「なぜだれも高額療養費制度を教えてくれなかったのか」。慢性骨髄性白血病の長男(36)を持つ関東地方の女性(64)は、長男の治療費を工面するため、借金を繰り返すまでに追い込まれた。

 長男は95年、突然の下痢に襲われて血液検査を受けたところ、白血病と診断された。抗がん剤を使う治療費の負担は重く、自己負担は毎月約10万円になった。長男の収入が少なかったため、夫婦が年収約600万円の中から治療費を支援した。だが、住宅ローンもあって家計は「火の車」。最後は、親族に頭を下げ、計約200万円を借りた。「息子のためとはいえ、親族に借金するのは情けなかった」と女性は振り返る。

 国の高額療養費制度の存在を女性が知ったのは08年。患者会の会報で読んだ。申請すると、治療費の自己負担は半分程度に軽くなった。女性は「対象者全員に制度を知らせる仕組みが必要」と訴える。

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 高額療養費制度では、患者からの申請を受けた健康保険組合などの保険者が自己負担上限額の超過分を支給する。厚生労働省保険課は「高額療養費制度などの説明を(支給とは直接関係ない)病院だけに求めるのは難しい。支給方法なども異なるので、保険者に対応してもらうしかないのではないか」と話す。

 例えば大企業のサラリーマンなどが加入し、比較的財政の安定した健康保険組合では、患者が申請しなくても上限超過分を自動的に支給する組合があるほか、全体の7割は自己負担分を減らす「上乗せ支給」をしている。一方、財政状況の厳しい国民健康保険や中小企業の従業員らが加入する協会けんぽは高額療養費制度の上乗せ支給はなく、格差が生じている。さらに、国の定める負担上限額も数年に1度のペースで改定されている。健康保険組合連合会の大村孝雄指導員は「患者にとって制度が非常に複雑で、分かりにくい」と指摘する。

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 東京・築地の国立がんセンター中央病院にある相談支援センターには、多くの患者が医療費の相談に来る。「治療費の支払いに不安を持ちながら、高額療養費制度を知らない患者が多い」。相談に応じる社会福祉士の樋口由起子さんの実感だ。

 同病院では、抗がん剤の治療費をまとめた一覧表を作成。高額療養費制度を紹介するチラシを今月から支払窓口近くに置いている。

 患者の多くは治療に伴う経済的負担の全体像を把握できていない。厚労省研究班が06年度にまとめた調査(回答者256人)の報告書によると、抗がん剤治療を受けている患者のうち経済的負担について病院側から十分な説明を受けた人は25%、説明がなかった人は59.4%に上った。

 樋口さんは「患者に近い医療機関が必要な情報を届けることが重要だ」と指摘する。【河内敏康、永山悦子】

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