だからその少女と出会ったのはまったくの偶然だった

いきあたりばったりですがせっかくなので書いてみます。

すると

「お兄ちゃん」
急ぐあまりそれまでその存在をほとんど失念していた同行者が声をあげた。

彼がその声の方を見やると、年の頃は15,6才、活発そうな短めの髪の下でクリクリと動く目がいかにも活発そうな、最近になってよく知るようになった少女がそこにいた。

「なんだ?」
「お兄ちゃんにお兄ちゃんって呼びかけるその女の子は知り合いなの?」
もっともな疑問だ。
そう彼は思った。
ちなみに自分の事をお兄ちゃんと呼ぶ同行者はしかし彼の妹ではない。

1ヶ月程前、突然、机の引き出しから現れた彼女は魔法少女なのだ。
彼女が机の引き出しから出てきたとき、彼は彼女を未来の世界の猫型ロボットだと思った。
日本人である以上、机の引き出しから出てくる者を猫型ロボットだと判断するのは高度な義務教育の賜物だろう。
義務教育の過程で某出版社の学習雑誌により、日本人はみなそれを事実として学ぶのだ。
しかし、残念ながら彼女は猫型ロボットではなくそもそも未来の世界からの贈り物でもなかった。
どうやら彼には先祖をなんとかしようとする子孫はいないらしい。
自分は将来結婚もできないのかもしれない。
彼女が未来の世界の猫型ロボットでない事を知ったとき、彼の心に一抹の疑問が生まれた。

そりゃ自分は、彼女いない暦イコール年齢だけど、それにしても。

若きウエルテルのように苦悩する彼に、机から出てきた彼女が自己紹介をした。

自分は、魔法の国からきた魔法少女なのだ、と。
魔法学校の卒業試験で、人間世界で誰かの希望をかなえるためにやってきたのだ、と。
訪れた人間の本当の希望をかなえてあげる事で卒業試験は合格になるのだ、と。

「それで、なぜ俺のもとに?」
そう問いかける彼に彼女は静かに答えた。
「クジ引きです」

だから彼がその少女に出会ったのはまったくの偶然だった。

それから一ヶ月、彼女は何かというと彼にくっついて暮らしている。
彼と生活をともにする事で、彼の本当の希望を見出すのがその目的だ。
そう、彼女がかなえるのは彼の本当の希望でなくてはならない。

普段の生活の中で生じる彼の些細な希望、たとえば「ステーキが食べたい」とか「あの女性の服が透けてくたら(血の涙)」とか「限定版ぜかましPCがほしい(転売禁止)」とか、そんなものをかなえても卒業試験には合格できない。
彼女がかなえるのはあくまでも彼の本当の希望でなくてはならないのだ。真の希望と言ってもいいのだが、真がなんだか人名のまこと君みたいで紛らわしいのでここでは本当の希望という言葉を使っている。
「まこと君の希望をかなえればいいんだね」なんて勘違いが生まれれば、世の中のまこと君の希望はもれなくかない放題。
人生、真と名前がついただけで勝ち組になってしまう。
もちろん本当という名前の人もいるかもしれないが、そこまで気にしていては話が先に進まない。
そもそも日本人なら真は人名だと思うかもしれないが、本当を人名だと思う奴はいないだろう。
もっとも魔法少女は日本人ではないので、真も本当も人名だと思うかもしれないが、そうなっても彼女たちが卒業試験に合格しないというだけの事だ。

まぁ、そんなわけで、彼女は彼の本当の希望をかなえるために普段から彼といっしょに暮らしているのだ。

今、こんなに急いでいる状況なのに彼女が同行しているのも、その行動の中から彼の本当の希望が判明するかもしれないからだ。
人生いつも何があるかわからないからな。一寸先は闇。ってそのことわざはネガティブすぎて若い自分には似合わない。
自分の未来はもっと光輝いているんだ。多分。

彼が自分の未来になんとなく希望を見出した、そのとき


だからその少女と出会ったのはまったくの偶然だった。

春の安眠をむさぼっていた彼に突然おとずれた呼び出し。
それは彼に一刻の猶予もない事を知らせ、とるものもとりあえず飛び出した彼には、途中寄り道などしている余裕などもなく遮二無二目的地へと突き進む。

先を急ぐ彼の目には視野狭窄をおこしたように自分が進む道しか映っていない。
ともすれば同行の相手すらその存在を忘れそうになる状況であれば、当然その周囲にあるものなど目にもはいらず、そのままであれば少女との出会いなどあるはずもなかった。

しかし何の変哲もなく予定調和のままに進む世の中などまったく面白くもないわけで、ときにはこの世の運命のすべを握る神の誰かもそういった平穏に飽きるてしまいイタズラ心を起こすことがあるのかもしれない。
そうでもなければ彼と少女の出会いは決して起こりえないものだっただろう。

道を急ぐ彼の前に突然飛び出してきた一人の少女が彼の顔を見て言ったのだ。

「お、お兄ちゃん」

ラノベか!?
その少女の言葉を聴いて彼が最初に思った事はそれである。
突然目の前にあらわれた見知らぬ少女が
「お兄ちゃん」などと言う、そんな事がおきるのは現代日本で量産されるラノベあるいはそれをアニメ化して深夜に放送されている類の中くらいのものだろう。
そうでなければ、ラブコメ漫画か男性向けゲーム。
しかしその絶対数で見ればやはりラノベ由来のものがほとんどだろう。

彼がそう考えていると
「お兄ちゃん……」
また少女が呼んだ。
しかもはっきりと彼の顔を見て呼びかけている。

通常ではありえない状況だ。

しかしそのとき彼は急いでいた。
急いでいたのだ。
わけのわからない少女にかまっている暇などない。

だから彼は少女を無視した。
知らない少女なのだから無理もない。
ましてや見ず知らずの自分を「お兄ちゃん」と呼ぶような相手となると仮に急いでいなくても関わらないのが正解だと判断したのだ。

だから彼は少女を無視してまた先を急ぎはじめた。

すると

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