 障害認定日における障害の状態等については、当該事実を証する診断書に基づき認定するのが原則であるが、知的障害の現症状から障害認定日の状態等が明らかに判断できる場合にあっては、遡及して差し支えない。(昭和61年7月)

 このたびの事案について、もし社会保険労務士が手続き代行を依頼されていたならば、訴訟の代理権はないのですから、再審査請求の段階で、裁判で提出されている資料と同様のものを全て出すということになったと思います。残念ながら、診断書がないという理由で棄却されてしまい、後は訴訟を起こすしかないという結末になることは明らかなので、再審査請求が棄却された時点で弁護士にバトンタッチするしかありません。
 そこで、この裁判でどのような資料が提出されているか興味があったのですが、「原告の障害は先天性のものである」と判断する耳鼻科医師の「意見書」と子どもの頃から聴覚障害があったとする姉妹、そして小学校の同級生と中学校の担任教師の申立書が提出されていました。この裁判記録を見て安心したことは、社会保険労務士による20歳前障害の障害年金の裁定請求や審査請求の代行業務において、認定日の診断書がない場合に添付している資料は訴訟において提出されている資料と比較して何ら遜色がないということであり、同時に他に方法はないということも確認することができました。

6 認定方法改正の必要性
 判決が言っているように、診断書を必要とすることが法律に規定されているわけではないが、20歳前障害の障害基礎年金請求において、認定日当時の診断書が提出できないなら、認定日請求は認めないという手続方法は処分行政庁の判断としては間違っていないということですから、今回の神戸地裁における一事例について診断書を必要としないという判断が出ても、他の障害者の20歳前請求において同様の取扱いが認められるわけではありません。
 したがって、この際、精神遅滞以外の20歳前障害についても、診断書以外の方法で20歳当時の障害の状態が請求時と同様であるということが証明可能であれば、遡及して受給可能とするように手続きを改めていただきたいものです。

5 身体障害者手帳と障害年金の関係の悪さ
 ところで、原告は昭和30年前後に県外で身体障害者手帳の交付を受けているのですが、芦屋市に転居し、昭和63年に新しい手帳を取得しています。その際、新しい手帳に再交付であることが記載されなかったので、昭和30年前後に身体障害者手帳を取得した事実が消えてしまい、いつから聴覚障害があったのか、どの程度の障害であったのかが不明となってしまっているのです。さらに、この時点で障害年金の存在についての情報も受けず、歳月はいたずらに経過していくことになりました。身体障害者手帳は自治体、障害年金は社会保険事務所(当時)という住み分けが全く市民のためになっていないことの1つの例で、このようなことは現在でもあります。行政の連携をしっかりやるように社会保険労務士会からも働きかける必要があるのではないかと思います。

参考情報:神戸地裁では毎月裁判デーを開催し、裁判についての説明と裁判所見学会を行っています。   
【申込先】神戸地方裁判所事務局総務課 (078)367-1020

2011年3月号「社労士ひょうご」掲載記事



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