2007年01月18日

剣士の生

残暑厳しいこの時期に頭を悩ませる事態が起きた。凶作である。松吉城を制し、延山地方を手中に収めたが石高はまだ五万石。今他国に攻められ長期戦にでもなろうものならば、兵糧は底を尽き、餓死者は大量に出て、疫病が発生することは必須だ。そこで時忠は桜庭虎安に命じ、洛鳳に行き、商人から兵糧を買い付けるように手配した。しかし、洛鳳に行くためには他家の領地に入らなければならず、さらに天下の我省山を越えねばならなかった。延山地方は海に面していないため、船が使えない。そこで虎安は一人洛鳳を目指した。

虎安が出国して八日後の昼、正木城下の伊勢屋の主が剣士のもとにきた。
「鬼庭様、頼みごとがありまして。」
胡散臭そうな顔をした商人であったが、剣士は一応話を聞くことにした。
「じつは、近所の越後屋の奴が先日から新たな商いを始めまして、客が越後屋に行ってしまい、私のところは商売あがったりで御座いまして、どうにかしてもらえませんか。いやいや、なにもただでとは申しませぬ。お礼はたっぷり致しますゆえ。」
「ふむ。また後で出直せ、今は折り合いが悪い。」
剣士はそう言い、その場を後にし、寝所で寝た振りをした。すると伊勢屋は仕方なく帰っていった。それを確認した後、使いを出し、越後屋を呼んだ。使いを出して半刻ほどで越後屋は剣士の屋敷に着いた。
「越後屋、お主新しい商売を始めたようだな。儲かるのか?」
越後屋は生き生きと話し始めた。
「はい。それはもう大層儲けさせてもろうとります。延山で穫れたものだけでなく、南は南武、北は陰仙山、東は遼久、西は丸山橋城までの広域から集めた産物をそれなりの値で売っておりますので。なにしろ客は見たこともないもの、食べたことのないものに興味を示し、連日賑わっております。さらには織物もこの辺りとは違った様式に御座いますので、こちらも売れております。やはり自由な貿易、商売をすることが商人の生き甲斐に御座います。」
剣士は興味津々に聞き入り、越後屋には何も負い目はないと確信した。そして翌日、伊勢屋を呼びつけた。
「鬼庭様。今日はお金ももって参りました故にどうか。」
「たわけが!貴様のような者に商いをする権利などない。商人であるならば商いで勝負せい!悪事を働くは越後屋にあらず、伊勢屋なり。この刀で貴様を成敗してくれよう。首を出せ!」
伊勢屋は悲鳴をあげ、逃げようとしたが剣士の太刀の方が速かった。

翌日、吉川の河川敷に伊勢屋の首がさらされた。立て札には"この者、金に因りて人心を買おうとする者なり。商人にもかかわらず、商人にあるまじき悪事を働く者なり。更に、越後屋をおとしめんと企て、他人の手を汚そうとした故に斬首に処す。"と書かれてあった。人々はこれに驚いたき、公正な処置に感服すると同時に、刑の厳格さに畏れを抱いた。
k8m5 at 22:31│Comments(0)TrackBack(0)

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔